今日観た映画の感想

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“怪獣プロレス”の最高峰!「ゴジラ/キング・オブ・モンスターズ」(2019)

ぷらすです。

ゴジラ/キング・オブ・モンスターズ』を観てきました!
実はその前に一度観に行ったんですが、割と序盤でウトウトしてしまい気がついたら真っ赤なゴジラがバーニングしてて内容がさっぱり分からなかったので、今回ポイントを使って二度目の鑑賞してきましたよ。

ちなみに今回はまだ劇場公開中ということで、出来るだけネタバレは避けながら感想を書くつもりですが、これから見に行く予定の人や、ネタバレは絶対に嫌!って人は映画を観てから、この感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

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概要

GODZILLA ゴジラ』『キングコング:髑髏島の巨神』に続く、“モンスター・ヴァース”シリーズの第3弾。ゴジラをはじめとする怪獣たちと、それに相対する人類を活写する。メガホンを取るのは『スーパーマン リターンズ』などで脚本を担当したマイケル・ドハティ。ドラマシリーズ「ブラッドライン」などのカイル・チャンドラー、『マイレージ、マイライフ』などのヴェラ・ファーミガ、『シェイプ・オブ・ウォーター』などのサリー・ホーキンス、『沈まぬ太陽』などの渡辺謙らが出演する。(シネマトゥデイより引用)

感想

ゴリゴリの“ゴジオタ”監督が手がけた「怪獣プロレス」の最高峰!

本作は2014年公開のギャレス・エドワード版「GODZILLA ゴジラ」、2017年公開の「キングコング:髑髏島の巨神」に続く“モンスター・ヴァース”シリーズの第3弾。

マーク・ラッセル博士カイル・チャンドラー)と妻のエマ博士ヴェラ・ファーミガ)は2014年のゴジラ出現で息子を失ったことが原因で離婚。
マークは傷心のまま狼の研究に没頭、エマは娘のマディソン( ミリー・ボビー・ブラウン)とともに、各地で観測されている17体の怪獣から人類の危機を救う秘密機関「モナーク」に所属し、夫のマークが開発し彼女が完成させた"オルカ"を使い中国で孵化したモスラの幼虫との交信に成功します。

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ところがその直後、アラン・ジョナチャールズ・ダンス)率いるエコテロリストの襲撃でオルカを強奪され、エマとマディソンも誘拐されてしまう。

一方、国連で「怪獣との共生」を解くが各国首脳陣からは理解されず、その最中にエマ誘拐の報を知ったモナーク所属の芹沢教授渡辺謙)は急ぎマークと合流、誘拐された二人を救出するため協力することになるんですね。

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オルカの音波を追跡した結果、アラン達はモナークの南極基地へ向かっていることが判明。彼らの目的は南極に眠る最強の怪獣モンスター・ゼロ(キングギドラ)を目覚めさせ、地球のガン細胞である人類を減らし地球の均衡を取り戻す事だったのです。

芹沢やマークたちが到着するも時すでに遅く、ギドラは目覚めそれを察知したゴジラも現れて――というストーリー。

この時点でお気づきの方もいるでしょうが、モナークエコテロリストも実は目的は一緒モナークゴジラを、アランたちはキングギドラをそれぞれ推しているわけです。
つまり、この戦いはモナークとアランの「推し対決」なんですねーw

さらにこの後、メキシコの火山からラドンも現れて大怪獣バトルへと発展していくというわけです。

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そんな本作を監督するのは、主に「X-MEN」シリーズなどブライアン・シンガー監督作品で脚本を担当していたマイケル・ドハティ

この人、アメリカ人ですがゴジオタガチ勢

なので、昭和・平成・ミレニアムゴジラから平成ガメラシリーズまでを完全網羅。

平成ガメラシリーズやミレニアムゴジラシリーズで金子修介監督が描いた怪獣=地球のバランサー(守護神)という設定と、タイタン(巨神)、つまり地球の旧支配者であるというクトゥルフ神話的な要素をミックスして、1964年公開「三大怪獣:地球最大の決戦」をリブートしたんですね。

なので、本作のゴジラはほぼ平成ガメラです。
まぁ、ゴジラの設定自体はギャレス版から引き継いだ形なんですけども。

さらにゴジラを始め怪獣の登場シーンではオーケストラの曲に伊福部昭のフレーズがミックスされていたり、モナークのメンバーである考古人類学者のアイリーン(チャン・ツィイー)が代々双子という(まったくストーリーに関係のない)設定だったり(モスラの小美人ですね)、オキシジェン・デストロイヤーが出てきたり。

新旧ゴジラファンの向けて様々な目配せを差し込みつつ、東宝4大怪獣のタッグマッチが最新のCG映像で迫力たっぷりに描かれるのだから、ゴジラにそれほど思い入れがない僕でもアガらざるを得ないのです。

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ゴ・ジ・ラ! m( ゚д゚)ソイヤ! 
ゴ・ジ・ラ! m( ゚д゚)ハッ!

“怪獣プロレス”と揶揄されていた「VSシリーズ」をマイケル・ドハティは最新のテクノロジーとゴジオタマインドで最高峰に引き上げて見せたんですねー。

「核」の扱い

ただ、本作の評価が分かれる要因の一つが“核”の扱い。

本作を語る上で、ここだけは避けて通れない部分なんですよね。

いや、作劇的に1954年の初代ゴジラと「対」になる構造にしたかったってのは分かるんですよ。

ただあの描き方をされると正直、日本人的には無邪気に喜べないというか。
アレが「ゴジラ」作品では御法度であることはドハティ監督も重々承知してると思うんですけどねー。

まぁ、分かっているからこそ芹沢の持つ“8時15分で止まった時計”や、マークに向けての“あのセリフ”を入れたんでしょうけど。

ただ、あのセリフにしても100歩譲って日本版ゴジラで言うならまだしもハリウッド版ゴジラですからね。
「お前らが言うなよ」って思っちゃいますよね。

まぁ、それを言うならギャレス版の水爆実験がゴジラ攻撃のためだった設定も大概ですけども。

でもね、“あの時計”“日本人の芹沢がアメリカ人のマークにあのセリフ言う”という部分がマイケル・ドハティなりの誠意だと精一杯好意的に解釈するとして、EDで見せられる「ゴジラのおかげで自然や生態系が復活しました」ってのは、ちょっと看過出来ない。

ゴジラは核の申し子であり、歩くだけで放射能を撒き散らす怪獣ですよ。
それがどういう理屈で、ヤツが歩いたり泳いだりしたあとに植物や生物が復活したって事になるのかと。

いくらゴジラが好きでも、いや好きだったら尚更それやっちゃダメでしょうっていう。

 ゴジラってそんなポジティブなキャラクターじゃねえから!

