今日観た映画の感想

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居場所を巡る物語「羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、現在絶賛公開中の中国アニメ映画『羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜』ですよー!

正直最初は「レンタルで観ればいいかー」なんて思ってたんですが、ネット上に上がる本作に対する感想たちが激熱だったので劇場に観に行ったら、もう、超面白くて激ヤバかったっす!(←語彙力)

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概要

中国で動画サイトのフラッシュアニメから人気に火がついたファンタジーアニメの劇場版。自然破壊により妖精たちの居場所が失われた世界で、黒猫の妖精が新たな住みかを探し求める。漫画家でアニメ監督のMTJJが原作と監督、脚本を兼ね、制作をMTJJが代表を務めるアニメ制作会社の北京寒木春華動画技術有限公司が手掛ける。ボイスキャストは、花澤香菜宮野真守櫻井孝宏などが担当する。(シネマトゥディより引用)

感想

「羅小黒戦記」とは

本作はFlashで制作され、WEB公開されている2Dアニメシリーズ(本編)の前日単となる劇場アニメで、2019年9月から一部の映画館で日本語字幕版が公開され、今年(2020)の11/7より、日本の声優による日本語吹き替え版が公開されたんですね。

内容をざっくり説明すると、人間の自然破壊によって居場所を無くした黒猫の妖精シャオヘイ/小黒(花澤香菜)が、人間たちに襲われているところを同族の妖精フーシー/風息(櫻井孝宏)に助けられます。

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フーシーに連れられ故郷の森に似た隠れ処の島を訪れたシャオヘイは、風息の仲間であるロジュ/洛竹(松岡禎丞シューファイ/虚淮(斉藤壮馬テンフー /天虎(杉田智和)らと出会い、安息の居場所が見つかったと喜んだのもつかの間、最強の執行人ムゲン/無限(宮野真守)の急襲を受けて捕まり、妖精が集う「館」へと連行される――というストーリー。

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そんなシャオヘイを取り戻すため、フーシーらは館のある町でシャオヘイとムゲンを待ち伏せ、クライマックスではムゲンとフーシー、そしてシャオヘイの超異能バトルが繰り広げられるわけですねー!

そんな本作の監督を務めたのは、「羅小黒戦記」の原作者であり、Web版の監督も務めるMTJJ
色々調べてはみたんですが、この人の経歴も年齢もよく分かりませんでした。
それでも断片的な情報を見ると、元々は漫画家?で、2011年から自身の飼い猫をモデルにしたシャオヘイを主人公にしたWeb版の本編シリーズを「ビリビリ動画」に投稿しはじめ9年間で28話をアップ、徐々に人気は高まり累計2.3億回再生を記録したんだそうです。

日本で言えば、作風は全然違うけど(出自も含めて)新海誠に近い映画作家と言えるかもしれません。

そして、たった一人で制作したという第1話の時点で、この映画版のストーリーは頭にあったんだそうですよ。

ミクスチャー的表現だけどオリジナリティーを持つ

そんな本作は、2Dアニメということもあって日本アニメと比べられたり、日本アニメの影響について語られたりしています。

確かに、冒頭のシャオヘイが住む森の描写は、ジブリの「もののけ姫」感があったり、ラストの方で登場する「館」のデザインなどは「千と千尋の神隠し」を連想する人も多いかもしれません。

また、クライマックスでのムゲンとフーシー、シャオヘイの戦いなんかは、大友克洋の「童夢」や「アキラ」感があるし、スピード感あふれる空中戦などは「ドラゴンボール」を思い出すかも。

そんな感じで、確かに本作には随所に日本のアニメやゲームの影響が見えるし、MTJJ監督自身もインタビューなどで日本アニメの影響を公言はしていますが、例えばクライマックスの戦いは「マトリックス」的だったり、それ以外にもディズニーやピクサーアニメ、ハリウッドアクション映画などで観たような表現も入っていて、作品作りにプラスになると思った表現方法は、洋の東西を問わず素直に取り入れるミクスチャー的というか、非常に現代的な感性の監督だと思いましたねー。

っていうかまぁ、そもそも論でいえば「千と千尋~」の建物や街並みのデザインだって元々は中国(台湾)がオリジナルだし、「マトリックス」の発想の基になっている「胡蝶の夢」だって元はと言えば荘子が考えたヤツですからね。

つまりは元は中国から輸出され輸出先の国で独自の発展した表現や発想を逆輸入したっていうか、日本で言えば、マネ、モネやドガセザンヌゴッホロートレックなどの影響を受けた作品を描いていたら、その源流は浮世絵でした。みたいな?(あれ、違う?w)

監督本人はそんな事を考えていないだろうけど、影響を受けた世界観や表現にはそもそも監督自身と同じDNAが入っていて、それが本作のオリジナリティーを担保しているっていうか。

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個人的に面白いなーと思ったのは、生き物すべてが持つ生命と能力の源であるという「霊域」の表現で、フーシーはシャオヘイの持つ特殊能力を説明するため、イメージ化した自身の霊域に彼を招き入れるわけですが、この背景は多分3DCGが使わているんですね。

でも、その背景は小さな家とその周辺の自然という必要最低限しか描かれてなくて、その周囲は真っ白なまま。ジオラマというよりヴィネットみたいな感じで、それが個人的に凄く新鮮だったんですよね。

作画監督のフー・シソーが中心になった作画クオリティーも安定しているし、激しいアクションの間にちょっとした動きの遊びを入れて観客に一息吐かせる演出も上手い。
特にクライマックスの戦いのシーンは色んな場所で色んな事が同時進行で起こっていて情報量は多いんだけど、観客が混乱しないようしっかり設計・整理されているのも素晴らしかったです。

あと、特に音の演出もとても良かったですねー!
どの映画もそうですが、音の演出だけは専用の音響システムがある映画館で観なければ分からないので、この一点だけでも本作を映画館で観る価値があると思いましたよ。

もちろん100点満点の完璧な作品というわけではなく、作劇場の細かい粗はいくつかあったし、登場人物が多くて「お前は誰やねん!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ」状態もあったりはしたけど、もしかしたら彼らはWeb版の本編に登場するキャラなのかな?

