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これぞスパイク・リー映画「ブラック・クランズマン」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、アカデミー賞で6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞したスパイク・リー監督久々の新作『ブラック・クランズマン』ですよー!

公開前から気になっていた作品なんですが、公開時はタイミングが合わず、先日レンタルDVDが出たので借りてきました。

感想を一言で言うなら「これぞスパイク・リー作品」って感じでしたねー。

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概要

ドゥ・ザ・ライト・シング』などのスパイク・リーがメガホンを取り、第71回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した実録ドラマ。1970年代末のアメリカを舞台に、2人の刑事が過激な団体で潜入捜査する。ドラマシリーズ「Ballers/ボウラーズ」などのジョン・デヴィッド・ワシントン、『ハングリー・ハーツ』などのアダム・ドライヴァーのほか、ローラ・ハリアートファー・グレイスアレック・ボールドウィンらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

スパイク・リーという男

スパイク・リーは大学院卒業課題のために製作した「ジョーズ・バーバー・ショップ」で脚光を浴び、1985年に監督した初めての商業映画「シーズ・ガッタ・ハヴ・イット」が大ヒットをキッカケにCM監督として多くの話題作を制作します。

一方で、映画監督としては人種差別、メディアの役割、都市の犯罪と貧困、そして政治的な問題など、多くの社会問題を扱った作品を制作し、また、歯に絹着せぬ物言いで、政治家、メディア、映画監督などと論争を繰り広げるなど、政治・社会的発言でも度々話題になったりする人です。

僕と同世代の映画ファンには、何と言っても黒人解放運動家の生涯を描いた名作「マルコムX」のイメージが強いのではないでしょうか。

そんなスパイク・リーですが、同名韓国映画のリメイク版「オールド・ボーイ」(2013)以降は主に配信作品を作っていて、そんな彼が久しぶりに劇場長編映画にカムバックした作品が本作なんですね。

ブラック・クランズマンとは

本作は、コロラド・スプリングズで初の黒人警察官ロン・ストールワースの同名ノンフィクションを原作に、制作で「ゲット・アウト」「アス」などのジョーダン・ピールが「この映画を撮るならスパイク・リーしかない」と監督を依頼し実現したという流れらしいです。

題材といい、内容といい、確かにスパイク・リーが撮るべき映画ですよね。

物語をざっくり要約するなら「黒人刑事がKKKクー・クラックス・クラン)相手に一泡吹かせる」という内容。

アメリ中南部コロラド州コロラド・スプリングズの警察署でアフリカ系アメリカ人(黒人)として初めて警察官に採用されたロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、他の警官たちの“内面的”黒人差別にイライラが募る毎日。
そこで、署長に潜入捜査官になりたいと直訴、初めての任務は元ブラック・パンサー党(黒人開放運動グループ)のクワメ・トゥーレ(ストークリー・カーマイケル/演:コーリー・ホーキンズ)の演説会への潜入だったんですね。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 主演のジョン・デヴィッド・ワシントンはデンゼル・ワシントンの実子

その後、情報部に配属されたロンはたまたま新聞に掲載されていたKKKの構成員募集広告を発見。電話でレイシストの白人を演じて気に入られた彼は、支部長に会う約束を取り付けるんですが、黒人の彼が会うわけにはいかず、同僚の白人警官フリップ・ジマーマンアダム・ドライバー)を潜入役、自らは電話交渉担当として二人一役で“ロン”を演じ、KKKへの潜入捜査を展開していく――というストーリー。

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いわゆるコンゲームもの(主人公が策略を用いて敵を罠にハメる物語)であり、バディムービーでもあり、サスペンスコメディーでもあるんですね。

ちなみに、KKKアメリカの白人至上主義で黒人差別主義者の団体として有名ですが、彼らの標的は何も黒人だけではなく、有色人種全般、さらにユダヤ系白人も差別の対象なのだそうです。
で、アダム・ドライバー演じるフィリップはユダヤ系白人なので、KKKの標的である二人が組んで、潜入調査するという物語でもあるわけです。

対比によってアメリカ近代史・映画史を批評する

そんな本作は、かの“名作”「風とともに去りぬ」の、アメリ南北戦争で大敗を喫した南軍の負傷兵たちが本当に大量に地べたに寝転がっている中で主人公のスカーレット・オハラが「神よ、南部連合を救いたまえ!」と嘆くシーンの引用からスタート。

南北戦争といえば、黒人の奴隷制度廃止を掲げる北軍と、継続を掲げる南軍によるアメリカを二分した内戦です。

続いて、アレック・ボールドウィン演じる博士が人種混交への嫌悪と恐怖に、ユダヤ人と共産主義がらみの陰謀論を交えてまくし立てる。そのバックでは中盤でも登場するD・W・グリフィスの「國民の創生」が映し出されている。

