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流石にそろそろいいよね「カメラを止めるな!」(2017)*完全ネタバレ感想

ぷらすです。

2017年、たった1館での上映から始まり、ネットの口コミによって上映館を増やし続けて累計上映館数は190館を超え、興行収入は31億円(制作費は約300万円)にも登るメガヒット作品となった『カメラを止めるな!

以前、ネタバレ無しの感想を書きましたが、全国映画館でも一通り上映されたしDVD発売&レンタルも開始して、さらには金曜ロードショーでの放映も終わったということで「もう流石にいいだろ!」と判断し、今回は完全ネタバレ感想を書きたいと思いますよー!(´∀`)ノ

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

監督・俳優養成の専門学校「ENBUゼミナール」のシネマプロジェクト第7弾となる異色ゾンビムービー。オムニバス『4/猫 -ねこぶんのよん-』の一作を担当した上田慎一郎が監督と脚本と編集を務めた。ゾンビ映画を撮っていたクルーが本物のゾンビに襲われる様子を、およそ37分に及ぶワンカットのサバイバルシーンを盛り込んで活写する。出演者は、オーディションで選ばれた無名の俳優たち。(シネマトゥディより引用)

感想

入れ子構造

本作の面白さは、物語が入れ子構造になっているということですよね。

まず、冒頭37分ワンカットで進むゾンビ映画としての第一幕

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過去に遡り、第一幕が劇中劇であることが分かる&その劇中劇制作までの経緯と主人公である監督家族の事情が分かる第二幕

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そして、数々の困難を乗り越えて、ワンカット生放送のゾンビ映画(テレビ番組)の裏側描いた第三幕。という、三幕構成

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そして、第一幕で感じる違和感と第二幕のドラマがすべて伏線であり、第三幕で張り巡らされた伏線をすべて回収していくという構成なんですね。

本作の評判を聞いて観に行った人たちは、恐らく冒頭37分ワンカットの劇中劇を観て、まず戸惑いますよねw
だって、映像もショボイし役者陣も知らない人ばかり。自主制作映画感丸出しなんですから。

でも、本作が監督・俳優養成の専門学校のシネマプロジェクトとして、低予算で作られた自主制作映画であることを事前に知って観に行った人は、そこで「まぁ自主制作だし…」と納得したのではないでしょうか?

ところが、本作の上田監督は、観客がそう考えるであろう事を織り込んで、物語を構築してるわけですよ!

つまり本作は、劇中劇「ONE CUT OF THE DEAD」を撮影する、監督が主人公の「カメラを止めるな!」を撮影している、上田監督を始めとした「ENBUゼミナール」のスタッフ・キャストたちまでを含めた、三層構造の作品でもあるわけです。

家族の物語

第2幕では、主役の監督家族の関係を中心に物語が進みます。

ここでの仕掛けは、世間の荒波に揉まれてクリエイティブを諦めた監督、役に入り込みすぎて暴走するため追放るも役者を諦めきれない妻、映像業界に入りたての新米ゆえにクリエイティブにこだわりすぎて空回りする娘と、家族三人が三層構造になっているわけです。

夢を追うあまり空回りする新人→夢を諦めきれずに燻っている元女優→夢を諦め請負仕事に徹する監督という、(おそらくは)クリエイターを目指す人の多くが通だろう挫折への道を段階的に三人の家族に振り分け、クリエイターの卵である娘と、先輩クリエイターである父親の確執を通して、普遍的な社会の縮図を、滑稽なコメディーとして軽妙に描いているんですよね。

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そんな監督に生放送ワンカットのゾンビドラマの監督という仕事が舞い込み、最初は断るも、娘が主演俳優のファンだと知って結局引き受けてしまうわけですが、この「生放送」という部分が本作のキモで、どんなトラブルに見舞われても途中で止める事もやり直すことも出来ない一発勝負という設定が、第三幕のドラマに直結していくわけです。

この設定がもう見事というほかありません。

そんなドラマにキャスティングされた役者たちは全員がクセ者揃い

やりたくない事は事務所のせいにしてNGを出しまくるアイドル。
すぐ演出に口を挟む意識高い系人気若手俳優
アル中で娘に愛想を尽かされているの中年男優。
気弱なメガネの若手俳優
細かな条件を複数指定してくる神経質すぎる俳優。
子持ちの人妻女優と、彼女に色目を使う男優。