ストーリーがしっちゃかめっちゃかだったり、怪獣が度を超えて擬人化されてるのは別にいいですよ。東宝ゴジラだって殆どの作品はストーリーしっちゃかめっちゃかだし、ゴジラはシェーするし怪獣同士で普通に会話してるし。

だから本作でも「ライオンキング」よろしく、他の怪獣がゴジラキングギドラに傅くのも、ラドン“ごますりクソバード”なのもネタとして笑って観てられるし、“核”の扱いも個人的にはギリギリ目を瞑れる範囲だと思ったけど、EDの後日談のせいで全部ぶち壊しですよ。

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ゴジラ大好き」って言うなら、(他はともかく)核の扱いやその申し子としてのキャラクターだけはちゃんと守って欲しかったし、怪獣同士の格闘シーンは最高にカッコよかっただけに本当に残念でした。

まぁ、そうは言っても次回作の「ゴジラvsキングコング」は観に行っちゃうんですけどねー。

興味のある方は是非!!

 

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ドラマチックでエモい。だがそこがいい。「ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、アメリカとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争の現実をリアリティーたっぷりに描きアカデミー賞三部門にノミネートされた「ボーダーライン」の続編『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』ですよー!

監督交代で前作よりドラマチックになった分、個人的にはグッと楽しめましたねー。

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概要

麻薬戦争を題材にしたサスペンスアクション『ボーダーライン』の続編。麻薬カルテルの壊滅に乗り出すCIAの特別捜査官と、彼が雇う暗殺者を映し出す。『暗黒街』などのステファノ・ソッリマが監督を務める。前作に引き続いて『エスコバル 楽園の掟』などのベニチオ・デル・トロ、『ミルク』などのジョシュ・ブローリンが出演。脚本を、前作に引き続きテイラー・シェリダンが担当した。(シネマトゥディより引用)

感想

本作はTV版「攻殻機動隊

ブレードランナー2049」などのドゥニ・ヴィルヌーヴが手がけ、アメリカとメキシコの国境で巻き起こる麻薬戦争の闇をエミリー・ブラント演じるFBI捜査官ケイト・メイサー視点で描き観客に追体験させて話題になった前作「ボーダーライン」から3年。

前作で 自称「国防総省の顧問」として登場したジョシュ・ブローリン演じるマットと、麻薬カルテルに家族を殺され復讐に燃える男でベニチオ・デル・トロが演じたアレハンドロが本作の主人公です。

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脚本は前作と同じくテイラー・シェリダンが担当しているんですが、前作では描かれなかった二人の内面が描かれているんですね。

なので前作にはあまりハマらなかった僕も、本作はかなり観やすかったし楽しむことが出来ましたよ!

両作の違いを例えるなら、前作が押井守の「劇場版攻殻機動隊」で、本作は神山健治のTV版「攻殻機動隊的な感じ。
前作はわりと誰にも感情移入させない突き放した雰囲気だったんですが、本作は前作の空気感や緊張感は受け継ぎつつ主役の二人に感情移入出来るエモい展開になってたんですよね。

ざっくりストーリー紹介

冒頭、アメリカ合衆国カンザスの商業施設で自爆テロが発生。多くの民間人が犠牲になります。
アメリカ合衆国国土安全保障省は「テロ実行犯がメキシコの麻薬カルテルの助けを得てアメリカに不法入国している」という仮説を立て、CIAのマットジョシュ・ブローリン)にカルテル殲滅を依頼。
マットはカルテルに家族を殺害されたコロンビアの元検察官アレハンドロ(ベネチオ・デル・トロ)を招集し、非合法な手段を使ってカルテル殲滅のための作戦を計画します。

その作戦とは、メキシコの2大カルテル同士の抗争を起こさせるために、カルテルのリーダーの娘イザベルイザベラ・モナー)を誘拐し、敵対する別のカルテルの仕業であるかのように犯行を偽装。その後テキサスで救出劇を偽装し彼女をメキシコに送り届けるというまさにマッチポンプ

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途中まで計画は順調に進むも、マット、アレハンドロがイザベルを連れメイキシコの国境を越えると、護衛についていたメキシコ連邦警察から奇襲を受けてしまい――という内容。

メキシコ警察の護衛班は、敵対するカルテルに買収されていたわけですね。
銃撃戦の中、逃げ出したイザベルはアレハンドロが保護したものの、メキシコ警察との撃ち合いで死傷者を出したことで、すっかり怖気づいた大統領の命令で計画は中止(しかも自爆テロカルテルとは無関係だった)となり、メキシコに残されたアレハンドロとイザベルは敵対するカルテルの縄張りで孤立無援になってしまうのです。

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そんな状況の中で敵の目を掻い潜り、二人がどうやって国境を越えるのかというのが本作のメインストーリーなんですね。

本作で勘違いからカルテルに陰謀を仕掛けるアメリカ政府は、イラク戦争を引き起こしたブッシュへの皮肉であり、自分の立場が怪しくなった途端、部下のはしごを外し保身を図る大統領はトランプへの皮肉なのかな。

前作からスケールアップ

メキシコ麻薬カルテルとCIAの戦いを描いた前作から、本作は物語も残虐性もスケールアップ。

まずは冒頭、ISISの自爆テロで一般市民が巻き込まれるというショッキングな映像。
続いて、マットがソマリアの海賊を拉致して、マットが行う非人道的にも程がある尋問(というか脅迫)。
作戦が始まってアレハンドロがカルテルの弁護士相手に見せる「バンプ・ファイヤー」(拳銃を機関銃のように撃つ)の描写。
メキシコ連邦警察との壮絶な銃撃戦などなど。

で、なぜ麻薬カルテルとの戦いにISIS(イスラム国)やソマリアの海賊が出てくるかと言うと、冒頭にISISの自爆テロがあったわけですが、9.11以降は空路の管理が厳しくなっているという実情があります。

