ぷらすです。
今回ご紹介するのは、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督の「ブリッジ・オブ・スパイ」ですよー!
正直、観る前は「どーせ、アカデミー賞狙いの重苦しい映画だろー?」なんて思って気が進まない部分もあったんですが、ネットのレビューや映画評論でも軒並みベタ褒めだったので、それじゃぁ観てみるかと思い、今回レンタルしてみましたー。
画像出典元URL:http://eiga.com/
あらすじと概要
本国アメリカでは昨年、日本では今年初めに公開された、米ソ冷戦が最も緊張状態にあった1950年代の実話をもとにした映画。
1957年、ブルックリンで画家を装いながら諜報活動を行っていた、ソ連のスパイ ルドルフ・アベル(本名ウィリアム・フィッシャー/マーク・ライアンス)がFBIに逮捕された。
元検事で保険専門の弁護士ジェームス・ドノバン(トム・ハンクス)は国選弁護人として、アベルの弁護を引き受けるが、反共ヒステリーに陥っていた米国人には非国民扱いされ、家に銃撃を受ける始末。
それでも米国の誇りと国益を守るため、孤軍奮闘したドノバンの活躍で、アベルは死刑を回避、30年の禁固刑を言い渡される。
そんなある日、米国CIAの要請で上空からソ連の各施設の写真を撮影していたC2偵察機が撃墜され、パイロットのフランシス・ゲイリー・パワーズ(オースティン・ストゥエル)が逮捕。ほぼ同時期、ベルリンの壁建設の中で恋人と恩師を助けようとした学生、フレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)が東独に逮捕されてしまう。
米ソは、アベルとパワーズの交換を決定するが、体面的に政府関係者が矢面に立つわけには行かず、ドノバンに交渉をまる投げ。
ドノバンはパワーズとプライヤーを救い、アベルを本国に帰すために単身東独に乗り込む。
監督はスティーブン・スピルバーグ。脚本はマット・チャーマン&コーエン兄弟。
感想
スティーブン・スピルバーグと言えば、「ジョーズ」「ET」「インディージョーンズ」「ジュラシック・パーク」など、数々の名作を世に送り出してきた、いわばジャンル映画の帝王ですが、ある時期から史実をもとにした映画でも名を馳せるようになった、映画界きっての才人です。
ただ、僕はあまりスピルバーグの真面目な映画は(観るのに覚悟がいるから)得意ではなく、また、主演のトム・ハンクスもあんまり好きじゃないので、正直、本作を観るのに二の足を踏んでいたんですが、ネットやラジオなど、どこでもベタ褒め状態だったので、それじゃぁ一丁観てみるかと、今回レンタルして観たわけですが………「どうせまた、アカデミー賞狙いの重苦しい映画だろー?」なんて思った自分を、過去に戻って殴ってやりたいくらい、素晴らしい映画でしたよー!
幾重にも重なるレイヤー構造
本作は大きく二つのパートに分かれています。
前半は、トム・ハンクス演じる主人公、ジェームス・ドノバンが、マーク・ライアンス演じるソ連の老スパイ アベルを、己の信念に従って救う物語。
後半は、東側に捕まった二人の米国人を救うため、ドバノンが単身東ベルリンに乗り込んで交渉する物語です。
時は1957年、米ソの冷戦が激化。核の脅威から米国は反共ヒステリーに陥り、逮捕された東側のスパイ アベルを死刑にするべきという論調が渦巻いています。
そんなアベルの弁護を押し付けられた弁護士ドノバン、最初は気乗りしない様子ですが、次第にアベルに“憲法に従った正当な裁判“を受けさせるため尽力するようになります。
そこには「(多民族国家の)アメリカ人をアメリカ人たらしめるのはルール(憲法)だ」という彼の信念と、ヒステリー状態に陥り常軌を逸した国民感情、それが司法を司る判事や国を守るべき政府関係者にまで蔓延している現状を目の当たりにしてしまったドノバンの静かな怒りがあったからじゃないかと思います。
つまり、ドノバンは例え祖国を敵に回しても、アベルに判決ありきの茶番ではない“正当な裁判“を受けさせることで、米国の精神を守ろうとしたわけですね。
一方のアベルもまた、祖国のために長年“敵国“に潜入し、捕まった後も死刑になることを覚悟して米国の提案(二重スパイとして働く)を拒否したにも関わらず、ソ連からはいない者として使い捨てにされてしまいます。
国のために尽くしながらも、その国(民)から不当な扱いやバッシングを受ける。そんな二人の境遇はある意味で鏡合わせになっていて、さらに後半、米国人パイロットのパワーズや学生のプライヤーとも重なる多重構造になってるんですね。
マーク・ライアンスの名演
そんな敵国ソ連のスパイを演じるのは、イギリス人俳優のマーク・ライアンス。
この人がすっっっっごくいいんですよねー!!
飄々としていて、しかし、その内面にはシッカリと信念を持つ老スパイ アベルという人間の深みや佇まいまで、抑えた演技で見事に演じています。
そして、どこか憎めないチャーミングさもあって、その辺はスピルバーグの演出もあるんでしょうが、マーク・ライアンス自身の魅力も多分にあるんじゃないかなーと思ったり。
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見た目的にも硬質でガッチリしたトム・ハンクスと対照的で、そのへんのキャラクターとしてのアンサンブルもいい感じにハマってるなーって思いました。
あえていえば
そんな感じで、実に見応え充分の面白い映画なんですが、個人的に少々物足りなさも感じたのも事実。
というのも、前半部分だけで一本の映画になるくらいドラマチックな展開で、その時の米国の狂った空気感や、その中で孤軍奮闘するドノバンの心情や葛藤、アベルとの関係 が、(時間の関係もあるのか)わりとあっさりと描かれてて、正直少々物足りなさが残るっていうか。
なんなら2部作にして、この前半部分だけで一本の映画にするか、10話くらいのドラマでやったら、もっと登場人物に感情移入出来るんじゃないかなーって思いました。
まったりとしていて、それでいてしつこくない……?
本作の魅力は、史実を元にした重厚なドラマでありながら、その中にしっかりとサスペンスフルな娯楽映画的な展開を入れたり、登場人物の思わず笑ってしまうようなやりとりを入れることで、観客を飽きさせないことだと思います。
どっかの料理漫画ふうに言うなら「まったりとしていて、それでいてしつこくない」的な?w
そこには、監督として円熟期を迎えたスピルバーグの手腕はもちろんですが、マット・チャーマンの脚本をブラッシュアップした(らしい)コーエン兄弟の功績も大きかったんじゃないかなー? なんて思ったり。
これが、やたら重厚なだけの人間ドラマだったら、正直、終わった頃には胃もたれしてたんじゃないかと思うんですよね。
一本の人間ドラマとしても、娯楽映画としても十分なクオリティーを発揮してるからこそ、観客もすんなりと物語に入り込めるんだと思うし、多くの人が共感や感動出来る名作になったんじゃないかと思います。
興味のある方は是非!!