 ちなみに、何の前振りもなくクライマックスで登場した超強いっぽい執行人のナタ / 哪吒(水瀬いのり)は藤崎竜の「封神演義」にも登場する哪吒(なたく)と同一キャラで、中国の人なら名前を聞いただけで分かる、孫悟空的な古典キャラらしいです。

「居場所」を巡る物語

本作は主人公のシャオヘイ、フーシー、ムゲンの三人の「居場所」を巡る物語です。
人間によって自分の「居場所」を奪われたシャオヘイとフーシー、人間でありながら長寿で、妖精を圧倒するほどの強さを持つゆえに、人間側にも妖精側にも居場所がない孤独な男ムゲン。

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人間から自分の「居場所」を取り戻したいフーシーと、人間社会との共生を目指す「館」の執行人ムゲンとの間で、シャオヘイが見つけた答えとは――っていうのが本作のメインテーマなんですね。

でも、本作が面白いのは人間が悪役になっていないということで、妖精側のキャラクターは概ね長寿で人間の上位種なので、人間社会との共生を目指す「館」側の妖精たちも殊更人間が愛着があるとか友好的というわけでもなく、環境破壊を繰り返し自分たちの居場所を奪う人間に対し「そういう生き物」として、ある種の諦観を持って見ているんですよね。

一方で、人間が生み出したスマホなどの道具を普通に使うし、なんならネットやSNSとかも普通に楽しんでるっぽい。

その辺の設定が僕にとってはとても新鮮で、確かに何百年、何千年と人間を見ていれば、館の妖精たちの反応はむしろリアルなんだろうなと思ったりしました。

あるシーンでの「切られて木材にされるだけだろ」「いや、公園になるかもしれんぞ。有料の」と話すナタとキュウ爺 / 鳩老(チョー)という妖精の短い会話に、人間社会への皮肉がちょこちょこ入ってる一方で、人間社会に順応して楽しんでいる花の妖精・紫羅蘭(宇垣美里)や、人間好きなシュイ/若水豊崎愛生)みたいな妖精もいたり、そんな多様なキャラクターたちとシャオヘイとの出会いがそのまま本作の普遍的なテーマと直結していて、これはもう作劇として「お見事!」という他ないなーと思いましたねー。

アニメ作品としても映画としても、超面白いエンターテイメント作品でありながら深くて普遍的なメッセージ性もあり、でも子供にも伝わる様に工夫もされているっていう僕が観た中でも相当レベルの高い作品でした!!

興味のある方は是非!!!

 

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新宿の名物おじさんを追ったドキュメンタリー「新宿タイガー」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ド派手なカツラに奇抜な衣装、タイガーマスクのお面がトレードマークな新宿の名物おじさんを追ったドキュメント映画『新宿タイガー』ですよー!

先日観たネット番組の中で紹介されていて、面白そうだったのでアマプラビデオでレンタルしてみました。

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概要

新宿タイガーと呼ばれるド派手な格好で虎のお面を着けて新宿に出没する人物を追ったドキュメンタリー。長年タイガーを知る人々の証言から、お面の裏に隠された彼の意図や、彼を受け入れる新宿という街に迫る。撮影時69歳だったタイガーのほか、俳優の渋川清彦や八嶋智人宮下今日子夫妻、井口昇監督らが登場。『ハー・マザー 娘を殺した死刑囚との対話』などの佐藤慶紀が監督を務め、女優の寺島しのぶがナレーションを務めた。(シネマトゥデイより引用)

感想

新宿タイガーとは

パーティーグッズのアフロカツラに安手の原色バリバリな服を重ね着し造花やぬいぐるみで装飾。そしてタイガーマスクのお面を被って新宿の街を闊歩する謎の男、通称「新宿タイガー

そんな彼の正体は50年以上新宿を担当する現役最古参の新聞配達員(当時)で、もちろん仕事中もマスク姿を貫き通すっていうか、寝る時以外はサイケデリックな衣装に身を包み決してマスクは外さない――らしいんですが、映画の中ではわりと早い時間にあっさりマスクを外して素顔を見せたりするので、別に仮面で正体を隠したいわけではないみたい。

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それだけなら、何処の街にもいる目立ちたがりのちょっと変なおじさんって感じですが、タイガーさんが凄いのは有名無名を問わずとにかく人脈が広いことなんですよね。

シネマと美女と夢とロマン」だけを追い求めているというタイガーさんは有名なシネフィルで、1日数本観ることはザラだし洋邦・メジャーマイナー・ジャンルを問わず何でも観るそうで、本作ではやはりシネフィルで知られる映画監督の井口昇氏によれば「映画館に行くと必ず前の席にいた」とのこと。

また、一回り以上も年下の女優や女性アーティストとデートをしたり、知り合いの女優が舞台に出演すれば花束を持って同じ劇を何度も観劇し、映画監督や男性俳優にも友人多数。
反骨の映画監督として知られる若松孝二にも可愛がられたなんて逸話も。

