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今日観た映画の感想

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「コーヒーをめぐる冒険」(2012) 感想(ネタバレあり)

ぷらすです。
今回ご紹介するのは、2012年のドイツ映画「コーヒーをめぐる冒険」です。
ドイツ出身のヤン・オーレ・ゲルスター監督が初めて長編のメガホンを取った作品で、ドイツ国内外で数々の賞に輝いた作品ですよー。
あと、今回はネタバレありなので、これから本作を見る予定の人は、あらすじから下は観たあとに読んでくださいねー。

http://ecx.images-amazon.com/images/I/717CYK33%2BML._SL1135_.jpg画像出典元URL: http://www.amazon.co.jp/

概要

ドイツに暮らす青年の、ある不運な一日をモノクロ画面で淡々と描くドイツ映画。
主演は「素粒子」や「ピエロがお前を嘲笑う」のトム・シリング。
原題は「oh Boy」

あらすじ

2年前に親に内緒で大学を中退し、仕送りでニート暮らしているニコ(トム・シリング)は、ある朝小さなすれ違いから恋人(カタリーナ・シュットラー)と別れるハメになり、ついでにコーヒーを飲み損ねる。

それを手始めに、街のカフェでコーヒーを頼むも小銭が足りず、お金を降ろそうとATMに行けば銀行のキャッシュカードは使えなくなり、昔いじめた女の子に出会い、駅の券売機は壊れ、不良に絡まれ、酔っぱらいに絡まれと散々な一日を送るハメになる……。

 

感想

タイトルから分かるように、本作は一人の不運な青年が一杯のコーヒーを求めてさすらうロードムービー……ではありません。

どこにでもいそうな一人の若者の不運な一日と、そんな彼の前に現れるちょっと変わった人々を描く、単館系の私小説的な映画です。

85分と短い映画で、全編モノクロ。
いくつかのエピソードをつなぎ合わせたパッチワークのような作りは、1995年の日独米の合作映画 「スモーク」を連想しました。

ストーリーが進むうちに分かってくるんですが、主人公のニコはモラトリアムといえば聞こえはいいですが、2年前に学校を自主退学。そのことを父親に内緒にして貰っていた仕送りで毎日、目的もなしにブラブラしているニートです。

酒気帯び運転で免許は停止になり(免許停止にするかを決める検査官? が猛烈にイヤなヤツだった)、彼女?につれなくしてフラれ、電車には無賃乗車するし、どうやら中学生のころに太っていた女の子をいじめてた過去もあるらしい。
超悪い奴ではないけど、良いヤツでもない、どこにでもいる若者の一人なんですね。

本作で彼は、主人公というより「インタビュアー」的な立ち位置です。
背が小さくて威圧感がないからか、どこにいても居心地の悪そうにしている孤独な佇まいのせいか、劇中で彼は色んな人に話を聞かされるんですね。(積極的に聞くんじゃなくて、押し負けて聞かされる感じ)

最初に、部屋に上がり込んできた同じアパートの上階に住む中年男から、奥さんの乳がんが原因でEDになった苦悩を聞かされ、レストランでバッタリ出会った、昔自分がいじめて転校させた女の子ユリカから(フリーデリッケ・ケンプター)『その後』を聞かされ、役者の友達マッシェ(マルク・ホーゼマン)の演劇時代の友人から、マッシュの過去を聞かされ。

その話の裏にある悩みや、抱えたトラウマ、友人に対しての嫉妬と優越感が見える作りになっていて、そんな彼らが進んでいる人生に、まだニコは踏み出していないわけです。

しかし、そこにニコが感じるのは「焦り」でも「怯え」でもなく「違和感」です。
何処にいても誰といても、上手くハマれない「疎外感」と言ってもいいかも。

そして、父親に嘘がバレて口座を解約され、自分の不甲斐なさからユリカにもフラれたニコは、疲れ果てて一軒の飲み屋に入ります。
「コーヒーはある?」と聞くニコに「マシーンを洗っちゃったんだ」と店主。
仕方なくニコが父親からの「最後」の小遣いで酒を飲んでいると、酔っ払いの老人(ミヒャエル・グヴィスデク)に話しかけられ、戦争中の思い出話を聞かされます。

訳も分からず「ハイルヒットラー」を練習させられ、自転車に乗れるようになり、身の丈に合わない大きな自転車を運転する彼を周りの大人たちは笑い、父親は憤慨するけど彼は周りの大人たちが喜んでくれていると感じる。

そして、ある夜、父親は彼に「いいものを見せてやる」と連れ出して石を持たせ投げるように言い、自分も手にした石を今いるバーに向かって投げたというエピソード。
ハッキリとは語られないですが、これは1938年に起こった反ユダヤ主義暴動「水晶の夜」事件の話らしいです。

放火なのか、闇夜に明々と火の手が上がり、地面に散乱したガラス片を見て、彼は激しく泣き出したと振り返ります。こんなに地面がガラスだらけでは、自転車に乗れないと思って泣いたと。

ニコに話しかけてきた老人は、最初「人間の言葉が分からない」「自分は60年別の場所にいた」と話します。

これはつまり、戦前、戦中、戦後の周囲の人間の変わりようが、まだ少年だった彼の心を引き裂いたという事なのかなと思いました。
その後一通り話を終えた彼はバーを出た途端倒れ、救急者で運ばれますが夜明けに息を引き取ります。

彼には誰ひとり家族がなかった事を聞いたニコは、看護師の女性に名前を聞きますが、個人情報だからと教えてもらえません。それでもファーストネームだけでもと食い下がる彼に、看護師が教えた名前は「フリードリヒ」

調べてみたら、戦後ベルリンのフリードリヒ通りを中心に、ドイツを二つの国に分けたらしいので、彼の言った「60年別の場所に~」はつまりそういう事だったんだろうなと。

この最後のエピソードを知ってから振り返ると、本作の中には実に周到に伏線やメッセージが隠されていて、ああ!なるほど!! と驚かされるんですね。(ここでは語りませんが)

そして物語は、夜明けのカフェでニコが一杯のコーヒーを飲むところで終了します。
特に、何かが変わるわけでもなく、何かが解決するわけでもないんですけど、ニコの中で確かに『何か』が変わった事を暗示させるハッピーエンドなんじゃないかと僕はそう思いました。

決して派手な映画ではないし、多分好き嫌いの分かれる映画だとは思いますが、僕はじんわりと良い映画だなーって思いましたよ。

興味のある方は是非!

 

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