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フルスイングでぶん殴られる映画「岬の兄妹」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の下で助監督を務めてきた片山慎三監督の初長編作品『岬の兄妹』ですよー!
公開時に大変話題になっていたので気になってた作品ですが、行きつけのTSUTAYAに1本しか入ってないDVDがずっと貸し出し中だったので、中々借りられない日々が続いてたんですが、先日やっとレンタルしてきましたよ。

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概要

ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督作品などに携わってきた片山慎三がメガホンを取ったドラマ。港町で暮らす兄妹を主人公に、地方都市の暗部や家族の本質をあぶり出す。兄妹を演じるのは『夏の娘たち ~ひめごと~』などの松浦祐也と『乃梨子の場合』などの和田光沙。北山雅康、中村祐太郎、岩谷健司らが共演するほか、日活ロマンポルノなどで活躍した風祭ゆきが特別出演した。(シネマトゥディより引用)

感想

重い、苦しい、辛い、でも笑っちゃう

この作品の内容を一言で言うなら「ダメ兄貴が自閉症の妹を売春させる極貧兄妹の物語」です。

僕はある程度内容を知った状態で観たんですが、それでも中々のダメージを食らったので、全く内容を知らずに観たらフルスイングでぶん殴られるくらいのダメージを食らうんじゃないでしょうか。

とはいえ、じゃぁ、重苦しいだけの欝映画なのかというと、(言い方が合ってるかは分かりませんが)ポップさと笑いどころもちゃんと用意されていて、観るのが辛いだけの「嫌がらせ映画」ではないんですね。

まぁ、思わず笑っちゃった後に「笑っちゃっていいんだろうか」と不安になるという、倫理観を試される作品ですけども。

ざっくりストーリー紹介

舞台は海沿いの地方都市。
造船所で働く足に障害のある兄・良夫(松浦祐也)が、片足を引きずりながら自閉症の妹・真理子(和田光沙)を探し回るシーンから物語はスタート。

この冒頭のシークエンスで、この兄は妹の足を紐で縛って、外から鍵をかけた状態で仕事に出てるっぽい事が分かります。
もちろん、それは兄にしてみれば妹を守ろうとしての行為ですが、普通に考えたら正しくはないですよね。

で、夜になって良夫のケータイに着信が入り、真理子が見知らぬ男と一緒にいたことが分かり迎えに行く。
引き取った真理子が風呂に入っている間に洗濯しようとズボンを手に取るとポケットには1万円札が入っていて、パンツにはHのシミが。

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どうやら真理子は誘われるままその男とSEX(真理子は「冒険」と表現)をして、男に金をもらったらしい事が分かります。

で、今度は鎖で真理子の足を縛り、外から鍵をかけて仕事に行った良夫でしたが、なんとリストラされてしまうんですね。

このせいで、ただでさえ裕福とは言えない二人は、極貧状態に。
家賃も払えず、電気も止められ、何も食べてないのでウンチも出ないし、ついにはティッシュを食べるまでに追い詰められた二人。そんな極貧生活で良夫は、真理子が男とセックスをして金を貰った事を思い出し――というストーリー。

で、この兄の良夫ってのがホントに心底ダメ男だしやってる事も最低なんですが、でも真理子を見捨てて逃げるみたいな事はせずに、甲斐甲斐しく世話は焼くんですよね。
あるいは、妹を見捨てて逃げるというところまで頭が回らないのかもですが。

対する真理子は、割と重度の自閉症なのでほぼ会話が成り立たない。
だから、世話をするのも大変な状態だし、それまで真理子の世話をしていた母は亡くなっていて、二人には頼る人もいないわけです。

で、最初は休憩中のトラック運転手や道行く人に妹を斡旋するも失敗を繰り返し、ヤクザに捕まって酷い目にあったりするんですが、手書きのチラシをポスティングすることで“仕事”が回り始めるんですよね。

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とはいえ、そんな暮らしが遠からず破綻するのは目に見えているし、実際そうなるわけですけども。

片山慎三監督の確かな手腕

この映画、内容が内容だけにスポンサーがつかず、制作費はほぼ片山監督が自費でまかなっているという、超低予算の自主制作映画です。
ただ、映像もストーリーテリングも非常にスマートで上手く、本来悲惨すぎる物語の中にユーモアやポップさを入れ込むセンスはポン・ジュノ作品を彷彿とさせる感じがしました。