で、ISISはソマリアの海賊を通じてメキシコまでテロリストを運び、カルテルの手引きで国境を超えさせてアメリカに密入国しているのだろうというのが政府の読みなのです。

さらにカルテル側の稼ぎも、麻薬を密輸入するよりメキシコや他国から人間を密入国させる方が必要経費やリスクも少なく身入りもいいという実情があるんだとか。

なので、国境沿いの町に住む少年が従兄弟の手引きでカルテルの一員になるというサブストーリーがあるわけですね。

アメリカ人なら疑われずに入国出来るというわけです。

本作はアレハンドロとイザベルがどうやってメキシコから脱出するかというメインストーリーと、カルテルの一員になる少年のサブストーリーが同時進行で描かれていて、この少年がメインストーリーにどう絡んでくるのかな?と思いながら観ていたら、まさかまさかの展開に本気でビックリしましたねー。

監督交代

前作のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督からバトンタッチしたのは、イタリア人監督のステファノ・ソッリマで、彼はテレビシリーズの「ゴモラ」というギャングドラマが注目されて本作に起用されたんだとか。

本シリーズを担当している脚本のテイラー・シェリダンは社会的なテーマを扱いながらも、作劇のベースにあるのは西部劇のフォーマット。
ステファノ・ソッリマ監督は、前作のヴィルヌーヴ監督が作り上げた世界観は壊さないようにしながら、シェリダンの西部劇的なエッセンス、つまり暴力性と主人公アレハンドロのエモーションを強めに描くことで、前作では描かれなかったマットやアレハンドロなりの矜持を描き、前作とは違った味わいを出す事に成功していると思いました。

前作と本作は、基本的にどちらから観ても大丈夫な作りになってますが、個人的には本作を先に観て、そのあと前作を観るとより楽しめるんじゃないかと思ったりしましたねー。

興味のある方は是非!!!

 

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誰が“ミンジュ”を殺したのか「殺されたミンジュ」(2016)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、本国では2014年公開で韓国映画界の鬼才キム・ギドク監督作品『殺されたミンジュ』ですよー!

キム・ギドク作品だと僕は確か以前に「嘆きのピエタ」を観たような気がするんですが、内容の方はほとんど覚えていないので本作がほぼ初ギドクって感じですねー。

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概要

『ブレス』『嘆きのピエタ』などの問題作を世に送り出してきた韓国の鬼才、キム・ギドク監督がメガホンを取って放つ衝撃作。女子高生を殺害した容疑者7人が謎の7人組集団によって拉致され、拷問される不可解な事件に迫る。『群盗』などのマ・ドンソクが謎の集団のリーダーを演じ、『ビバ!ラブ』などのキム・ヨンミンらが共演。型破りな設定の間に見え隠れする韓国社会への辛辣(しんらつ)なメッセージに絶句する。(シネマトゥディより引用)

感想

ミンジュ=民主

本作は、女子高生ミンジュが謎の男たちに殺害されるというショッキングなシーンからスタート。

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本作の原題は「일대일(1対1)」ですが、邦題は「殺されたミンジュ」で、ミンジュとは日本語で「民主」つまり民主主義を指す意味があるようです。

ざっくりストーリー紹介

で、その一年後。

(多分)政府の仕事をしているオ・ヒョン(キム・ヨンミン)は、軍隊らしき謎の集団に拉致されリーダー(マ・ドンソク)に「昨年の5月9日にやったことを覚えているか」と写真を見せられます。

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その写真に写っていたのは冒頭で殺されたミンジュの遺体写真。
リーダーは、「5月9日にやったことを全て書け」と迫り、オが抵抗すると水責めからの釘角材殴打のコンボでオの心を折ると、自分の犯行を紙に書かせて流れる血を塗りつけた手を紙に押し付け(拇印?)連れてきた時と同じように目隠しをして誘拐した場所で開放します。

容疑者2のチョン・イセは妊娠した奥さんのいる男。
集団はヤクザの扮装で同じように誘拐、同じように自白を迫られ、抵抗すると手足を固定されてからの陰部殴打の刑からの自白書を書かされて開放。その後彼は、良心の呵責から自殺してしまいます。

その後も容疑者3のオ・ジハは金槌で左手殴打の刑。容疑者4のオ・ジョンテクは暗闇の中でボコられ――と、ミンジュ殺害の容疑者は次々に誘拐されては拷問され、自分のやったことを紙に書かさて開放されていきます。

色んなコスプレで容疑者を拉致っては拷問する集団「シャドウズ」は、実は軍人でも警察でもヤクザでもなく、リーダーのネットの呼びかけで集まった一般市民。

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メンバーも
DV彼氏に暴力を振るわれる女
ワインバーのウェイター
アメリカ留学をしたのに就職できないニート
詐欺で金を騙し取られ認知症の母とテント暮らしをする浮浪者の男
妻の治療費にために闇金から借金している男
会社にある車の部品を勝手に売っちゃう高級車専門の自動車整備工

と、いわゆる「負け組」の寄せ集めで、エリートをボコることで社会に抱える憂さを晴らすために参加しているわけです。

一方、最初に拉致られたオ・ヒョンは屈辱が忘れられず「自分と同じ容疑者仲間がシャドウズに拉致られるハズ」と仲間の動向を見張っていると案の定、容疑者3が拉致られたので彼を乗せた車を備考し、シャドウズのアジトや、メンバーの素性を写真に収めて容疑者3・4に復讐を持ちかけます。
しかし3は良心の呵責から誘いに乗らず、4は恐怖心に苛まれて逃げ出してしまうんですね。

それでも諦めきれないオ・ヒョンは、その後も1人でシャドウズの犯行の様子を見張っているんですが、どんどんエスカレートするリーダーとドン引きのメンバーの間に亀裂が走り――というストーリー。

ちなみに、容疑者1のオ・ヒョン役キム・ヨンミンは、DV男、ニートの弟に文句を言いまくる兄、自動車修理会社の嫌なオーナーなど1人8役を演じています。
何か似てるなーとは思ったけど、まさか本当に全部同じ役者だったとは。

ただ、この1人8役にも恐らく意味があって、ミンジュを殺した容疑者を始め彼が演じたのは(一人を除いて)全て加害者であり、シャドウズのメンバーを踏みにじる“小さな独裁者”たちなのです。

