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無限地獄を描いたシチュエーションスリラー「パラドクス」(2016) 感想*ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのはメキシコ発のシチュエーションスリラー『パラドクス』ですよー!
この映画を一言で言うなら「無限ループって怖くね?」という物語。
そして、観終わった後に「あー!」と「あれ?」が同時に来るという、何とも複雑な映画でしたw(ぶっちゃけ今もまだちゃんと理解できてる自信がないです)
で、今回感想部分はがっつりネタバレしますので、もし、これから本作を観る予定の方は、先に映画を観てから、このブログを読んでくださいませー!

いいですね? 注意しましたよ?

 

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画像出典元URL:http://eiga.com/

あらすじと概要

シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭バンクーバー国際映画祭などで称賛を浴びたスリラー。1階へと下りると最上階の9階へと戻るビル、いくら進んでも同じ道に帰ってしまう道と、不気味なループ空間に迷い込んだ者たちの運命を追い掛ける。監督は、ショートフィルムを中心に活躍してきたアイザック・エスバン。『世界侵略2012』などのウンベルト・ブスト、『父の秘密』などのエルナン・メンドーサらが出演。異様なシチュエーション設定に加え、伏線を張り巡らせた物語にも圧倒される。

ストーリー:とあるビルへと飛び込んだ犯罪を犯した兄弟と彼らを追う刑事。非常階段で1階へと下りたはずの彼らの前に、なぜか最上階である9階が現れ、何度も1階へ下りても同じ現象が発生することに、三人は混乱をきたしていく。一方、どこまでも続く一本道を車で走っていた家族は、いつの間にか元の道に戻っていることに気付く。それぞれが謎のループを繰り返す空間から抜け出そうとする状況で、刑事に足を撃たれたカルロス(ウンベルト・ブスト)は生命の危機にさらされ、一家の長女カミーラは持病の発作を起こしてしまう。(シネマトゥディより引用)

 

 

感想と考察

本作は、ぶっちゃけ序盤~中盤まではつまらないかもです。
怪物や殺人鬼やオバケに追われるわけでもなく、何者かの命令で仲間と無理やり殺し合いをさせられるようなサバイバル系スリラーでもありません。
もうね、ただひたすら閉じ込められるだけの映画なのです。
それも、物凄く狭いとか超高いみたいな極限状況に追い込まれるというわけでもなく、非常階段と一本径という比較的広めの空間で、食べ物や飲み物の心配もなし。

ただ、後半の種明かしが始まった途端、物語は一気に加速し、謎が解明された瞬間に退屈だった序盤~中盤に仕掛けられた伏線に気づいて、「そういう事かー! ……でも、あれ?」となり、もう一回観直したくなる……かなー??w

ここからネタバレ含みます。

 

出口のない地獄

本作では、同じシチュエーションで描かれた2つのエピソードが登場します。

オープニング

まず、オープニングは、流れるエスカレーターのアップからスタート。
瀕死の老婆がエスカレーターに横たわったまま、流れてくるという、イキナリのショッキング映像ですよ。

非常階段編・1

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刑事に捕まった二人の兄弟(兄/カルロス、弟/オリバー)が、スキを見て非常階段から逃げようとしますが、兄が刑事に撃たれて足を負傷。
そのまま警察に連行――と思ったら、出口が無くなってるんですね。
扉にはノブもなく表には出られません。しかも非常階段の1階と9階が繋がっていて、1階まで降りると何故か9階にいるわけです。
もちろん逆も同じで、9階の上に登っていくといつの間にか1階から上がってきてしまうという円環構造。

非常階段に唯一ある自動販売機には、サンドウィッチ、水、ジュース、お菓子、カップヌードルがあるので、数日は耐えられそうですが、食料と水が尽きたら終わりなので3人はパニック。しかも兄カルロスは刑事の玉が動脈にヒットして、結局死んでしまいます。
その時、刑事が不意に気づくんですが、なんと一定時間が経つと飲食したはずの自販機の中身がいつの間にか補充されてるんですね。

一本径編・1

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画面は暗転して、どこかの家。
反抗期の男の子ダニエルと、その妹カミーラ、母親のサンドラ、そして、どうやら結婚前提で付き合っている母親の恋人ロベルトは、サンドラの元夫が務めるホテルにバケーションに。
一本径をひた走り、最初は和気あいあい(ダニエルはロベルトが気に入ってない)のドライブですが、カミーラはロベルトが飲ませたジュースが原因で、アレルギーが発症してアナキライザーショックに。ロベルトが吸入薬をを吸わせようとするものの、『うっかり』道に薬を落としてしまい瓶が割れ、ダニエルは予備の薬を忘れてきています。
急いで家に戻ろうと車を走らせるロベルトですが、なぜかこの一本径に閉じ込められてしまい、結局カミーラは死んでしまい、サンドラは半狂乱になります。

