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人間の業を戦争という鍋で煮込んだような映画「戦争のはらわた」(1977)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、バイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパー監督の戦争映画『戦争のはらわた』ですよー!
タイトルは知ってたけどドイツ軍が主役の映画だという内容は全く知らずに観たので、最初はかなり混乱してしまいましたねー(〃ω〃)>

というわけで、今回は昔の映画なのでネタバレ全開で書きますが、まだ未見の人でネタバレなしで本作を観たい人は、先に映画を観てからこの感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

第二次大戦中、ドイツの敗色が見え始めた1943年、ロシア戦線。ドイツ軍の一中隊を舞台に、人間味ある伍長と冷徹な中隊長との確執、最高の名誉とされた“鉄十字章”をめぐるドロドロの人間模様を、ペキンパーが大迫力で撮り上げた大作。(allcinema ONLINE より引用)

感想

本作はイギリス・西ドイツ合作で、第二次世界大戦中の1943年、ドイツ軍とソ連軍が激戦を繰り広げた東部戦線を、ドイツ軍の視点で描いた作品なんですね。

サム・ペキンパー監督作ということやタイトルは知ってたんですが、恥ずかしながら内容を全く知らない状態で観たので最初はかなり混乱したし(米軍を描いた映画だと思ってた)、登場人物もかなり多いのでキャラクターや状況が掴みきれず、ウィキペディアのあらすじを読んでやっと「そういう映画だったんだ」と理解しましたよ。(〃ω〃)>

ストーリー

東部戦線はドイツを中心とした枢軸国とソ連軍が激突。
東ヨーロッパ全域を巻き込み両軍合わせて4000万人近い死者を出した史上最悪の地獄の戦線と言われているそうです。
本作はドイツ軍の敗戦濃厚な東部戦線末期が舞台。
クリミア半島東隣のタマン半島ソビエト軍と対峙しているドイツ軍のクバン橋頭堡に、西部戦線のフランスからシュトランスキー大尉(マクシミリアン・シェル)が志願して着任してくるわけですが、この男は貴族で名誉欲が強い嫌な奴なんですよね。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 名誉を求めて東部戦線に志願してきたシュトランスキー

一方、クバン橋頭堡には兵士や上官からの信頼は厚い英雄シュタイナー伍長ジェームズ・コバーン)という男がいて、彼は旗色の悪いドイツ軍の中で小隊を率いて戦績を上げている超有能な男。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 仲間からの人望が厚い英雄シュタイナー

会社で言えば親のコネで幹部になったバカ息子と、長年会社を支えてきた叩き上げの現場監督みたいな感じですかね。

そんな対照的な二人は、いきなりソ連軍少年兵捕虜の扱いや行方不明となった部下の捜索を巡っていきなり対立。
しかし、どうしても武勲を上げて鉄十字勲章が欲しいシュトランスキー大尉は、(内心で疎ましく思いながらも)シュタイナーを曹長に昇格させ懐柔しようとしますが相手にされません。

そしてシュトランスキーに射殺を命令されていた少年兵捕虜を、シュタイナーが独断で逃がそうとしたその時、ソ連軍の攻勢が始まり少年兵は味方に誤射され死亡。

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画像出典元URL:http://eiga.com / シュタイナーが逃がした途端殺されてしまうソ連軍少年兵捕虜
最初男装した女優かな? と思ったけど、調べたらちゃんと男の子でした。

実戦経験のないシュトランスキーは狼狽し、本部への野戦電話にしがみついて地下壕から出ようとせず、シュタイナーたちの信頼が厚い第2小隊長マイヤー少尉は、塹壕での白兵戦で戦死。シュタイナーは部下を率いて善戦するも、砲撃の爆発で脳震盪を起こし後方の病院へ送られてしまいます。

洗浄の後遺症でフラッシュバックによる幻覚を見るなどダメージの大きいシュタイナーは軍から鉄十字勲章を貰い、恋仲になった看護師のエヴァとドイツへ戻り療養する予定でしたが、前線に戻る同僚とともに復帰。

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画像出典元URL:http://eiga.com /シュトランスキーが喉から手が出るほど欲しがってる鉄十字章

帰隊すると、シュトランスキーが実際に防戦を指揮して戦死したマイヤー少尉の手柄を横取りして鉄十字章を得るための推薦をシュタイナーに求めて「あなたに鉄十字章はふさわしくない」と吐き捨てられます。

その腹いせにシュトランスキーは、再びソ連軍の大攻勢が開始された時に連隊本部の撤収をシュタイナーの小隊に知らせず最前線に置き去りに。
さらに戦況が危ういと見ると自分は人事に働きかけて、一週間後には安全なパリへ異動できるように内定をとりつけるわけです。

一方、地図やソ連軍の制服を手に入れ、敵をだまし討ちしたりしながら自軍陣地に戻ってきたシュタイナー小隊。
ソ連軍と間違われないように通信機で自軍に「境界線 シュタイナー」という暗号つきの通信を送るも、運悪く、それを聞いたのがシュトランスキー。

彼らが戻ってくると、置き去りにしたことがバレてしまうので、(ゲイであるという)弱みを握って手駒にしていた部下に命令し、ソ連軍の罠だということにして戻ってきた小隊に向けて発砲を命令、小隊の隊員たちは味方によって次々撃ち殺されてしまいます。

目の前で部下を殺されたシュタイナーはブチ切れ、シュトランスキーの部下を射殺。
シュトランスキーに“借り”を返しに行くんですが、その時再びソビエト軍の大攻勢が再開され――というストーリー。

