今日観た映画の感想

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月明かりのように淡く美しい映画「ムーンライト」(2017)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞したインディペンデント作品『ムーンライト』ですよー!

ストリートの辛い現実を生きる少年の成長を、美しい映像と静かな語り口で描いた作品でした。

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画像出典元URL:http://eiga.com

あらすじと概要

ブラッド・ピットが製作陣に名を連ね、さまざまな映画祭・映画賞で高評価を得たドラマ。マイアミの貧困地域に生きる少年が成長する姿を、三つの時代に分けて追う。監督は、短編やテレビシリーズを中心に活躍してきたバリー・ジェンキンズ。『マンデラ 自由への長い道』などのナオミ・ハリス、『グローリー/明日への行進』などのアンドレ・ホランドらが出演。逆境の中で懸命に生きる主人公に胸を打たれる。

ストーリー:マイアミの貧困地域で、麻薬を常習している母親ポーラ(ナオミ・ハリス)と暮らす少年シャロン(アレックス・R・ヒバート)。学校ではチビと呼ばれていじめられ、母親からは育児放棄されている彼は、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのホアン(マハーシャラ・アリ)とその妻、唯一の友人のケビンだけが心の支えだった。そんな中、シャロンは同性のケビンを好きになる。そのことを誰にも言わなかったが……。

 

感想

アカデミー賞作品

本作は、ブラット・ピットが製作総指揮を務めたインディペンデント体制で作られた作品で、タレル・アルヴィン・マクレイニーが自身の経験を元に描いた半自伝的戯曲を、本作が長編映画2作目のバリー・ジェンキンスが監督・脚本で作り上げた作品です。
二人とも本作の舞台と同じ黒人だけが住む貧民地区リバティ・スクエアの出身で、麻薬・母親など、境遇が同じだったことから、映画化が決まったようです。

貧困・ドラッグ・育児放棄LGBT・人種など、様々な問題を取り入れながらも、決して大上段に構えて声高に主張するのではなく、静かに主人公の少年シャロンの視点に寄り添うような、ロマンチックな作品になっていました。

第89回アカデミー賞では、手違いから発表間違い(一度は「ラ・ラ・ランド」の名が呼ばれたものの後に訂正された)があったことで、皮肉にも一躍注目されたんですね。

ストーリー

本作のストーリーを一言で要約するなら、様々な困難の中で成長した少年がアイデンティティを手に入れるまでの物語です。

主人公シャロンは、貧困層の黒人地区マイアミのリバティ・スクエアに住む、背が小さく痩せっぽちで内気な少年。
母親のポーラナオミ・ハリス)は麻薬中毒で、シャロンに対して育児放棄しているし、チビで痩せっぽちの彼は近所の悪ガキたちにいつもいじめられているんですね。

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画像出典元URL:http://eiga.com / ジャンキーの母親ポーラ役は、007シリーズにも出演しているナオミ・ハリス

そんなある日、たまたま出会った麻薬ディーラーのボス、フアンマハーシャラ・アリ)とガールフレンドのテレサジャネール・モネイ)に出会い彼は次第に心を開き、フアンも自分に似た境遇のシャロンを息子のように可愛がります。

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画像出典元URL:http://eiga.com / マハーシャラ・アリ演じるフアンと少年期を演じるアレックス・ヒバート

そして学校では、シャロンに話しかけてくれる唯一の友達、ケビンだけが彼の救いなのですが……。という物語。

基本的に本作に登場するメインキャラクターはこの5人だけという小さな物語で、シャロンの少年期をアレックス・ヒバート、ティーン期を アシュトン・サンダース、青年期を トレヴァンテ・ローズがそれぞれ演じています。

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画像出典元URL:http://eiga.com / ティーン期を演じるアシュトン・サンダース

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画像出典元URL:http://eiga.com / 青年期を演じるトレヴァンテ・ローズ(右)とケヴィン(大人)役の アンドレ・ホランド

美しい映像と独特な演出

本作を見てまず驚くのが、映像の美しさではないかと思います。
マイアミの降り注ぐ太陽の光と緑の美しさ、青み掛かった夜景の色合いと登場人物の肌の色のコントラストなど。これらは、撮影後にデジタル加工で色味を少し変えているんだそうです。
例えば太陽の光は色味を飛ばして白っぽくしたり、黒人である彼らの肌の色に少し青みを加えたりしているそうで、これは色味に手を加えることである種、現実感のない抽象的な雰囲気を出して、主人公が現実から少し浮いている感じを演出しているんだそうですね。
また、シャロンは成長の過程で自分がゲイであることに気づくわけですが、そんな彼が感じている違和感のようなものを色味によってそれとなく表現する狙いもあったのだとか。

また編集も少し変わっていて、例えばシャロンを背後から追いかけるようなショットや、映像と声をずらしたり映像が急にスローになったりするのも、主人公シャロンから見た“セカイ”だったり、彼の状況や感情の変化で見える“セカイ”を映像化しているみたいです。そうすることで、シャロンの目に映る“セカイ”を観客が共有するという試みをしているんだと思うし、監督が意図したかどうかは別に、それが結果的に昨今の世界的な排他主義へのカウンターになっているんですよね。

繊細でロマンティック

もう一つ驚くのは、3人の役者が演じているにも関わらず主人公シャロンが同一人物が成長しているようにしか見えないことじゃないでしょうか。
もちろんシャロンを演じる3人は、親子でも兄弟でもなく、よく見れば顔立ちも全然違うんですが、“瞳の表情”が同じなんですね。

これは「同じフィーリング、同じ雰囲気、同じ要素をもつ俳優を探そうと思った」監督が、同じ光をたたえた瞳を持つ3人を探し抜いてキャスティングしたからだそうですが、成長して容姿は変わっても瞳を見るとシャロンだと分かるんですよねー。

辛い少年期や、人生を決定的に変えてしまうティーン期のある事件を経て、大人になったシャロンはゴリゴリのマッチョになっているんですが、しかしそれは、繊細で臆病な自分を隠すための鎧なんですね。

そして憎んでいた母親や、“友人”ケヴィンとの再開によって、長い旅路の末に彼はやっと自らのアイデンティティを手に入れます。
本作では寓話的ともいえるロマンティックな演出と、静かで美しい映像で、そんなシャロンに寄り添うように物語を紡いでいるんですね。

貧困や人種、ドラッグやLGBTなどの問題は、一見(日本人の)自分たちには関係ないように思われるかもですが、本作が描いているのは「“セカイ”と自分との繋がり=アイデンティティ」という誰もが成長の過程で一度はぶつかる普遍的な悩みと、遠回りしながらもそれを受け入れる普遍的な物語なのです。

ただ、極めてインディペンデント的なアート寄りな作品だし、極端にセリフが少なくて、映像や語り口も実験的な作品なので、人によっては好みが分かれるかも。

それでも、個人的にはオススメしたい切なくて美しい作品だと思いました。

興味のある方は是非!

