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タランティーノ絶賛の世紀末映画「奪還者」(2015)*ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、クエンティン・タランティーノが「元祖『マッド・マックス』以来の世紀末映画の最高傑作」と絶賛したオーストラリア映画『奪還者』ですよー!

荒廃した近未来のオーストラリアを舞台に、強盗に愛車を盗まれた男が執拗に強盗を追い詰めるバイオレンスアクション? 映画です。

ちなみに、今回も後半部分でネタバレする予定なので、これから本作を観る予定の方は、映画を先に観てからこの感想を読んでくださいませー。

いいですね? 注意しましたよ?

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あらすじと概要

『トエンティマン・ブラザーズ』などのガイ・ピアース、『トワイライト』シリーズなどのロバート・パティソンが共演を果たしたバイオレンスムービー。世界経済が崩壊して鉱物資源を狙う荒くれ者がひしめくようになったオーストラリアを舞台に、強盗団に奪われた車を取り戻そうとする男とそのリーダーの弟の関係が描かれる。監督は、『アニマル・キングダム』などのデヴィッド・ミショッド。車の奪還劇に加え、男たちが育む絆をめぐるドラマにも注目。

ストーリー:世界経済が崩壊して10年。オーストラリアでは、鉱物資源を狙った無法者たちが暴虐の限りを尽くしていた。そんな殺伐とした世界で愛車だけを心のよりどころにして生きるエリック(ガイ・ピアース)だったが、その車をヘンリー(スクート・マクネイリー)がリーダーの強盗団に奪われる。彼らを追跡する中、強盗の際に負傷し置き去りにされたヘンリーの弟レイ(ロバート・パティンソン)を見つける。ヘンリーたちの足取りをつかむヒントになると思い、エリックは彼を連れて荒野を旅するが……。(シネマトゥデイより引用)

 

感想

もう一つのマッドマックス?

本作は、本国オーストラリアでは2013年に公開されたバイオレンスアクション? 映画です。
クエンティン・タランティーノが2014年のベスト映画に選び、「とにかく凄ぇ。元祖『マッド・マックス』以来の世紀末映画の最高傑作。『アニマル・キングダム』とこの連打でデヴィッド・ミショッドは、この世代最強の監督だと証明して見せた」と大絶賛し、またカンヌ国際映画祭をはじめ、各国の映画賞で絶賛を浴びた作品だそうで、「そんなに凄いなら観てみっか!」とDVDで遅ればせながら観てみましたよ。

で、荒廃したオーストラリアが舞台という設定は、確かに「マッドマックス」を思わせますが、ド派手なカーチェイスやアクションはほとんどなく、基本淡々と進む映画でした。

世界経済の崩壊から10年後、豊富な鉱物資源を求める労働者たちが世界中から集まり、広大な無法地帯と化したオーストラリア。

冒頭、車から降りた主人公のエリックが、中国の演歌? みたいな曲が流れるレストラン? に入り一休みするところから物語がスタート。

画面変わって、3人の男たちがトラックで爆走しているシーンに移るんですが、足を撃たれたらしい男とほかの二人が揉めているわけです。(どうやらこの三人は強盗らしい)
原因は(多分銃撃戦で倒れた)もうひとりの仲間で、足を打たれた男の弟を救いに戻るかどうか。兄は弟を救いに戻って欲しいし、他のふたりはもう死んでるに決まっているから戻らないと。

言い合いは次第にエスカレートし、後部座席のハゲオヤジが「一人前の男なら潔く死ね!」と言ってははならんことを言っちゃって、それにキレた兄がオッサンに掴みかかったことで、トラックは道端に激突、置いてあった鉄骨やワイヤーにタイヤが 挟まって身動きが取れなくなり、咄嗟に三人は道に止めてあったエリックの車を盗んで逃げるんですね。

それに気づいたエリックは、放置されたトラックに乗り込み、無理やり脱出すると三人に盗まれた愛車を追いかけるが……という物語。

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その途中で、エリックは置き去りにされた弟レイと出会い共に三人を追うことになり、男娼館の少年や上品なおばあちゃんオーナー、雑貨屋、女医、兵隊と出会ったり追われたり。その道すがら徐々にエリックやレイ、劇中の世界観が徐々に明らかになっていくという作りになっています。

ほとんどセリフによる説明がなく、映像で分からせる作りはマッドマックスにかなり近いんですが、本作はマッドマックスのようなカーチェイスや派手なアクション、ヒャッハー感はゼロで、たまに銃撃戦はあるものの、基本は淡々と進んでいく物語なので、正直途中で眠くなってしまいました

この物語通しての謎は、エリックは(愛車を盗まれたとはいえ)犯人の残したトラックがあるのに何故、執拗に愛車を追い掛けるのかという点なのですが、ラストでその理由が分かり、振り返ってそれまでのキャラクターの行動の理由や、その背景がハッキリ分かる、とても練られたドラマに感心してしまいましたねー。

ただ、面白いかといえば正直(´ε`;)ウーン…で、舞台や設定は似ていても、マッドマックスのようなエンターテイメント性はなく、哲学的というか、キャラクターの心の動きに焦点を当てた映画なので、エンタメ映画を期待して観ると、肩透かしを食らってしまうかもしれません。

 

というわけで、ここからネタバレしますよ!

