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大人の少年と少女の物語「ビューティフル・ディ」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、バットマンの宿敵ジョーカーの単体映画「Joker」でジョーカー役に抜擢された、ホアキン・フェニックス主演の『ビューティフル・ディ』ですよー!

少年は残酷な弓を射る」(2011)のリン・ラムジーが脚本・監督ということで、とにかく一筋縄ではいかない映画になってました!

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概要

第70回カンヌ国際映画祭で男優賞と脚本賞に輝いたスリラー。失踪した少女の捜索で生計を立てる男が、ある依頼によって思わぬ事態に直面する。メガホンを取るのは『少年は残酷な弓を射る』などのリン・ラムジー。『ザ・マスター』『her/世界でひとつの彼女』などのホアキン・フェニックス、ドラマシリーズ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」などのジュディス・ロバーツ、ドラマシリーズ「GOTHAM/ゴッサム」などのジョン・ドーマンらが出演。(シネマトゥディより引用)

感想

ジョナサン・エイムズの原作小説を、「少年は残酷な弓を射る」のリン・ラムジー脚本・監督で映画化した本作は「21世紀のタクシードライバー」と賞賛され、カンヌ映画祭で男優賞と脚本賞を受賞したそうです。

僕は、本作がリン・ラムジー監督初体験なんですが、いくつかのレビューを読むと「レオン」(94)を絡めたレビューがあって、そのつもりで観たら確かに近いけど真逆な映画になってましたねー。

大人の少年と少女の物語

どちらも「大人の少年と少女の物語」という点は一緒なんですが、レオンがイノセントな存在として描かれているのに対し、ホアキン演じる本作のジョーは父からのDVによって少年時代(過去)から抜け出せずに苦しんでいる男なんですね。

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また、「レオン」は殺し屋レオンとマチルダの(精神的)恋愛を描いているのに対し、本作のジョーとニーナは心に傷を負った者同士であり、鏡合わせ的存在なのです。

女性の行方不明者捜索・救出のスペシャリストであるジョーがその職を選んだのは、元兵士として敵国で人身売買や理不尽な暴力に晒される少女や女性を救えなかった後悔からだし、彼が敵を殺すのにハンマーを使うのは父親がDVで使っていたからです。

そんなある日、彼のもとにアルバート・ヴォット上院議員から娘の救出依頼が。
誘拐されたニーナが高級少女売春宿で働かされているのが分かったのです。
しかし、議員は選挙中にその事実を明るみに出すわけにはいかず、ジョーに内密にニーナ救出を頼むわけです。
「奴ら(少女売春宿の連中や客)を“痛めつけて”くれ」という短いセリフに、議員の強い怒りが表されていましたねー。
そうして、ジョーはハンマー片手にニーナ救出に向かうのだが……という物語。

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この筋立てだけ見れば「あー、よく見るやつね」と思うかもですが、そこは「少年は残酷な弓を射る」で映画界をざわつかせたリン・ラムジー一筋縄ではいきません。

音楽のクセが凄い

本作でサウンドトラックを担当したのは、世界的人気を誇るロック・バンド「レディオヘッド」のグリーンウッド。
例えば、緊張感と不穏な空気が高まるシーンでは神経を逆なでするノイジーでメタリックな不協和音が鳴り響いたり、犯罪組織に迫るシーンでは、重低音が主人公の鼓動を表現するかのように高まっていったりと、一つ一つのシーンやカットと前衛的な音楽が完全にシンクロしてるんですよね。

かと思えば、年老いた母親とジョーのシーンでは、母親が「サイコ」を見ていたと言うとジョーが例のシャワーシーンの音楽を口真似したり、サミュエル・フラーの『裸のキッス』の音楽を使ってたり、自宅に乗り込んできた敵の男を瀕死の状態にしたジョーが、死にゆく男と二人で「I've Never Been to Me(愛はかげろうのように)」を口ずさんだり。

ちなみにこの曲の歌詞は、劇中の二人の状況としっかりリンクしてたりします。

ホアキン・フェニックスの肉体の説得力

普段はシュッとした美男子のホアキンですが、本作ではでっぷりとした贅肉をつけて白髪まじりの髭と髪も伸ばしています。
体重が重いこともあり、歩くときもドスドスした感じで、筋肉ムキムキボディではなく厚い贅肉の下にうっすら筋肉がみえる感じは、「きっとリアルに強い男の体って、こんな感じなんだろう」という説得力があるんですよね。

また、特殊メイクでつけたであろう背中の傷などは、彼が過酷な状況で生きてきた事をセリフや表情で“説明”するのではなく、映像で“語って”いるんですね。

映像で“語る”映画

本作はびっくりするくらいセリフが少ないし、回想の入れ方やカットの繋ぎ方なんかも普通の映画とはちょっと違ってて、そこに違和感を感じるんですね。
もちろんそれは意図的にそうしていて、観客が感じる違和感やある種の不快感は、ジョーの頭の中を映像化する試みなのだと思います。

幼少期のトラウマやPTSDに苦しむジョーの脳内を、(前述の音楽も合わせ)まるで悪夢の中をさまようジョーの脳内を観客に追体験させるように描いているんですね。

また、バイオレンスなアクションシーンをほぼ直接的に描かくことはなくて、例えば防犯カメラの映像で観せたり、殴られたり撃たれたりする相手が映らないようにしていたり。監督によると自身がアクションシーンを撮ったことがないってのもあったらしいですが、あえて暴力描写を見せないようにすることで、観客に想像させる狙いもあったみたいですね。

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これは、初期の北野たけし映画にも通じるメソットで、あえて暴力描写を直接的に見せないで、始まりと結末を見せることで暴力を想像させてるのです。

だからハリウッドアクション映画的な安易なカタルシスはこの映画にはないし、ジョーという男も少女を救うヒーローとしては描かれていません。

なので、「レオン」的な映画を望んで本作を観ると、肩透かしを食らっちゃうかもしれませんねー。

その辺が正直、個人的にこの映画が面白かったかどうかの判断に迷うところだったりしますがw

この映画だからなのか、リン・ラムジー作品だからなのかは分かりませんが、例えばハリウッドアクション映画が8ビートや16ビートの聞きやすいロックだとすると、本作は変拍子を多用するプログレ的?な音楽(あまり音楽詳しくないので例え的に間違ってたらスイマセン)で、最初は少々戸惑うかもですが、本作のリズムを掴んでくるとどんどん作品の世界に引き込まれて行くと思います。

興味のある方は是非!!!

 

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