更には各種メディアへの露出も多く、タワーレコード新宿店のオープンとリニューアルの際ポスターに起用されたり、朝日新聞で1年に渡って特集されたり、海を越えて韓国の女性ファッション誌にも登場するなど、名実ともに新宿を代表する名物おじさんとして知られているようです。
僕も昔、テレビか雑誌で見て、新宿タイガーさんのことは知ってましたしね。

で、タイガーさんは大学進学のため故郷の長野県から上京。
読売新聞の新聞奨学生として新聞販売店に住み込みで働き、大学は2年で中退するも、新聞配達はそのまま継続。以降、今年(2020年)2月に引退するまで現役最古参の新聞配達員として働きながら、50年以上も新宿という街の移り変わりを見てきた生き証人でもあるんですね。

お面何か被ってるから寡黙な人かと思えば、中身はビックリするくらい饒舌で人懐っこいおじいちゃんで、そんな彼を五月蠅いと嫌う人もいるけど、彼が通う飲み屋のマスターやママには概ね愛されている。
ゴールデン街にあるバーのマスターは五月蠅いからタイガーさんを店を出禁にしろというお客に「タイガーを出禁にするなんて、そんなのはゴールデン街じゃないだろ!」と言い放ったなんて良い話もあったり。

ヘンテコな恰好(しかも場所を取る)で歩き回るし、お喋りだけど何を言ってるのかよく分からないし、男女問わずやたらとハグしたがるけど、その人懐っこさには裏がなくて自身が壁を作らないオープンな人だから、周りの人もついつい彼に心を開いてしまうんでしょう。

ただ、そんなタイガーさんですが、新宿タイガー誕生のキッカケについては何故か話したがらないんですよね。

そんな彼がタイガーマスクのお面をつけ、今のような活動?を始めたのは1972年からだそうで、「少しでも新宿が明るくなればと思って、たまたまお祭りで見つけたトラのお面を被り始めた」というのが本人談の公式プロフィールなんですが、なぜ虎のお面なのか、何があって新宿を明るくしたいと思ったのかに言及されると、いつもはぐらかすんですよね。
本作ではあの手この手で新宿タイガー誕生キッカケの真意を聞き出そうと試みているわけですが、結局最後まで明かされることはありませんでしたw

ただ、タイガーさんはいわゆる団塊の世代で、上京したのはまさに学生運動が盛り上がっていた頃だし、彼がタイガーのお面を被り始めた1972年は「あさま山荘事件」で実質的に学生運動が終焉を迎えた年でもあります。
同年代の若者たちが次々と大人たちに負け、理想の平和国家を目指して集まったはずの仲間たちが、理想とはかけ離れた形で自滅していったり。
タイガーさん自身はノンポリだったみたいですが、そうした動乱の新宿をその目で見て何かを感じ、人間を止めてトラになったのかも――なんて勘ぐってしまうんですよね。

新宿の妖精

タイガーさんが“新宿タイガー”になった真意を探るというのは、本作のテーマの一つだと思うんですが、もう一つ、「新宿タイガー」を撮ることで新宿という街、ひいては日本という国の変容を記録することが本作のメインテーマなのだと思いました。

多分、タイガーさんが「新宿タイガー」として今日まで約50年生息できているのは、文化やカルチャーの発信基地として、メジャーからサブカル、アングラまで雑多な文化を包み込むだけの懐の深さが新宿にあったからで、他の街ではそうはいかなかったと思うんですよね。

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そして、そんな新宿を根城に長年にわたって活動するうち、いつしか彼自身が新宿の一部としてなくてはならない存在になったんだと思うのです。

昔は、そんな名物おじさん(おばさん)がどの街にも一人くらいはいたものですが、時代と人の移り変わりで今や殆ど絶滅してしまいました。
タイガーさんはそんな数少ない絶滅危惧種の生き残りでもあり、今や彼が”視える“人に小さな幸福をもたらす妖精のような存在になっているんだと思います。

果たして、今の新宿(日本)にどのくらい彼が「視える」人が残っているのか、そして新宿タイガーが消えるそう遠くない未来、新宿は、日本は、どんな風に変わっているのか。

作中でお気に入りの美女とご機嫌にお喋りするタイガーさんを見ながら、そんな事を考えてしまいました。

興味のある方は是非!!

 

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きっとプロレスファン以外にも響く普遍的な物語「ジェイク・ザ・スネークの復活」(2015/日本未公開)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、80年代を代表するプロレスラー・ジェイク・ザ・スネーク・ロバーツのその後を追った2015年のドキュメント映画『ジェイク・ザ・スネークの復活』ですよー!

今回、アマプラのおすすめ映画に入っていたのを見つけて、早速観てみました!

 

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概要

ジェイク・ザ・スネーク・ロバーツは80年代アメリカを代表するプロレスラーの一人であったが、人気の低迷、身体へのダメージと老い、アルコール・薬物中毒・鬱など深刻な問題をいくつも抱え自暴自棄な生活を送っていた。
そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、かつて彼の後輩プロレスラーだったDDP(ダイヤモンド・ダラス・ペイジ)。
本作はDDPの助けを得てリハビリに挑むジェイク・ロバーツを追うドキュメンタリーである。監督はスティーブ・ユー。

感想

プロレスドキュメンタリーの傑作「ビヨンド・ザ・マット」の後日譚

1999年(日本では2001年)に公開されたドキュメンタリー映画ビヨンド・ザ・マット」は世界中のプロレスファンのみならず、プロレスファン以外からも高い評価を受けたドキュメンタリー映画の金字塔的な作品で、この作品にインスパイアされたダーレン・アロノフスキー監督が映画「レスラー」を制作したのは有名な話。