この「國民の創生」は後の映画の撮影技法を確立したという点では“名作”ではあるものの内容にかなり問題があり、この映画の公開後、現実では消滅していたハズのKKKが復活してしまったといういわくつきの問題作でもあるのです。

この冒頭シーン一発で、リー監督は、“その映画はKKK絡みの映画ですよ”と宣言していると同時に、KKKがどういう経緯、主義主張を掲げて誕生したのかという歴史をサクっと説明しているんですねー。

で、本編に入ると「こいつはマジでハンパねえ実話だぜ!」という字幕のあと、タイトルが出るんですが、このタイトルロゴや主人公を上から撮るカットなど、いかにも70年代ブラックスプロイテーション映画風。

ブラックスプロイテーション映画とは簡単に言うと、正義の黒人が悪い白人をやっつける映画で、劇中でも「シャフト」「スーパーフライ」など、当時のブラックスプロイテーション映画が引用されされていたりします。

これは、冒頭の「風とともに~」「國民の創生」との対比にもなっているし、黒人集会への潜入捜査で知り合った大学生で開放運動のリーダーでもあるパトリス ( ローラ・ハリアー)とロンによるブラックスプロイテーション映画の是非を巡る議論のシーンで登場するわけですね。

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つまり、リー監督は映画を通して、近代アメリカの歴史と映画史を重ね合わせながら同時に批評しているわけです。

パトリスはこれらの映画を「真の黒人開放には結びつかない、ただのまやかしである」という論調で、それに対してロンは「ただの映画だろ?」と返す。

彼女が警官も政府も白人が牛耳るものは全て“敵”だと言い、ロンは黒人開放には賛成だけど白人全てを敵視することには疑問があるというスタンスなんですね。
ただ、ロンにしろパトリスにしろ、大学出のインテリだし比較的裕福な家庭に育っている。

対して、潜入捜査に入ったフィリップが見るのは、KKKのあまりにもお粗末で間抜けな実態。
ポール・ウォーター・ハウザー演じるアイヴァンホーはいかにもボンクラな、いわゆるホワイト・トラッシュ(貧乏白人)ってやつで、フィリップをユダヤ人ではと疑うフェリックス(ヤスペル・ペーコネン)やその奥さんコニー(アシュリー・アトキンソン)は中流階級っぽいけど決して裕福ではなさそう。
それは支部長で冷静な切れ者に見えるウォルター(ライアン・エッゴールド)も同様で、要は、生活の不満や鬱憤をKKKで正義を行っているという自己承認でごまかしているわけですね。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 「ホワイトパワー!」と叫ぶKKKのみなさん

唯一、KKK幹部のデュークトファー・グレイス)は議員だけど、「黒人は黒人英語しか喋れない」という間抜けな先入観で、ロン(黒人)を白人だと信じこんでしまう間抜けですしね。

このように、前述した映画だけに限らず、本作では常に黒人側と白人側が対比構造で描かれるわけです。

だってスパイク・リーだもの

とはいえ、この映画がただの痛快なサスペンスコメディーなのかと言うと、決してそんな事はありません。だってスパイク・リーだもの

スパイク・リーと言えば、社会派の監督であり主義主張の強さが特徴。

本作でも例えば、ロンが潜入する黒人集会では元ブラック・パンサー党のクワメ・トゥーレの演説に、ロンを含め集まった黒人たちが強い感銘を受ける様子を、かなりの長尺と黒バックで彼らの表情をアップで撮ることで表現するという不思議な演出をしていたり、クライマックスではハリー・ベラフォンテ演じる老人が語る、ジェシー・ワシントンのリンチ事件をこれまた(カットバックを交えつつ)長尺で観せていきます。

多分、この二つのシーンは、スパイク・リーが絶対に語りたい部分だったんでしょうね。

そのせいで映画的には明らかにバランスを崩しているんだけど、そんなことはお構いなしだし、なんやかんやあってめでたしめでたしのハッピーエンドかと一旦安心させてからの、賛否両論を巻き起こした例のラストシーンと、ある事件のニュース映像で、最後の最後に観客をぶん殴りに来るっていう。

正直、そういうスパイク・リーの主義主張の強さが鼻につく人もいると思うけど、往年のスパイク・リーファンの人なら「これぞスパイク・リーの映画!」って嬉しくなると思うし、個人的には絵空事で終わらせず、人種や立場が違う人間同士が分かり合うのはそんなに簡単じゃねえぞ!っていうどストレートで強烈な彼の主張はもっともだし、この映画で語られているのは決して他人事ではなく、我が事として考えないといけないんだよなって思いましたねー。
まぁ、後味は悪いですけど、それもスパイク・リーの味ですしねw

興味のある方は是非!!!

 

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