 

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低予算映画ながら創意工夫が詰まった良作!「トレマーズ」(1990)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、謎の地底生物に襲われる田舎町の住人たちの恐怖と奮闘を描きカルト的人気の、低予算モンスターパニック映画『トレマーズ』ですよー!

いかにも低予算の映画ながら、創意工夫とアイデアの詰まった良作でしたー!

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画像出典元URL:https://www.amazon.co.jp

あらすじと概要

ネバダの砂漠地帯にある小さな田舎町に突然出現した未知の生物。地中を自在に移動する巨大な蛇状モンスターと住民の攻防が、白昼の下で展開される。「JAWSジョーズ」のプロットを使った作品は数限りないが、地表を波立たせて襲い来るこのモンスターは文字通り“陸のジョーズ”で、映画の出来も本家に迫るものがある。モンスターの設定から、それを有効に生かしきったストーリーまで、とにかくアイディア豊富で、存分に楽しめる怪獣映画の快作。TVムービーによる続編「トレマーズ2」も製作された。(allcinema ONLINEより引用)

 

感想

どんな物語?

本作はアメリカネバダ州の全住民が十数人しかいない超田舎町に、突如謎の巨大地底生物が現れて住人を次々襲っていくというモンスターパニック映画ですが、味わい的にはどちらかというと「怪獣映画」と呼ぶ方がしっくりくる作品です。

その発想の原点は、砂地の地底を高速で移動出来る“陸のサメ”、つまり「ジョーズ」で、サメを巨大な人喰い虫? 「グラボイズ」に変えて物語の骨格もかなり「ジョーズ」に近いものの、バレンタイン&アールの主人公2人や、一癖も二癖もある登場キャラクターのドタバタアクションやカラっと明るい雰囲気で、怖さよりも楽しさの方が勝つ作品になってるんですねー。

設定が秀逸

本作で秀逸なのは、まず「グラボイズ」の設定。
地底に住むこのモンスターは、体調10mもある巨大な体と硬い嘴のような頭部、口の中には巨大なナメクジのような触手があって、この触手で獲物を地中に引きずり込んで食べてしまうんですね。
体には無数のトゲのような突起があって、硬い頭部とこの突起で砂や土を掻き分けながら、地中を高速で進むことが出来るわけです。

しかし、地中の生き物なので目が退化していて、なので地上の振動を感知して、地中から獲物を襲う。柔らかい土は掘れるが硬い土や岩盤は無理という設定。

本作ではこの「グラボイズ」設定を上手く活かしながら、ストーリーをスリリングかつゲーム的に進めていくんですねー。

ストーリー構成が秀逸

物語は、この超ド田舎の小さな町で“なんでも屋”を営む主人公コンビが、仕事に嫌気が刺して街を出ようとするところからスタートします。

その前に、大学生で地震の研究をしているヒロインのロンダと出会い、設置した地震計の挙動がおかしいという前フリがあり、街から出る途中鉄塔にしがみついたまま脱水症状で死んでいる爺さんを発見、再び街を出ようとするも今度は泊町への一本道が崩れて塞がれ、町が“陸の孤島”になり、馬に乗って助けを呼びに行こうとする途中で、ついに「グラボイズ」本体と遭遇し……。と、しっかり順を追って主人公や町の住民とグラボイズの戦いまでに、ストーリー前半で舞台を整え伏線も張っているんですね。

さらに、主要キャラの特徴も前半で終わっているので、決して後付け的な説明臭さもなく、物語の流れが非常にスムーズなんですよね。

キャストも秀逸

そんな本作で、主人公のバレンタインを演じるのは若き日のケヴィン・ベーコン
相棒で父親的存在のアールを演じるのは「アルカトラズからの脱出」や「ライトスタッフ」にも出演しているフレッド・ウォード

その他のキャストは、大学で地震学を専攻する学生でヒロインのロンダ(フィン・カーター)、サバイバリストで銃器マニアのバート(マイケル・グロス)&ヘザー(リーバ・マッキンタイア)のコマンドー夫婦、町唯一の雑貨店のオーナーでグラボイズの名付け親でもあるウォルター(ヴィクター・ウォン)などなど、一癖も二癖もあるキャラクターばかりで、演じるキャストもそれぞれいい味の役者が多く、彼ら・彼女らの演技のアンサンブルが本作の「楽しさ」を生み出しています。

ちなみに、収集した銃器を駆使して夫婦でグラボイズを一匹倒したバートを演じたマイケル・グロスは、そのぶっ飛んだキャラクターが受けて二作目以降の主役に昇格したそうですよ。

創意工夫が素晴らしい

とはいえ、制作費1200万ドルと、この手のハリウッド作品としてはかなり低予算で作られた本作。
実際、登場人物は少ないしルックはいかにも低予算のB級作品といった感じですが、前述したように設定とストーリー構成でカバーしています。

そして、「グラボイズ」の特撮シーンも、まだCG技術がなかった時代に、アニマトロニクスやパペット、ミニチュア、マット絵などを駆使した創意工夫や演出のアイデアで、低予算映画とは思えない迫力や新鮮な映像に仕立てているんですねー!

