今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

日本ホラー界のニュースター誕生!!「血を吸う粘土」(2017)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、日本のホラー映画『血を吸う粘土』ですよー!

低予算映画ながら、スペインのシッチェス映画祭、カナダのトロント国際映画祭で(ミッドナイト・マッドネス部門)上映。今年公開の続編「血を吸う粘土/派生」もシッチェス映画祭Midnight X-Treme部門コンペティション作品として上映され、大いに盛り上がったんだとか。

先日ご紹介した「怪怪怪怪物!」とシッチェス映画祭繋がりということで、観てみました!

https://eiga.k-img.com/images/movie/87151/photo/e360b70daa5a1a32.jpg?1502762725

画像出典元URL:http://eiga.com

概要

特殊メイクアーティストとして数多くの映画で特殊メイクや特殊造型を手がけ、アメリカ製ホラーオムニバス「ABC・オブ・デス2」の一編では監督を務めた梅沢壮一が、長編映画で初メガホンをとったホラー作品。とある美術専門学校を舞台に、怨念のこもった粘土の封印を解いたことから、阿鼻叫喚の地獄が広がっていく様を描いた。ある地方の美術専門学校に東京から転入してきた日高香織は、学校の倉庫に乾燥した水粘土の粉が置かれているのを見つけ、水をかけて粘土を元に戻してしまう。しかし、その粘土は無残な死を遂げた彫刻家の怨念がこもった悪魔の粘土「カカメ」だった。カカメは学校の生徒たちをひとりまたひとりと取り込み、恐るべき怪物へと変化していく。主演は講談社主催のオーディション「ミスiD 2017」グランプリの武田杏香が務め、同じく「ミスiD 2017」受賞者の杉本桃花、藤田恵名、牧原ゆゆが共演。(映画.comより引用)

感想

粘土が人を食べちゃう映画

本作の内容を一言で説明すると「呪いの粘土が次々に人を食べちゃう物語」です。

ん?どういうこと?って思うでしょ?
ええ、僕も観る前はそう思っていましたよw

ところが実際観てみると、これが中々よく出来た物語なんですよね。

舞台は山岡県という架空の県にある生徒たった5人の美術教室。(美術大学の予備校的な感じ)

https://eiga.k-img.com/images/movie/87151/photo/f9542d66166d2624/640.jpg?1502762733

画像出典元URL:http://eiga.com

最初は、別の場所でやってたんすが地震の影響で倒壊寸前になり、そこで急遽、かつて造形作家の工房だった古い民家を借りて運営することに。

で、オーナー講師の藍那ゆり先生(黒沢あすか)が周囲の草刈りの最中、地面に埋まっていた缶に入ってビニール袋に包まれた造形用の粘土を発見、授業用にと教室の角に置いておくんですね。

そして教室は無事再開。東京の美術大学を目指す生徒が集まってくるんですが、その1人、日高香織武田杏香)は東京から引っ越してきた女の子で、夏の期間は都内の美大予備校に通っていたんですね。

で、友人の望月愛子(杉本桃花)は東京の美術予備校に興味津々。東京の学校のレベルについて香織に色々聞いたりします。

そんな二人の会話に複雑な表情の藍那先生。彼女は芸術家として東京で挫折し、地元に帰ってきたという背景があるわけです。

一方の愛子は元々香織と同等の実力だったわけですが、いつの間にか水をあけられたことを東京の美術予備校のレベルが高いからと感じている。それに教室唯一の男子、山下寛治(篠田諒)も同調します。
環境に不満を漏らす愛子たちを諭す先生でしたが、やがて感情的になって大声を上げてしまう。

年上で2浪の谷レイナ藤田恵名)の一言で言い合いは収まり、粘土造形の授業に入るんですが、高校2年の青木由香(牧原ゆゆ)が新しく入ってきたことで粘土が足りなくなり、香織は地面に埋まっていた粘土を使うことに。

しかし、その粘土にはある恐ろしい因縁があったのだった――というストーリー。

監督の実体験と地方人の複雑な思いを描く

この作品、地方出身で(と言っても神奈川県だけど)過去、美術大学を3回受験し諦めたという梅沢壮一監督の体験や、地方出身者ならではの東京に対する憧れやコンプレックス、ルサンチマンなどを織り込んだ脚本が本作の“粘土が人を襲う”という荒唐無稽なストーリーにある種のリアリティーを与え、特殊メイク、造形アーティストでもある監督だからこその、CGを殆ど使わないSFXメインの造形や映像は、近年の映画では中々観ることの出来ない質量のある生々しさや不気味さを醸し出しているんですよね。(本人曰く低予算だからCGが使えなかったらしい)

また、監督によれば本作の背景には3.11の東日本大震災があるのだとか。

つまり、福島原発で作られた電力の多くが東京で消費されていたにも関わらず、震災後の福島バッシングや未だに解決の糸口が見えない放射性廃棄物や汚染水などの問題ですね。

監督はそこに自身の体験をリンクさせ、地方人の東京に対する憧れと同時にある、妬み嫉みといったネガティブな心情や、地方(田舎)が東京に(一方的に)感じる格差や不公平感などを、物語に練りこんでいったのです。粘土だけに!(←上手くない)

 その一方で、6人のキャストたちの関係性に田舎特有の閉鎖的なムラ社会を匂わせる閉じた空気感のようなものも、同時に描いているんですねー。

日本ホラー界のニューカマー、粘土人形のカカメ

日本ホラー界の二大スターといえば「リング」の貞子と「呪怨」の 伽耶子で、「貞子vs伽耶」という面白作品も公開されたりしましたよね。

とはいえ、この二人はあくまで怨霊(幽霊)です。
海外ホラーと違い、(怪獣を除けば)フレディー、ジェイソン、チャッキーのようなモンスター系の人気キャラクターって、日本だとほとんどいないような気がするんですよね。

