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反骨精神溢れる“奇作”「パンク侍、斬られて候」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは昨年公開された綾野剛主演の時代劇『パンク侍、斬られて候』ですよー!

狂い咲きサンダーロード」や「爆裂都市 BURST CITY」の石井岳龍(聰亙)監督と、“クドカン”こと宮藤官九郎がタッグを組み、パンクロッカー出身の芥川賞作家である町田康の同名小説を実写映画化し、綾野剛浅野忠信染谷将太ら豪華キャストが出演する事でも話題を呼んだ本作は、疾走感が溢れ熱量の高いカオスな奇作でしたねー。

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概要

芥川賞作家・町田康が執筆した、江戸時代が舞台の人気小説を映画化。規格外の能力を持つがいいかげんな侍である主人公・掛十之進には綾野剛がふんし、自らがまいた種で起こる騒動に翻弄(ほんろう)されるさまが描かれる。『謝罪の王様』などの宮藤官九郎が脚本を手掛け、『シャニダールの花』で綾野と組んだ石井岳龍監督がメガホンを取る。共演は、北川景子東出昌大染谷将太浅野忠信、渋川清彦、國村隼豊川悦司ら。(シネマトゥデイ より引用)

感想

“あの”石井岳龍監督作

日本大学藝術学部映画学科の卒業制作として発表したインディペンデント映画「狂い咲きサンダーロード」で一躍インディーズ界の旗手となった石井聰互。
その後「爆裂都市 BURST CITY」や「逆噴射家族」など斬新で前衛的なアクション映画で80年代に活躍し、当時の若者を中心に絶大な人気を誇ったスター監督の一人です。

その後、2010年に石井“岳龍”に改名してからも、ドラマやPV、映画監督として第一線を走り続けているトップランナーなんですね。

僕は特別に石井監督のファンというわけではないけど「狂い咲きサンダーロード」や「爆裂都市 BURST CITY」の名前は知っているし、「逆噴射家族」はレンタルビデオで何度も観ました。

そんな石井監督がメガホンを取り、クドカンこと宮藤官九郎の脚本で町田康の同名小説を実写映画化。しかも綾野剛を始め人気俳優を揃えた(邦画としては)ビックバジェットな作品ということで、公開時はそれなりに気になってはいたんですよね。

ただ、原作を読んだわけではないし、ドラマはともかくクドカンの映画作品は正直あまり得意ではないこともあってスルーしてたんですが、今回、たまたまTSUTAYAで目の止まったので思い切って観ることにしたわけです。(前置きが長いw)

正直に言えば序盤から中盤までの、時代劇なのに現代語や横文字が飛び交うあまりに突飛な世界観に「あー失敗したかなー」って思いながら観ていたわけですが、後半一気にエンジンがかかり、アクセル全開でひたすらカオスに向かっていく超展開に、いつの間にか物語に引き込まれてしまいましたよ

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セコい嘘やハッタリを発端に、やがて事が大きくなりどんどん収集がつかなくなっていく様子を、日本の政治や民衆のメタファーとして描く展開はどうも原作小説に忠実らしいんですが、同時に石井監督の反骨精神や怒りが爆発しているようにも見えました。

それでいて、風呂敷を広げるだけ広げておいて何だか有耶無耶に終わって観客を煙に巻くラストは、商業映画とインディ映画を行き来しながらキャリアを重ねた監督ならではの老獪さも見え隠れしてましたねー。

そこにクドカンらしいポップでオフビートな悪ふざけノリや、町田康のぶっ飛んだ設定がミックスされることで、今のご時世には中々観ることの出来ない、とんでもないカルト映画になったのだと思います。

石井岳龍版「平成狸合戦ぽんぽこ」?

そんな本作のストーリーをざっくり紹介すると、江戸時代とある街道で、自らを「超人的剣客」と豪語する浪人・掛十之進(綾野剛)は突然、巡礼の物乞いの老人を斬り捨てます。
偶然居合わせた黒和藩の藩士長岡主馬が理由を聞くと、彼は「この者はこの地に恐るべき災いをもたらす“腹ふり党”の一味である」と言い放つんですね。

しかしそれは、士官したい十之進のハッタリ。
それを次席家老の内藤帯刀(豊川悦司)にアッサリ見抜かれ、敵対派閥の長である次席家老の大浦主膳(國村隼)を失脚させる陰謀に協力させられる事になった十之進が、嘘に嘘を重ねるうちに、やがて誰も予想だにしなかった大事に発展していき――という物語。

実は党首がとっくに捉えられ処刑された腹ふり党は既に壊滅していて、内藤はつじつま合わせのために、元幹部の茶山半郎(浅野忠信)に“ネオ腹ふり党”を組織させようとするわけですね。

そこに、人語を話す猿(永瀬正敏)やら、サイコキネシスを操るオサム(若葉竜也)やら、トンデモキャラによるトンデモ超展開が次から次へと巻き起こっていくわけです。

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で、僕はこの作品を観ながら、高畑勲監督の「平成狸合戦ぽんぽこ」を思い出してたんですよねー。

いや、ストーリーも展開もまったく違うんですけど、作品に内包される精神性というか、それこそ反骨精神だったり、現代社会への批判や皮肉の入れ方だったり。
ご存知の方も多いと思いますが、高畑監督ってある意味でガチ中のガチじゃないですか。

一見、宮崎駿の方がエキセントリックな人に見えるけど、実は高畑勲の方がずっとヤバイっていう。

もちろん世代も背景も違う高畑監督と石井監督ですが、両者が内に秘めているパンク的な精神性は、実はかなり近いんじゃないかって本作を観て思ったし、寓話の中に世の中に対する痛烈な批判やメッセージを込めている「平成狸合戦~」と本作は(諦観も含めて)かなり近いものがある気がするのです。

まぁ、まったく見当はずれかもですが。

面白いかは別問題

じゃぁ本作は面白かったんですかと聞かれると、それとこれとは別問題でしてw
そもそもこの作品を時代劇だと思って観ると肩透かしを食らってしまうので、僕は割と序盤で江戸時代風の異世界ファンタジーだとチャンネルを切り替えて観てたんですよね。

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それでもストーリー上のアラはどうしても見えてしまうし、奇抜なキャラクターを演じる役者が奇抜な演技をしたり、面白シーンで変顔や変な行動をする、宇多丸師匠言うところの「ベロベロバー」演技には正直辟易してしまう。

原作小説のト書きをそのままナレーションとして使って、ちびまる子ちゃん的な感じでツッコミを入れるっていう手法は少しなら面白いかもだけど、全編それでやられると正直しつこいしイラっとしてしまいます。

そういうアレコレを加味すると、“映画”としては正直、微妙だなーって思うんですよね。
ただ原作付きとは言え、今のご時世にこれだけぶっ飛んだ珍作というか奇作を(邦画としては)ビックバジェット作品として仕上げて公開できたという事実は、邦画界にとっては明るい話なのではないかなと思ったり。

それもただバカバカしいだけのコメディではなく、その中に前述したような批判やメッセージを織り込んで物語に奥行きを出した石井監督の手腕は、個人的には好ましく思いましたねー。

興味のある方は是非!!

 

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