ブルーレイの特典映像でその一旦が観られるわけですが、メイキング好きな僕としては、本編以上にワクワクしてしまいましたw
CG技術が登場する前の特撮映画のメイキングって観ていて楽しいんですよね。

時間が短いのも素晴らしい

ちなみに本作は96分
昔のジャンル映画は上映の回数を上げるため大体100分以内って決められていたようで、そうした制約の中で、いかにタイトでスマートに物語を語っていくかが監督を始めとしたスタッフの腕の見せどころだったんですね。

なので、下手をすると3時間前後の作品も多い昨今の映画からすると非常に短くてアッサリした印象を受けるかもですが、その分全体的にキレのいい作品になっているし、気軽に観られるのも嬉しいです。

長い作品が全部悪いとは言わないし、長くても見ごたえのある作品も沢山ありますけど、ジャンル映画はやっぱ90分前後で気軽に楽しみたいものです。

興味のある方は是非!!!

 

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前作から20年、オッサンになったヤツらが再び結集!「T2 トレインスポッティング」(2017)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、センス抜群の映像と音楽、そして鮮烈な物語で無軌道な若者の青春を描き、世界中に一大ブームを巻き起こした「トレインスポッティング」の続編、『T2 トレインスポッティング』ですよー!

前作から20年、オッサンになったヤツらが再び結集。しかしオッサンになった分、前作よりもグッと渋みと深みのある作品になっていました!

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画像出典元URL:http://eiga.com

あらすじと概要

スラムドッグ$ミリオネア』でオスカーを手にしたダニー・ボイル監督作『トレインスポッティング』の続編。前作から20年後を舞台に、それぞれワケありの主人公たちの再会から始まる物語を描く。脚本のジョン・ホッジをはじめ、『ムーラン・ルージュ』などのユアン・マクレガーユエン・ブレムナージョニー・リー・ミラーロバート・カーライルらおなじみのメンバーが再集結。一筋縄ではいかない男たちの迷走が見どころ。

ストーリー:かつてレントンユアン・マクレガー)は、麻薬の売買でつかんだ大金を仲間たちと山分けせずに逃亡した。彼が20年ぶりに故郷スコットランドエディンバラの実家に戻ってみるとすでに母親は亡くなっており、父親だけが暮らしていた。そして悪友たちのその後が気になったレントンが、ジャンキーのスパッド(ユエン・ブレムナー)のアパートを訪ねると……。(シネマトゥデイより引用)

 

感想

トレインスポッティング」とは

本作の感想を語る前に、ざっくり前作のおさらいを。

前作「トレインスポッティング」は、1996年製作のイギリス映画でアーヴィン・ウェルシュの同名小説の映画化作品。

内容はと言うと、不況に喘ぐスコットランドエディンバラに住む、労働階級のヤク中とろくでなし5人の若者のどうしようもない青春を、鮮烈で疾走感あふれる映像とイギー・ポップなどの音楽に乗せて描いた作品で、ヨーロッパ・アメリカ・日本などで若者を中心に大ヒット。作品のイメージカラーである蛍光オレンジと白黒のポスターはポップアイコンになりました。

監督のダニー・ボイルは舞台演出、テレビ制作を経て、監督2作目のこの作品の大ヒットで一躍有名監督の仲間入りを果たしハリウッドへ。

また、当時はまだ無名だったユアン・マクレガーらキャストたちの出世作にもなったんですね。

あれから20年。すっかり中年になったヤツらの物語

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画像出典元URL:http://eiga.com / 向かって右からバズビー/サイモン/レントン/スパッド

前作で仲間の一人トニーがエイズで死に、4人は非合法な「仕事」で大儲けするものの、その金を全て持って主人公レントン( ユアン・マクレガー)は姿を消してから20年、彼がが故郷エディンバラに戻ってくるところから物語はスタートします。

まずレントンが会いに行ったのはスパッド (ユエン・ブレムナー)

彼は前作でも登場したゲイルと結婚しファーガスという一人息子がいるものの、ドラッグから足を洗えず、そのせいで妻子と別居状態、仕事もクビになり、そんな自分が嫌になって自殺しようとするところをたまたま訪れたレントンに助けられます。

そんなスパッドの助言でレントンが向かったのは、シック・ボーイことサイモン (ジョニー・リー・ミラー)

ブルガリア人の彼女ヴェロニカ(アンジェラ・ネディヤルコーヴァ)と組んで、地元の有力者の痴態を盗撮し、恐喝するブラックなアングラビジネスに手を染めていて、会いに来たレントンと大喧嘩するものの、持ち前の悪知恵で新たな“ビジネス”にレントンを引き入れようとします。

一方、仲間内で最も凶暴な男ベグビー (ロバート・カーライル)は、懲役20年の刑で刑務所に服役中。釈放を狙って弁護士に相談するも叶わなかった彼は、細い鉄の棒で自分の腹を指して入院→脱獄します。

そしてレントンもオランダに逃げて結婚して仕事をしていたものの、心臓発作で倒れ、奥さんと離婚してアパートを追い出され、仕事もクビになって故郷に戻ってきたんですねー。

周りはどんどん先に進んでいるのに、彼らだけは結局上手くいかずに時代に取り残されたまま歳だけを重ね、若い頃の勢いもなくなり、変わりたくても変われず、常に現実を突きつけられ、そろそろ人生の終わりも見えて過去の思い出に縋って生きている。本作は、そんなミドルエイジ・クライシスを描いた作品なのです。

こんなふうに書くと「え、そんなに重い作品なの…?」と思われるかもですが、心配ご無用。本作は「中年の危機」を描いていますが、悲壮感溢れる重い内容ではなく、むしろ軽快に描いているし、思わず笑っちゃうシーンも満載ですよ。

前作のセルフオマージュ

本作では、前作のセルフオマージュとも言えるカットが随所に出てきます。
例えば、レントンが逃走中車のにぶつかって運転手に笑顔を見せる例のシーンとか。

ただし、そのシチュエーションは変わっていて、それらのセルフオマージュは単なるファンへの目配せではなく、何ていうか、若い頃の自分が投げたブーメランが20年後の自分に戻ってくる的な使われ方なんですよねw

その絶妙な使い方に思わず笑ってしまうんですが、同時に振り返ってみれば自分にも心当たりがあったりしてちょっと居心地が悪くなるっていうねw

ファム・ファタールでありミューズでもあるベロニカ

そんな40代のオッサンたちの相手を一人で引き受けているのが、サイモンの恋人ベロニカです。
本作の中で彼女は、ファム・ファタール(男にとっての「運命の女」or「魔性の女」)でもあり、同時にミューズ(女神)でもあるんですよね。
この辺はあまり突っ込んで書くとネタバレになっちゃうので、実際にDVDなどで観て欲しいんですけども、彼女の存在や言動が4人の人生を少しだけ変えて、止まっていた彼らの時計の針を動かすことになるんですねー。