もう、まったく上手くいく気がしないw

そんな懸念の通り、言うことやること全員バラバラで、監督のプランも全然上手くいかない。しかも、プロデューサー二人は超テキトーで全てを監督に丸投げ状態。

それでも放映日時は刻一刻と迫り、監督は妥協を繰り返しながらリハーサルを繰り返しての本番当日。

なんと、子持ち女優と男優が交通事故で来ることが出来ない状況に。まさに絶体絶命のピンチですが、ドラマを見学に来ていた監督の妻(密かに台本を読み込んでいた)と、監督自身が代役を務めることで何とか本番スタート。

伏線全回収、そして感動のクライマックスへ

そして、トラブル続出の第三幕では。第一幕の「ONE CUT OF THE DEAD」の裏側を描きながら、第一幕、第二幕で無数に張り巡らされた伏線を(ほぼ)すべて回収

そして第二幕での父娘関係の方も、撮影続行か中止かというピンチの中で決断を迫られる監督が中止=膝を折りそうになった瞬間、娘の機転によって再び立ち上がるわけです。

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おいおい、サイコーかよ!!(嬉

第二幕でバラバラだった監督父娘、キャスト・スタッフが数々のトラブルを乗り越えて、最後は一致団結して“映画”を作り上げることで、(クリエイターとしては)負け犬だった監督が、小さな自己実現を成し遂げるんですね。

つまり、この映画は「クリエイター版ロッキー」であり「やるかやらないかを迫られ、“やる”を選んだ男の物語」なのです。

洋画的ストーリーテリング

とはいえ、こうした「入れ子構造」のストーリー自体は、それほど珍しいものではありません。現に、本作も上田監督が見た「GHOST IN THE BOX!」という舞台劇から着想を得ているらしいですし。

そして、前半で張られた伏線を後半で回収することでカタルシスに持っていく作品は、邦画洋画問わずいくつもあります。

ただ、そうした脚本の構造や手法を通して、その奥にあるテーマを語れるところまで辿り着く作品は少なく、(僕の知る限り)邦画での成功例はさらに少ない。

本作でそれが出来ているのは、脚本が洋画的文法で作られているからです。
これがもし、凡百の邦画監督なら、第2幕の父娘の確執を描く件で父娘の心情をセリフで言い合わせたり、ラストシーンでも父娘が和解した事が分かるセリフを入れるでしょう。
もちろん、全ての邦画がそうだという訳ではないけど、昨今のテレビドラマ文法で作られた映画の多くは、大事な事は全てセリフでキャラクターに言わせ、あわよくば“泣かせる”シーンをぶっこみたがる傾向が強いですよね。

なぜなら作り手側が観客を信用してないから。

役者の顔や動きで観客が既に理解している部分を、さらにセリフで説明するのは、昨今の邦画の悪癖だと個人的に思うし、キャラクターの心情から映画のテーマまで全部セリフでキャラクターに言わせるのは最早、病理と言えるんじゃないかと。

で、それをしている間(大抵の場合は)物語の流れが止まって退屈な映画になってしまう

対して本作は、役者の動きや表情で心情を見せ、テーマとクライマックスが直結しているので余分なセリフは殆どいらない。だから常に物語の流れを止めず、クライマックスに向かってどんどんスイングしていくわけです。

映画においてキャラの心情やテーマはベラベラ語るものではなく、ストーリや映像に織り込んで観客が見つけるものだということを、上田監督は分かっているのです。

また、本作をコメディーにしたのも秀逸で、第三幕では第一幕の違和感の謎解きを、スラップスティック(ドタバタ)コメディーとして見せていくし、物語がウェットにならないので観客は最後に「面白かった」という後味と小さな感動を持ち帰るんですね。

本作は、ぱっと見低予算のコメディーだけど、その奥には観客の思い込みまでを計算した多重構造の脚本と、映画の本質を理解した演出、そして決して有名ではないキャストやスタッフの情熱が結実した奇跡のような作品なんですね。

 ではではー(´∀`)ノ

 

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