つまり冒頭で殺されるミンジュが民主主義の象徴なら、キム・ヨンミンが演じる7人は(メタ的に)民主主義を殺す独裁者の象徴で、両者は鏡像関係にあるんですね。

ただ、オ・ヒョンを始めとしたミンジュ殺しの実行犯は上層部の命令で動いているだけだし、その罪を暴いていくシャドウズのリーダーも、軍隊時代には後輩(キム・ヨンミン)を殴っていた“小さな独裁者”であり、シャドウズのメンバーたちも容疑者を拉致拷問している時は――と、登場する人間全員が被害者でもあり加害者でもあるわけです。

どストレートな作品

こんなふうに書いていると何か小難しそうと思われるかもですが、そんな事はありません。
なぜならクライマックスでマ・ドンソク演じるリーダーが、作品のテーマを「ドジョウとライギョ」に例えて全部説明してくれるからです。

「ドジョウだけを水槽に入れるとすぐに弱っていくが、ライギョを一匹入れることで逃げ回るドジョウ達が元気になる」と。

つまり、社会という水槽の中にはドジョウ(弱者)とライギョ(強者)がいることで回っていて、人間は誰もが(他者との関係や立場で)ドジョウにもライギョにもなる。
それがこの世界のシステムなのだと。

もう絶望しかないよギドク。 

雑で安っぽい映像

そんな本作「やけに雑で安っぽいなー?」と思ったら、監督・脚本だけでなく撮影と編集までキム・ギドク自身が行っていて、撮影期間は何と10日という超低予算作品なんだそうです。

そうなるとキム・ヨンミンの1人8役も単純に予算削減のため?なんて勘ぐってしまいますよねw

まぁ編集はともかく、せめて撮影はカメラマンに任せた方が良かったのでは?と思わなくもないですが、痛さが伝わる暴力シーンでお馴染みの韓国ノワールのわりに、シャドウズの拷問シーンが回数を重ねる度にショボく見えてしまうのは、むしろ本作のテーマにはハマっていると言えるかもしれません。

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素人集団による“コスプレSMごっこの茶番劇は、本人たちは大真面目でも引いて見れと滑稽なコントの様だし、それは政府による冒頭のミンジュ(民主)殺しや、シャドウズメンバーを踏みにじる“小さな独裁者”も同じだというキム・ギドクの皮肉が込められているようにも見え、それを敢えて安っぽい映像にすることで映像的に表現しているのかもと思えなくもないんですよね。

とはいえ全編に渡って映像が雑なので、仮にそういう意図があったとしても観客には伝わりづらい。つまり本当に雑で安っぽいだけの映画に見えてしまうかもですが。

かなりメッセージ性が強く歪だし後味も激悪な作品ですが、キム・ギドクという監督の作家性がどストレートに分かりやすく表現されているので、ギドク作品に興味のある人の入門編としては良いかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

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カールついにデレる!「特捜部Q:カルテ番号64」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、未解決事件を追う二人の刑事を描いたデンマーク映画のシリーズ第4弾『特捜部Q:カルテ番号64』ですよー!
有能だけど気難しくてすぐ一人で突っ走ってしまうカールと、移民という出自ゆえ警察署内で正当なポストを与えられなかったアサドのコンビが、デンマーク最大の闇を追うシリーズ最終章?です!

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概要

ユッシ・エーズラ・オールスンの「特捜部Q」シリーズ映画化第4弾のミステリー。未解決事件の調査に当たる特捜部Qの刑事たちが、ある失踪事件を捜査する。特捜部Qのコンビを、ニコライ・リー・コスとファレス・ファレスが続投。『恋に落ちる確率』などのクリストファー・ボーがメガホンを取り、脚本を本シリーズや『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』などのニコライ・アーセルが務めた。(シネマトゥデイより引用)

感想

北欧映画の乾いた湿度

北欧ミステリーと言うと洋画ともアジア映画とも違う、独特な「乾いた湿度」のある作品が多い印象があります。

“乾いた湿度”というのもおかしな言い回しだし、北欧で一括りにするのは些か乱暴かもしれませんが、例えばシリアルキラーが犯人のミステリーやサスペンスなどでは、ハリウッド映画ほどドライではないがアジア映画ほど湿度は高くない。みたいな?

北欧ミステリーを語れるほど沢山の作品を見てきたわけではないけど、少なくとも僕が観た作品では、旧家の因習や社会制度の捻じれ、選民思想排他主義が絡むストーリーが多い気がするんですよね。

まぁ単純に残酷な犯人像の背景として使いやすいからかもですが、冬は雪と氷に閉ざされる北の国ならではの閉塞感や、戦争の記憶みたいなものが深く根ざしているのではないかと思ったり。

本作で主人公カールとアサドの敵となるのは、まさに選民思想による排他主義を掲げる集団であり、その犠牲になるのは少女や女性なのです。

そういう意味では非常に現代的なテーマと言えるかもしれませんね。

シリーズ作品をざっくり解説

デンマークの作家J・エーズラ・オールスン原作の同名シリーズを映画化したサスペンスドラマで、捜査ミスにより部下を殉職させてしまった元殺人課の刑事カール(ニコライ・リー・コス)と、移民という出自ゆえ自身が望む部署に配属されないアサド(ファレス・ファレス)の二人が配属された窓際部署「特捜部Q」で未解決事件を解決していくという内容。

最初に映画化されたのは「~檻の中の女

ずっと死んだと思われていた女性を、たまたま書類に目を通したカールの違和感から再捜査をするうち女性が実は生きていて、犯人に長年にわたって監禁・拷問を受け続けていたことを突き止めるというストーリーです。

この拷問というのが普通では思いつかない方法で、また、その背景には犯人と女性の過去が関係していることが分かるんですね。

2作目は「~キジ殺し

20年前に結審済みの双子レイプ殺人事件の再捜査から、新たな事実が浮かび上がってくるというストーリー。
「キジ撃ち」は貴族や富裕層の娯楽として定着してますが、それが転じて“弱いものを追い回す”という意味があり、それに殺人事件をかけて「キジ殺し」というタイトルになったんですね。

3作目の「~Pからのメッセージ

特捜部Qに届いた血に染まったボトルメールから、「神の弟子」という宗教がらみの殺人事件が明らかになっていくというストーリー。
フィクションでは扱い辛い「宗教」にスポットを当て、真正面から描いています。