「ビヨンド~」では、かつてアメリカを席捲したスーパースターレスラー3人を追う構成になっていて、

・過激すぎるファイトスタイルから体を壊したのをキッカケに、家族との平穏な暮らしを選び引退したミック・フォーリー

・プロレスラーとして脚光を浴びる興奮が忘れられず、引退と復帰を繰り返すテリー・ファンク

そして、かつては何万人もの前で試合をし、1980年代に一世を風靡した大スターだったが、麻薬と酒に溺れ今やドサ回りのロートルレスラーとして極小団体で日銭を稼ぐジェイク・ロバーツ。

映画「レスラー」でミッキー・ロークが演じたランディ・ザ・ラム・ロビンソンはほぼジェイクがモデルだと言われていて、疎遠になった娘との関係を修復しようとするエピソードも(ビヨンド~の)ジェイクと重なるんですよね。

「ビヨンド~」では、娘と再会したその夜、麻薬を摂取したところで彼のエピソードは終わっていますが、それから16年後。

落ちぶれたジェイクは、あるインディーズ団体に泥酔状態で出場するものの試合にならなかったことで、どこからも声がかからなくなり実質引退状態。

重度のアルコール中毒、長年のプロレス生活でのダメージと運動不足で体はボロボロ。更にはうつ状態となり独りぼっちで死を願う毎日を送っています。

そんなジェイクに救いの手を伸ばしたのが、かつて無名時代にジェイクにフックアップしてもらった事に恩義を感じている後輩で、共に行動しながらプロレスラーの心構えを教わったというDDPことダイヤモンド・ダラス・ペイジ。

彼は引退後、エクササイズだかヨガだかで成功しているらしく、共同生活をしながら禁酒と健康を取り戻すことをジェイクに提案。

自堕落な生活を変え、更生したいと願っていたジェイクはDDPの提案を受け入れ、リハビリを始めるのだが――という内容なんですね。

プロレスファン以外にも届く普遍的な物語

僕は子供の頃からプロレスが好きで一時期はアメリカンプロレスも観ていたんですが、本作の主役ジェイク・ロバーツに関しては名前くらいは知っているけれど――程度で、あまり思い入れはないんですよね。

かつてプロレスラーとして大きな名声を得たにも関わらず、今や落ちぶれてどん底の生活を送っていて子供や孫とも絶縁状態。
運動不と酒と老いでブヨブヨに太った体は大スターだった頃の影はなく、DDPの元でリハビリを続けて少し良くなってきたかと思ったら酒を飲んで振り出しに戻り、精神が不安定でちょっとしたことで怒ったりメソメソ泣き始めたり。

まぁ、見る人によってはゴラー!!―(o゚Д゚)=◯)`3゜)∵ってなること請け合いのダメ人間っぷりなんですが、その根底には頑張っても父親に認められなかったという過去が呪いとなってジェイクを支配し続けているのです。

なので、「酒を飲んだのか!」とDDPに詰められて「(本当は沢山飲んでるのに)2杯しか飲んでない!」と嘘をついたり、その後で「(ダメだと)分かってるのに止められないんだ」とメソメソ泣いたりしながらも、見捨てないでいてくれるDDPの恩に報いるため、リハビリに励んで体調と精神を徐々に回復させていくことで絶縁状態だった子供たちや孫との関係を回復させていく様子や、何度も裏切られながらも「憎むべきは(ジェイクじゃなく)中毒なんだ」と涙ながらに話すスタッフ、そして、その先にある感動のラストシーンはもうね、嗚咽ですよ!

これは、プロレスファン以外にも響く普遍的な人間ドラマだと思うし、最初はジェイクのダメっぷりにイライラしても最後まで観ればジェイクやDDP、仲間たちが大好きになるんじゃないかと思います。

それに人や物事を計る物差しが「正しさ」だけになって、何でもかんでも「自己責任」で切り捨てられちゃう世知辛い今の時代だからこそ、この作品にはジェイク・ロバーツ個人のドラマ以上に大きな価値があるのではないかとも思いました。

興味のある方は是非!!

 

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サブロウタ萌え!な映画「昭和極道怪異聞ジンガイラ 仁我狗螺」(2014)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、アマプラでたまたま見つけた2014年の邦画『昭和極道怪異聞ジンガイラ 仁我狗螺』ですよー!
押井守らが審査員を務めたアクション映画専門の映画祭「ハードボイルド・ヨコハマ シネマジャンクション2013」で監督賞を受賞したという作品で、ざっくり言えば極道版「呪術廻戦」って感じでしたねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

不思議な秘術を操る極道たちの姿を描いた、オカルトとヤクザのジャンルを融合させたアクションホラー。とある森の中へと足を踏み入れた呪術の使い手でもあるヤクザたちが、思わぬ事態に直面する姿を活写する。メガホンを取るのは、『Holy+Dog』などの近藤啓二。『サムライゾンビ・フラジャイル』などの正木蒼二、『日野日出志のザ・ホラー 怪奇劇場 ~第二夜~』の高東楓らが出演。独特な世界観に加え、フィルム傷などを盛り込んだクラシックな雰囲気漂うビジュアルも作品の雰因気を盛り上げる。(シネマトゥディより引用)

