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新時代インド映画「ガリーボーイ」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、インド・ムンバイ出身のラッパーNaezyとDevineをモデルに創作された青春サクセスストーリー『ガリーボーイ』ですよー!

色んな意味で「インド映画」のイメージを打ち破った、まさに新世代インド映画だと思いましたねー!

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概要

インドのヒップホップアーティスト、Naezyの軌跡をベースにしたヒューマンドラマ。スラムに生まれ育った青年がヒップホップと出会って希望を見いだす。メガホンを取るのは『慕情のアンソロジー』などのゾーヤー・アクタル。『パドマーワト 女神の誕生』などのランヴィール・シン、『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』などのアーリヤー・バットらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

実在のラッパーがモデルのサクセスストーリーであり青春映画

本作の主人公、“ガリーボーイ”ことムラドと、その相棒のMC Sherのモデルは、インド・ムンバイ出身のラッパーNaezyとDevine。

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ラッパーのサクセスストーリーを描く作品といえばエミネム主演の「8マイル」や、N.W.Aの「ストレイト・アウタ・コンプトン」などがありますが、本作はどちらかといえば本作は「8マイル」に近い雰囲気なのかなと思いましたねー。

そんな本作でメガホンを取るのは女性監督のゾーヤー・アクタルで、脚本も同じく女性のリーマー・カーグティ

だからというわけではないでしょうが、本作では主人公ムラド(ランヴィール・シン)や周囲を取り巻くインド特有の階級社会や格差問題だけではなく、ムラドの恋人や母親を取り巻く性差別問題も結構なボリュームで時間を割いています。

つまり、この作品はインドを支配する前時代的な価値観の中に暮らす若者たちの閉塞感や不安と、ヒップホップを武器に、そんな閉塞した状況を打ち破ろうとする主人公たちの姿を描いた青春映画なんですね。

ざっくりストーリー紹介

大学卒業を1年後に控えた、ムンバイのスラムで暮らすラップを愛する青年ムラド(ランヴィール・シン)の家では、家族に対して高圧的な父アフターブ(ヴィジャイ・ラーズ)が妻(ムラドの母)に無断で若い女性を新しい妻として家に迎えたことで(イスラム教なので重婚OK?)関係が悪化しています。

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そんなムラドには医大生の彼女サフィナ(アーリヤー・バット)がいて、二人は子供のころから付き合っているんですね。

そんなある日、怪我をした父アフターブの代わりに金持ちの運転手として働く事になったムラドは、その際に感じた貧富の差と社会の理不尽さをラップの歌詞に書き込むように。

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そんなある日、大学祭でラッパーのシュリカント/MCシェール(シッダーント・チャトゥルヴェーディー)と出会い、交流するようになったムラドは、彼らの力を借りて「ガリーボーイ」の名前でYouTubeに動画を投稿。
それをキッカケに、彼の運命の扉が開く――というストーリー。

まぁ、スラム育ちとは言っても、ムラドのお父さんはちゃんと仕事をしてて、ムラドも大学に通っているので、スラム=最下層的なイメージを持っていた僕はちょっとビックリしたんですが、監督曰く、スラムドッグ$ミリオネアでのダラヴィというスラム描写は、ダークな面とか汚い面を強調しすぎで、(もちろん汚い面とか超貧しい部分もあるけど)人々の暮らしそのものは、結構小ぎれいに暮らしてたりするらしいですね。

とはいえ、お父さんはお金持ちの使用人だし、お母さんはムラドがそうならないように無理をして大学に通わせているらしいんですけども。

インドの階級社会で

これは格差というか、インド独特の階級社会という部分が大きいみたいで、お父さんはそれに甘んじているというか、そういう運命として諦めちゃってて、息子のムラドにも身分相応な人生を強要してくる。

でも若いムラドは「身分相応の人生」を受け入れるのには抵抗がある。でも根は真面目なので、ストリートギャングやラッパー仲間ほどは自由に生きらるほどの自信もないという、中途半端な状態なわけです。