ファンととも歳を重ねてきた20年分の重み

鮮烈でパンキッシュな映像と、当時の若者たちの心情を代弁するようなキャラの物語で圧倒的な支持を受けた前作から20年が経ち、当時若者だったファンも大抵40代になっているハズ。
本作は帰ってきたヤツらが再び、そんな前作からのファンの20年を代弁するような物語になっていて、前作の繰り返しにも見えるストーリーにはしかし、しっかりファンとともに歳を重ねてきたヤツらの20年分の重みがプラスされているんですよね。

なので、前作にガツンときたファンの人は自分の人生と重ね合わせて本作もきっと楽しめると思うし、本作を観たあとはきっと元気をもらえるのではないかと思います。

もし、本作を観てピンと来なかった若いファンの人も、40代になってからもう一度観れば、多分、共感出来るんじゃないかと思いますよw

興味のある方は是非!!!

 

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aozprapurasu.hatenablog.com

 

名匠ロマン・ポランスキー監督が名作舞台劇を映画化「おとなのけんか」(2012)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、演劇界で権威のあるオリヴィエ賞とトニー賞に輝いたヤスミナ・レザの舞台劇『大人は、かく戦えり』を、名匠ロマン・ポランスキー監督が映画化した『おとなのけんか』ですよー!

数々の名作で世界的にファンの多いポランスキー監督ですが、恥ずかしながら、多分僕は本作がポランスキー作品デビューじゃないかと思うんですよねー。
で、そんな本作の感想を一言でいうと、皮肉が効いてて超面白いコメディー映画でしたよー!

 

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あらすじと概要

世界各地の公演で好評を博し、演劇界で権威のあるオリヴィエ賞とトニー賞に輝いたヤスミナ・レザの舞台劇を、名匠ロマン・ポランスキー監督が映画化したコメディー。子ども同士のケンカを解決するため集まった2組の夫婦が、それぞれに抱える不満や本音をぶつけながらバトルを繰り広げるさまを描く。和解のための話し合いから修羅場に陥っていく2組の夫婦を、ジョディ・フォスタージョン・C・ライリーケイト・ウィンスレットクリストフ・ヴァルツという演技派が務める。豪華なキャストが集結した本作で、彼らがどんなストーリーを展開していくのか注目したい。

ストーリー:ニューヨーク・ブルックリン、子ども同士のケンカを解決するため2組の夫婦、ロングストリート夫妻(ジョン・C・ライリージョディ・フォスター)とカウアン夫妻(クリストフ・ヴァルツケイト・ウィンスレット)が集まる。双方は冷静かつ理性的に話し合いを進めるが、いつしか会話は激化しホンネ合戦に。それぞれが抱える不満や問題をぶちまけ合い、収拾のつかない事態に陥っていく。(シネマトゥディより引用)

 

 

感想

ロマン・ポランスキーって何者?

「名監督ロマン・ポランスキー」の名前は僕も知ってはいたんですけど、今まで上手くタイミングが合わなくて、ハッキリ彼の作品として意識して観たのは本作が初めてなんですね。(「ローズマリーの赤ちゃん」は昔テレビで観たかも?)

で、この人のことをネットで調べてみると、超波乱万丈な人生を送っている人だったんですね。

1933年生まれのポランスキーポーランドユダヤ人。お母さんは第二次世界大戦ホロコーストの犠牲になり、お父さんとは生き別れてアチコチの家を転々とし、その家々でも酷い目に合わされたりしつつポランスキー少年は何とか生き延びます。

戦争終了後ポーランドに戻った彼は、生き延びた父親と再開。
映画大学で学んだあと、俳優として数本のポーランド映画に出演し、フランスに渡って1962年に『水の中のナイフ』で監督デビュー。
このデビュー作で高い評価を受けてイギリスへ移り、さらにアメリカヒューストンに住みます。

1968年には、映画女優シャロン・テートと結婚し子供を授かるも、奥さんが妊娠中にカルト教団によって惨殺され失意のどん底に。

友人の助けもあり、何とか立ち直ったポランスキーはそこからアメリカで映画を撮り続け、監督として高い評価を得ていくんですが、1977年にジャック・ニコルソン邸で13歳の少女に手を出した疑いで逮捕され、釈放後に再度収監を逃れるために国外脱出をしてロンドン経由でパリに移り住むんですね。

まぁ、後半は完全な自業自得ですが(スイスでも淫行で逮捕されてるし)、壮絶な人生を歩んできている人なのは間違いないと思います。

そして、こうした諸々の経験が、ポランスキーの人格や作品に強い影響を与えているのは間違いないようなんですねー。

(ある意味)密室で行われるワンシチュエーションの会話劇

で、そんなポランスキー78歳の作品が本作『おとなのけんか』です。
子供同士の喧嘩で片方が怪我を負ってしまった二組の両親が、最初は冷静に話し合っているものの話が拗れに拗れて、最終的にとんでもない修羅場に発展するという物語。

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舞台のほとんどは、被害者側のロングストリート家のリビングで、登場人物はほぼ4人だけという、まさに舞台劇をそのまま映画にしたような作品でして、上映時間の78分、そのままリアルタイムで物語が進行しているという変わった作りの映画です。

え、それ面白いの?」って思われるかもですが、これが超面白いんですよ!

