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極端なデフォルメとリアリティーが融合した独自の世界「ベルヴィル・ランデブー」(2004)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、世界各国で多くの映画賞を受賞したフランスのアニメ映画ベルヴィル・ランデブーですよー!

シンプルなストーリーながら、極端なデフォルメとリアリティーが融合した映像と、ジャンゴ・ラインハルトを祖とする「ジプシー・スウィング」的な音楽が見事にシンクロした「これぞ映画!」という作品でしたねー!(;゚∀゚)=3ハァハァ

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

アカデミー賞で長編アニメーション部門と歌曲賞にノミネートされたフレンチ・アニメ。戦後まもないフランスを舞台に、自転車レーサーの孫をマフィアに誘拐された祖母が決死の救出劇を繰り広げる様を描く。監督は高畑勲大友克洋など、日本のアニメクリエイターからも絶大な人気を誇るシルヴァン・ショメ。ノルタルジックかつナンセンスな作風と、重要なシーンで鮮烈な印象を放つスウィング・ジャズ風の音楽がポイントの秀作アニメだ。(シネマトゥディより引用)

感想

三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー紹介作品

スタジオジブリの宮崎・高畑両監督のおすすめ作品を中心に、まだまだ知られていない世界の名作の数々を紹介する「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」でセレクトされている本作は、第76回アカデミー賞で長編アニメ映画賞と歌曲賞にノミネートされた他、数々の映画賞を受賞したフランスの長編アニメ映画です。

「バンド・デシネ」(フランス・ベルギーを中心とした地域のマンガの総称)作家でもあり、高畑勲大友克洋など日本のクリエイターにもファンの多いシルヴァン・ショメの長編デビュー作で、極端なデフォルメとリアリティーが融合した独特な映像と、ロマ音楽スウィング・ジャズを融合させた「ジプシー・スウィング」が融合したエンターテイメントでありながら非常に芸術的な作品でもあります。

僕は恥ずかしながら、先日Twitterで本作を知ったんですが、すごく映画的な作品だと思ったし、絵柄も音楽もどストライクな作品でした!

ストーリー

白黒テレビに映し出される三人の女性デュオグループ"トリプレット"のショーを、おばあちゃんと孫のシャンピオンが一緒に観ているシーンから物語はスタートします。

(多分)両親を亡くした内気で孤独な孫のシャンピオンを元気づけようと、ピアノやおもちゃの汽車や子犬を与えるおばあちゃんですが、シャンピオンの反応はイマイチ。
そんな時、シャンピオンの部屋を掃除していたおばあちゃんは、ベットに隠してあった自転車記事がスクラップされたノートを発見します。

そこで、試しに三輪車を買い与えるとシャンピオンは大喜び。
新品の三輪車で家の庭を嬉しそうにぐるぐる走り回るんですね。

それから十年以上の歳月が経ち、青年になったシャンピオンはおばあちゃんをトレーナーに、ツール・ド・フランス出場のために猛特訓。

ここで「ははーん、シャンピオンはおばあちゃんの恩に報いるためツール・ド・フランスを制するんだな」と思って観ていたんですが……なんと脱落寸前の最後尾を走ってるじゃありませんか。

「あれー??」と思いながら観ていると、そこに怪しげな男が現れレースに脱落した選手とシャンピオンを誘拐!
それに気づいたおばあちゃんは、愛する孫を救うため愛犬とともに海を越えニューヨークを思わせる大都会“ベルヴィル”まで追いかけて……。というのが本作のストーリーです。

要約すると「孫を救うためおばあちゃん大活躍」というストーリーなんですが、うーん…何ていうか、そう一筋縄では行かない“何か”があるような気がするんですよね。

作品全体に漂う歪さ

本作で特徴的なのは、その絵柄だと思います。
例えば、成長し自転車選手になったシャンピオンの太ももは筋肉ムキムキで胴回りよりも太くなっていたり、映画冒頭で二人が観ているテレビでは、極端にカリカチュアされたジャンゴ・ラインハルトやジョセフィン・ベーカー、フレッド・アステアなどが登場します。そんな彼らのショーを見に来ている客もまた極端にデフォルメされているんですね。

シャンピオンが誘拐され乗せられた船は、縦横は普通なのに高さが以上に高かいし、マフィアの車もアホみたいにボンネットが長かったり。とにかく極端なデフォルメ描写が目立ちます。

そうかと思うと、前述のテレビでピアノを弾いているグレン・グールド はやけに写実的だったり、それぞれのキャラクターの動きやちょっとした表情は物凄くリアルで映画的だったり、ところどころに実写(ゴダールオマージュ?)が入ったり。何とも歪な世界観なんですよね。

