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「ハッシュ!」(2001) 感想

ぷらすです。
今回ご紹介するのは、橋口 亮輔監督2001年の作品『ハッシュ!』ですよー!
僕は多分、この作品が橋口監督初体験だと思うんですが、とてもいい映画でした!

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画像出典元URL:http://www.amazon.co.jp/

概要

橋口監督3本目となる長編作品。

ゲイカップルの二人と子供の欲しい女の奇妙な関係を描き、キネマ旬報賞ブルーリボン賞 主演女優賞・報知映画賞 主演男優賞ヨコハマ映画祭 最優秀作品賞など、数々の映画祭で賞賛された。

主人公 勝裕は、ネット上では『画伯』として知られる田辺 誠一、その恋人 直也に元男闘呼組の高橋 和也、勝裕との子作りを迫る女 朝子に橋口監督1993年の作品『二十才の微熱』でスクリーンデビューした片岡 礼子がそれぞれ務める。

 

あらすじ

自分がゲイであることを隠して生きる勝裕(田辺誠一)と、ペットショップで働く直也(高橋和也)は付き合い始めて間もないゲイカップル。
ある日、雨の蕎麦屋で傘を貸した事がきっかけで、2人は朝子(片岡礼子)と出会い、
朝子が勝裕に精子の提供を求めることで、三人の奇妙な関係が始まる。

 

感想

橋口 亮輔監督といえば、映画ファンの熱い支持を受ける監督の一人なんですが、恥ずかしながら僕は本作が始めての橋口監督作品鑑賞でした。

先に結論から書くと、すごくいいです!

最初、三人はそれぞれ孤独を抱えています。
主人公の勝裕は気が弱く、自分がゲイであることを隠して生きている極普通の青年で、密かに想いを寄せていた同僚の結婚に傷ついています。

一方、直也はハッテン場に通って一夜のパートナーを見つける、こちらもごく一般的なゲイの青年。

そして朝子は歯科技工士として働きながら、年下のセックスフレンドと身体を重ねる女性。どうやら過去に色々あったらしく、精神を病んだりセックス以上の関係は望まなかったり、自殺未遂も二回していることが明かされます。

そんな朝子が、婦人科で子宮に出来た良性のしこり(通称「やりだこ」)があることを告げられ、手術で切除するように進められることで、本作の物語が動き出します。

3人が出会うのは、街の蕎麦屋
そこで、2人の会話を聞くともなしに聞いていた朝子は、2人が付き合っていることを知ります。

で、その後会計を済ませると自分の傘が盗まれていることに気づき、困っている朝子に勝裕が傘を貸します。(本人はあげたつもり)
しかしその傘を壊してしまった朝子は、新品を買って会社に届けに行くんですね。
そこで、対応するのが勝裕に片思いしている、永田エミ(つぐみ)という女の子。

この子はちょっとアレな子で、勝裕に近づくときに自分が障害者だと同情を引こうとしたり(両足の長さが少し違うらしい)、その日会ったばかりの朝子を呼び出して、自分は勝裕と結婚すると吹聴したり。なんかこう、手段を選ばずにグイグイくるタイプ。

怖いわ。

しかし、そのエミの行為が朝子のハートに火をつけてしまいます。
勝裕に会いに会社に行った朝子は、勝裕がゲイだと知っていることを話し、恋愛も結婚もしなくていいので精子が欲しいと告げたうえ、エミの見てる前で勝裕に抱きつきます。

何らかの辛い経験で、すっかり自暴自棄になってる朝子の原動力は多分、怒りなんだと思うんですね。
子供が欲しいと思ったのは、多分産婦人科医に馬鹿にされたからだし、勝裕を選んだのはエミとの事への意趣返しなんじゃないかなーと。

ただ、子供が欲しいというのは本心で、多分彼女は子供というより、無条件の愛が欲しかったんじゃないかなと。

一方の勝裕は、ゲイであることを自覚しながらも、『普通』に対する憧れが捨てきれない青年で、『父親』というワードに心がぐらついちゃうんですね。

対する直也は、ゲイなのだから普通の生活は無理とキッパリ諦めてゲイとしての一生を生きる覚悟を決めています。

しかし、不器用ながらも真っ直ぐな朝子と接するうちに、徐々に心境の変化が現れて……。というお話。

物語中盤、朝子のことが原因でケンカになった勝裕と直也が仲直りし、一つベッドで抱き合うシーンでの会話。

直也「苦しいよ」
勝裕「寂しいよりいいじゃない」

僕は、多分この会話が本作の本質なんじゃないかなと思いました。

朝子は自殺未遂に2回の堕胎、男と寝るときも心のつながりはなく、ただ求められるままセックスをする。それらは全部、人との関わりを諦めた彼女の寂しさを紛らわす『自傷行為』なんじゃないかと思うし、勝裕や直也、それにゲイコミュニティーの人たち、勝裕の義姉も、形は違えど寂しさを抱え、でも諦めている人たちなんですよね。

後半、三人の関係がバレて勝裕の兄、義姉、直也の母と話すシーン。
朝子は「人生を諦めたくない」と言います。

このシーンで、朝子を演じる片岡礼子さんの演技は圧巻。
それに対し、旧家の嫁として旧態然としたシキタリの中で堪え続けてきた義姉役の秋野暢子さんが爆発する演技も素晴らしいです。

演技で言えば、直也がゲイであることに理解を示す母親役の冨士 眞奈美さんの、理解はあるけどなんかズレてる演技は思わず笑っちゃうけど、「あー、きっとよくあるんだろうなー」と納得してしまう説得力がありました。
さすがベテラン大女優。

135分と少々長めではありますが、見ごたえは十分。
川原のシーンは思わず号泣してしまう美しさでしたよ。

決して、ドラマ的な演出ではないにも関わらず、ここまで心を鷲掴まれたのは久しぶりでした!

興味のある方は是非!!