ぷらすです。
今回ご紹介するのは、「セッション」「ラ・ラ・ランド」デイミアン・チャゼル監督最新作『ファースト・マン』ですよー!
僕のチャゼル監督の印象は「迫っ苦しい映画を作る人」だったんですが、本作はまさにそんなデイミアン・チャゼルが極まった感じの作品でしたねーw
画像出典元URL:http://eiga.com
概要
『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングが再び組んだ伝記ドラマ。人類初の月面着陸に成功したアポロ11号の船長ニール・アームストロングの人生を描く。ジェイムズ・R・ハンセンの著書を『スポットライト 世紀のスクープ』などのジョシュ・シンガーが脚色した。共演は『蜘蛛の巣を払う女』などのクレア・フォイ、『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェイソン・クラークとカイル・チャンドラーら。(シネマトゥデイより引用)
感想
デイミアン・チャゼル極まれり!
本作の監督デイミアン・チャゼルと言えば「セッション」「ラ・ラ・ランド」と、新作が公開されるたび評論家の菊地成孔さんと町山智浩さんがバトルを始めることでお馴染みの監督。
僕も一応両作とも観ているんですが、どちらかというと苦手な監督だったりします。
その理由としては、どちらも内に内に篭っていく感じというか。
この人、1度に2人しか登場人物が描けないのでは?と思うくらい物語が小さいし、とにかく「迫っ苦しい」んですよね。
そんなチャゼル監督の最新作は、人類で初めて月に降り立った男ニール・アームストロング船長(ライアン・ゴズリング)の伝記映画。
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X-15航空機のコックピットからスタートし、ジェミニ8号、アポロの驚くほど狭いコックピットの映像がこれでもかと観客に圧をかけてくる、まさに「デイミアン・チャゼル極まれり!」という作品でしたねー。
しかしそれは決して否定的な意味ではなく、“狭小映画の旗手”であるチャゼル監督が、ついに自分の素質を存分に活かせる作品に出会ったという事でもあるのかなと。
また本作の主人公であるニール・ストロング船長は、これだけの偉業を残しながら映画化されたのは今回が初めてなんだそうで、(世間的には)感情を表に出さない=面白くない人=映画向きではないというイメージがあったのかもしれませんが、むしろそんな人物だからこそ、チャゼル監督作品の主人公としては最高だったのでは思ったりしました。
逆に、ニールとともに月面を歩いたバズ・オルドリン(コリー・ストール)は、空気の読めない嫌なヤツとして描かれていて「チャゼル、バズのこと嫌いすぎだろ」って思いましたねーw
画像出典元URL:http://eiga.com / ニール船長を差し置いて真ん中にいるのがコリー・ストール演じるバズ・オルドリン
行って帰ってくる映画
「ゆきて帰りし物語」は、多く映画で描かれる人気の構造です。
有名どころで言うと「MADMAX-怒りのデスロード」だったり、「ホビット」シリーズ、「スタンド・バイ・ミー」や「千と千尋の神隠し」なんかもこの形式の作品ですよね。
主人公が何らかの理由で国(居場所)を追われるor逃げ出す→数々の試練を乗り越え成長して戻ってくるというストーリーの構造は、世の東西を問わず数々の神話でも描かれているので万人ウケするというのもあるのでしょう。
本作もこの「ゆきて帰りし物語」の構造で描かれていて、アメリカで開発された高高度極超音速実験機X-15のテストパイロットだったニールは、愛する娘の死から逃れるように1960年代、アポロ計画の前進であるジェミニ計画に参加。
ジェミニ8号の船長として無人衛星・アジェナ標的機との軌道上ランデブーとドッキングというミッションに挑み成功させるも、機体トラブルでピンチに陥るも咄嗟の機転でなんとか無事地球に戻ります。
画像出典元URL:http://eiga.com / 順調に見えたジェミニ8号だったが、この期大変な事に
その後、アポロ11号の船長として前人未到の月面着陸→地球への帰還を成功させて歴史に名を残すことになるわけですが、本作ではそんなニールの内面や家族の物語にスポットを当てているんですね。
幼い娘の死から始まる本作には、常に死の匂いがつきまといます。
画像出典元URL:http://eiga.com / 脳腫瘍で愛する娘は幼くして命を失ってしまう
X-15で大気圏を飛び出したものの危なく戻れなくなりそうになったり、アポロ1号の火災事故での仲間の死、ジェミニ8号での壮絶なトラブルからの生還、そしてアポロ11号での月面着陸。
高速で飛ぶ飛行機やロケットのコックピットは驚く程狭く、音速での飛行中や打ち上げの時は薄っぺらいブリキのようにガタガタと揺れ、窓や宇宙服の中から見える宇宙や月面は死後の世界を連想させます。
そんな、自分や仲間につきまとう死の危険やプレッシャーの中でもがきながら、月面でやっと娘に別れを告げて(娘の死を乗り越えて)地球に戻るニール。
画像出典元URL:http://eiga.com / 何かいつもむすくれてる妻のジャネット(クレア・フォイ)
そんなニールの命懸けのミッションに妻のジェネット(クレア・フォイ)やふたりの息子も、それぞれが(直接口には出さないけど)いつ夫(父)を失か分からない不安と戦っているその内面を、淡々と、でも丁寧に描いているんですね。
閉所恐怖症の人は視聴注意!? リアルすぎる船内描写
そんな本作の白眉は、宇宙飛行や月面着陸をニールの視点で描くことで観客に追体験させる構造。
ジェミニ8号やアポロ11号の狭い船内に取り付けられた小さな窓から見える宇宙空間や地球の姿、狭いコックピットに乗り込み、スタッフによってドアが密封される様子は、亡くなった娘の小さな棺桶を埋葬するシーンと呼応する作りになっていて、観ているだけで息苦しい!
どちらかちえば閉所好きな僕でさえそうなのだから、閉所恐怖症の人にとっては地獄みたいな映画なのではないかと。
棺桶のような船内、そこから出て視界が開けたはずの月面も暗黒と砂や石だけの、ある意味で閉じた空間(しかもヘルメットのバイザー越し)だしね。
いや、分かりますよ? 死を通して逆説的に生を語る「武士道」的な手法なのは。
でも、せめて地球に生還したラストシーンくらいは、海に着水したアポロから出てくるところか、任務を終えて家族の元に戻ってきたシーンで終わらせればいいのに、よりによって隔離部屋(宇宙から病原菌を持ち帰っていないかを調べるため一ヶ月隔離される)でのジェネットとのガラス越しの対面ってお前w
つくづく「デイミアン・チャゼルだなー」と思いましたねー。
興味のある方は是非!!
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