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現実と夢が交差するデビッド・リンチの裏・ラ・ランド「マルホランド・ドライブ」(2002)【ネタバレ有り】

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ツインピークス」などで知られる巨匠デビッド・リンチが、第54回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した作品『マルホランド・ドライブ』ですよー!

事前に“難解な映画”という話を聞いていたので、それなりに覚悟して観たんですが、本当に難解な映画でしたww

というわけで、ネタバレ無しで語るにはあまりに難しすぎる作品なので、今回はネタバレ有りの感想になります。

もし、これから本作を観ようという方は先に映画を観て、それからこの感想を読んでくださいねーw

いいですね? 注意しましたよ?

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あらすじと感想

ある真夜中、マルホランド・ドライブで車の衝突事故が発生。ただ独り助かった黒髪の女は、ハリウッドの街までなんとか辿り着き、留守宅へ忍び込む。すると、そこは有名女優ルースの家だった。そして、直後にやってきたルースの姪ベティに見つかってしまう。ベティは、とっさにリタと名乗ったこの女を叔母の友人と思い込むが、すぐに見知らぬ他人であることを知った。何も思い出せないと打ち明けるリタ。手掛かりは大金と謎の青い鍵が入った彼女のバッグ。ベティは同情と好奇心から、リタの記憶を取り戻す手助けを買って出るのだが…。(allcinema ONLINEより引用)

 

感想

超ザックリ デビッド・リンチについて。

イレイザーヘッド」「エレファント・マン」「ブルーベルベット」など、独特な世界感と感性で、多くのファンを持つリンチですが、彼の名を世界的に知らしめたのは何といっても1989年にスタートしたテレビドラマシリーズ「ツインピークス」ではないかと思います。

当時を知る人なら覚えていると思いますが、「ツインピークス」は日本でも社会現象になるくらい大ヒットしましたよねー。(ちなみに僕は流れに乗り遅れて「ツインピークス」観たことないんですけどねw)

そんなリンチがテレビドラマ用に手がけた本作「マルホランド・ドライブ」でしたが、最終的にテレビ局側に却下されお蔵入りの危機に。
しかし、その後フランスの配給会社Canal Plusが出資して映画化されたんだそうです。

4人の女性

本作では4人の女性が登場します。

前半は
交通事故で記憶を失ったリタ。
女優の叔母を頼ってハリウッドにやってきたベティ。

後半は、
売れない女優のダイアン。
売れっ子女優でダイアンの恋人カミーラ。

で、ベティとダイアンをナオミ・ワッツが、リタとカミーラをローラ・ハリングが、それぞれ一人二役で演じているんですが、リタとカミーラはそもそも同一人物で、ベティとダイアンも同一人物なんですね。

虚構と現実がごちゃまぜのリンチスタイル

物語の流れをザックリ箇条書きにすると、

ハリウッドに実在する道路、マルホランド・ドライブで撃ち殺されそうになった女(リタ)は、暴走車の追突で運良く助かりその場を逃げ出す。

たまたま旅行に出た夫婦の家に潜り込み隠れていると、入れ替わりにやってきた夫婦の姪で女優志望のベティと鉢合わせ、そこで女は部屋のポスターの女優の名リタを名乗り、自分が記憶を失っている事を告白。

リタの所持品は、大金と青い鍵だけだった。
そこでベティと共に自分が誰なのかを調べ始める。

リタがウェイトレスの名札からダイアン・セルウィンという名前を思い出し、電話帳で調べた住所に向かうも、ダイアンはミイラ化した死体になっていた。

ベティは叔母のコネでオーディションを受け、天才的な演技力で絶賛される。

いつの間にか愛し合っていた二人はベッドイン。

深夜、急に「何か」を思い出したリタは、謎の劇場『クラブ・シレンシオ』で謎の公演を観る。

そこでベティのバッグに入っていた青い箱を発見した二人は家に戻り、青い箱をリタの鍵で開ける。

大分端折りましたが、ここまでが前編です。
で、ここから後編。

売れない女優のダイアンは、売れっ子女優のカミーラと恋人同士だったが、最近カミーラがつれない態度。そしてとうとう別れを告げられる。

傷心のダイアンにカミーラからの電話でパーティーの誘いが。
喜んだ彼女はパーティー会場に向かうも、ダイアンの目の前でカミーラが映画監督との結婚を発表。しかも別の女にも手を出していてダイアンは3股をかけられていた事が判明。

