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ハリウッドシステムから解き放たれたバーホーベン監督の本気!「ブラックブック」(2007)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、みんな大好きポール・バーホーベン監督が母国オランダで制作した歴史大作映画『ブラックブック』ですよー!

ハリウッドシステムという鎖から解放されたバーホーベン監督が、本気でやりたいように作った傑作です!

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画像出典元URL:http://eiga.com

あらすじと概要

第二次世界大戦ナチス・ドイツ占領下のオランダで、家族をナチスに殺された若く美しいユダヤ人歌手の復しゅうを描いたサスペンスドラマ。鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督が23年ぶりに故国オランダに戻り、過酷な運命に翻弄されながらも戦火の中で生き抜く女性の壮絶なドラマを撮り上げた。復しゅうと愛に揺れ動くヒロインには、オランダの新星カリス・ファン・ハウテン。オランダ映画史上最高の製作費をかけた壮大なスケールの映像は必見。

ストーリー:1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。若く美しいユダヤ人歌手ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)は、オランダへ逃げようとするが、何者かの裏切りによって両親や弟をナチスに殺されてしまう。復しゅうのために名前をエリスと変えた彼女は、レジスタンスのスパイとしてドイツ将校ムンツェに美ぼうと美声を武器に近づくが……。(シネマトゥデイより引用)

 

感想

手加減なし! バーホーベンの本気

本作でメガホンを取るのは、「ロボコップ」(1987年)「トータル・リコール 」(1990年)「氷の微笑」(1992年)で一時代を築いたポール・バーホーベン

ハリウッドでは、上記の三作で一躍人気監督になるものの、続く「ショーガール 」(1995年)「スターシップ・トゥルーパーズ」(1997年)は興業的に振るわず、「インビジブル」(2000年)を最後に故郷オランダに戻るんですね。
そして、ハリウッドで得た名声で資金を集め、制作費25億円というオランダ映画界始まって以来の大作として制作・公開したのが本作『ブラックブック』です。

1956年10月イスラエルで学校の教師をしている主人公エリス( カリス・ファン・ハウテン)が、たまたま旅行に来ていた古い知り合いのロニー (ハリナ・ライン)と出会うところから物語はスタート。

1944年、エリスのナチス占領下のオランダでの回想にシーンが移ります。

オランダ人の家に匿われている彼女の元にナチスの魔手が伸び、目の前で家族を殺されながらも一人生き残った彼女は、生き残りをかけてレジスタンスに加わっていくのだが…という物語。

幼少期を第二次世界大戦下のオランダで過ごし、自分達オランダ人の味方であるはずの連合軍がナチスの軍事基地を空爆。死体が道端に転がっているという日常を過ごしたバーホーベンだからこそ撮れた作品で、ハリウッド時代「スタジオの奴隷になった気がした」と発言するほど不自由だったシステムの呪縛から解放され、真正面からやりたいように描いた歴史大作です。

敵はナチスだけにあらず

レジスタンスの一員になり、エリス(本名はラヘル・シュタイン)という偽名を名乗り髪や下の毛までブロンドに染め上げた彼女は、リーダーの命令でスパイとしてナチス将校ルートヴィヒ・ムンツェ( セバスチャン・コッホ)を誘惑し情報を引き出す任務に。

しかし、悪の権化だと思っていたムンツェは実際には、切手収集が趣味の穏健派で、争いや無駄な血が流れるのを好まない優しい男で、彼女は次第にムンツェに惹かれていくんですね。

そしてパーティーの場で、エリスは自分の家族を殺した下士官フランケン (ワルデマー・コブス)と遭遇。

エリスはレジスタンスの手引きで開放区に逃げ延びようとしたところを、このフランケン率いるナチス小隊に襲撃され、家族を皆殺しにされているわけです。
その後も、このフランケンはやることなすこと超ひどくて憎たらしい男なんですが、でもピアノが上手で歌も上手い音楽を愛する男なんですよねー。

で、潜入調査を進めるうち、どうやらこのフランクがレジスタンスの誰かのリークでユダヤ人やレジスタンスの動向を把握している事が明らかになり……。という、ミステリー的な面白さがあり、ただナチスの残虐さやエリスの悲劇の人生を描くだけの作品ではなく、潜入サスペンス、犯人捜しのミステリー要素、復讐劇というエンターテイメント作品としても素晴らしい出来になっているんですね。いやホント、改めてバーホーベンすごいわー。と感じさせる作品です。

いくつもの要素が入り混じった多面的な作品

一方で、本作では戦時下での人間の残酷さ、もっと言うと「正義」の側に立った人間の残酷さや醜悪さを、バーホーベン節全開の露悪的な描写で手加減なく観せられます。
ナチはもちろん、フランケンや彼と通じているレジスタンス、ナチ敗北後のオランダ人の振る舞いなど、ホントうんざりするほど人間の暗部をこれでもかと見せ付けられるんですよねー。

そんな悪意や裏切りに翻弄されながら決して生きることを諦めないエリスの強さ、生きるために常に強い側の男につくロニーの強かさは、本作の中で一縷の希望になっていると思いました。さらに、バーホーベンは登場キャラクターを単純に善悪で色分けすることなく、多面的に描いています。

ナチスにもいいヤツはいるし、レジスタンスにも悪い奴はいる。
そういう当たり前の事を本作でバーホーベンは語っているし、たとえ善人であっても「正義」という大義を手にした途端、醜悪に変様する姿もしっかり描く。

その辺の意地の悪さは、さすがバーホーベンだなーって思いましたねーw

1956年10月

意地が悪いと言えば、本作冒頭とラストで提示される1956年10月のイスラエル
長い長い回想シーンが終わると、彼女のもとに子供と夫がやってきて幸せな家族の後ろ姿が描かれるんですね。

ぱっと見、苦労して生き延びたエリスがついに幸せを手に入れたハッピーエンド……に見えますが、その向こうでは飛行機と爆弾の爆発音が鳴り響いています。

歴史に詳しい人なら既に察しがついているかと思いますが、1956年10月と言えば第二次中東戦争が始まった年なんですよね。(僕は映画を観たあとにネットで知りましたが)

劇中、エリスが一度だけ「悲しみに終わりはないの!」と震えながらむせび泣くシーンがあって、このエンディングはまさにそのシーンと対になってるっていう。

この、ただのハッピーエンドでは終わらせずにエリス(=人間)の暗い未来を暗示する終わり方も、まさにバーホーベン印なんですよねー。

 

ちなみに本作は144分と長い作品ですが、見ている間退屈したり長いと感じることは全くなかったし、作劇もしっかりカタルシスもあり、ずっと物語の中に引き込まれっぱなしでした。
そして観終わって「日本も他人事じゃないよなー」って思いましたねー。

特に昨今の国際情勢、ネットやSNSを眺めていると……ねぇ?

興味のある方は是非!!!

 

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