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身も蓋もないくらいに愚かで、痛々しいくらいに剥き出し「愛しのアイリーン」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「宮本から君へ」などで知られる漫画家、新井英樹の同名漫画を、本作の熱烈なファンである吉田恵輔監督が実写映画化した『愛しのアイリーン』ですよー!

個人的に、異常に熱量が高く叩きつけるような絵柄と、人間の暗部を剥き出しのまま描く物語が苦手で、新井英樹さんのの漫画は読んだことがありません。
なので、本作も原作未読の状態で観たんですが、ただただ圧倒されてしまいましたねー。

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

漫画家・新井英樹の原作を、この作品に大きな影響を受けたという『ヒメアノ~ル』などの吉田恵輔が映画化。『俳優 亀岡拓次』などの安田顕が、フィリピンの女性と結婚する主人公を演じる。すご味のある母親を『ハローグッバイ』などの木野花、謎のヤクザを『あしたのジョー』などの伊勢谷友介が好演。(シネマトゥディより引用)

感想

吉田恵輔監督の作品では、本作と同じく漫画原作の「ヒメアノ~ル」を観たんですが、とにかくインパクトが強くて。
しかも本作はチームナックスの“ヤスケン”こと安田顕が主演ということもあって「だったら観てみようか」と今回レンタルしてきました。

先にざっくり感想を言うと、安田顕木野花、フィリピン人女優のナッツ・シトイの、文字通り鬼気迫る演技に、ただただ圧倒されっぱなしの137分でした!

ざっくりストーリー紹介

42歳になるまで実家暮らしで、恋愛とは無縁だった独身の岩男(安田顕)が、失恋&父親とのケンカを機に貯金の450万をはたいて「フィリピン人との国際結婚ツアー」に参加。フィリピン人のアイリーンと半ば自暴自棄に結婚し家に戻ると、父親の葬式の真っ最中だった。

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突然ガイジンの嫁を連れてきた岩男に母ツル(木野花)は激高し、亡き夫のライフル銃を持ち出し大騒ぎとなり、家に戻れない二人はラブホテルを転々とする生活をしながら少しづつ距離を縮めていく。

その間、ツルは二人を別れさせ、友人から紹介された女性を岩男の嫁にするため、フィリピン女性を相手に女衒を営む塩崎・ホセ(伊勢谷友介)と結託。
一旦は二人を許したフリをして油断させ、岩男が出かけている隙にホセにアイリーンを誘拐させようとする。

その時、岩男が帰ってきて――というストーリー。

つまり、本作のテーマを一言で言うならディスコミュニケーションで、岩男、アイリーン、ツルの三人それぞれのすれ違いが、悲劇的かつ凄惨な結末へと繋がっていくわけですねー。

身も蓋もないくらい愚かで、痛々しいくらい剥き出し

そんな本作に登場するキャラクターは、どいつもこいつもホントどうしようもなくて、“正しい人”は一人も出てきません

岩男の働くパチンコ店に務める子持ちの女性(旦那は刑務所に収監中?)は、子供を家に置いて店長とセフレになったり岩男を誘惑しきたり。
店長は行きつけのフィリピンパブで女性を買いまくり、フィリピンパブで働く女性たちも当然のように客相手に売春して稼ぐ。

その斡旋をしてるのは店長で岩男の結婚ツアーも彼の手引き。
フィリピン女性と日本人男性の間に生まれたホセは、蒸発した父親や世間の偏見や差別を憎みながら、フィリピン人女性をそうした店に送り込む女衒の仕事をしています。

そして、岩男の母親ツルは、息子の結婚を願いつつも、相手は自分の気に入った女性以外認めないし異常なほど過干渉。

でも、こういう母子はきっとたくさんあるし、フィリピンパブで売春斡旋も(多分)普通にあるし、嫁の来てがなくてアジアの国に嫁探しのツアー(という名の人身売買)なんてのもよく聞く話。
フィリピン女性の“出稼ぎ”には当然ホセのようなブローカーも絡んでいるんでしょう。