感想

極道xオカルト

荒ぶる極道社会において漢たちは本来、「博徒」と「香具師」に分かれている。
博徒とは賭博を生業とし主に都市部に定住する漢たちである。
香具師とは、薬草の神・神農皇帝を崇め、日本各地を旅しながら様々な呪術を身につけていった漢たちである。
彼ら、香具師の中でも特に術に長けていた物を「技師」と呼んだ。

というナレーションから始まる本作。

香具師(やし)は、祭りの縁日などで露店で出店や、街頭で見世物などの芸を披露する、または興行を取り仕切るヤクザの事で、古くは流しで歯医者的な事もしたり薬売りもしていたらしいので、その辺が本作の発想の基になってるのかもしれません。

冒頭、江州梅本一家の香具師サジキ・ジントウと弟分で”技師“のクゼ・サブロウタは、組長同士が兄弟分である梓黒組が待つ深い森の入り口に現れます。

この森は梓黒組の力の源となる聖域ですが、また梅本一家の組長と兄弟分である梓黒組の組長はこの森に張られた結界の中に入ったまま行方不明になってしまっているらしく、サジキは組長の命を受けて結界内を調べにきたらしいんですね。
で、梓黒組の人たちとすったもんだの後、サブロウタの術で結界の中に入ったサジキは、紛れ込んだ異物を結界から排除する「傀儡」と遭遇し――というストーリー。

この溢れ出るオカルト系厨二設定………大好物でした!!(*゚∀゚)=3

( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!

また、サジキとサブロウタのビジュアルも、いかにも厨二っぽくてグッときちゃうんですよねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com :主人公サジキ(右)と技師のサブロウタ(左)

最初こそ、サブロウタのいかにも過ぎるビジュアルに辟易するんですが、クライマックスにくる頃には「うっは、サブロウタ超かっけーーー!!(*゚∀゚)=3」ってなるんですよねー!

一応、結界に入って調査する兄貴分のサジキが主人公で、サブロウタは外からサポートする相棒的役周りなんですが、傀儡に狙われて右往左往するばかりのサジキより、呪術の知識と技を駆使して必死に兄貴分を救おうとするサブロウタの方が、実質主人公っぽいっていうw

さらに性格は明るく、顔を隠してるくせに感情表現が一番豊かっていうところもオタクはみんな大好き!って感じなナイスキャラなのです。

また、本作で使われる結界は、同じ場所にいくつもの次元の層が折り重なっていて、侵入者を皆殺しにする「箱入り娘」っていう呪術が仕掛けられている。
で、結界から戻ってくるには小さな祠に入っている「箱入り娘」のパズルを解く必要があるんだけど、このパズルのピース一つ一つが異次元の扉になっていて、パズルを動かすたびに自分たちも別次元に飛ばされる――というアイデアも面白かったですねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com :パズルのピースを動かすと次元も動くというナイス設定

低予算のインディー映画らしく、出演しているキャストは知らない人ばかりだし、舞台はずっと山林だし、デジタル撮影を自主制作のフィルム映像っぽく加工した映像はいかにも安っぽいんですが、そうしたマイナス部分を香具師=呪術師、山林=結界という設定をつけることでプラスに転換させているのはクレイバーなやり方だなーと思いましたよ。
あと、アイデアもですが構図も全体的に実写映画というよりアニメっぽくて、本作の近藤啓二監督はもしやオタク畑の人なのでは?って思ったりしましたねー。

残念ポイント

ただ残念なことにこの作品、圧倒的にテンポが悪いっていう弱点があって、せっかくのパズルと呪術を連動させるという設定も同じ展開の繰り返しで飽きちゃうし、物語の運びも上手くないので、中盤のあるどんでん返し展開を見せられても「でしょうね!」としか思わないんですよね。

あと、一番の問題は迫りくる傀儡の怖さやスリルが感じられないんですよね。
まぁ、ホラーじゃなくてアクション映画だからなのかもですが、傀儡の攻撃は基本物理だし、体は固いし力もあるし武器も持ってるけど、そこまで絶望的な戦力差ではなくて、効きはしないけど殴ったり蹴ったり拳銃で撃つなどの反撃は出来る。

あと、走って追いかけたりもしないし、突然現れて不意打ちしたりもしないので、常時主人公たちと傀儡の間には一定の距離があるんですよ。

サブロウタの説明で傀儡やべえって事は分かるんだけど、それを映像で見せてくれないし、テンポも悪く見せ方も上手くないので実感として傀儡の怖さもヤバさも伝わらないっていう。

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画像出展元URL:http://eiga.com :ヤクザの腸を引きずり出してご満悦の傀儡タン

傀儡のビジュアルデザインは良かっただけに、そこはかなり勿体ないなーと思いましたねー。

極道版「呪術廻戦」

事程左様に、いかにも安物B級映画っぽいし、タイトルやビジュアルもホラーっぽいので、ついつい敬遠しちゃうかもですが、ぶっちゃけ怖さはゼロだし、どちらかと言えば設定も物語も少年漫画っぽいんですよねw

例えるなら(コッチの方が先に作られてるけど)極道版「呪術廻戦」って言えば作品の雰囲気は伝わりますかね?

テンポが悪くて観づらい部分は多々あるけど、クライマックスのサブロウタの活躍シーンは最高にアガるし、ぶっちゃけ無口な香具師の皆さんの中、解説役として物語を回してるのもサブロウタだし、ラストカットで〆を飾るのもサブロウタっていう、「もうサブロウタが主役でいいじゃない!」っていうサブロウタ映画になってましたねーw

今ならアマプラ見放題で無料で観れるし時間も81分と見やすいので、サブロウタ興味のある方は是非!!

