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「マーシュランド」(2015) 感想 *ネタバレ

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、スペインのアカデミー賞とも言うべき『ゴヤ賞』10部門を受賞したスペインのミステリー映画『マーシュランド』ですよー!

本作は映画本編もさることながら、観終わったあとが本番の映画でして。
で、今回は、僕も自分なりの解釈も話したくてたまらないので、内容のネタバレがあります。
なので、これから本作を観ようかどうしようか迷っている人は、是非、先に映画を観てください。先に書きますがオススメです。

その上で、出来ればこの感想を読んでいただいて、「そのとおり!」とか「全然間違ってるよー」とか思っていただければ。(単にモヤモヤ仲間が欲しいだけですがw)

いいですね? 注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://eiga.com/

概要とあらすじ

2014年制作のスペイン映画
題名はラス・マリスマス(グアダルキビール湿地)で、1980年のスペイン・アンダルシア州にある小さな町が舞台に、少女連続猟奇殺人事件を追う二人の刑事を軸に描くミステリーホラー。

1939年から1975年まで続いたフランコ独裁体制の爪痕が残る1980年、首都マドリードからラスマリスマス(グアダルキビール湿地)近くの田舎町に左遷された刑事のペドロ(ラウール・アレバロ)は、町の祭礼中に殺害された姉妹の少女の事件を、相棒のベテラン刑事のフアン(ハビエル・グティエレス)と捜査する。

第29回ゴヤ賞で、作品賞、監督賞、脚本賞主演男優賞など、10部門(最多)を受賞。
監督脚本はアルベルト・ロドリゲス・リブレロ。

 

感想

なぜ僕が本作を観ようと思ったかというと、パッケージにでっかく
『圧倒的評価!』って書かれていて、「ほう、そこまで自信満々に言うなら観てやろうじゃないか!」って思ったから……。
というのは半分冗談で、裏書きを読んで「なんか面白そうだなー」と思ったからです。

で、実際観てみると何ともこう、モヤモヤしちゃう映画で(つまらないからじゃないですよ)、オチの解釈も観る人によって色々あるっぽいという、映画を観たあとが本番タイプの映画でした。

フランコ独裁体制

まず、本作を観る前に押さえておかないといけないのが、1939年から1975年まで続いたフランコ独裁体制です。

内戦によって政権を握ったフランシスコ・フランコ・イ・バアモンデが、彼が死亡しファン・カルロス1世が国王になるまでの間のスペインは、共和派の人間を弾圧・粛清する独裁政権下にあり、1980年代のスペインはまだ、その爪痕が残る混沌の時代だったんですね。

そんな国中が混沌としたスペインの田舎町から本作はスタートします。

ミステリー→サスペンス→ホラー

本作の主人公は二人の刑事です。
かたや何らかの問題を起こしてマドリードから左遷されてきた真面目な刑事ペドロ。
その相方は、この田舎で長年刑事を務めるベテランのフアン。

この二人が担当するのが美人姉妹失踪事件なんですが、数日後この二人の死体が見つかります。その死体には強姦や拷問の形跡が。
この殺人事件を追ううちに、二人は過去にあった同じ年頃の少女殺人? 事件にたどり着き、そこに貧困、差別、汚職、少女性愛、麻薬密売など多くの問題が絡み、捜査はいよいよ混迷を極めていく。という物語。

最初は、少女猟奇殺人事件をフックにしながら、気づけば主人公の刑事たちと一緒にこの町の暗部に足を踏み入れていき、最後にどんでん返しが……という。

一見わりとありがちな物語ですが、観終わってからよくよく思い返してみると、「あれ? という事はあの時のあのシーンって…」と、考えるほどに、どんどん怖くなってくるんですねー。

 

 

ここからネタバレ

本作では、とにかく複雑な伏線が張り巡らされています。
ざっと挙げると、

・占い師の謎の言葉
・高級コロンの香り
・柔らかい手の男
・スクリューでバラバラにされ足しか残らなかった死体
・ネガに写りこんだ顔が見えない謎の男
・相棒の過去

これらは初見だと単なるミスリードのように思えるし、犯人を追い詰めた末に殺害というオチに、「ほらやっぱミスリードじゃん」と思うわけですよ。
で、この一件で手柄を上げたペドロは、晴れてマドリードに戻れることになってめでたしめでたし。
そんなペドロの栄転祝いの飲み屋で、彼は情報をくれた新聞記者から相棒フアンの過去を聞かされます。

フアンはフランコ政権時代、秘密警察としてデモに参加下女性を100人以上を殺し、また拷問のスペシャリストとして名を轟かせた過去が明らかになるんですね。

そして、この瞬間、ペドロの中で今までのすべてがひっくり返るっていう仕掛けになってます。

つまり、今回の事件にフアン“も“関わっているのではという疑惑が湧いてくるんですね。
しかし、証拠はなにもなく、何も明かされずにペドロがマドリードに戻るところで物語は終わっています。

だからといって、「実は真犯人はフアンでしたー」っていう単純なオチではなく、思い返してみると、これってもしかして町ぐるみの犯行なのではないかという怖い結論に達してしまうわけですね。

僕なりの解釈

本作では容疑者が多数登場します。

・姉妹の父親(後に無罪と判明)
・麻薬シンジケート(姉妹の父親がシンジケートの麻薬に手を出した報復ではと疑われるも本人たちは否定)
・街の有力者(高級コロンをつけている)
・モテ男(後に協犯者だったことが判明)
・ホテルをクビになった男(コイツが主犯)
・フアン(元秘密警察で拷問のプロ)

結果、主犯はフアンにナイフでめった刺しにされて死亡。共犯のモテ男は逮捕されます。

しかし、この二人だけの犯行だとすると、辻褄が合わない部分が多々あるんですね。
劇中で出てきた“ヒント“が余っちゃうわけです。

ただ、こいつら全員グル? だったとすると、辻褄が合っちゃうんですよねー。
どころか、地元警察や警察所長も全員グルの可能性が非常に高く、もっと言うとあの人もこの人も……。っていう。
つまり、町ぐるみの犯行なんじゃないか説が最もしっくりきちゃうんですよ。

といっても、すべてが一つの答えに繋がってるわけではなく、同時多発的に起こっている色々な事件や問題が、一つの殺人事件から浮かび上がってくるという構造っていうか。

そのへんは、本作を直に観ていただきたいわけですが、一見よくあるサスペンス映画のようで、その奥には何層にもレイヤーが重なっている複雑な構造の映画だと僕は思いました。

本作はグアダルキビール湿地を空撮映像からスタートするわけですが、それが脳みそっぽいんですよね。
で、一回観終わってから思い返すと「この映画は頭を使って俯瞰で観ろ」っていう監督のメッセージなのかもしれないなーって深読みしちゃったり。

そんな感じで、一回観終わったあとに、色々思い返して、自分なりに解釈してからからもう一度観ると、全然違う絵が浮かび上がってくるトリックアートのような映画なんじゃないかと思います。

興味のある方は是非!!