最初は良識のある大人っぽく取り繕った、上辺の会話をしてる両夫婦ですが、その会話の端々には小さなトゲがあって、そんな会話の応酬が進むうちに、次第に化けの皮が剥がれた彼らの本音がどんどん顕になっていくんですね。

そして、攻守が入れ替わり、男vs女になり、夫婦喧嘩になりと、パワーバランスがどんどん変わりながら、論旨は本筋から外れ、どんどん収拾がつかなくなっていくわけです。

また、話がまとまりそうになると、誰かがいらんことを言ったり蒸し返したり、電話が鳴ったりしてリセットされ再び揉め始める。つまり、その場から逃げられないっていうのは、ある意味で密室劇的だなーとも思いました。

原作の舞台の方はどうやら90分あるらしいんですが、本作では役者の会話を早口にし、物語を78分に圧縮することでスピード感や緊迫感、物語のテンポをさらに上げているんですよね。

それと映像的なテクニックを合わせることで、舞台だと散漫になってしまいがちな観客の視点を上手く誘導しているんだそうです。だから、シチュエーションや演出は舞台演劇そのままっぽいのに、しっかり映画してるんですねー。

4人のキャラクター

本作で重要なのがキャスティングです。
この作品、何気に豪華メンバーなんですよね。

まず、被害者側の父親マイケル・ロングストリートを演じているのが、数々の映画で名脇役として知られる ジョン・C・ライリー。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」でノバ帝国のノバ軍警察の衛生兵のおじさんを演じていた人ですね。

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このマイケルは一見物分りのいい穏やかな男に見えますが、その実ただの事勿れ主義で、なので追い詰められて仮面が剥がれると子供みたいに逆ギレします。

そんなマイケルの妻ペネロピを演じるのは大物女優 ジョディ・フォスター

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「正しさ」に拘る、いわゆる意識高い系の奥さんで、4人の中で一番ヒステリック。
実質、彼女が狂言回し的な役回りなんですね。

対して、加害者側の父親アラン・カウワンを演じるのは、「イングロリアス・バスターズ」のランダ大佐を始め、多くの作品で独特な存在感を見せる名優クリストフ・ヴァルツ

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このアランは子供より仕事が大事という弁護士で、話の最中に何度も何度もケータイに電話がかかってきて周りをイライラさせます。
そして、それを悪いとも思っていないし、4人の中で一番ニヒリストで、一見弱点のない冷静な男に見えますが、終盤である意外な弱点が明らかになります。

そんなアランの妻ナンシーを演じるのが、 ケイト・ウィンスレット

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投資ブローカーのナンシーは、良き母、良き妻を演じようと取り繕っているものの、その端々に持ち前のいけ好かなさが出てしまうというw
そして、旦那のゲスっぷりに辟易していて、本作で唯一本当に腹の中のものを吐き出すんですねー。

 

最初こそ友好的に子供の喧嘩の解決を図ろうとするものの、どんどん化けの皮が剥がれて本音をさらけ出していく“大人”4人の不毛な言い合いは、多分映画を見ている大人にとっては「あーこういうこと言うヤツいるわー」という「あるある」で、思わず笑ってしまうと思うんですが、反面、彼らの本音は誰もが心の中で一度くらいは思ったりする事でもあるので、笑いながらも少し居心地の悪さを感じてしまうかもしれません。

そして、この4人の対立はそのまま戦争や世界情勢のメタファーでもあって、最もミニマムな舞台を通して、その向こうにある世界の紛争や人種間の問題を軽妙洒脱なコメディーにして茶化しているんじゃないかと思いました。

その辺の意地悪さは、ポランスキー監督の人生を通して見た、人間観みたいなものが反映されているんじゃないかと思うんですよね。

 

ともあれ、短い作品なのでサクッと見られるし、コメディーとしてもよく出来た面白い作品でもあるので、オススメの一本です。

興味のある方は是非!!

 

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ハリウッドシステムから解き放たれたバーホーベン監督の本気!「ブラックブック」(2007)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、みんな大好きポール・バーホーベン監督が母国オランダで制作した歴史大作映画『ブラックブック』ですよー!

ハリウッドシステムという鎖から解放されたバーホーベン監督が、本気でやりたいように作った傑作です!

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あらすじと概要

第二次世界大戦ナチス・ドイツ占領下のオランダで、家族をナチスに殺された若く美しいユダヤ人歌手の復しゅうを描いたサスペンスドラマ。鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督が23年ぶりに故国オランダに戻り、過酷な運命に翻弄されながらも戦火の中で生き抜く女性の壮絶なドラマを撮り上げた。復しゅうと愛に揺れ動くヒロインには、オランダの新星カリス・ファン・ハウテン。オランダ映画史上最高の製作費をかけた壮大なスケールの映像は必見。

ストーリー:1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。若く美しいユダヤ人歌手ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)は、オランダへ逃げようとするが、何者かの裏切りによって両親や弟をナチスに殺されてしまう。復しゅうのために名前をエリスと変えた彼女は、レジスタンスのスパイとしてドイツ将校ムンツェに美ぼうと美声を武器に近づくが……。(シネマトゥデイより引用)

 

感想

手加減なし! バーホーベンの本気

本作でメガホンを取るのは、「ロボコップ」(1987年)「トータル・リコール 」(1990年)「氷の微笑」(1992年)で一時代を築いたポール・バーホーベン

ハリウッドでは、上記の三作で一躍人気監督になるものの、続く「ショーガール 」(1995年)「スターシップ・トゥルーパーズ」(1997年)は興業的に振るわず、「インビジブル」(2000年)を最後に故郷オランダに戻るんですね。
そして、ハリウッドで得た名声で資金を集め、制作費25億円というオランダ映画界始まって以来の大作として制作・公開したのが本作『ブラックブック』です。

1956年10月イスラエルで学校の教師をしている主人公エリス( カリス・ファン・ハウテン)が、たまたま旅行に来ていた古い知り合いのロニー (ハリナ・ライン)と出会うところから物語はスタート。

1944年、エリスのナチス占領下のオランダでの回想にシーンが移ります。

オランダ人の家に匿われている彼女の元にナチスの魔手が伸び、目の前で家族を殺されながらも一人生き残った彼女は、生き残りをかけてレジスタンスに加わっていくのだが…という物語。

幼少期を第二次世界大戦下のオランダで過ごし、自分達オランダ人の味方であるはずの連合軍がナチスの軍事基地を空爆。死体が道端に転がっているという日常を過ごしたバーホーベンだからこそ撮れた作品で、ハリウッド時代「スタジオの奴隷になった気がした」と発言するほど不自由だったシステムの呪縛から解放され、真正面からやりたいように描いた歴史大作です。

敵はナチスだけにあらず

レジスタンスの一員になり、エリス(本名はラヘル・シュタイン)という偽名を名乗り髪や下の毛までブロンドに染め上げた彼女は、リーダーの命令でスパイとしてナチス将校ルートヴィヒ・ムンツェ( セバスチャン・コッホ)を誘惑し情報を引き出す任務に。