 

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▼予告編▼

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▼作品リンク▼

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お見事です!「スパイの妻 劇場版」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、第77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督作品『スパイの妻』ですよー!

朝一の回を観に行ったんですが、平日にも関わらず結構な数のお客さんが入ってたのが印象的でしたねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

トウキョウソナタ』『岸辺の旅』などの黒沢清監督によるドラマの劇場版。太平洋戦争前夜を背景に、運命によってもてあそばれる夫婦の試練を描き出す。蒼井優高橋一生が『ロマンスドール』に続いて夫婦にふんし、『犬鳴村』などの坂東龍汰や、『コンフィデンスマン JP』シリーズなどの東出昌大らが共演。『寝ても覚めても』などの濱口竜介監督と、濱口監督の『ハッピーアワー』などの脚本を担当した野原位が、黒沢監督と共に脚本を手掛ける。(シネマトゥデイより印象)

感想

テレビドラマを劇場版に再編集

本作は今年(2020)6月6日、NHK BS8Kで放送されたテレビドラマのスクリーンサイズや色調を調整し劇場版として再編集した作品で、黒沢監督の教え子でもある「ハッピーアワー」の濱口竜介監督と脚本を担当した野原位コンビが脚本を担当。

当初はプロデューサーから神戸という場所だけを指定された濱口・野原が、「黒沢さんに興味を持ってもらわないと始まらない」と、以前、黒沢が着手してけっきょく頓挫した「一九〇五」という歴史ものの企画を意識したことから、太平洋戦争前夜である1940年の神戸を舞台にした本作が生まれたようです。

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元が8K(横×縦の解像度が7680×4320画素)の映像ということで、とにかく映像の輪郭がハッキリしていて色味も鮮やかという印象を受けた一方で、キャラや背景の輪郭を曖昧にすることで映像の中の不穏さや怖さを浮き立たせる、黒沢清のJホラー的演出とは相性が悪いようにも感じましたかねー。

スパイごっこの妻

そんな本作は「スパイの妻」と銘打っているものの、厳密に言えば職業スパイは登場しないんですよね。

太平洋戦争前夜の1940年、神戸の貿易会社を営み裕福で幸せな暮らしをしている福原優作高橋一生)と聡子蒼井優)夫婦。

彼らは甥の竹下文雄坂東龍汰)と3人で、趣味の自主映画を撮影したり(大正時代にパテベビーという9.5㎜フィルムの小型カメラで個人映画を撮影するブームがあったらしい)、執事やお手伝いさんがいる豪邸に住んで、洋酒を飲みフォークとナイフで食事する、ザ・富裕層という感じ。

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しかし、一方で優作のビジネス仲間の外国人(ピラメキーノに出てたダルさんだった)がスパイ容疑で当局に連行されるなど、戦争の足音は確実に近づいてきているのです。

そんなある日、聡子の幼馴染で優作とも面識のある津森泰治東出昌大)が、神戸憲兵分隊本部の分隊長として赴任。
優作や聡子に洋風な生活を改めるよう忠告をするんですね。

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その後、仕事のため文雄と共に満州に出張した優作は、そこで恐ろしい国家機密を偶然知ってしまい――というストーリー。

義憤にかられた優作は文雄と共に日本軍の非道な行いを国際舞台で告発しようとしますが、何も知らされない聡子はそんな優作が浮気をしているのではないかと疑います。
そして、真相を確かめるため訪ねた文雄から優作に渡すようあるノートを託されたことをキッカケに、「セカイの真実」を知った彼女の人生が一変するという物語で、これは黒沢清の過去作品でもたびたび描かれてきたテーマでもあります。

ただ、この作品で優作は別にスパイというわけではなく、たまたま仕事で行った満州でたまたま日本軍の非人道的な行いを知ってしまったので、その事実を世界に向けて告発するべく秘密裏に動いている。

つまり、彼がやっているのは「スパイごっこであってスパイではないんですね。
それは、冒頭で描かれる彼の趣味の個人映画と呼応しているように思いました。
それも結局は「映画ごっこ」だし、もっと言えば映画自体が「ごっこ遊び」の延長線上にあるんですよね。

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そして、映画中盤で優作が隠したフィルムを見た聡子も秘密を知り、ここから二人の「スパイごっこ」が始まるわけですが、本作を観た人なら、同じ方向を見ているようで実は二人が全く逆方向を向いていることが分かると思います。

それは(どっちが良い悪いではなく)男女の性差による、モノの見方や価値観の違いではないかと僕は思うし、本作における分断というテーマを表すエピソードだとも思いました。

クライマックスの解釈について

中盤で真実を知った聡子がとった“ある行動”と、クライマックスで優作がとった行動は少なくとも表面上は全く同じです。
ただ、僕はここでの優作の意図と聡子の「お見事です!」の意味をどう解釈するべきかでまだ悩んでいるんですよねーw

つまり優作のアレは、中盤での聡子の行動に対する意趣返し(復讐)なのか、それとも自分の「スパイごっこ」に聡子を巻き込まないための優しさだったのか。
そして、聡子は優作の行動をどう受け取ったのか、その後の「お見事です」は彼女の計算だったのか。
この解釈次第で本作は全く別の物語になっちゃうんですが、そこであえて押しつけがましく説明せず、解釈を観客に任せるラストは好感が持てたし上手いなーと思いました。