そして本作「~カルテ番号64」では、アパートの壁に隠された部屋の中から3体のミイラ化した遺体が発見され、その謎を特捜部Qのカールアサド、そして前作から参加している紅一点のローセ(ヨハン・ルイズ・シュミット)の3人が追うというストーリー。

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捜査を進めるうち、3人は昔1961年に閉鎖された不良少女を収容、更生させる施設「スプロー島女子収容所」に辿り着くのです。

一方、アサドと顔見知りの少女で望まぬ妊娠をしたマールは、友人に付き添われ匿名で中絶を行えるクアト医師のクリニックで手術を行います。
その後、クリニックの院長クアトはスプロー島の女子収容所で医師をしていた事が分かり……というストーリー。

実はこのクアト医師、表向きは不妊治療の第一人者ですが、実は寒冷地に住む白人種こそ優生種と信じ弱者断絶の思想を信奉するグループ「寒い冬」の指導者的な人物で、過去にスプロー島で少女たちへの強制不妊手術を行っていた事が分かるんですね。

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そして女子収容所が閉鎖になってからは中絶を望む移民の少女に、合意なしで不妊手術を行っていたのです。

しかも「寒い冬」のメンバーは医師や弁護士だけでなく警察や司法にまで及び、ゆえにメンバーの医師らに対する訴訟は裁判になることなく揉み消され、(証拠を握る)都合の悪い人物は密かに消されていたことが分かり、その魔の手は3人にも伸びていくのです。

女子収容所は実在した

本作に登場するスプロー島女子収容所はフィクションとして描かれますが、そのモデルは実際に1921年から1962年までスプロー島に実在した女性収容所です。

この施設には、軽度の知的障害の女性や(当時基準で)“ふしだら”とされた女性が収容され、出所には不妊手術の同意が条件だったそうです。
“ふしだら”な女性は優生学的に劣る存在とされていたことが理由なんだそう。

これとよく似た事案が、つい最近日本でもニュースを賑わせていますよね。
1948~1996年まで、障害を持つ人への(本人の同意がない)不妊手術を国が法律で認めていた「優生保護法」です。

社会的弱者の人権を踏みにじる「スプロー島女子収容所」は決して絵空事でも他人事でもないのです。

さらに本作では劇中に「寒い冬」の選民思想や移民排斥などの排他主義なども描き、ある意味イマドキなテーマを扱った作品でもあるんですね。

カールついにデレる!

シリーズを通して観てきた人なら、カールとアサドの関係にはずっとヤキモキしてきたのではないでしょうか。

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相棒のアサドに対して、ちょっと心を開きかけたかな?と思ったら、次の作品ではまた心を閉じているツンデレおじさんのカール
それに根気強くつきあい、サポートしてきたアサドですが、本作ではとうとうほかの部署に転属することに。

しかし、当のカールは「別に同じ署内での移動だろ?」なんてツレない様子。
これにアサドは「5年も一緒にいたのにそれだけなの!?キー!」とついにブチギレ。
二人の関係は過去最悪になるんですね。

そして色々あって、本作ラスト。

ついに、あのカールがデレましたよ皆さん!! 。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。  

どんな風にデレたのかは、是非DVDでご確認ください!

興味のある方は是非!!

 

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前半と後半が別の映画のよう「blank13」(2018)*ネタバレ

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、人気俳優の斎藤工が“齊藤”工名義で監督を務めたデビュー作『blank13』ですよー!
実は以前から気になってたんですが、若干の地雷臭もあって中々手が出なかった本作ですが、今回思い切ってレンタルしてきましたよー!

で、この作品は予告編の段階でほぼネタバレしてるので、今回はネタバレを気にせず感想を書いていこうと思います。
なので、これから本作を観る予定の人や、ネタバレは絶対に嫌!という人は、映画を観てからこの感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

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概要

放送作家のはしもとこうじの実話をベースに、『昼顔』などで俳優として活躍する斎藤工が「齊藤工」名義で監督を務めた家族ドラマ。13年前に蒸発した父親が、余命わずか3か月の状態で発見されたことから再び動きだす家族の物語を紡ぐ。主人公をNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」などの高橋一生が演じ、父親を『そして父になる』などのリリー・フランキーが好演。斎藤をはじめ、松岡茉優榊英雄金子ノブアキ佐藤二朗らが共演している。(シネマトゥディより引用)

感想

コント企画からのスタートだった?

本作は最初、映像配信サービスひかりTVの配信用オリジナル映像として企画され、当初は「ブランクサーティーン」という読み方で40分程度のコント企画だったそうです。その後斎藤工の提案で、海外の映画祭へ出品することが可能な70分の長編映画になったのだとか。

その話を知ってやっと、“あの”葬式シーンの謎が解けましたよ。

あのシーンだけ、明らかに他のシーンとはトーンの違ってて、なんであんな事になっちゃったんだろう??って不思議だったんですよねー。

ざっくりストーリー紹介

ストオーリーは放送作家“はしもとこうじ”の実体験が元になっているそうで、リリー・フランキー演じるダメ親父とその家族の物語。

ギャンブル狂いでサラ金に400万の借金を残して失踪した父親、松田雅人(リリー・フランキー)のせいで、兄のヨシユキ(斎藤工/北藤遼)と弟コウジ(高橋一生/大西利空)と母親の洋子(神野三鈴)は長年苦労する。

借金も返し終えて大人になったヨシユキは大手広告会社に就職し、コウジは現金輸送車の警備員として働くようになってやっと平穏な生活を送れるようになったある日、3人は父親が胃ガンで入院し余命3ヶ月である事を知る――というストーリー。

母とヨシユキは無視を決め込むんですが、コウジは幼い頃に野球の練習をした楽しい記憶があり、複雑な思いを抱えたまま見舞いに行くんですね。

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ところが13年ぶりに会った父親はあいかわらず借金の取り立てにあっているクズ人間のままで、心が通わないままコウジは病院を後にするのです。

そして他界した父の葬式は弔問客も少なく、同日に行われた同性の葬式に比べると実にみすぼらしいんですが、集まった弔問客の証言でクズ人間だと思っていた父親のもう一つの顔が見えてくるっていうね、まぁ、正直よくある物語ですよ。

