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イーストウッドの遺書的な作品「グラン・トリノ」(2009)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、クリント・イーストウッド監督・主演作『グラン・トリノ』ですよー!

一時期、イーストウッド作品を何本か観てた時に、この作品も観たとすっかり思い込んでいたんですが、電子書籍を出す時にブログを読み返していたらまだ観てなかった事に気づいて、今回レンタルしてきました。

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概要

ミリオンダラー・ベイビー』以来、4年ぶりにクリント・イーストウッドが監督・主演を務めた人間ドラマ。朝鮮戦争従軍経験を持つ気難しい主人公が、近所に引っ越してきたアジア系移民一家との交流を通して、自身の偏見に直面し葛藤(かっとう)する姿を描く。イーストウッド演じる主人公と友情を育む少年タオにふんしたビー・ヴァン、彼の姉役のアニー・ハーなどほとんど無名の役者を起用。アメリカに暮らす少数民族を温かなまなざしで見つめた物語が胸を打つ。(シネマトゥディより引用)

感想

頑固なクソじじいと内気な小僧の交流と伝承の物語

本作はイーストウッド作品の中でも特に評価が高い1本です。

タイトルとなったグラン・トリノは 1972年から1976年に生産されたフォードのフォード・トリノという車の名前で、「ダーティー・ハリー3」でイーストウッド演じるキャラハン刑事が乗り回していた車でもあるらしいです。

長年連れ添った奥さんを亡くしたポーランド系米国人で元自動車工の老人ウォルト・コワルスキーは息子や孫との関係も悪く、誰彼構わず毒づき、近所に住み始むモン族(ベトナムラオス、タイの山岳地帯にすむ民族集団)の人たちを“ネズミ”呼ばわりするような頑固なクソじじい

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そんなある日、悪い従兄弟に無理やり逆らえずウォルトの愛車グラン・トリノを盗もうとした隣人の少年タオを救った事から隣人一家との交流が始まり、やがて凝り固まったウォルトの心も少しづつ和らいでいくのだが――というストーリー。

頑固ジジイが若者との交流を通じて精神性を伝承していくというテーマはイーストウッドが中年のアル中歌手レッド・ストーバルを演じた1982年の作品「センチメンタル・アドベンチャーと共通しているし、もう一つの“贖罪”というテーマは1992年の許されざる者に共通しています。

対比構造

ウォルトが頑なに人を遠ざけるようになった原因は、どうやら自身の朝鮮戦争出兵という過去に起因しているらしいんですね(今風に言うならPTSD)。

ご近所に住むモン族の人々は、ベトナム戦争アメリカに協力したことで自国を追われた人々であり、ウォルトと近所に住むモン族は対比構造にあります。

その上で、息子や孫たちとの折り合いが悪く孤独なウォルトに対して、モン族の互助的コミュニティーの繋がりの強さや、マッチョなアメリカ人のウォルトと内気で奥手なモン族の少年タオ・ロー(ビー・ヴァン)もまたカルチャー&ジェネレーション双方で鏡像関係にあると言えます。

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そんな二人を繋げるのが、タオの勝気で今時な姉のスー(アーニー・ハー)。
この二人を悪い従兄弟や輩どもから守った事で、ウォルトは隣人たちに認められるようになり、付き合いを深めるうちにウォルトもまた隣人たちの人となりを好ましく思うようになるのです。

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愛車の盗難未遂という最悪な出会いをしたウォルトとタオでしたが、モン族の掟でタオがウォルトの手伝いをするうち、二人が徐々に打ち解けて本当の祖父と孫のようになっていき、奥手なタオに毒づきながらも面倒を見るウォルトの様子は、ベタだけど何とも微笑ましい。けれどそのシーンも必要以上にベタベタと描かずサラリと見せるあたりはイーストウッドらしいなーと思いました。

しかし、その一方でウォルトの体は病に冒されて余命幾ばくもない事が分かり、またウォルトの紹介で仕事をするようになったタオがリンチを受けた悪い従兄弟に脅しをかけたことが裏目にでて物語は急変。

物語はクライマックスへと向かいます。

そう書くと、クリント・イーストウッドを知る人なら当然、悪い従兄弟たちを皆殺しにする「許されざる者」的な展開になると思われるかもですが、隣人たちの幸せを踏みにじった従兄弟たちとどう対峙するかは是非、映画本編でご覧ください。

イーストウッドの遺書

映画作家晩年の作品には、遺書とも言える作品が必ずあります。
黒澤明なら「夢」だし、アレハンドロ・ホドロフスキーなら「リアリティーのダンス」「エンドレス・ポエトリーだし、宮崎駿なら「風立ちぬ高畑勲なら「かぐや姫の物語とか。

イーストウッドの場合、最初の遺書的な作品は「センチメンタル・アドベンチャー」で、そこから約10年後に更新されたのが本作ではないかと思われます。(さらに10年後の今年公開された「運び屋」で更新されるわけですがw)

朝鮮戦争従軍というウォルトの経歴は、イーストウッド自身の経歴とも重なるし、ウォルトはこれまでイーストウッドが演じてきた数々のキャラクターや、自身の人生ともリンクする部分が少なくありません。

本作の公開時イーストウッドは79歳なので、この作品を自身の集大成に――と考えていてもおかしくないですよね。

それに、本作の主人公ウォルトは饒舌に自身の心情を語ります。
朝鮮戦争で多くの敵を殺したこと、その事で深く傷つき自己嫌悪することで子供達とも上手く接することが出来なかったこと、若い神父やクライマックスでのタオに向けてのセリフなどなど。

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もちろん脚本あってのセリフでしょうが、イーストウッドの他作品と比べるとかなりストレートなセリフを話しているし、そのセリフの端々に彼自身のメッセージが込められているようにも見えるんですよね。

まだ未見ですが、それから更に年齢を重ねた主演作「運び屋」の主人公もまた、かなり饒舌なキャラクターらしい事を考えれば、やはり本作は(当時の)イーストウッドの遺書なのだと思うのです。

つまり、ウォルトのセリフや行動にイーストウッド自身が乗っかっているから本作は多くの観客の心を打ち、イーストウッド作品の中でも評価の高い一作となってるんだと思います。

興味のある方は是非!!

 

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