非常階段編・2

物語は再び非常階段編に。
が、なんとそこにいたのはヨボヨボの爺さん。
実はこの爺さんが刑事で、非常階段に閉じ込められて35年が経過してることが分かるんですね。 嫌すぎる。
自販機から供給され続ける飲食物と、亡き兄カルロスの増え続けるカバンの中身。(お金、糸と針、爪切り、歯ブラシセットなど)
もう一人の住人オリバーは暇に明かせて、体を鍛えまくってムキムキになり、何か我流のヘンテコ宗教を始めている様子。
階段と踊り場には、増え続けた大量の荷物と飲食物。それを階に分けて整理したり、ペットボトルの水で洗顔、シャワー、洗濯をしているオリバー。排泄物は空のペットボトルに入れて蓋を閉めてます。
壁一面は、刑事の描いた落書きで埋め尽くされ、何とも不気味でアートな光景に。

一本径・2

一本径も35年が経過。ロベルトとサンドラはすっかり老人になり、サンドラの方は娘の死で廃人同然、年齢による認知症も患っている模様。
食べ物飲み物はドライブインで調達し、二人は車の中でHをして過ごす日々。これまた正直、生理的にキツイ絵面です。
一方、息子のダニエルはすっかり逞しい中年となり、二人から独立してひとり暮らし。
こちらも増え続ける物に囲まれながら、サボテンを煮て食べたり、音楽を聴いたりしています。

一本径には至るところに35年分の割れた空き瓶や、スナックの袋が散乱。

と、ここで観客はあることに気づきます。

中年になったダニエルは、非常階段の刑事に瓜二つ(というか同じ役者)んですね。

そうして、いよいよこの2つの物語が混じり合います。

種明かし

サンドラも死に、ロベルトと刑事にもいよいよ死期が迫り、そこで、二人が突如この恐ろしい地獄の真実を『思い出す』んですね。

刑事はオリバーに、ロベルトはダニエルに、事の真相を話し始めます。
実はこの刑事=大人になったダニエルなんですね。
そして、ロベルトは子供のころルーベンという名の少年で、キャンプの時イカダの上に閉じ込められ、一緒にいたキャンプ指導員と共に35年間暮らし、指導員の死の間際、やはり同じように真相を語られていたのです。

つまり、この無限ループには法則性があって、中年、若者、生贄が閉じ込められ、生贄の死、35年の月日、老人となった中年の死によって、若者の方はループから抜け出すことが出来るんですが、しかし、それは次のループに移動するだけなんです。

そして、無関係に見えた二つの物語の時間は実はずれていて、一本径のダニエルは一度はループを抜け出しますが、刑事として再びループに取り込まれてしまったわけです。

つまり、この無限ループに取り込まれた者は、35年間のループを2回経験して死ぬというルールなんですねー。
ちなみに、無限ループの出口(次の無限ループへの入口ですが)に入り込んだ瞬間、それまでの記憶を完全に失い別人になってしまいます。
そして、一本径のダニエルの前には無人のパトカーが。
オリバーの前には、エレベーターが現れます。

エンディング

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残されたダニエルとオリバーはロベルトと刑事に「自分の名前を書いておけ」と言われたにも関わらず書かずに、それぞれエレベーターとパトカーに乗り込みます。
中には、新しい身分証明書や家族写真、新しい制服などが置かれ、彼らは身支度を整えると、次のループに入っていきます。

そして、カールというエレベーターボーイになったオリバーのエレベーターに、新婚夫婦が入ってきます。

ホテルの30階フロアに着いて、新婚の二人の荷物を持っていたカールは自分の意志とは関係なく、懐の小箱に忍ばせた蜂を放ち、荷物を落としてしまいます。
蜂に刺された新郎は、アナキライザーショックに。カバンに入っていたアレルギー用の薬は、カール(オリバー)が落としたせいで割れてしまっていて、三人はホテルの30階フロアに閉じ込められてしまうというオチ。

ここまで観た観客は、オープニングの花嫁姿の老婆がこの花嫁だと気が付くわけですねー。嫌すぎる。

なぜ、彼らは無限ループに閉じ込められるのか

刑事(ダニエル)、オリバー、ロベルト、ダニエル(刑事)が、この無限ループに閉じ込められた理由は、刑事と、ロベルトから語られます。

別次元に本当の? 自分がそれぞれいて、彼らが幸せになるために、この無限ループの中で彼らは閉じ込められるんですね。
どうも、ある場所に閉じ込められる肉体的負担と、生贄の死による精神的負担が、別次元の彼らの幸福のエネルギー源になっているらしい。
一巡目のダニエルとオリバーは若く、ループの中でも体を鍛えたり有意義に過ごすので、本当の彼らは幸せです。しかし、二巡目になるとそんな気力もなくなり、エネルギーの足りなくなった本当の彼らは不幸になっていくんですね。

