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べつに“麻雀放浪記”じゃなくても良くね?「麻雀放浪記2020」(2019)*ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、阿佐田哲也原作、 和田誠監督の名作映画「麻雀放浪記」を、白石和彌監督が大胆にリブートした『麻雀放浪記2020』ですよー!

出演していたピエール瀧の逮捕を受けて、東映が「作品に罪はない」と公開したことで話題になったり、その他にも映画の外の話題が多かった作品ですよね。

もちろん個人的には、東映の判断は全面支持ですが、その事とこの映画が面白いかはまた別問題って話でして。

というわけで、今回はネタバレありで感想を書くので、これから本作を観る予定の人やネタバレは絶対に嫌!って人は、映画を先に観てからこの感想を読んでくださいね。

いいですね?注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

阿佐田哲也の小説を、『blank13』で監督としても活動している『昼顔』シリーズなどの斎藤工主演で映画化したドラマ。舞台を終戦直後から2020年へと移し、1945年からやってきた主人公が、麻雀で死闘を繰り広げる。『孤狼の血』などの白石和彌が監督を務め、脚本を『東京闇虫』シリーズなどの佐藤佐吉が手掛ける。(シネマトゥディより引用)

感想

麻雀放浪記とは

本作の“元ネタ”である「麻雀放浪記」は、作家であり「雀聖」と呼ばれた雀士でもある阿佐田哲也色川武大)の同名小説が原作。
1984年には、イラストレイターでエッセイストの和田誠の初監督作として、原作小説の「青春編」を映画化。真田広之鹿賀丈史など豪華キャストで話題になり、別タイトルではありますがマンガ化、アニメ化もされているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

内容はざっくり言えば、終戦直後を生きる博打打ちの物語です。

僕も84年版の映画は観ていて、鹿賀丈史演じる“ドサ健”や高品格演じる“出目徳”の生き様には痺れたもんですよ。

本作はそんな84年版のクライマックスシーンからスタート。(とはいえ内容は少し変更されてます)

ドサ健的場浩司出目徳小松政夫オックスクラブのママベッキー、そして坊や哲斎藤工が演じているわけですね。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 物語はオリジナル版のクライマックスからスタート。(メンバーは変わっている)

この4人で麻雀をしてると、あがると死ぬと言われている「九蓮宝燈を出目徳が積もって死に、残りの3人で再戦を始めたところ、今度は坊や哲が「九蓮宝燈」を積った瞬間、オックスクラブに雷が落ちて坊や哲は気を失い、目が覚めるとそこは2020年の東京だった。というストーリー。

まさかのSFですよ!

しかし、2020年の日本は第3次世界大戦に敗戦し東京オリンピックは中止となり、人々は額に埋め込まれたマイナンバー入りチップで監視され、貧富の差は激しく、警官は民間人に暴力を振るうというデストピア状態なんですね。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 2020年、麻雀番組に出場した哲を応援するドテ子(右)とクソ丸(左)

そんな中で、哲は地下雀士アイドルのドテ子(もも/チャラン・ポ・ランタン)や、ドテ子のプロデューサーのクソ丸竹中直人)と偶然出会い、終戦直後の1945年と2020年のギャップに戸惑いながらも、最新AIロボのデモンストレーション目的で開かれる「麻雀オリンピック」に出場するわけです。

ちなみに2020年は、世界的に“競技”麻雀が大人から子供まで大人気という設定なんだそうで……って、咲-Saki-」か!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ

全編iphoneで撮影

本作は、全編iPhoneで撮影された映画「タンジェリン」に感銘を受けたプロデューサーと、以前からiPhoneでの映画制作を切望していた白石監督の意向で、全編常時20台のiPhoneで撮影されたんだそうですね。

白石監督は、iPhoneでの撮影が戦後と2020年という時代のギャップを表現するのに適していたと明かしながら「変に肩に力も入らず軽快に撮影出来ただけでなく、この狂った世界を表現するのに最高のガジェットだったと思います。結果には非常に満足しています」と語ったようです。

まぁ、観る人が見れば「この映像、何かが違うぞ!」って思ったかもですが、僕は(そんな事知らずに観たので)特に普通のカメラとの違いは分からなかったです。

麻雀描写が雑

そんな僕が特に気になったのは、劇中での麻雀描写が雑すぎるということ。

冒頭のシーンで、出目徳が天和(配牌であがる)を2回出すのは坊や哲と組んで、積み込み(自分の都合がいい配牌になるように牌を積み込む)と、サイコロを使ったイカサマです。

その後「九蓮宝燈」が2回も出るのも、まぁ最初からそうなるように積み込みしてることが前提ならあるでしょう。

その後タイムスリップした坊や哲がが麻雀するシーンは、(クライマックス以外)全自動卓なので、基本、積み込みやサイコロの目を操作するなどのイカサマは出来ません。

にも関わらず、あがる役がほぼほぼ役満(超点数の高い手=中々出来ない)以上

って、マンガか!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ

ビリヤードで言ったら毎回ブレイクショット(一番最初の突き出し)で毎回9ボールを入れるようなもんだし、サッカーならキックオフで蹴ったボールが毎回ゴールに入るようなもんですよ。

もちろん理論上不可能ではないけど、運も作用するし中々出来ないからゲームとして面白いわけでしてね。

だから色々イカサマを駆使したり駆け引きをしながら、自分に勝ちを引き寄せていくわけだし、84年版ではその辺の駆け引きや勝敗はちゃんとロジカルに描かれているわけですね。