しかし、悪の権化だと思っていたムンツェは実際には、切手収集が趣味の穏健派で、争いや無駄な血が流れるのを好まない優しい男で、彼女は次第にムンツェに惹かれていくんですね。

そしてパーティーの場で、エリスは自分の家族を殺した下士官フランケン (ワルデマー・コブス)と遭遇。

エリスはレジスタンスの手引きで開放区に逃げ延びようとしたところを、このフランケン率いるナチス小隊に襲撃され、家族を皆殺しにされているわけです。
その後も、このフランケンはやることなすこと超ひどくて憎たらしい男なんですが、でもピアノが上手で歌も上手い音楽を愛する男なんですよねー。

で、潜入調査を進めるうち、どうやらこのフランクがレジスタンスの誰かのリークでユダヤ人やレジスタンスの動向を把握している事が明らかになり……。という、ミステリー的な面白さがあり、ただナチスの残虐さやエリスの悲劇の人生を描くだけの作品ではなく、潜入サスペンス、犯人捜しのミステリー要素、復讐劇というエンターテイメント作品としても素晴らしい出来になっているんですね。いやホント、改めてバーホーベンすごいわー。と感じさせる作品です。

いくつもの要素が入り混じった多面的な作品

一方で、本作では戦時下での人間の残酷さ、もっと言うと「正義」の側に立った人間の残酷さや醜悪さを、バーホーベン節全開の露悪的な描写で手加減なく観せられます。
ナチはもちろん、フランケンや彼と通じているレジスタンス、ナチ敗北後のオランダ人の振る舞いなど、ホントうんざりするほど人間の暗部をこれでもかと見せ付けられるんですよねー。

そんな悪意や裏切りに翻弄されながら決して生きることを諦めないエリスの強さ、生きるために常に強い側の男につくロニーの強かさは、本作の中で一縷の希望になっていると思いました。さらに、バーホーベンは登場キャラクターを単純に善悪で色分けすることなく、多面的に描いています。

ナチスにもいいヤツはいるし、レジスタンスにも悪い奴はいる。
そういう当たり前の事を本作でバーホーベンは語っているし、たとえ善人であっても「正義」という大義を手にした途端、醜悪に変様する姿もしっかり描く。

その辺の意地の悪さは、さすがバーホーベンだなーって思いましたねーw

1956年10月

意地が悪いと言えば、本作冒頭とラストで提示される1956年10月のイスラエル
長い長い回想シーンが終わると、彼女のもとに子供と夫がやってきて幸せな家族の後ろ姿が描かれるんですね。

ぱっと見、苦労して生き延びたエリスがついに幸せを手に入れたハッピーエンド……に見えますが、その向こうでは飛行機と爆弾の爆発音が鳴り響いています。

歴史に詳しい人なら既に察しがついているかと思いますが、1956年10月と言えば第二次中東戦争が始まった年なんですよね。(僕は映画を観たあとにネットで知りましたが)

劇中、エリスが一度だけ「悲しみに終わりはないの!」と震えながらむせび泣くシーンがあって、このエンディングはまさにそのシーンと対になってるっていう。

この、ただのハッピーエンドでは終わらせずにエリス(=人間)の暗い未来を暗示する終わり方も、まさにバーホーベン印なんですよねー。

 

ちなみに本作は144分と長い作品ですが、見ている間退屈したり長いと感じることは全くなかったし、作劇もしっかりカタルシスもあり、ずっと物語の中に引き込まれっぱなしでした。
そして観終わって「日本も他人事じゃないよなー」って思いましたねー。

特に昨今の国際情勢、ネットやSNSを眺めていると……ねぇ?

興味のある方は是非!!!

 

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世界の映画ファン待望、エドガー・ライト最新作はミュージカル!?「ベイビー・ドライバー」(2017)

ぷらすです。

約1ヶ月遅れで、おらが町でも映画『ベイビー・ドライバー』が公開されたので、早速観てきましたよー!!・:*+.\*1/.:+

最初に書いちゃいますが、もうね! もうね!! もうね!!!

サイコーでしたよ!!!(*゚∀゚)=3

というわけで、まだ地域によっては公開中? の映画でもあるので、できる限りネタバレしないように気をつけて書きますが、多分前情報を入れずに観たほうが楽しめると思うので、もしこれから劇場で観る予定の方は、映画を見たあとにこの感想を読んでくださいねー!

いいですね? 注意しましたよ?

 

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画像出典元URL:http://eiga.com

あらすじと概要

『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』などのエドガー・ライト監督のクライムアクション。音楽に乗って天才的なドライビングテクニックを発揮する、犯罪組織の逃がし屋の活躍を描く。『ダイバージェント』シリーズなどのアンセル・エルゴート、テレビシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」などのケヴィン・スペイシー、『Ray/レイ』などのジェイミー・フォックスらが出演。主人公のユニークなキャラクター、迫力満点のカーアクションに注目。

ストーリー:幼い時の事故の後遺症によって耳鳴りに悩まされながら、完璧なプレイリストをセットしたiPodで音楽を聴くことで驚異のドライビングテクニックを発揮するベイビー(アンセル・エルゴート)。その腕を買われて犯罪組織の逃がし屋として活躍するが、デボラ(リリー・ジェームズ)という女性と恋に落ちる。それを機に裏社会の仕事から手を引こうと考えるが、ベイビーを手放したくない組織のボス(ケヴィン・スペイシー)は、デボラを脅しの材料にして強盗に協力するように迫る。(シネマトゥデイより引用)

 

感想

世界の映画ファン待望、エドガー・ライト最新作はミュージカル!?