そんな邦画界に彗星のごとく現れたのが、呪いの粘土人形カカメくん

https://eiga.k-img.com/images/movie/87151/photo/31804bf0173b9df0/640.jpg?1495524952

画像出典元URL:http://eiga.com

見た目は若干ゆるキャラっぽいというか、なんならちょっとキモかわいい感じすらあるんですが、実は貞子や伽耶子に匹敵する恐ろしい怪物です。

というのも、このカカメくんは元が粘土なので変幻自在に形を変え、しかも絶対に死なないキャラクター。
粘土だけに乾燥してしまうと砂(粉?)状になってしまうという弱点はあるものの、その状態で生き物の体内に入って相手を殺す事も出来るし、水分さえあればすぐに復活する事も出来るんですね。

つまり、殺すことはできないから乾燥→砂状にして水分が入らないように封印することしか出来ないし、粘土状の時は生き物の血液を取り込んでいくらでも巨大化するという非常に厄介なモンスターなのです。

そんなカカメくんは、元々売れない彫刻家の作品(の一体)だったんですが、色々あってその彫刻家の血と骨、そして怨念を取り込んで生まれた呪いの粘土人形

人間とコミュニケーションを取るだけの知性は(多分)なく、本能的に生物(の血液)を捕食しては成長していきます。

とはいえ粘土じゃないですか。
一体どうやって捕食するのかというと、相手の傷口から血を吸ってるんですね。
たとえどんな小さな傷口、もっと言えば口や鼻のような粘膜からでも体内に侵入でき、カカメくんに取り込まれた相手は生きながらにしてカカメくんの一部になってしまうし、カカメくんは取り込んだ相手の形をそっくりにコピーすることが出来るんですね。元々彫刻用の粘土だけに形を変えるのは得意なのでしょう。

そして取り込んだ相手をコピーして、次の獲物を狙うわけです。

そんなカカメくんの最初の犠牲者は2浪の谷レイナなんですが、まだただの粘土状だったカカメくんは、彼女の指→手にまとわりつき、ずっとはむはむしてるわけですよ。ほら歯がないから。

一度はカカメくんを引き離すのに成功したレイナでしたが、助けを呼ぶためスマホのダイヤルをプッシュしようとすると、カカメくんにはむはむされた指は粘土状にグニャグニャになっていてスマホ画面を押すことも出来ない。そうこうするうち、再びカカメくんに囚われーーとなるわけです。

正直笑っていいのか怖がればいいのか分からないけど、よく考えると超厄介だし怖い。そこにカカメくんのカルト的スター性を感じましたねー。

とはいえルックは……

とまぁ、これだけ褒め倒してるので超面白い映画って思われるかもですが、とはいえ邦画の中でもかなりの低予算作品ですからね。

映画としてのルック自体はかなり安っぽいし、ストーリー的にも(梅沢監督の長編デビュー作ということもあり)正直ツッコミどころ満載です。

ただ、例えばB級映画の安っぽさを「ほーら、B級映画ですよ。面白いでしょー」と、自ら茶化すような作り方はしていなくて、少ない予算の中、本気で怖い映画を作ろうとしているし、随所に少しでも面白く見せようと工夫がされている姿勢は(低予算とかインディーとか関係なしに)素晴らしいと思うんですよ。

もちろん、CGを駆使してお金をかければもっと怖くなるかもですが、本作には造形から何から手作りだからこその「チープだけど不気味」感があると思うんですよね。

https://eiga.k-img.com/images/movie/87151/photo/97517d62466bf53c/640.jpg?1502762782

画像出典元URL:http://eiga.com

そもそも僕は、ホラー映画とCGって、あまり相性が良くないって思ってますしね。

例えば、クライマックスでのカカメくんの正体?を見せるシーンなんかは、コマ撮り撮影されているんですね。今時、自主制作映画でもコマ撮りのシーンなんてそうそう観れないですよ。

でも、そのシーンはコマ撮りだからこその生理的な気持ち悪さや怖さが出ていて、あの感じはCGだと中々出せない(というか別物になっちゃう)と思うんですね。

そして、黒沢清作品を思わせる、あの最高のラストシーンに至っては殆ど怪獣映画で、このラストシーンがあるからこそ本作は多くのファンに絶賛されていると思うし、そこに至るまでの、無駄とも思えるような長尺で見せる時間経過のシークエンスも実は“ラストシーンへのフック”として必要な長さなんですよね。

ただ、あえて苦言を呈するなら、画面が暗すぎて何が何だか分からないシーンがちょっと多かったのはもったいないって思いましたねー。

黒沢あすかの熱演

あと、個人的には美術講師の藍那先生を演じた黒沢あすかさんの熱演が素晴らしいと思いました。
ちなみにこの人、梅沢監督に奥さんなのだとか。

https://eiga.k-img.com/images/movie/87151/photo/30077c5828f56d74/640.jpg?1502762744

画像出典元URL:http://eiga.com

色々あって、ラスト前に道端で藍那先生が泣くシーンがあるんですが、この時の黒沢さんの全ての感情を絞り出すような演技は本当に素晴らしかったです。

というわけで、低予算の小作品ながら一定のファンにはカルト的な人気だし、僕も大いに楽しんだ本作。
もうすぐ続編の「~/派生」も公開されるらしいし、本作はネットフリックスやAmazonプライムでも観られますよ。

興味のある方は是非!!

 

▼よかったらポチっとお願いします▼


映画レビューランキング

 

▼関連作品感想リンク▼

aozprapurasu.hatenablog.com