ところが、本作ではそうした駆け引きはほとんどなくて、クライマックスで人間対AIロボットという図式になり、哲と他の二人が組むシーンも特に打ち合わせもなく、超能力みたいにアイコンタクトで全てが分かり会えちゃうっていう。

いや、分かりますよ? 麻雀が分からない人にも楽しんでもらいたいし、監督が本作で描きたかったのはソコじゃないっていうのは。

でも、だったら「麻雀放浪記」である必要なくね? って思っちゃうんですよねー。

全てが中途半端

じゃぁ、白石監督は本作で何を描きたかったのかと言えば、(多分)それ以外の部分で、つまり格差社会だったり、女性差別問題だったり、監視社会化だったり、国としての活気のなさだったり、そうした諸々の現代日本に横たわる問題への皮肉と怒りと警鐘。みたいな事だと思うんですよ。(だから舞台設定が2020年なんだと思う)

敗戦後、焼け野原の中でも人々に生きる活気が溢れていた1945年と、第3次世界大戦に敗北しても何も変わらない現代社会を坊や哲という男の目を通してシニカルなコメディとして描こうとしたのかな?

ところが、そっちはそっちで、上手く描けていないというか、全てが中途半端っていうか。

第3次世界大戦敗北後の日本っていう設定も、東京オリンピック中止っていう設定も、監視社会も、AI設定も、物語的に何一つ“効いてない”から、皮肉にも警鐘にもなっていないし、コメディーとしても上滑りしてて笑えない。

っていうかストーリーもグダグダだし、物語のリアリティーラインもよく分からない。

キャラクターの設定、行動、言動も単に物語を先に進めるための脚本上の都合で、例えば最強のAIロボに負けそうな哲を救うため、ファンから貰ったパルス銃をドテ子が会場に突っ込んで撃つっていうシーンがあるんですが、彼女は既に哲の関係者だと分かっているので、普通に考えたらこの時点で哲の反則負けですよね。

しかも、AIロボにはパルス銃対策が施されているみたいな事を、博士らしき人が言うんですよ。

え、ドテ子意味なくね? と。

それでもまぁ、そのおかげで全自動卓が壊れて手積みで始める=イカサマ解禁になるわけですが。

それにしたって、ちょっと展開に無理がありすぎるように感じましたねー。

あと、AIロボの研究所のシーンで、瓶の中で水に浮かぶ脳みそがチラっと映るんですね。で、AIロボはオックスクラブのママと同じベッキーが演じてるわけですよ。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 博士が作り出したAIロボ(ベッキー

普通、これ絶対伏線だって思いますよね。

しかもクライマックスの対戦の残り二人は、的場浩司小松政夫なわけですよ。
これはもう、哲だけじゃなくて、実は雷の衝撃でドサ健と生き返った出目徳とママも、実は未来に飛ばされてたっていう展開だと思うじゃないですか!

で、ママは第三次世界大戦中に飛ばされ、そこで博士と出会い、空爆か何かで瀕死の重傷を負ってサイボーグに――そして4人は時空を越えてあの時の決着を!っていう展開だって、思うじゃない!?

ところが、全く関係ない他人の空似だったっていうね。(・ω・`)ナンジャソレ

で、最後は哲がイカサマを駆使して「九蓮宝燈」をテンパり、ポケットには1945年の時に握っていた当たり牌の5ピンが!

しかーし、すでに捨て牌には5ピンが4枚出ていたーー!

って、ちょっとまてーーーい!!!

麻雀を知らない人に説明すると、麻雀の牌って同じ模様と数字の牌が4枚しかないんですね。
つまり、同じ捨て牌が4枚出てるってことは、ポケットの5ピンじゃあがれないわけですよ。だって同じ牌が5枚あったらイカサマだってバレちゃうから。

にも関わらず、強引にポケットの5ピンで「ツモーー!」と叫ぶ哲。

その時、4人に雷が落ちて――っていうね。

いや、うん。

あれでしょ?

例えどんな形であれ、とにかく「九蓮宝燈」であがれば雷が落ちて自分は元いた時代に戻れるっていう算段で命懸けの大博打を打った(そして成功した)って事でしょ。

でも、その展開いる?

別に、捨て牌は3枚でも何の問題もないよね?

っていうか、麻雀打ちでゴト師(イカサマ師)の哲がそんなミスするわけねーだろ!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ

つまりアレですよ。最後にもうひと盛り上がり入れようっていう、完全に作り手側の都合ですよ。

オリジナルをリスペクトしてる的な記事もあったけど、麻雀放浪記」の名前を冠した作品でこの展開はないわーって思いましたねー。

役者陣の好演

まぁ、文句ばっかりってのもアレなんで、最後に褒めます。

まず主演の斎藤工は良かったです。
単純に彼が演じる(この映画じゃない「麻雀放浪記」で)「坊や哲」が見てみたいって思いました。

あと、ドサ健役の的場浩司も、鹿賀丈史とは違うけど、こういうドサ健もアリだなって思ったし、なにより3役を演じた小松政夫大先生ですよ。

高品格の出目徳とは見た目も雰囲気も全然違うけど流石の貫禄だったし、2020年での博打に自分の内臓や目玉までかける爺さんは観てて震えるほどの迫力があったし、クライマックスの出目徳そっくりの中国人役では、“僕が子供の頃に見ていたコメディアン小松政夫”を軽妙に演じていて、素晴らしかったなーと。

ベッキーは……まぁ、うん。

まぁ僕は、84年版のオリジナルも観てて好きだったので、本作に対してはかなり辛口になってしまいましたけど、逆にオリジナルを観てない人で麻雀もよく分からないという人なら、面白く観れるかもと思いましたねー。

興味のある方は是非

 

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