貴族のボンボン士官と叩き上げの下級兵士という相対する二人の生き様をメインに、他のキャラクターのサブストーリーを絡ませることで、人間の持つあらゆる“業”を戦争という鍋でグツグツ煮込んだような映画になってると思いました。

さらに、シュトランスキーも単なる悪役ではなく、その背景には名誉の証(鉄十字章)がないと帰れないと本音を語るシーンがあり、貴族ゆえのプレッシャーや悲哀みたいなものも描いているのが結構フェアだなーと思いました。

ただ、キャラクターが全員ドイツ人なので、字幕を読んでいても名前が頭に入ってこないし、登場キャラクターも多く、ペキンパー独特の短いカットを繋ぐ編集で(今見ると)構成的にも整理されてない印象なので、ある程度、物語のあらすじや背景を知ってから観ないと、置いてきぼりにされてしまうかもしれません。(僕みたいに)

シュタイナー=サム・ペキンパー

ジェームズ・コバーン演じるシュタイナーは、はみ出しものを集めた小隊を率いて戦績を挙げる有能な兵士で、兵士たちからの人望も厚い高潔な男。
一方で、上官には逆らうし独自の判断で動く、上層部から見ると扱いづらい兵士でもあります。

しかし、そもそも(イギリスと共同制作とはいえ)ドイツの映画をなぜアメリカ人監督のサム・ペキンパーが撮影したのかという疑問もありますよね。

映画評論家の町山智浩さんの解説によれば、本作のスポンサーは西ドイツのポルノ王なんだそうです。
ポルノで大儲けしたドイツ人のプロデューサー、ウォルフ・C・ハルトウィッヒが、そのお金でドイツ人が活躍する戦争映画を作ろうと思い立ちます。

一方、サム・ペキンパーはバイオレンスアクションの巨匠として知られてるんですが、映画作りに妥協をしないのでハリウッドスタジオと折り合いが悪くなっていて、映画が撮れなくなっていたらしいんですね。

そこに、本作の話がきたので監督を引き受けたんですが、(映画を観ると分かりますが)とにかく大量のフィルムを回し、大量の火薬を使いまくって本物の戦場みたいな状況を作ったせいで資金が底を突いてしまったので、日本の松竹富士から資金を調達してスタッフ・キャストの食費を削りながら何とか作り上げたんだそうです。

ハリウッドに疎まれながらも自分の信念を曲げずに作品を作るペキンパーは、上司に疎まれながら戦場で信念を曲げなかったシュタイナーに自分を重ねていたのかもしれませんね。

迫力満点の戦闘シーン

それだけに、本作の戦闘シーンは迫力満点。

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画像出典元URL:http://eiga.com /ぎゃー!

ホントに人死が出てるんじゃないかと心配になるくらい爆発シーンが満載だし、敵に打たれて有刺鉄線に突っ込む兵士や、大量のソ連兵が塹壕に入り込んでくる肉弾戦。

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画像出典元URL:http://eiga.com /イタタタ!!

挙句、本物のT-34戦車が走り回るっていう、そりゃぁお金もなくなるのも納得の大迫力です。

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画像出典元URL:http://eiga.com /T-34!!

戦闘シーンの迫力で言えばコッポラの「地獄の黙示録」やスピルバーグの「プライベート・ライアン」にも引けを取らないんじゃないかと思いますねー。

一方でメッセージ性も強く、冒頭ではドイツの古い童謡「Hänschen klein」(訳:「幼いハンス」)に合わせて、ヒトラーナチス、実際の戦争のアーカイブ映像を流し、ラストではソ連軍の侵攻を食い止めるため、ついにシュトランスキーは自ら銃をとるもののマガジン交換もままならない様子を嘲笑うシュタイナーのバックでこの曲が流れます。

「Hänschen klein」は日本では「ちょうちょう」という唱歌(「ちょうちょちょうちょ菜葉にとまれ」っていうアレ)として知られていますが、原曲では1番で旅に出る幼いハンスを見送る母を、2番で7年の放浪と遍歴の末に大人になるハンスを、3番では故郷に戻ったものの、あまりの変わり様にだれにも分からないけれど、再会した母親はだけはすぐにハンスだと分かってくれた。という内容。

これはもう、意図的に歌詞中のハンスを兵士に見立てた演出で、変わり果てたハンスは、戦争ですっかり別人のようになってしまったor死体になって帰ってきたという風にも取れてしまいます。(中盤、シュタイナーが入院した病院では、手足を失ったり顔に大きな傷を負った負傷兵が出てくる)

また、ラストでは(おそらく)シュタイナーもシュトランスキーも戦死するわけですが、高潔な男も卑怯者も等しく死んでいく戦争の諸行無常も描いているのだと思いますねー。

もう一つ驚いたのは、シュタイナーもシュトランスキーも、前線にいる兵士のほとんどがヒトラーナチスを嫌っているということ。

もちろん戦後のドイツ映画だからってのもあるんでしょうが、ナチスはそもそもナチス党であって、ドイツ人にもナチス党員でない兵士もいるというのは、当たり前といえばそうなんですが、なんとなくドイツ=ナチスと思い込んでいた僕には新鮮でしたねー。

古い映画なので映像がかなり荒かったりしたらしい本作ですが、現在レンタルされているのは大体リマスター版で映像的に見やすくなってるので、未見の人はこれを機に観てみるのもいいかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

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