前述の映画冒頭のテレビのシーンは、恐らく初期のディズニーのテイストになっていて、その後の本編の絵柄との対比でアニメの歴史を表しているのかな? なんて思ったりするわけですが、それとは別に、子供の頃はまだ幾分感情が見えたシャンピオンが青年になってからはひたすら無表情なんですよね。

まるで、自転車を漕ぐ人形みたいに、特訓でもレースでも、マフィアに誘拐された先でもおばあちゃんに救い出されたあとも、ただただ無表情に自転車を漕いでいるだけの、まるで、観客の感情移入を拒絶しているかのようなキャラクターとして描かれています。

登場人物がほとんどセリフを言わない作品だし、おばあちゃんも無口で無表情ではあるので、おばあちゃんの微かな表情の変化や感情を浮き立たせる対比として、シャンピオンを無表情無感情にしているだけかもしれませんが。

ただ、彼が何を考えているのか分からないところが、作品最大の歪さであり、一筋縄ではいかない“何か”があるのでは? と思わせる要因でもあるんですよね。

この作品はおばあちゃんの視点で描かれているので、当然おばあちゃんの方に感情移入するし、おばあちゃんが主人公の物語です。

しかし、シャンピオンの視点が入っていないので、もしかしてシャンピオンはおばあちゃんに言われるがままに好きでもない自転車に乗り続けているのでは? なんて勘ぐってしまったりして、何とも言えない居心地の悪さを感じてしまうのです。

というわけで、ここからネタバレします。

 

 

ラストシーン問題

船に乗せられ連れ去られるシャンピオンをレンタルの足こぎボートで追いかけるおばあちゃん。
船は大海原を超え、ニューヨークを思わせる架空の大都会ベルヴィルについてしまいます。
知り合いもいない大都会にたった一人(と一匹)途方に暮れるおばあちゃんを助けてくれるのが、冒頭のテレビで歌っていた元人気歌手トリオの"トリプレット"。

すっかり落ちぶれ老いた三人は、場末の安アパートで共同生活。クラブのショーで小銭を稼ぎ、アパート裏の川で手榴弾を使った漁で捕まえたカエルを食料にしているんですが、何かいつも楽しそうなんですよね。

そんな三人と偶然知り合ったおばあちゃん、トリプレットメンバーとしてショーに出るわけですが、そこにやってきたのがシャンピオンを誘拐したマフィアのボス。

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画像出典元URL:http://eiga.com

彼は、エアロバイクを使ったレースをさせ、客に勝敗を予想させるギャンブルのためレースで脱落する三流の選手を誘拐、用済みになった選手は殺して捨てるという冷酷で恐ろしい男なのです。

犬のおかげで事の次第を察したおばあちゃんは、トリプレットの三老女と共に賭けの現場に乗り込み、マフィアとの壮絶なチェイスの果てに見事シャンピオンを救出します。

そこで場面変わって二人の家。
救出劇のラストシーンをテレビで観ているシャンピオンの髪は白く禿げ上がっていて、壁には(おそらく)今は亡きおばあちゃんと犬の写真が飾られています。

そんなシャンピオンにおばあちゃんの「もう終わりかい? おばあちゃんに言ってごらん?終わったのかい?」というセリフが入り、シャンピオンの「これでお終いだよ、おばあちゃん」というセリフで本作は幕を閉じます。

このラストシーンが気になってあちこちのブログを読んでみると、色んな解釈がされてるんですよね。

このラストのおばあちゃんのセリフは、二人が若き日のトリプレットのショーを放映してるテレビを観ている冒頭のシーンと同じで、頭と終わりに同じ映像やセリフを持ってきて物語を挟む、いわゆる「ブックエンド方式」だと思うんですが、救出劇のラストシーンを老人になったシャンピオンがテレビで観ているというメタ的な構造になっているので、色んな解釈が生まれるんだと思います。

さらに、前述したようにシャンピオンが何を考えているのか分からない事も相まって、めでたしめでたしだけではないような、尻の座りの悪さを感じてしまうんですよね。

個人的には、この映画全体がシャンピオンの回想で、テレビは本作が彼の回想であることを視覚的に表現したって事じゃないかなって思いましたけども。

あと、最後にちょっとしたオマケもついてるので、エンディングロールの途中でDVDを止めない事をオススメするのと、DVDの映像特典で、今は亡き高畑さんとシルヴァン・ショメ監督の全然噛み合ってない対談を観ることが出来ますよ。

さらにこの対談では、シルヴァン・ショメ監督がいかにアメリカのアニメ(というかコンテンツ)が嫌いかも分かるので、劇中のニューヨークと思われる「ベルヴィル」の悪意たっぷりな描き方も納得出来るんじゃないでしょうかw

本作の絵は、非常に個性的で好き嫌いは分かれるかもですが、イラストやマンガ、アニメなどの創作をしている人にはとても刺激になるんじゃないかと思いました。

興味のある方は是非!!!

 

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