エドガー・ライトはイギリスの映画監督で、ハリウッドでも活躍中の俳優で脚本家サイモン・ペグ、ニック・フロストと共にジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」のパロディーコメディー「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2005)で、一躍世界の映画ファンから熱い支持を受け、続く2007年「ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!」2013年には「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」を発表して、さらに多くのファンに認知されました。

そしてついに、マーベル映画「アントマン」の監督を務める発表されたものの、上層部と意見がが合わずに途中降板。(僕も含め)期待していたファンはがっかりしたわけですが、そんな彼が満を持して発表した最新作が本作「ベイビー・ドライバー」なのです。

本作の主人公ベイビー(アンセル・エルゴート)は警察から強盗を逃がす「逃がし屋」
まだ若く幼さが残る風貌ながら、ドライビングテクニックは超一流でボス(ケヴィン・スペイシー)からの信頼も熱いのです。

そんな彼は子供の頃の交通事故の後遺症で耳鳴りに悩まされていて、音楽を聞いている時だけは耳鳴りが収まるんですね。
なので、普段は必ず愛用のiPodでお気に入りの音楽を聞いているわけです。

映画冒頭、そんな彼が仲間の強盗を乗せて警察とカーチェイスするシーンから物語はスタートするんですが、なんと、彼が聞いている音楽とカーチェイスや彼の動作の映像が完全にシンクロしているんですよ!!

逆に、ショックを受けてベイビーがパニクるとBGMのデーターが狂ってしまったりして、とにかくBGM自体が物語と深く関わっているのです。

つまり本作は、カーチェイス主体のクライムアクションムービーでありながらミュージカルでもあるっていう、とんでもない作品なんですねー。

エドガー・ライトの編集が凄い

そんな本作の監督エドガー・ライトは、映像・BGM・キャスティング・ストーリーテリングももちろん素晴らしいんですが、特に抜きん出ているのは編集のセンスなんじゃないかと思います。

ショーン・オブ・ザ・デッド」を初めて観た時も思ったんですが、余分なシーン(例えば目的地に向かう道中とか)をばっさりカットして、とにかく観客が生理的に気持ちイイと思うテンポで物語を進めていく事で、映画にスピード感とリズム感を与えているんですよね。

本作では、さらに既存のヒットソングをBGMに、映像やキャラクターの動き、町の雑音までを完全にシンクロさせていて、映像・音楽・セリフ・SEをDJ的にリミックスしている感じ。

だから観客は、観ていて生理的に気持ちイイのです。

実力派有名俳優そろい踏み

そんな本作はキャストも豪華。

主人公“ベイビー”を演じるのはDJとしても活動する若手俳優アンセル・エルゴート
劇中でベイビーは、ボイスレコーダーで録音した会話をリミックスして曲を作る趣味があるんですよね。

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そんなベイビーを利用する組織のボス“ドク”を演じるのは、名優ケヴィン・スペイシー。ある事件でベイビーと出会い借金を返済させるためベイビーを強制的に仲間に引き込みます。

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ベイビーの初恋の相手デボラを演じるのは若手イギリス人女優のリリー・ジェームズ
超カワイイです!

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他に、ドクの率いる強盗団の一員、“バディ”をジョン・ハム
強盗団の一員でバディの恋人“ダーリン”を エイザ・ゴンザレス

強盗団の中で一番凶暴な男“バッツ”をアカデミー賞俳優でミュージシャンのジェイミー・フォックスがそれぞれ演じています。

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それぞれキャラクターは、どこかグラフィックノベルっぽいというか、タランティーノ作品的なデフォルメされたキャラなんですが、一面的ではなく、みんな一筋縄ではいかないヤツばかり。そんなキャラクターに役者陣の演技が実在感を与えていましたねー。

ストーリーも素晴らしい

カーチェイスとBGMをシンクロさせた新感覚ムービーの本作ですが、もちろんそれだけじゃなくストーリーも素晴らしいです。
交通事故によって両親を亡くし、現在は里親の聾唖?の老人の面倒を見ています。
ほかのキャラも同じですが、その辺の彼らの事情を全部は説明しないで、あえて断片だけを見せることで観客に彼らの背景を想像させる演出がスマートだし、本筋の方もアクションとサスペンス、里親や強盗仲間との関係の変化やデボラとの淡い恋愛を通して、ベイビーの成長を描いているジュブナイル的要素もあるように思いましたねー。

個人的には、これまで観たエドガー・ライト作品の中では最高傑作だと思うし、この作品によってきっと彼の評価はさらに上がっていくんじゃないかと思いましたねー。

とにかく、カッコ良くて、気持ちイイ、サイコーの作品だったので、お近くの劇場でまだ公開されていたら、是非観て欲しいです!

興味のある方は是非!!!

 

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▼映画『ベイビー・ドライバー』冒頭6分カーチェイス

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*1: °ω°

遠藤周作の小説をスコセッシが映画化!「沈黙ーサイレンス」(2017)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、遠藤周作の原作を名匠マーティン・スコセッシが映画化、日本では今年1月に公開された話題作『沈黙ーサイレンス』ですよー!

スコセッシの新作ということで、劇場で観ようか観るまいか迷ったんですが2時間40分という長さと、かなり重そうな内容に怖気づいてしまって、結局劇場はスルーしてしまいました(;´д`)

で、レンタルが始まってやっと覚悟も決まったので、今回思い切って観てみましたよ。

 

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あらすじと概要

遠藤周作の小説「沈黙」を、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などの巨匠マーティン・スコセッシが映画化した歴史ドラマ。17世紀、キリシタン弾圧の嵐が吹き荒れる江戸時代初期の日本を舞台に、来日した宣教師の衝撃の体験を描き出す。『アメイジングスパイダーマン』シリーズなどのアンドリュー・ガーフィールドをはじめ窪塚洋介浅野忠信ら日米のキャストが共演。信仰を禁じられ、苦悩する人々の姿に胸が痛む。

ストーリー:江戸幕府によるキリシタン弾圧が激しさを増していた17世紀。長崎で宣教師のフェレイラ(リーアム・ニーソン)が捕まって棄教したとの知らせを受けた彼の弟子ロドリゴアンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライヴァー)は、キチジロー(窪塚洋介)の協力で日本に潜入する。その後彼らは、隠れキリシタンと呼ばれる人々と出会い……。(シネマトゥデイ より引用)

 

感想

「沈黙」とスコセッシ

小説「沈黙」は1966年に小説家の遠藤周作が発表した作品です。
自身もキリスト教徒の彼が、長崎に取材旅行に行った際に隠れキリシタンの資料や、(本作のモデルになった)実在する宣教師ジュゼッペ・キアラ神父をモデルに本作が生まれたんですね。