 

 

荒廃の原因

本作の舞台、近未来のオーストラリアはマッドマックスと同じく荒廃していて、人々の心は荒みきっているわけですが、その原因はエネルギー不足ではなく、経済破綻なんですね。

冒頭、エリックが入るレストランや、中盤の列車のコンテナに書かれた漢字を見ると、どうやらアメリカを始めとした西洋諸国が中国経済に負けたのが原因らしい事が分かります。で、オーストラリアは経済的に破綻し、ほぼ無政府状態になり、秩序は破壊され、インフラも行き届かなくなっている様子。

さらに、鉱物資源を狙った無法者たちが入ってきたことで、暴力が横行し、人の命は軽くなり、店屋は客にライフルを突きつけながら商売するようになってしまうわけです。

そんな世界で、農家を営んでいた主人公エリックでしたが、(劇中本人のセリフによれば)奥さんが浮気をして、怒ったエリックは奥さんと浮気相手を殺害。
しかし、警察は彼を逮捕にもこない。
罪を犯しても罰せられない世界にエリックは絶望し、さらにその後共に暮らした「相棒」? がいなくなったことで、(人間として)壊れてしまっているんですね。

強盗たち

そんなエリックの車を盗んだ強盗の4人は、知的障害を持つレイとリーダーでレイの兄ヘンリーほか2名。
彼らはどうやら軍隊のお金を強奪して追われてるっぽいんですよね。

で、多分弟レイは、兄のヘンリー以外の2人にとっては、足でまといと思われ、疎まれてたんだろうなーと。

だから、2人は足を撃たれたヘンリーは助けたものの、腹を撃たれたレイは(生きていると知りながら)見捨てたんでしょうね。

けれど、レイは生きていて軍隊の車を盗んで逃走。
途中で犯行に使ったトラックを見つけて、エリックと出会うわけです。

エリック

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最初、強盗たちに追いつくも銃で頭を殴られ気絶したエリックは、強盗の行方を追うために道沿いの店屋や男娼館で情報を集め、銃を手に入れます。
その前から全てを失い壊れてしまっているエリックでしたが、「たった一つの目的」を強盗に邪魔されたことで完全にタガが外れた彼は、銃の売人を撃ち殺し、復讐にきた仲間も撃ち殺し、(ヘンリーたちを)追ってきた兵士も撃ち殺します。

しかし、純粋で子犬のようなレイと時間を重ねるうちに、少しづつ人間性を取り戻していくんですね。

しかし、中盤でエリックがレイに言った言葉が、ラストの大きな悲劇を招いてしまうのです。

レイ

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知的障害を持つレイは、自分や兄の敵であるエリックに敵意を持たず、エリックの言葉を素直に信じてしまうんですね。
しかし、一方で敵である兵士は躊躇なく殺してしまう残酷さも持ち合わせた子供のようなヤツでもあります。
つまり、彼は一度信頼した人間の言うことや指示に素直に従ってしまうわけです。

腹を撃たれ重症の彼は、エリックが(情報を聞き出すため)医者に見せることで救われるのですが、そのことでエリックを信用してしまってるんですよね。
で、エリックはそんなレイを最初邪険に扱かうんですが、彼と接するうちに凍った心が少しづつ溶けていき、レイを憎からず思うようになっていくのです。

女医と祖母

エリックがレイを運び込んだ病院の女医は無償でレイの治療をし、近隣住人から預かった(押し付けられた)犬たちを保護する、一見心優しい女性ですが、でも観ているとどこか違和感を感じてしまうキャラクター。

実はこの女医もまた、どこか壊れているんですね。

完全に崩壊してしまった「セカイ」から彼女は目を背け、「セカイ」と自分を切り離すことで自分を守っているわけです。多分。

本作に登場するもう一人の女性、男娼館のオーナー? のお婆ちゃんもまた、同じような壊れ方をしているんですよね。

どちらも、現実を認識しながらも認めないことで、自分を守っているわけです。

エリックの目的

前述した、エリックのたった「一つの目的」。
それはラストで分かるんですが、彼の愛車のトランクには死んだ愛犬が入っていて、彼は(多分、家を失ってからずっと一緒に旅をしてきた)愛犬を埋葬する事だけを生きる目的にしているんですね。
だから、愛車を取り戻すために、自分の命も顧みずに執拗に強盗たちを追い続けるわけです。(というか自分の命には興味がないんですが)

無口で無表情なエリックが2回動揺するシーンがあって、一つは病院で保護されケージで飼われている犬を見たとき(外に出すと近隣住民に食べられちゃうらしい)。
もう一つは、ついに盗まれた(トランクに愛犬の死体を乗せた)愛車を見つけたときです。

その二つのシーンは、ラストシーンのための伏線になってたんですね。

死んだ犬を埋葬するために、何人も撃ち殺してきたの!? と思われてしまうかもですが、エリックにとって「愛犬を埋葬する」という行為は彼が「人間として生きる」ためのたった一つの目的であり「人間であることの証明」だったわけですね。

ただ、そのためには邪魔者を排除することに一切の躊躇がない。そのバランス感覚のおかしさこそが、彼が「人間として」壊れてしまっている証拠でもあるんですけども。

それは女医も、自分の孫を客に勧めてしまうおばあちゃんも同じで、方向性は違うけど、狂った世界で人間として生きようとするあまり、人間として狂ってしまっているわけです。(上手く言えませんが)その辺が観ていて「あーリアルだなー」って思いました。崩壊した世界で弱者が生き残るには、何か縋るものが必要なんですよね。
でもそれは、自らを壊してしまう諸刃の剣というか。

ちなみに本作の原題は「The Rover」(放浪者)。ラスト、たった一つの目的を成し遂げて全てを失ったエリックが一体これからどうするのかという余韻を残して、この映画は終わります。

そう書くと、絶望しかない映画に思えるかもですが、この過程でいくつかの希望もちゃんと提示されていて、きっとエリックは自分の罪を背負いながら生き続けていくんじゃないかと思いましたねー。

 

かなり観る人を選ぶ作品なので万人にはオススメ出来ないし、僕自身、多分もう二度と観ないとは思いますけども、好きな人には人生オールタイムベストに入る映画なんじゃないかと思います。

興味のある方は是非!

 

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