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フリードキンの最高傑作「恐怖の報酬/オリジナル完全版」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは「フレンチ・コネクション」や「エクソシスト」のウィリアム・フリードキン監督作『恐怖の報酬/オリジナル完全版』ですよー!

この作品、以前から評判は聞こえていて、いつか観ようと思いながらもつい延ばし延ばしになっちゃってたんですが、今回意を決してレンタルしてきました。

うん噂通り――いや、噂以上の超ヤバイ映画でしたねー!

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概要

エクソシスト』などのウィリアム・フリードキンが、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーが監督を務めたサスペンスをリメイクした作品の完全版。ニトログリセリンを積んだトラックに乗る男たちに待ち受ける運命を映す。出演は『JAWS/ジョーズ』シリーズなどのロイ・シャイダー、「新・メグレ警視」シリーズなどのブルーノ・クレメル、『無垢なる聖者』などのフランシスコ・ラバル、『愛と死と』などのアミドウら。初公開時にカットされたおよそ30分のシーンが追加されている。(シネマトゥデイより引用)

感想

完成から“公開”まで40年、ついに日の目を見た伝説の映画

「恐怖の報酬(原題:Sorcerer)」は、ジョルジュ・アルノー原作&アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督で1953年に公開された同名フランス映画(原題:Le Salaire de la peur)に大きな影響を受けたウィリアム・フリードキンが、3大陸5カ国でのロケを敢行、制作費に約100億円、完成までに2年もの歳月をかけた超大作でした。

ところが、同じ年に公開されたジョージ・ルーカスの「スター・ウォーズ」が一大旋風を巻き起こしたことでファンを含めた映画界の潮目が一気に変わってしまいます。

南米のアマゾンを舞台に血まみれのオッサンしか出てこないハード&バイオレンスで暗い内容の77年版「恐怖の報酬」は観客に敬遠され、批評家はクルーゾーのオリジナル版との違いを指摘し批判。

結果、77年版「恐怖の報酬」は興業的に大惨敗を喫し、そのため同作を海外で上映する際に、配給会社はフリードキンに無断で再編集を行い、121分の北米公開版から30分削って92分にまで縮め、タイトルも「Sorcerer(魔術師・運命を引き寄せるもの)」から「Wages of Fear(恐怖の報酬)」に改題されてしまいます。その後、作品はソフト化と絶版を繰り返し、権利関係の問題もあって日本では長らく完全版を見ること出来なかったんですね。

しかし2012年にそんな状況が覆されます。
複雑な権利関係が災いし長く封印されていた同作を蘇らせるべく、フリードキンは配給会社相手に訴訟を起こし、権利先のワーナーにレストアの費用を出すことをOKさせ、そして4Kデジタルリマスターでオリジナル完全版を製作、2013年のヴェネチア国際映画祭でのプレミア上映の大成功を皮切りに、各国で公開された本作『恐怖の報酬/オリジナル完全版』は、日本でも78年公開から40年を経て公開され、多くの映画ファンを驚かせたのです。

ちなみに僕は恥ずかしながら77年版もクルーゾー版も未見でして、なので本作が「恐怖の報酬」初体験となったわけですが、むしろ大人になった今、余計な予備知識なしにこの作品と出会えたのはラッキーだったって思いましたねー。

いや、マジ凄かったですわ。(←語彙力よ

ざっくりストーリー紹介

本作の内容を一言で言うと「食い詰めた犯罪者4人が、高額な報酬のためトラックでニトログリセリンを運ぶ。(しかもジャングルで)」という物語。

そして、ハリウッド映画の3幕構成ではなく、前半と後半の二部構成で描かれていて、前半は、主要人物4人のバックストーリーを約1時間かけてじっくり描いていきます。

ナチス残党狩りの殺し屋ニーロ(フランシスコ・ラバル)の殺しのシーンからスタートし、パレスチナ過激派グループの爆弾犯で、駆けつけた当局に仲間が撃ち殺されるも1人だけ逃げ延びたカッセム(アミドウ)。

不正融資で多額の焦げ付きを作り、パートナーの義弟を自殺に追い込んでしまい逃亡した元銀行家セラーノブリュノ・クレメール)。

そして、教会主催のビンゴ大会の売り上げを狙い強盗に入ったアイリッシュマフィアの一員で、逃亡中の仲間割れで大事故を起こすも一人生き残ったドミンゲスロイ・シャイダー)。しかし教会を襲った際に仲間が撃った男がマフィア幹部の弟だったため裏組織から追われ国外逃亡。