そんな彼の救いになっているのがヒップホップで、彼は自分のスマホでいつもアメリカのヒップホップを聞いているんですね。

で、お父さんの代わりに運転手として雇い主の家族を送っているとき、そこの娘と父親がアメリカの大学に行くか行かないかで口論になる。
そしてこの父親に「大学に行っているのか」と聞かれ「もうすぐ卒業です」と答えると、父親は英語で娘に「お前、このレベルでいいのか」なんて言・い・や・が・る・んですよ

ムラドは英語出来ますからね。このオヤジの言ってることは全部分かっているわけです。

で、ベンツで家族を待つ間、悔しさを搾り出すように「オレの時代が来るんだ!」っていう最初のライムを書くんですね。

その後、MCシェールことシュリカントに出会った彼は、彼主催の集まりで初めて自分のリリックを披露して認められ、その後仲間にラップの仕方を教わりながら、徐々にラッパーらしくなっていったムラドは、YouTubeにアップした初めての作品がバズり、徐々に人気を集めていくんですね。

女性差別問題

一方、ムラドの彼女サフィナは、美人で頭はいいけど超ヤキモチ焼き。
ムラドに色目を使う泥棒猫には鉄槌を食らわせたりビール瓶で殴ったりする(別の意味で)キレ者だったりします。

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彼女の家は裕福なお医者さんで、彼女は将来外科医として開業したいと思っているんですね。

しかし、お父さんとお母さんは女の幸せは結婚と固く信じていて、隙あらば彼女を結婚させようとするのです。

さらに前述したように、ムラドのお母さんは強権的かつ暴力的な夫がなんの断りもなく若い奥さんを家に連れてきて、あまつさえ自分をお手伝いさんのように扱う事に最初は耐えているも、中盤で怒りが爆発。

ムラドと弟と一緒に家を出て行ってしまう。

ただまぁ、このお母さんも父親ほどではないけど、やはり前時代的な考えもあるので、ムラドにはちゃんとした会社(兄が経営してる)に就職して欲しいとは思っているんですけどね。

貧富の格差

もちろん本作では貧富の格差も描かれていて、一見自由に見えるシュリカントの父親は飲んだくれだし仕事もしてないので、幼い弟たちの面倒は彼がみているし、友人の一人は半グレというか、ギャングの下働きで麻薬売買に手を染めている。
で、孤児たち?にその手伝いをさせてるんですが、でもそれは彼らに家と食事を与える為でもあり――。

そんなインド社会の歪みの中での若者たちのリアルな鬱屈や生活を、本作は余すところなく丁寧に描いているんですね。

そしてこれらの問題はインドだけでなく、世界中に横たわっている問題でもあり、そういう意味で、本作は非常に普遍的なストーリーとも言えるわけです。

新世代インド映画

多くの日本人がインド映画を初めて認識したのは、多分1995年の「ムトゥ・踊るマハラジャ」ではないかと思います。

劇中いきなり歌ったり踊ったりするインド映画は、そのインパクトで一時期ブームを巻き起こしましたが、それはあくまで“色物的”な評価だったと思うんですね。

しかし、アーミル・カーンなどの登場で徐々にインド映画は進化していき、今や世界基準のエンターテイメント作品も続々と公開されています

本作でも、インド特有の社会問題や若者たちのリアルを入れ込みながら、それをインド国内に限らず普遍的な世界基準の物語として落とし込むことで、世界に照準を合わせた作品になっているし、劇中に歌やダンスも登場しません。

いや、正確にはあるんですけど、それはムラドが仲間と初めてのMTVを撮影するという体で、ラップミュージックに乗せて自然に描かれているんですよね。

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そういう意味でも、本作は新時代のインド映画と言えるし、インド映画が既にハリウッドなど世界基準の映画と十分に戦える事を証明してるのではないかと思いますねー。

まぁ、あえて言えば内容に対して154分は若干長いかなっていう気はしましたけども。

興味のある方は是非!!!

 

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