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万人に観て欲しい傑作映画!! 「この世界の片隅に」( 2016) 感想

ぷらすです。

公開から2ヶ月遅れで、おらが街の映画館でもついに『この世界の片隅に』が公開されました!!
というわけで、公開初日の今日、朝一番の上映を観に行ってきましたよー!!

本作の公開は昨年11月ですが、でも僕の地元みたいに、これから公開される町もきっとあるんじゃないかと思うので、出来るだけネタバレしない方向で感想を書いていくつもりです。が、本当は何の前情報も無しで観たほうが絶対にいい映画なんですね。

なので、これから観る予定の方は、是非是非、先に映画を観てから、この感想を読んでくださいね!

いいですね? 注意しましたよ!

 

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あらすじと概要

「長い道」「夕凪の街 桜の国」などで知られる、こうの史代のコミックをアニメ化したドラマ。戦時中の広島県呉市を舞台に、ある一家に嫁いだ少女が戦禍の激しくなる中で懸命に生きていこうとする姿を追い掛ける。監督にテレビアニメ「BLACK LAGOON」シリーズや『マイマイ新子と千年の魔法』などの片渕須直、アニメーション制作にテレビアニメ「坂道のアポロン」や「てーきゅう」シリーズなどのMAPPAが担当。市井の生活を壊していく戦争の恐ろしさを痛感する。

ストーリー:1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。それまで得意な絵を描いてばかりだった彼女は、一転して一家を支える主婦に。創意工夫を凝らしながら食糧難を乗り越え、毎日の食卓を作り出す。やがて戦争は激しくなり、日本海軍の要となっている呉はアメリカ軍によるすさまじい空襲にさらされ、数多くの軍艦が燃え上がり、町並みも破壊されていく。そんな状況でも懸命に生きていくすずだったが、ついに1945年8月を迎える。(シネマトゥディより引用)

 

 

感想

映画の中には、「観終わった後に居ても立ってもいられなくなる作品」っていうのがあります。
僕にとっては、例えば近年なら「マッドマックス/怒りのデスロード」と「ガーディアン・オブ・ギャラクシー」なんですが、本作「この世界の片隅に」も(その2本とはまったくテイストは違うんですが)、そんな「居ても立ってもいられない映画」の一本でしたよー!

原作は「夕凪の街 桜の国」の、こうの 史代の同名マンガ

本作の原作は、「漫画アクション」で2007年1月23日号~2009年1月20日号まで連載された、広島出身の漫画家、こうの 史代の同名マンガです。
終戦間際の広島を舞台に描いた作品で、様々な実験的表現や。戦争当時の日付と連載の日付をリンクさせるなどの仕掛け(例えば作中が昭和20年3月なら、平成20年3月発売の号に掲載とか)で反響を呼び、単行本が完結したあともクチコミなどで今尚売れ続けているようです。

監督は「マイマイ新子千年の魔法」の片渕須直

そんな本作の監督を務めるのが、前作「マイマイ新子千年の魔法」でメディア的な宣伝が殆ど無かったにも関わらず、クチコミとファンの熱心な活動によってカルト的ロングランヒットを飛ばした片渕須直です。

本作では、クラウドファンディングで集まった資金でパイロット版を製作、その映像を元に、出資者から資金を集めて本作を完成にこぎ着けました。
また、本作もメディアでの宣伝はほとんどなく、全国たった63スクリーンでの小規模な公開スタートでしたが、その後、ネットを中心に話題を呼んで今尚、公開館数は増えている状況です。

徹底した取材を元にしたリアルな描写

この二人に通じるのが徹底した取材を元に、当時の広島、呉市をリアルに再現した描写です。
当時の資料や写真だけでなく、両市に存命の戦争経験者の方々の生の体験談を聞くなどして、当時の町並みや情景、市井の人びとの生活様式や価値観までを作品の中に入れ込むことで、作品の登場人物が実在するような奥行きを表現しています。

また、デフォルメされ柔らかい線で描かれたキャラクターとは対照的に、映画版では軍艦や戦闘機など、細部に至るまで緻密に描くなど、TVアニメ「ブラックラグーン」なども監督し兵器にも造詣の深い片淵監督のこだわりが散りばめられ、作品に更なる厚みを持たせているんですよね。