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そんなニーロを除く逃亡者3人が辿り着いたのは南米ポルベニール
ここはある種の独裁政権で、国を牛耳っている支配者を油田の利権絡みで米国が支援している模様。そのため住人たちは搾取され貧困に喘いでいるのです。

そしてここからが後半。

そんなある日、反米ゲリラが油田を爆破。
燃え上がる炎を消すためには、爆薬の爆風しかない。
ところが、すっかり古くなったダイナマイトは火薬とニトロが分離。
少しの衝撃でも爆発してしまうため、ダイナマイトの入った箱を運ぶことはほぼ自殺行為です。

そこで、この精油会社はトラック2台を使って陸路でニトロを運ぶことにし、そのトラックの運転手4人を募集。

国外へ逃げ出したいがその資金もないカッセム、セラーノ、ドミンゲスの3人は運転手に選ばれ、そこに数日前この町にやってきたニーロも合流。2人ひと組でそれぞれの(ニトロを積んだ)トラックに乗り込むと、ジャングルの道なき道を走ることに――というストーリー。

前半で4人のバックグラウンドは語られているので、この後半はいつ爆発するか分からないトラックで、数々の難所を走るという緊張感を存分に味わえます。

車幅ギリギリの断崖絶壁や、豪雨のあとの泥道、そしてポスターにもなっている吊り橋などなど、これでもかと4人に襲いかかる困難と緊張の連続に、観ながらずっと身体が強張りっぱなしで、観終わる頃にはすっかり肩が凝ってしまいましたよw

本物にしか出せない迫力

そんな本作、爆発シーンもカーチェイスからのクラッシュシーンも、ジャングルや南米の村、悪路やトラックも全部本物です。
 まぁ、もちろん撮影時は、現地やスタジオにセットを組んでいるシーンもあるでしょうが、77年の作品なのでCGなんて当然ありませんしね。

個人的にはCGをガンガン使ったど派手な映画も大好きですけど、こういう映画を観てしまうと本物でないと出せない迫力があるんだよなーって思い知らされます。

それは例えば、南米の高温多湿な気候や暑さ、なんなら匂いまで感じる映像、トラックが道幅ギリギリの断崖絶壁や凸凹な泥道をうねる様に進む緊張感、爆発シーンやカークラッシュの質量を伴った迫力など。

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特に、観た人なら誰もが口にする、豪雨の中トラックで吊り橋を渡るシーンは、作中で印象的に登場するインカの神?のレリーフに似せてフロントが作られていることも相まって、吊り橋に揺られるトラックが、まるで意思を持って動く怪獣みたいに見えるんですよ。

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聞くところによると、この橋の建設には300万ドルが費やされ、トラックは撮影中に計5回も川に転落したらしく、フリードキンは撮影中何度も「この映画は呪われている!」と絶望したんだとか。

しかし、そんな苦労の甲斐あって、この吊り橋のシーンは映画史に残る大迫力の名シーンになったんだと思います。

ドキュメンタリーのようなリアリズム

そんな迫力のある映像に注目が行きがちな本作ですが、主要人物4人を始めとした登場人物のリアルなドラマパートも素晴らしいです。

本作の制作にあたり、フリードキンはまず脚本にウォロン・グリーンを招いています。
彼はペキンパーの傑作「ワイルド・バンチ」(69)の脚本に携わった経験を持つ大物で、監督を務めた疑似ドキュメンタリー「大自然の闘争/驚異の昆虫世界」(71)ではアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得。

二人は極限までセリフをそぎ落とし、映像によって物語を紡ぐ方針を固めます。
結果、セリフをほとんど排すことで迫真性を増し、まるでドキュメンタリーのような生々しさを演出、また後半、南米のジャングルに囲われた村や住人もリアルにこだわる事で、観客は劇中の4人と同じように、実在する村に迷い込んだような気持ちになるんですね。

そして本作のタイトルでもある「恐怖の“報酬”」の意味も、この前半部分を観ればそれが単にお金以上の意味を持つ事が分かると思います。

前半でたっぷり描かれる4人の背景で、彼らに戻る場所がない事を示し、村のシーンでは彼らがこの村に辟易し、ここではない何処かで人生をやり直したい事が分かる。
ニトロを運ぶ“報酬”は新たな人生の切符であり、だから命をかけて苦難に挑むし、途中で止めるという選択肢はないんですね。

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フリードキン監督自らが認める最高傑作でありながら、時代の流れや数々の不運によって長年不当な評価を受けてきた本作ですが、40年経ってやっと時代が本作に追いついた傑作なのではないかと、そんな風に思いましたねー。

興味のある方は是非!!!

 

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