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ジャック・タチが残した脚本をシルヴァン・ショメ監督がアニメ化「イリュージョニスト」(2011)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ベルヴィル・ランデブー」のシルヴァン・ショメ監督2010年の作品イリュージョニストですよー!

「ベルヴィル~」とは真逆の、切なくも美しい作品でしたねー。

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概要

『ぼくの伯父さん』シリーズで名をはせたジャック・タチが娘のために書いた幻の脚本を基に、長編デビュー作『ベルヴィル・ランデブー』で独特のセンスを発揮したシルヴァン・ショメが映画化したアニメーション。昔ながらの手品を披露する老人が純粋な少女と出会い、言葉が通じないながらも心を通わせる姿を温かく描く。1950年代のスコットランドを映像化したノスタルジックな情景が美しく、不器用な老手品師の姿やシーンの中にタチへのオマージュがささげられている。(シネマトゥディより引用)

感想

先日、このブログでも感想を書いた同監督の「ベルヴィル・ランデブー」がツボだったので、TSUTAYAでレンタルしてきました。

印象としては、デフォルメやダイナミズムを活かした「ベルヴィル~」とは真逆の、リアリティーに振った作品で、叙情的で切ない物語でしたねー。

 

フランスの喜劇王ジャック・タチが残した脚本をアニメ化

本作の脚本を執筆したのはフランスの喜劇俳優・監督で「ぼくの伯父さん」で第31回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したジャック・タチが生前に書いた未映像化脚本を、シルヴァン・ショメが脚色・監督したアニメ作品です。

本作の主人公、手品師のタチシェフはジャック・タチ自身の姿をモデルにしていて、アニメーターはタチの映画を参考に主人公の老手品師の立ち姿や動きを作り上げたんだそうですよ。

ストーリー

映画は1950年代のパリからスタート。
ロックンロールやTVが台頭し、人気が凋落した初老の手品師タチシェフは場末の劇場を回り時代遅れの手品を披露して口糊を凌ぐ日々。
そして、たどり着いたスコットランドの離島で出会った貧しい少女アリスに、新品の靴をプレゼントした事でアリスはタチシェフを魔法使いと信じ込み、島を離れる彼についてきて二人はエジンバラで暮らし始めるのだが……。という物語。

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第2次大戦で軍役に入る以前、タチは舞台で作家コレットからも熱烈な讃辞を贈られるほどの人気を博した寄席芸人で、本作はそんな彼の自伝的な挿話をベースに書かれた物語なのだとか。

本作には、時代の波に押されて居場所を失う芸人たちの姿が、タチシェフとアリスの物語と共に描かれます。

大都会パリやロンドンではロックバンドが大人気で、出番を奪われるタチシェフですが、娯楽の少ないスコットランドの離島では歓迎され、彼の手品はバーの客たちに大いにウケます。
しかし、タチシェフの出番が終わると、彼が演じていた場所にジュークボックスが引っ張り出され、人々がロックを楽しむというギャグシーンがあり、近い未来に彼の「居場所」がどこにもなくなる事が示唆されるんですね。

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ジャック・タチ主演作

実は、本作の主人公の“タチシェフ”という名前は、ジャック・タチの本名なんだそうです。さらに、タチシェフの私服は「ぼくの伯父さん」シリーズでタチが演じるユロ氏と一緒だし、立ち姿や動きもタチの動きをほぼ完コピしています。

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つまり、シルヴァン・ショメ監督は本作を単なるジャック・タチのオマージュではなく、ジャック・タチ最新作としてアニメーションで作り上げたのです。

だから本作では「ベルヴィル~」のようなキャラクターのデフォルメやカメラワークなどアニメ的なケレンは極力抑えて、背景美術も含め実写映画的でリアルな作りにしています。
日本のアニメや米国の3Dアニメに慣れている僕なんかは、固定カメラで引きの絵が多い本作のカメラワークに最初は違和感を感じましたが、これもジャック・タチ映画の手法らしいんですね。

また、時代遅れの男の物語を、3Dではなく味わいのある2Dアニメで制作している(作画労力を減らすため3DCGを使っている部分もあるけど)のも、気が利いてるなーと思いました。

劇中タチシェフが入った映画館で、スクリーンのユロ氏と目が合うなんてメタ的なシーンもあったりして、全体的にショメ監督のジャック・タチに対する愛情が溢れてるんですよねー。

なぜ「イリュージョニスト」なのか

で、ふと疑問に思ったのは本作のタイトルは、なぜ「マジシャン」ではなくて「イリュージョニスト」なのか。

個人的に、マジシャンはトランプやコインを使ったテーブルマジックをする人で、イリュージョニストは人体消失などの大仕掛けのマジックをする人というイメージがあるんですね。

本作のタチシェフは明らかに前者なので「イリュージョニスト」というタイトルに違和感を感じてしまったんですね。

で、ネットである人のレビューで「マジック=魔法」「イリュージョン=錯覚・幻想」のような意味があり、本作でタチシェフがアリスに見せたのはマジックではなくイリュージョンだったのではないかというような事が書かれていて、「なるほど確かに!」と納得しました。

本作のメインはタチシェフとアリスの擬似親子関係の物語で、タチシェフはアリスに故郷に残してきた娘の姿を重ね、アリスはタチシェフに父親の姿を見ていたんだと思うんですね。

タチシェフがアリスを受け入れて望みを叶えようとするのは、実の娘に対しての贖罪でもあるし、二人は互いに家族の幻影を見ていたとも言えるのかもしれません。

同時に二人の出会いから別れまでの物語は、劇中に登場する時代遅れの芸人がそっと消えていく姿ともリンクしていて、トータルで時代の移り変わりという本作全体の流れを、多層構造的に描いているんですね。

「ベルヴィル~」とは違ってぱっと見地味な作品だし、(僕も含めて)ジャック・タチを知らない人にはピンと来ない部分もあると思いますが、苦いラストシーンも含め、観終わったあとにじんわりと心に染みる良作でしたねー。

興味のある方は是非!!

 

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