そんな別次元の彼らの様子が、ラストの方で無声映画みたいに映し出されます。

考察

以上の事を踏まえて箇条書きで関係性をまとめると、こんな感じになります。

・一本径は1980年、非常階段は2017年の物語。
・一巡目→非常階段のオリバー、一本径のダニエル。
・2巡目→非常階段の刑事(ダニエル)、一本径のロベルト。
・生贄→非常階段のカルロス、一本径のカミーラ、30階フロアの新郎。
・その他→ダニエルの母サンドラ(二巡目?)、新婦。

厳密に言えば、ここに一巡目のロベルト(ルーベン)と指導員(二巡目)、生贄のロベルトの友達が入りますけどね。

で、多分映画を観た人が思うのは、最後のホテルで二巡目のオリバー(カール)と35年を暮らす相手は誰だったのかって事じゃないかと。
カールになったオリバーは二巡目なので死にます。生贄の新郎はアナキライザーショックで死にます。新婦はエスカレーターで老婆になって多分もうすぐ死にます。
あれ? じゃぁ次の“後継者“は?? ですよね。
もしかしたら、カール(オリバー)と新婦の間に子供が出来たのか、それとも、エスカレーターの老婆は、ホテル30階フロアの花嫁とは別人ってことなのかな??

 

で、これは間違ってるかもですが、ホテルの新郎は一本径のカミーラ、新婦はサンドラなんじゃないかと思うんですよね。カミーラと新郎は、同じアナキライザーショックで死んでしまうし、新婦とサンドラは多分同じ女優さんが演じてるんじゃないかなと。
で、カルロスはキャンプで死んだルーベン(ロベルト)の友達? の二巡目じゃないのかなと(怪我で死ぬから)思いました。

つまり、ループしているのはダニエル(刑事)、オリバー(カール)、(ルーベン)ロベルトだけじゃなく、生贄のカミーラ(新郎?)とカルロス(友達)、サンドラ(新婦)も含めた、登場人物全員なんじゃないかなーと。

ということを踏まえて、年代別に登場人物を箇条書きにすると、

イカダ編(??年)

ルーベン(一巡目)、友達(?)、指導員(二巡目)

一本径編(1980年)

ダニエル(一巡目)、ロベルト(ルーベン)、カミーラ(一巡目)、サンドラ(?)

非常階段(2017年)

刑事(ダニエル)、オリバー(一巡目)、カルロス(友達の二巡目?)

ホテル30階フロア(2052年?)

カール(オリバー)、新郎(カミーラの二巡目?)、新婦(サンドラの二巡目?)

エスカレーター(??年)

エスカレーターの老婆=新婦

となり、時代とシチュエーションによって、それぞれ『囚人役』と『生贄役』を入れ替えながら永遠に無限ループの中をぐるぐる回り続けているって事になるんじゃないかなと思って、ゾワゾワしてしまいましたよー! ((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタ

パラレルワールドタイムリープ

最初、同時代に別の場所で起こっていると思われた二つ(厳密には5つ?)の物語は、実は2つ時間の出来事で、しかも繋がっていた。まるで螺旋階段みたいに延々と続いていく無限地獄の物語だったという設定やストーリー運びが実に巧みで、イーサン・ホーク主演の「プリデスティネーションを思い出しました!

そして、本作を観たあとに、この物語は何も彼らだけではなく、僕も含めた全ての人類に起こっているかもしれない出来事って考えると、何か超怖いんですよね。

で、冒頭のエスカレーターと非常階段はまさに螺旋構造のイメージで、螺旋構造といえばDNAを想起してしまうんです。
つまり本作は、「人間は時間と運命いう牢獄からは永遠に抜け出すことが出来ない」みたいなテーマを、シチュエーションを限定して描いたある意味、寓話的な物語なのかなー? なんて思いました。

登場する老人をことさら嫌~~~~な感じに観せたり、ゴミや食べ物、排泄物が散乱する生理的に不快な絵面が続いたりするし、ストーリーのどこにも救いがない上に、前半から中盤にかけては、(ネタ振りなので)平坦で退屈と、好き嫌いや評価がハッキリ分かれるタイプの映画だと思います。
でも僕は(元々こういうややこしい映画が好きなこともありますが)、本作はかなり楽しむことが出来ましたよー!

ただ、二回以上観るのはかなりシンドイですけどもww

興味のある方は是非!!!

 

タイムパラドックスを描いた傑作▼

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