使い古された題材をどう料理するのか

となれば、この“よくある物語”をどれだけ新鮮に観せるかが監督の腕の見せどころになるわけじゃないですか。

本作はざっくり分けて、父親が失踪し残された3人が苦労し息子たちが大人になるまでの前半と、父親がガンで亡くなって葬式を挙げる後半に分かれます。

結論から言えば、映画好きで知られ自主制作の短編映画やミュージックビデオも手がけている“齊藤工”監督だけあって、かなり良かったんですよ。

前半までは。

野球を教えたりキャッチボールしたりする一方、雀荘での麻雀三昧でコウジが賞を獲った作文も読んでくれない父親。
昼となく夜となくやってきては金を返せと怒鳴る借金取りと、息を潜めて居留守を使う家族。
「タバコを買いに行く」と家を出てそのまま失踪した父親に代わり、朝は新聞配達、昼は内職、夜はスナックで働く母親。
やがて兄弟も新聞配達をしたり、兄は慣れない料理をしたり。
穏やかなシーンは柔らかな光で、辛いシーンは影を濃く見せるコントラストもいいし、細かいディテールも丁寧に描いていて、非常に好感が持てます。
13年ぶりに会ったコウジと父親との距離感や、恋人の西田サオリ(松岡茉優)との会話部分なども良かったんですよねー。

後半突然始まるコント

ところが後半の葬式のシーンになった途端、突然コントが始まってしまうんですよ。( ゚Д゚)ハァ?

葬式に集まってきた弔問客は、それまでの父親の人生を写すような曲者ばかり。
その面子を見て兄のヨシユキは「向こうの葬儀を見たら人の価値を教えられた気がして…」と呟くんですね。

同日同時刻に行われていた同姓の葬式。
向こうは立派な寺で執り行われ弔問客も多いのに、父親の方は(多分)公民館を借りて弔問客も数える程。

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そこまではいいのです。
ところが坊さんがお経を終えたあと、弔問客一人一人に故人である父親との思い出話を話すように即すんですね。

そんな葬式って見たことあります?

少なくとも僕は人生で一度も遭遇した事がないんですけど。

で、口火を切るのが父親と麻雀仲間役の佐藤二朗
この佐藤二朗がビックリするくらい佐藤二朗
普通に話してると思ったら突然笑い出す例のアレですよ。
ここから、別の映画と繋ぎ合わせたのかと思うくらいトーンが一変するんですね。

行きつけのスナックの店員や、父親から家族に当てた遺言を託された男、マジック仲間の老人、同居していたオカマなどなど。
佐藤二朗が司会役とになって、次々に話を振ったりツッコミを入れたり。

そんな彼らの証言から亡き父親の人柄と彼らに愛されていた様子が次々に明かされていくという設定なんですが、このシークエンスは全部アドリブなんだそうで。

つまり、設定だけを与えられて、あとは役者に丸投げ状態。

佐藤二朗を始めとしたキャストは当然それまでのトーンは分からないだろうから、このシークエンスだけそれまでのシーンから浮き上がったコント状態になっちゃうわけです。

「ここで笑いが入ることで話が重くなりすぎず良かった」的な意見もありましたけど、個人的にはアレはないわーって思いましたねー。

だって途中明らかに佐藤二朗が困ってたり、それを見た斉藤工が笑いをこらえてましたもん。
それまで丁寧に積み上げてきた流れがぶち壊しですよ。

それでも100歩譲ってそこは役者のリアルなリアクションを引き出す意図だったと目を瞑るとしても、途中で登場した野性爆弾のくっきー
遅れてやってきた彼は、焼香しようとするも作法が分からず坊主にしつこく聞くというコントをして、「タクシーを待たせてる」とか言って父親の話をするわけでもなく帰っちゃうんですね。

それ、いる?

斉藤工とくっきーは深夜のバラエティーで共演もしてるので、その流れでゲスト出演って感じなのかもですが、(ただでさえ流れをぶっ壊してる)シーンの流れをぶった斬ってまで、彼を登場させる意味や必要あったのかと。

っていうか、この葬儀で弔問客が故人との思い出を語るっていうのが、設定のための設定で違和感しかない

いろいろパターンはあるだろうけど、普通は通夜、通夜振る舞い、葬儀、火葬っていう順番ですよね?

だったら、通夜振る舞いで彼らが代わる代わる現れて思い出を語らせる方が自然だし、それならアドリブ演技でも、ある程度は不自然な感じにはならないと思うんですけどねー。(´ε`;)ウーン…

事のついでに言うと、映画の最初に流れる火葬の説明のテロップ。
何か火葬の宗教的意味を語るのかと思ったら、「土地が狭い国は火葬にしがち」(意訳)とか、「温度が高いので骨と灰だけしか残らない」(意訳)とかの説明。

それいる?

火葬場のシーンからセミを燃やす少女には何の意味が?

「ヘレディタリー 継承」のあの子みたいな事かと思ったわ。

いや、意図は分かりますよ?
でも、別になくても成立する無駄なカットだよなーと。

葬式のシーンに話を戻すと、ダラダラと繰り広げられたコントの最後に、友人役の神戸浩「父親の死ぬ少し前に見舞いに行くと息子(コウジ)の作文を見せて嬉しそうに笑っていた」というエピソードでやっと本筋に戻るんですね。

ドラマや映画で100万回見た超ベタベタな展開ですが、序盤の雀荘での前フリもあり、神戸さん自身のキャラクターや不器用ながら全力な芝居も相まってここだけは思わずグッときてしまいましたよ。

まぁ、ある意味“実験的な演出”と言えなくもないけど、映画をぶち壊してまで役者にアドリブ演技させる必要があったかは疑問だし、合間に差し込まれる母親が喪服を着て葬式に行こうか行くまいか――のシーンと温度差がありすぎて、どんな気持ちで観ればいいのか分からないんですよね。

っていうか、演技プランを役者本人に丸投げするのは「演出」って言わないから。

弔問客役の人たちだってしっかり芝居の出来る役者ばかりなのに、(特に佐藤二朗は)あれだと何か損してる感じだしねー。

ほかのシーンが良かっただけに、この葬式のシークエンスは本当に残念でしたねー。

キャスト陣

ただ、それでも本作がギリギリ映画として成立しているのは、ダメ親父役のリリー・フランキー、母親役の神野三鈴、西田サオリ役の松岡茉優などなど、芸達者なキャストの力が大きいと思います。

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まぁ、リリーさんはいつも通りなんですが、特に神野三鈴と我らが松岡茉優は良かったですねー。
あとはやっぱり神戸さんが強く印象に残ったかな?
あのコントの最後に神戸さんを配置したのは、“齊藤工”監督のお手柄だと思ったし、映像で「言葉に出来ない空気感」を掴まえる演出にもセンスを感じましたねー。

興味のある方は是非!