高橋一生の上手さにビックリ

そんな本作の格を上げている一因がキャスト陣の演技であるのは間違いないでしょう。
主演の蒼井優は今や日本でも指折りの実力派女優と言って過言ではないと思いますが、本作での時代掛かったセリフ回しは見事で、勿論僕はその頃の上流階級女性の話し方は知らないけれど、語尾の処理の仕方とかちょっと早口に喋るところなんかは、(上手く言えないんですが)昔の邦画に登場するヒロインの話し方と同じというか。
あと、舞台演劇のようなややオーバーアクトな演技も、本作の箱庭的な世界観を見事に表現していたように思いました。

むしろ僕が驚いたのは優作役の高橋一生で、その佇まいや話し方や所作まで、蒼井優とは対照的に抑えた演技ながら当時のインテリ男性に見える説得力があって「この人こんなに芝居が上手いんだ!」って改めて驚きましたよ。
恐らくですが、彼が本作のリアリティーラインをコントロールしているんだと思いましたねー。

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そしてもう一人の重要人物である東出昌大は……うん、今回もしっかりぎこちなかったですw
いや、この人に求められているのは芝居の上手い下手じゃなくて、あの独特の存在感というか、どの作品でも浮いてしまう異物感だと思うんですよね。
本作でも、彼のぎこちなさや画面の中での異物感が、恐怖を醸す装置としてしっかり機能していたと思いました。

銀獅子賞?

そんな感じで個人的には超楽しんだんですが、その一方で「銀獅子賞(監督賞)をとるほどの作品か?」っていう思いも。
いや、僕も黒沢清作品をそんなに沢山観てるわけではないですが、もっと凄い黒沢作品は他に沢山あるんじゃないの?と思ったんですよね。
で、映画評論家の松崎健夫氏が言うには本作が銀獅子賞を取った要因は2つ。

1・黒沢清が、Jホラーの手法で史実を基にした人間ドラマを獲った。

2・これまで邦画では、この時代や戦争を舞台にしたスパイもの(ノアールもの)は初めて。

という事らしいです。

1については、黒澤清がJホラーの大御所であることが海外でも知られていて、その彼が――という部分が評価されたわけで、つまり黒沢清ありきの受賞だったと。

2については、「いや、ジョーカーゲームとかあるし!」と思ったりもしましたけど、あれはノアールものの文脈とはちょっと違いますしね。

あと、言論・表現の自由が徐々に侵食され、人々が分断されていく1940年~の日本を描くことで、リアルでもネットでも排他主義や分断が進む現代社会を表現するという構成も2010年以降の映画としての世界基準を満たしていて、当然そこも受賞理由になっているんだろうと思いました。

でもまぁ、そんなややこしいことは置いておいて、前述したように(観終わった後に解釈で悩むのも含めて)個人的には超面白かったし、ストーリーや黒沢映画ならではの箱庭感がある映像も凄く良かったです。
あと、2時間弱っていう上映時間も、長すぎず短すぎず丁度良かったですねー。

興味のある方は是非!!

 

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ジョン・カーペンター&ダン・オバノンの長編デビュー作「ダーク・スター」(1981)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、巨匠ジョン・カーペンターと「エイリアン」の脚本などで知られるダン・オバノンの長編デビュー作『ダーク・スター』ですよー!

アマプラでたまたま見つけて見たんですが、タイトルからシリアスな作品かと思ったら、ポンコツ船員たちが宇宙で繰り広げる、ゆるふわ日常系SFでしたよw

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概要

銀河開拓の旗艦ダーク・スターの航海を描いた、J・カーペンターとD・オバノンの学生時代の作品をリメイクしたSF。脳だけ生きていて冷凍室から指揮する船長、ビーチ・ボール状エイリアン、思考する爆弾等の魅力ある小道具と忘れ得ぬラスト・シーンがこの作品をカルト・ムービーにさせた。乗員の生活風景や船内の描写は後のオバノン脚本作品「エイリアン」に受け継がれる。(allcinema ONLINEより引用)

感想

自主製作映画を商業映画にリブート

南カリフォルニア大学(USC)映画学科で映画を学んだジョー・カーペンターは、大学時代に出会ったダン・オバノンと意気投合し、USCの仲間も集めて本作の原型となる同名の自主製作映画を製作。
この作品がジャック・H・ハリスというプロデューサーの目にとまり、「シーンを撮り足し長編映画にすれば、この映画を配給し劇場公開する」と持ちかけられたそうなんですね。

ちなみにこのジャック・H・ハリスという人は、「マックイーンの絶対の危機(SF人喰いアメーバの恐怖)」(1965年)という低予算SF映画を大ヒットさせた映画プロデューサーですが、金は出さないが口は出すタイプの困った人物だったらしく、カーペンターもオバノンもかなり苦労したようですね。

で、結局苦労の末1974年に完成し、翌年何とか公開にこぎつけた本作でしたが、早々に打ち切られ評価も散々だったらしいです。

しかし、作品の持つユーモアを理解した若い観客を中心にカルト的な支持を得た本作をきっかけに、カーペンター、オバノンの二人は後のキャリアを築いていったのだそうです。

ゆるふわ日常系SFながら……

そんな本作の設定をざっくり説明するとこんな感じ。

人類が宇宙に進出した未来、4人の船員を乗せた宇宙船ダーク・スター号は人類の植民の邪魔になる不安定惑星(人類が住む惑星に何らかの危害を加えそうな、挙動の安定しない惑星?)を核爆弾?で爆破して回る任務のため宇宙の彼方で孤独な航海をしているわけです。