例えば物語後半で、重要なアイテムを冒頭~前半でそれとなく登場させたり、海で泳ぐ真理子と水の入っていないプールのシーンを対比させたり、あと、真理子のセックスシーンの最中に男だけがどんどん変わっていく様子をカットと編集で見せることで、彼女が売春を重ねていく様子を省略しつつ上手く見せていったり。

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あと、初めて仕事で手にしたお金で買ったマックを、二人が貪り食うというシーンがあるんですが、その最中に良夫が窓に貼ってあったダンボールを剥がして、暗かった部屋に陽の光が差し込むという描写があるんです。
これはつまり、ダンボールを貼ることで人から隠れるように暮らしていた=社会から見えてない二人が、自力で稼いだお金でマックを食べている=社会と繋がったという事を表す描写で、やってることは大間違いだけど何処か清々しさを感じるシーンになってましたねー。

キャストの熱演

そんな本作を支えているのが、良夫役の松浦祐也と、真理子役の和田光沙の熱演。
恥ずかしながら、僕はこの二人の事は(何かの映画で観たかもだけど)知らなかったんですが、良夫の最低でダメダメだけどどこか憎めない、愛敬みたいな部分を松浦さんは見事に出していたし、和田さんは自閉症の妹を超リアルに演じていました。

実際、自閉症の人と接したことがある人なら、和田さんの演技のリアルさに驚くのではないかと思いますよ。

また、最初は訳も分からずセックスでお金を貰った真理子が、売春を重ねるうちにある種のプロ意識というか、使命感や自信みたいなものを感じていく変化、また後半のクライマックスで泣き叫ぶシーンやラストカットで見せる表情など、和田さんは真理子の非常に繊細で難しい変化を見事に演じていたし、松浦さん共々、この兄妹のキャラクターにしっかり血肉を通わせたと思いましたねー。

ノイズ

とはいえ、正直本作には、物語上ノイズになってしまう大きなネックが1つあって、それが「福祉制度」なんですよね。

おそらく、真理子の障害や二人の困窮の度合いを観た人は「なぜ、生活保護障害年金などの福祉に頼らないのか」が、どうしても引っかかってしまうのではないかと思うんです。

この点について、片山監督は「福祉関係を入れる展開も考えたが、それを入れると物語の軸がブレてしまうのであえて入れなかった」と語っているようですし、まぁ、良夫にそれだけの知識…というか知恵がないと言われれば納得で。
また、現実に生活に困っていても福祉に頼ることに強い抵抗があるという人もいるので、彼らの母親がそういう人だったと言われれば、そうかもねって感じではあるんです。

ただ、劇中で良夫の幼馴染?の肇くん北山雅康)というキャラが登場するんですが、この人は警察官なんですよね。
で、彼は良夫に対して迷惑がりながらも、お金を貸したり何かと気にかけているという善人キャラなので、だとしたら福祉に頼る事を勧めるくらいの事はするんじゃないかな?って思ってしまうのです。

例えば、肇くんは福祉に頼る事を勧めるが、良夫が頑として受け入れないみたいな描写がちょっと入るだけでも、このモヤモヤは消えるんじゃないかなーなんて思ったりしました。

「心」の物語

事ほど作用に、今の時代の邦画としてはかなり攻めた内容でもあり、また映像的にも露悪的なくらい裸やセックスシーン、暴力などなど、ショッキングで人によっては不快なシーンもある映画だし、社会の最底辺に暮らす障害を持つ兄妹という設定に社会的なメッセージの強い作品と思う人も多いと思います。

実際、格差や貧困、差別など社会的問題に対しての問いかけや批判はもちろん、本作の一面としてあるわけですが、僕はこの作品の本質はそこではないって思うんですね。

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片山監督が本作で描きたかったのは、人間の「心」の在り方であり、ある種の人間賛歌ではないのかと。

そういう意味では、是枝監督の「万引き家族」にも通じるのではないかな?と思ったりもしました。

まぁ、正直もう一回観たいとは思わないし、人(特に女性)によっては多分正視出来ないくらい不快でショッキングなシーンも多いので積極的にはオススメできませんが、個人的には観て良かったと思う作品でした。

興味のある方は是非!!

 

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