 

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実話を元にした“決して諦めない男”の物語「パッドマン 5億人の女性を救った男」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは実話を元にしたインド映画『パッドマン/5億人の女性を救った男』ですよー!

愛する奥さんのために生理用ナプキンを作ったら、結果的に多くの女性を救うことになった男の物語です。

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概要

夫が妻のために安くて安全な生理用品を作ろうとする実話を基にしたドラマ。清潔で安価なナプキンを低コストで大量生産できる機械を発明し、さらには女性たちに働く機会を与える主人公の奮闘を描く。主人公を演じるのは、『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』などのアクシャイ・クマール。監督を、プロデューサーとして『マダム・イン・ ニューヨーク』などに携ってきたR・バールキが務める。(シネマトゥディより引用)

感想

実話ベースのインド映画

本作はタミル・ナードゥ州出身の発明家で社会活動家アルナーチャラム・ムルガナンダムが低価格で衛生的な生理用ナプキンを発明した実話を元にした、トゥインクル・カンナーの短編小説集「ザ・レジェンド・オブ・ラクシュミ・プラサード」の一編「The Sanitary Man of Sacred Land」を原作に作られたインド映画です。

トゥインクル・カンナーは元インドの元人気女優で、本作では制作にも名を連ねているんですね。

実話を元にしたインド映画と言えば、アーミル・カーン星一徹ばりのスパルタ教育で娘を女子レスリングインド代表に育てたマハヴィル・シン・フォーガットを、「きっと、うまくいく」のアーミル・カーンが演じた「ダンガル きっと、つよくなる」があって、方向性は違えどテーマはどちらも同じ

IT分野などで世界を牽引する発展を遂げる一方、多民族・他宗教国家であり地方では未だに因習(というか迷信)に囚われている人も多いインド。

女性の社会的立場の低さは地方に行くほど顕著なようで、両作ともそうした宗教観や因習からくる女性の地位向上や自立をテーマにした作品なんですね。

そこには、映画という人気メディアを通して国民を啓蒙する意味もあり、女性の社会的地位の向上をテーマに取り込んでいくのが、近年のインド映画のトレンドになりつつあるのかな? と思ったりします。

ざっくりストーリー紹介

本作の主人公ラクシュミ(アクシャイ・クマール)はのつく愛妻家。手先が器用で様々な発明をしては奥さんを喜ばせていたんですが、ある時、奥さんのガヤトリ( ラーディカー・アープテー)が月経の時に汚い布を使っている事にショックを受けます。

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彼の住んでいる村では月経は「穢れ」とされていて、月経の5日間女性は家には入れず軒先(というかベランダ?)で眠るんですね。

そこでラクシュミは奥さんに高価な海外製の紙ナプキンをプレゼントするんですが、ガヤトリは喜ぶどころか薬局に返してくるように言います。

それならとラクシュミはナプキンを自作してプレゼントするんですが、見よう見まねで作った彼のナプキンは役に立たず、そもそも女性の月経に男が首を突っ込むこと自体がタブーになっているので、彼の行動は村人だけでなく実母や姉妹、さらには最愛の妻からも理解されません。

それでも諦めないラクシュミは、ナプキンを作っては妹や女子医学生、はては初潮を迎えた少女にまでナプキンの試作品を渡すんですが、これがとうとう大問題に発展。

村人からは白い目で見られ、家族には見放され、挙句最愛の妻は実家に帰ってしまう事態に。

結局村を追い出される形になってしまったラクシュミ。
しかし、それでも彼は諦めません

学のない彼は自分のナプキンの欠点が分からず、それならと大学教授の家のお手伝いとして働きながら教授に教えを請おうとするんですが、仲良くなった教授の息子がググってくれたおかげで、自分が綿だと思っていたのはセルロースだった事を知ります。
そこで大企業を装ってアメリカからセルロースのサンプルを手に入れます。

そして高価なナプキン製造機の構造を研究し、同じ構造の安価な製造機を自作。
見事ナプキンを完成させるんですね。

ところが、せっかく作っても“男が作った生理用ナプキン”など使ってくれる女性はいない
途方に暮れるラクシュミですが、先進的な女性パリー( ソーナム・カプール)との出会いが彼とインド女性たちの運命を変えるのだった――という内容。

いわば本作はインド版「下町ロケットなんですね。

2001年のインドが舞台

驚くのは、この作品の元になっているのが2001年の実話だという事。
そして、ラクシュミにとって最大の壁となるのが男ではなく、彼が助けたいと思っている女性だという事なんですよね。

そこには彼らの宗教観やそれに伴う古い因習が当たり前の常識としてあって、また下半身の問題でもあるので女性たちの反発も分からなくはないんですけどね。

そんな誰にも理解されないラクシュミの行動を認めて価値を見出してくれたのが、大学教授の父に育てられた先進的な女性パリー。
都会育ちの彼女との出会いがキッカケとなって、それまで苦労の連続だったラクシュミの発明は一気に実を結び始めるのです。

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そしてそれが、インド中に思いもよらぬムーブメントを巻き起こして行くことになるんですね。

エンタメ映画として

もちろんインド映画ですから、劇中に歌とダンスも入りますよ。
映画冒頭で歌に合わせて彼が愛妻家であることや、手先が器用でアイデアマンであることが映像で語られていく手際の良さが素晴らしいんですよね。

また、正直エンタメ映画にしにくい題材をここまで見事なエンタメ作品として誰もが楽しめる映画にしたR・バールキ監督の手腕も素晴らしいって思いました。

劇中、スーパーマンバットマンスパイダーマンが引き合いに出されるんですが、ついにナプキンの謎を解き明かしたラクシュミが、ナプキン製造機を作り上げるまでのシーンは「アイアンマン」でトニースタークがアイアンマンを開発するシーンと同じ気持ち良さがありましたねー。

残念ながら

そんな本作は前述したように、生理用ナプキンを取り巻くインド国内の迷信を根絶するために人々の意識を高めるという啓蒙活動の意味合いもあるんですが、タブーを取り扱っているため残念ながらクウェートパキスタンでは上映禁止になってしまったそうです。

決して政治色の強い作品ではないんですが、国によっては宗教と政治が強く結びついていたり国同士の軋轢もあったりするので致し方ないのかもしれませんね。
ただ今は、やがてそうしたアレコレを乗り越えて、本作が世界中の人々に届く日が来ることを願うばかりです。

興味のある方は是非!!!