つまり、本作で描かれているのは決して荒唐無稽な話ではなく、今現在、日本各地で起こっているであろうリアルな現実なんですよね。

それを、吉田監督は(20年以上前の漫画を原作にして)、身も蓋もないくらい愚かに、痛々しいくらい剥き出しに「現在進行形の日本」を描いているんですね。
そういう意味で本作は(僕は原作漫画は未読なのでハッキリとは言えませんが)多分、原作の本質にものすごく忠実なんだと思います。

本作の映画評でよく目にするのは「不器用」という言葉なんですが、本作で描かれている人たちは「不器用」なんて生易しいものではなく、それ以外の選択肢がないし、それしか考えられない環境に置かれているんじゃないかと。

ヤスケン木野花、ナッツ・シトイの鬼気迫る演技アンサンブル

そんな本作の白眉は、主演の安田顕、ツル役の木野花、アイリーン役のナッツ・シトイの文字通り鬼気迫る演技アンサンブルです。

原作の岩男とは見た目は全然違うヤスケンすが、ルサンチマンを抱え捻れまくっている(けど純粋な)岩男は、まさにヤスケンのためにあるようなハマリ役で、「オマ〇ゴーー!!」と叫ぶヤスケンの迫力は(多分)原作の岩男そのものなんじゃないかと思います。

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木野花演じるツルも、原作ではかなりパンチの効いた風貌のキャラですが、そこはベテラン女優の木野花だけあって、「県民ショー」や他のドラマのイメージとは全く違うエキセントリックな母親を、観客の度肝を抜くほどの迫力で演じているんですね。

逆にアイリーン役のナッツ・シトイは、まさに漫画から抜け出てきたという表現がピッタリ。カタコトの日本語で話す時は原作通り少女のように天真爛漫に、しかしタガログ語や英語で話し出すとしっかり年相応の女性に見えるように演じ分けています。

そんな三人の演技アンサンブルは、中盤まではコミカルかつロマンチックに、しかし後半の“アイリーン誘拐事件”を経て、どんどんドライブがかかって観客を劇中に引きずり込んでいくのです。

最初は家族への仕送りのために結婚したアイリーンと、とにかくセックス目的でアイリーンを“買った”岩男ですが、一緒に過ごすうち徐々に距離は縮まっていき、愛情めいたものが芽生えてきます。

それが極に達するのが、二人で花火を見て、繁華街をぶらつきながら会話とキスを交わす美しいシーンと、アイリーン誘拐事件の顛末を経ての凄惨なセックスシーン。
そして「このまま幸せになっていくのかな?」と思わせておいて二人の歯車が決定的に狂っていく――という怒涛の後半。

そして「もう! なんでだよーー!ι(`ロ´)ノムキー」と思ったところで分かる岩男の本当の気持ち。

一方で、一見アイリーンに対し暴君のように振る舞いながらも、自分の生きた時代の価値観と経験でしか物事を測れない母親の、愚かだけど悲しい性もしっかりと描かれているんですね。

極めてミニマムな物語でありながら、その向こうには今の、そして未来の日本が抱える病巣が見える多重構造になっていて、なんていうか、僕の拙い語彙ではこの映画を上手く言い表す事が出来ないです。

もちろん伏線の張り方があからさま過ぎるとか、いくら文化が違っても葬式はわかるだろとか、作劇のアラがないわけではないけど、それらはヤスケン木野花、ナッツ・シトイの熱演でカバーされている……というか、圧倒されちゃって気にならなくなってしまいます。

とはいえ、女性目線で観れば決して楽しいストーリーではないし、むしろ嫌悪感を持つ人がいるのも当たり前な映画なので、そういう意味では観客を選ぶ映画なんじゃないかと思ったし、積極的にオススメは出来ないかもですね。

ただ、この映画は確かに強烈で凶悪、凶暴で最悪ではあるけど、その奥にある「何か」を描いた純愛映画なのだと僕は思うし、好き嫌いはともかく観るべき価値のある映画だと思いましたねー。

興味のある方は是非!!!

 

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