「沈黙」は世界13カ国で翻訳され、1971年には篠田正浩監督で映画化もされています。
で、翻訳版の「沈黙」を読んだ自身もカトリック信者であるスコセッシは、是非自分の手で映画化したいと企画を立ち上げるものの資金集めに難航、結局頓挫したりしながら28年越しでついに実現したのが本作なわけですね。

ちなみに僕は原作は読んでいないし71年版の「沈黙」も観ていないので、本作がファースト「沈黙」ってことになります。

本作の背景

本作は日本の禁教令によって起こったキリシタン迫害を描いた作品です。
多分、誰もが歴史の授業とかでサラッと習ってますよね。

作品の舞台は島原の乱が収束して間もない17世紀(江戸時代初期)の長崎が舞台です。

キリシタン弾圧によってクリストヴァン・フェレイラ神父(リーアム・ニーソン)が棄教(改宗)したという書簡がポルトガルイエズス会に届き、宣教師でフェレイラ神父の弟子であるセバスチャン・ロドリゴ神父(アンドリュー・ガーフィールド)とフランシス・ガルペ神父(アダム・ドライヴァー)は「そんなはずがない」と、二人で日本に乗り込んだら、神の存在を疑うくらい酷い目に遭うという物語。

で、この「禁教令」を調べてみると、実は豊臣秀吉の時代と徳川家康の時代、計3回発令されているんですね。
で、本作の題材になっているのは家康が発令した禁教令からしばらく経った時代で、その経緯は割とややこしいんですが、ザックリ書くと、当時宣教と植民地化政策はセットになってることが多かったことから幕府が警戒したこと、九州の大名とポルトガルの揉め事&大名同士の内輪もめ、他国の陰謀なんかがあって、さらに島原の乱でダメ押しされたみたいな感じですかね。その辺興味のある方はウィキペディアとかで調べて頂ければ。

この辺の背景を知ってると、劇中のロドリゴ井上筑後守イッセー尾形)の会話が分かりやすいかもです。

日本の描写

ハリウッド映画で日本が舞台だと、大抵の場合「ハリウッド版日本」的なトンチキ描写になりがちですよね。
正直本作でもある程度は覚悟していたんですが、いざ観てビックリしたのはとにかく日本の描写がリアルだったんですよね。(江戸時代の日本は分からないですが、時代劇的な意味で)

原作が日本の小説だからってのもあるかもですが、ぶっちゃけ昨今の日本の監督よりも違和感のない、僕らがイメージする江戸時代の日本でしたよ。(日本人が英語上手すぎ問題はありますがそれはハリウッド映画だから仕方ないw)

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その辺はさすがシネフィルのスコセッシって感じで、内容的にもかなり原作を尊重した作りになってるようですし、劇中で溝口健二の『雨月物語』のオマージュも入ってましたしね。

キャスト陣の熱演

あと、本作で印象に残ったのは何と言ってもキャスト陣の熱演です。
実力派若手俳優アンドリュー・ガーフィールドアダム・ドライヴァー、名優リーアム・ニーソンはもちろんですが、本作で重要なキャラクターのキチジローを演じた窪塚洋介隠れキリシタンを断罪する井上筑後守を演じたイッセー尾形、通辞 (通訳)の侍役の浅野忠信、信仰のため殉教するモキチを演じた塚本晋也などなど、単純に正義や悪では割り切れない難しい役柄を、全員見事に演じきっていましたねー。

中でも弱さとしたたかさを併せ持つユダ的な役回りの窪塚洋介と、清濁併せ持つ老獪な役回りのイッセー尾形の演技は強く印象に残りました。

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暴力映画としての「沈黙」

マーティン・スコセッシと言えば、ニューヨークのイタリア系ギャングを描いた「グット・フェローズ」やベトナム帰りのイカれた男を描いた「タクシー・ドライバー」など、強烈な暴力を描いた作品が有名です。

本作でも、冒頭でイキナリ雲仙で宣教師が熱湯シャワーの刑を受けているという、嫌なシーンからスタートし、隠れキリシタンの百姓が簀巻きにして海に投げ捨てられたり、磔にされたり、首を切られたり、逆さ吊りにされたりと、観てるだけで辛い拷問&処刑シーンのオンパレード。(原作にもあるシーンらしいですが)

で、言うまでもなくこれは聖書に描かれたイエス・キリストの受難に準えているわけですが、美しい大自然と拷問や処刑のシーンが対比になることで、その残酷さがより際立つ作りになっていて、その辺の映像センスは、まさにスコセッシ印って感じでしたねー。

つまり本作は宗教映画であると同時に暴力映画でもあって、理不尽な暴力に晒される恐怖を描くことで、逆説的に信仰とは何かということを描いているんだと思いました。

あと、本作は一見、宣教師や隠れキリシタンを一方的に暴力によって迫害する役人という図式に見えるし実際そういう話なんですが、一方で自分たちの価値観を押し付け後進国を植民化していく当時の帝国主義や、キリスト教カトリック)の暴力的なまでの傲慢さもしっかり描いていて、そういう意味でスコセッシは両者の立場や言い分を極めてフェアに描いていると思いましたねー。

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「弱さ」に着目した遠藤周作とスコセッシ

遠藤周作は「沈黙」の中で信仰による「強さ」を主軸に描くのではなく、抗いようのない理不尽な暴力に晒されて信仰が揺らいだり棄ててしまう「弱い」人々にフォーカスしていて、スコセッシは多分そこに強い感銘を受けたんだと思うんですね。

遠藤周作もスコセッシは体が弱く、またどちらも敬虔なカトリック信者でありながら、教義に対しては複雑な気持ちもあって、そんな彼ら自身の心境が主人公のロドリゴとキチジローに乗っかってるんですよね。多分。

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「宗教映画」と言うと構えちゃう人も多いと思うし、時間は長いし、ほとんどが嫌な暴力シーンだしで、正直観るのにはまぁまぁ覚悟のいる作品ではあるんですが、本作でマーティン・スコセッシが描いているのは宗教や信仰そのものではなく、それらを通して人間の持つ普遍的な弱さや強さを描いてると思うんですね。
なので、興味はあるけどちょっと尻込みしている人は、少なくとも観て損はしない映画じゃないかと思いましたねー。

興味のある方は是非!

 

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