 

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掴みどころのない作品「ディアマンティーノ/未知との遭遇」(2018)*ネタバレ

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年「未体験ゾーンの映画たち」で公開されたポルトガル映画ディアマンティーノ/未知との遭遇』ですよー!

クリスティアーノ・ロナウド似のサッカー選手が、巨大なチワワが現れたフィールドの中をドリブルする予告編を観て「イナズマ・イレブン」的なコメディー映画なのかな?と思って観たら、思ってたのと全然違ってましたw

正直、今思い返して観ても、よく分からない映画でしたねー。

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概要

ガブリエル・アブランテスとダニエル・シュミットが監督と脚本を担当したファンタジードラマ。ネオナチ、難民、クローンなど多様な問題を背景に、ポルトガルの偉大なサッカー選手の引退後の迷走が描かれる。『熱波』などのカルロト・コッタがサッカーのスーパースターを演じた。(シネマトゥディより引用)

感想

一体何を観せられているのか……。

本作を一言で言うなら「掴みどころのない映画」です。
予告編を観たときは絶対にコメディだと思ったんですけど、どうもそういう訳ではないらしい。かといって超真面目な映画かというとそうでもなく、ファンタジーでもなく、SFでもなく、恋愛映画ともアクションとも違う。

一体この映画は何なんだ……ってなるんですよw

ざっくりあらすじを書くと、

サッカー界のスーパースターであるディアマンティーノは、2018年Wカップの決勝戦の前日に海を渡ってくる難民に遭遇。
生まれて初めて「難民」の存在を知った彼は試合に集中出来ずポルトガルはWカップ優勝を逃し引退を表明する。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 主人公ディアマンティーノ。明らかにクリスティアーノ・ロナウドに寄せてます。

さらに決勝戦の最中、最愛の父が死んでしまい(殺したのは双子の姉)悲嘆に暮れるディアマンティーノ。

しかも彼には当局から、マネーロンダリングの容疑が掛かっていて(犯人は双子の姉)、引退後に出演したテレビ番組で「難民の子を引き取る」という彼の元にやってきたのは“少年”は、マネーロンダリングの証拠を掴もうとする潜入捜査するスパイの女性アイーシャレズビアン)。

しかし、彼女は純粋で無垢なディアマンティーノと生活するうち、彼に好意を持つようになっていく。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 超ひどい双子の姉

そんなある日、弟を金づるとしか思っていない双子の姉の元に、ディアマンティーノの遺伝子からクローン人間を作り、ポルトガル復権を目指す国内右派に属する研究所から打診があり、金に目がくらんだ姉たちはこれを了承。

実験体になったディアマンティーノは、ランボルギーニ博士からクマノミの遺伝子を注射されておっぱいが大きくなってしまう。
更に、ポルトガルEU離脱プロパガンダのイメージキャラクターとしてCMに出演。

もはや誰も信じられない彼は、愛する“息子”が本当は女性であった事を知ってHして、童貞卒業。

しかし姉から、唯一信じたアイーシャが潜入捜査官であることを知らされ絶望。

そして実験は最終段階に入り、クローンにディアマンティーノの脳情報をコピーすることに。

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画像出典元URL:http://eiga.com / マッドサイエンティストランボルギーニ博士

これをすると彼は死んでしまうが、双子の姉は快諾。
そんなディアマンティーノのピンチを救うためアイーシャは研究所に潜入。
襲いかかる双子の姉を倒すも、ランボルギーニ博士に殺されそうになる。

が、ギリギリで覚醒したディアマンティーノに救われ、二人は結ばれるのだった。

って、なんだこれ。

あらすじを完全ネタバレで書きましたが、全部読んでもどんな内容かさっぱり分からないですよね? だって、書いてる僕も分かりませんからw

解説を読んでみると、現在のポルトガルに広がる難民問題、富裕層のマネーロンダリング、科学技術の暴走、国の右傾化、LGBTなどの問題を、国民的なサッカー選手の物語として寓話的に描いたってことらしいです。

全てががゆるゆる

そう言われれば、確かに前述の描写は一応全て劇中に入ってはいるし、物語の筋立てもどこかキリスト教的な雰囲気がある気がします。

主人公がサッカー選手なのも、元々サッカーの盛んなお国柄ですし、だから主人公の見た目をクリスティアーノ・ロナウドに寄せているんでしょう。

しかし、それが映画的に上手くいっているかといえば、答えはノーなんですよね。

ポルトガルが抱える問題とやらも、問題提起にもなってなければ監督なりの答えも示していなくて、ただ無造作に放り込んでいるだけにしか見えませんしね。

かといってエンタメに振り切ってるかと言えばそんなこともなく、コメディーとして笑い飛ばしたり皮肉ったりしてる様子もなく、各種問題はそのまま劇中に登場するので寓話にもなってないし。

脚本、映像、CG、設定などなど全てがゆるゆるで、登場人物が何をしたいのかも分からず。(目的がハッキリしてるのは双子の姉だけ)

結局、巨大なチワワが出てくるシーンしか印象に残らないんですよねー。
しかも、唯一印象的なそのシーンさえ、主人公の妄想以上の意味はないのです。敢えて言うならイマジナリーフレンド的な感じなのかな?

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画像出典元URL:http://eiga.com / 主人公がゾーンに入るとフィールドに現れる巨大な小型犬たち

無理やり読み解くなら

それでも、あえて無理やり読み解くなら、昔は大国だったが現在はヨーロッパの中でもあまり目立たず、EUに振り回されるポルトガルの栄枯盛衰をサッカー選手に置き換えて、過去の栄光や成功体験に縋る人々を揶揄することで警鐘を鳴らしつつ、今の小さな幸せに目を向けよう。みたいな事が言いたかったのかな?と。

まぁ上手くはいってないですけどね!

興味のある方は是非!

 

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