怒ったダイアンは、殺し屋にカミーラ殺害を依頼。
殺し屋は「殺しが成功したら、青い鍵を渡す」と言う。

非道い扱いを受けたもののカミーラを愛していたダイアンは、自分のしたこと(殺人依頼)を後悔し、次第に精神が病んで妄想の世界に逃げ込む。

自宅で青い鍵を発見。
同時に、ドアが激しくノックされ追い詰められ精神が崩壊した彼女は自殺する。

 

ここまで読んで、すでにお気づきの方もいらっしゃるかもですが、実はこの映画前は半部分と後半部分が入れ替わっていて、ベティが主人公の前半部分はダイアナのドリーム妄想。ベティというのはダイアナの「こうだったら良かった」という理想の姿なわけです。

現実・妄想・回想が映像的な区別なく同列に入り混じるリンチスタイルに惑わされ、よく分からない複雑なストーリーに見えますが、つまり、本作は失恋した女性ダイアンが、妄想の中で想いを遂げるという、愛憎のストーリーなんですね。

そこに、リンチ特有の映像とセリフの“雑音”とヒントを散りばめることで、ミステリー(というか幻想ストーリー?)にしているわけです。

例えば前半、物語に全く関係ないふたりの男がダイナーで「夢」の話をしています。
片方の男の夢に2回、このダイナーが出てくると。
そして自分は何故かそのダイナーをとても恐れていて、その理由はダイナーの裏に恐ろしい男がいるからだと言う。

じゃぁ、そんな男がいない事を確認しようと相手の男が言い、二人でダイナーの裏手に行くと、本当に恐ろしい顔の男がいて、夢の話をした男はそのまま倒れてしまう。

物語にまったく関わらない孤立したエピソードなんですが、このシーンで、この前半部分は夢の話ですよという事を表しているみたいです。

実際なら本当に恐ろしい男がいたところで、襲われるわけでもなんでもないし、その男を見ただけで倒れてしまうわけもないですしね。

『クラブ・シレンシオ』とカーボーイ

本作で妄想と現実の分岐点となるのが、ベティとリタが夜中に行く劇場『クラブ・シレンシオ』です。
そこで、支配人らしき男が、「楽団はいません、これは全部テープです。オーケストラはいません、これは全部まやかしです」という口上を述べるんですね。
ちなみに、「シレンシオ(お静かに)」は「黙祷」の意味もあるので、ここは生と死の狭間のような、日本風に言えば三途の川みたいな場所なのかもしれません。

ここで初めてリタは全てを思い出します。自分が既に死んでいる事も。

あと、本作では謎のカーボーイが登場するんですが、これは単純に死神なんだと思います。映画監督がこの男に合うのは、それがダイアンの妄想の中だからで、妄想パートでの映画監督はずっと非道い目に合いまくってるのも、自分からカミーラを奪った監督に対する復讐なんですね。
あとは、監督の思い通りに映画が作れないハリウッドに対するリンチの批判みたいなのも入ってるのかな?

また現実では、カミーラとダイアンは同じ映画のオーディションを受けてるんですが、監督が選んだのはカミーラだった事もあり、その分の復讐も入っているんですよね。

裏・ラ・ランド

本作は、女優として成功しなかった女性の物語です。
そういう意味では、今年公開の「ラ・ラ・ランド」と少し構造が似ているような気がしないこともないというか。

ラ・ラ・ランド」の二人は一応の成功を収めつつも、「もしかしたらあったかもしれない未来」に想いを馳せるストーリーで、本作は成功出来なかった主人公が「こうだったらよかったのに」という妄想に浸るストーリー。

形や表現不法は全く違いますが、夢を追う者の物語というモチーフは同じで「ラ・ラ・ランド」が万人受けする「表」なら、本作「マルホランド・ドライブ」は「裏」って感じがしましたねー。

今回はいつもに比べて随分長くなってしまいましたが、つまり本作はそのくらい「語りたくなる」作品なんですよねー。多分、本作を観たらあなたも……w

というわけで、興味のある方は是非!!

 

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