よく「神は細部に宿る」と言いますが、原作者と映画スタッフの徹底したディテールへのこだわりによって、本作にはまさに神が宿ったようなリアリティーが生まれているんじゃないかと思いました。

主人公すずの視点を通して「世界」を描く物語

本作の主人公、すずは大人しくてポワポワした女の子で、特技は絵を描くこと。
江波市で海苔を作る両親と兄妹の5人家族で、貧しいながらも幸せに暮らしていました。そして昭和19年に呉市の北条周作の元に嫁ぎ、不器用ながらも家や土地に馴染んでいきます。しかし次第に戦況は悪化、軍港の町、呉市は毎日のように空襲され……。

という物語。

こんな風に書くと「ああ、戦争映画か」と思われるかもですし、実際その通りなんですが、本作が他のいわゆる「戦争映画」と一線を画すのは、「戦争」ではなく「戦時中の市井の人々の生活」を描いた作品というところ。

爆弾が降り注ぎ、次第に苦しくなる食糧事情の中、すずや北条家の家族、近隣の人々はそれでも、少ない材料を工夫をしながら食事を作り食べ、配給に並び、仕事をして、何か失敗して「ありゃー」って言って笑い合う、そんな極々「普通の生活」を送っています。

そんな市井の人々の当時の「普通」を、本作は一話完結の短編連作のように、すずの視点で綴っていくし、観ている観客もすずのエピソードに笑ったり、野草を摘んでご飯を作っているシーンでは、すずにつられて少しワクワクしたりしながら観ているわけですね。

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しかし、その合間にも彼ら彼女らは空襲を避けるために防空壕に入り、頭上からは敵機を撃ち落とそうと発射される炸裂弾の破片が降り注ぎ、焼夷弾によって町が燃えます。
当時の生活には、そうした悲惨極まりない現状も日常に一部として含まれていて、それも込みで、すずたちにとっては「普通」だし、どんな苦しい状況でも「普通であろう」としているんですね。

もちろん、そんな状況にすずたちが何も思わないほど呑気なわけではなく、それでも「普通の生活」を送ることが、すずたちにとっての「戦い」なのです。

しかし、そんなすずたちの戦いも虚しく、物語は8月6日に向かって刻一刻と進んでいくんですね。

つまり、そんなすずの見るミニマムな「普通の生活」を通して、本作はその向こう側にある、大きな「戦争」を、もっと言えば「生きるとは何か」を描いた作品なんです。

だからこそ、クライマックスのすずの慟哭に、僕ら観客は強いショックを受け心を震わされてしまうのです。

のんとすず

そんな本作の主人公 すずを演じるのは、能年玲奈改め、のんです。
個人的に、彼女の声って素朴というか、悪く言えば女優としては決して美声ではないと思うんですが、本作ではそんな彼女自身の声やキャラクターも含めて、すず役にピッタリだなって思いましたねー。
っていうか、一度本作を観てしまうと、彼女以外にすずの声は考えられないくらい。

NHKの朝ドラ「あまちゃん」やほかの作品でもそうでしたが、のんという女優さんには、役者としての実力だけじゃなく、人を惹きつける『何か』があるのかもしれません。

本作がここまで素晴らしい映画になった要因の一つが、すずの声にのんを起用したキャスティングなのは間違いないと思います。

初めての光景

今日が初日ということもあり、座席には結構なお客さんが座っていたんですが、面白いエピソードのシーンでは客席から笑い声があがり、クライマックスではすすり泣きが聞こえていました。

で、普通は映画が終わってエンドロールが流れている途中で、席を立つ人が割と多いんですけど、本作ではエンドロールが完全に終わるまで誰ひとり席を立つ人がいなかったんですよね。これは僕にとっては初めての経験だったし、この観客の反応が、本作の魅力を何より物語っているのではないかと。

とにかく、この映画は大人から子供まで万人に観て欲しいですし、
日本映画の歴史に名前を刻まれる名作だと思いましたよー!

興味のある方は是非!!!!!

 

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