冒頭の地球?からの通信では、互いの通信を受信するまで10年かかると話してるので、地球からは相当遠い事が分かります。

また、ダーク・スター号は長年の航海ですっかりオンボロに、あちこち故障だらけで、放射能の事故によって船長は死んでしまったらしい。

そんな船の乗組員は、死んだ船長に変わりダーク・スターを取り仕切るドゥーリトル(ブライアン・ナレル)、船の屋根部分に取り付けられたドームに閉じこもり、一人宇宙を見ているタルビイ(ドレ・パヒッチ)、ヤバい威力の光線銃を撃ってストレス発散するボイラー(カル・ニホルム)、本当は船員でもピンバックでもなかったけど、間違いで乗船してしまったピンバックダン・オバノン)。

本作の8割はそんなポンコツ船員である彼らのゆる~~い日常と、ドタバタや失敗を描く「ゆるふわ日常系SF」なんですねー。

しかし、彼らは30年以上前に地球を出発したものの、光速で宇宙を進んでいるため3歳しか歳を取っていないとか、前述したように距離が離れれば通信に(年単位)で時間がかかるとか何気にSFの化学考証はしっかりしてるし、物語もフリとオチが意外としっかりしてたり、ピンバックが船内で飼っているビーチボールに足の生えたエイリアンとの追いかけっこは、基本はドタバタコメディーなんだけど観ていて結構ドキドキハラハラしたり。

低予算のB級SF映画で映像もチープ。
2001年宇宙の旅」や「博士の異常な愛情」、「宇宙大戦争」など名作SF映画のパロディーがふんだんに盛り込まれたコメディーでもあるのでナメてしまいがちですが、随所にSF知識をベースにした発想や映像センスが光る作品でもあるんですよね。

また、後のカーペンター、オバノンが手掛ける事になる「エイリアン」や「SW」「ハロウィン」「遊星からの物体X」などなど、名作の「芽」のようなものが、確かに本作に見て取れるという意味で、歴史的、資料的な価値のある作品だと思いましたねー。

いや、だからってあまりハードルを上げて観ちゃうと肩透かしを食らうのは確実だし、ぶっちゃけて言えば、別に面白くはないんですよ?

ただ、何て言うかこう、ショボい映像の中に後のジョン・カーペンターダン・オバノンの源流を探す宝探し的な楽しさのある映画なのかなって思いましたねー。

興味のある方は是非!!

 

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鬼才ジム・ジャームッシュ初のゾンビ映画「デッド・ドント・ダイ」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」や「パターソン」で知られるジム・ジャームッシュ初のゾンビ映画デッド・ドント・ダイ』ですよー!

残念ながらおらが町では公開されなかった本作ですが、昨日?Amazonビデオでレンタルが開始されたので、早速観ました!

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概要

『パターソン』などのジム・ジャームッシュが監督を務めたゾンビコメディー。町にあふれ返ったゾンビと戦う人々を描く。ジャームッシュ監督作『ブロークン・フラワーズ』などに出演してきたビル・マーレイをはじめ、『スター・ウォーズ』シリーズなどのアダム・ドライヴァー、『少年は残酷な弓を射る』などのティルダ・スウィントン、『ボーイズ・ドント・クライ』などのクロエ・セヴィニーらが共演する。(シネマトゥデイより引用)

感想

ジャームッシュ作品常連の豪華俳優によるオフビートなコメディー……だが

公開が決まった時、「あのジム・ジャームッシュゾンビ映画を!?」と映画好きの間でかなり話題になったものの、公開後はとんと話題を聞くことがなかった本作。

おやおや?と思ってたんですが、今回観てその理由がよく分かりましたw

本作には、大御所ビル・マーレイ、酷評のSWで一人評価を上げたアダム・ドライバー、みんな大好きティルダ・スウィントン、この人が出てる映画は大体面白いでお馴染みスティーヴ・ブシェミなど、ジャームッシュ作品の常連の豪華キャストが大勢出演し、田舎町を舞台にオフビートな笑いと小粋な会話で淡々と描いていくわけですが、これ、監督がジム・ジャームッシュじゃなかったら「駄作」の一言で切り捨てられかねない作品でもあるんですよね。

例えば、カントリーの大物スタージル・シンプソンが本作の為に書き書き下ろしたというタイトルと同名のテーマ曲がパトカーのラジオから流れ、ビル・マーレイが「なんで俺はこの曲を知ってるんだろう?」と呟くと、部下のアダム・ドライバーが「テーマ曲だからですよ」とメタ発言したり、新しく町にやってきた葬儀屋のティルダ・スウィントンは床の間に置かれた仏像の前で日本刀の稽古をし、ゾンビだらけの町を颯爽と歩きながらゾンビの首を刎ねる謎のキャラ。

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金髪で日本刀姿は「キル・ビル」のユマ・サーマンを連想させるし流れ的に最重要キャラっぽい雰囲気を醸し出してるわけですが、結局本筋に絡むことはなく。

その後、ゾンビに殺されたダイナーのオーナーたちの死体を見るや、アダム・ドライバーは即「ゾンビの仕業」だと言い出し、事あるごとに「最悪の結末になりそう」と言うんですね。

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ゾンビ発生の原因は最後まで明かされませんが、どうやら極地での水圧工事で地軸がズレた事に関係があるらしいという「イマドキそれ!?」って思うような理由で、ラストは世捨て人のトム・ウェイツ作品のテーマを全部セリフで喋って終わるっていう、投げっぱなし状態。

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それぞれのエピソードに登場する町人たちは最後まで銘々バラバラなままで合流もせず、伏線も全く回収されないのです。

もうね、「おれは100分間何を観せられてるんだ」状態ですよw

ロメロ版「ゾンビ」のアップグレート版?

こんなん普通なら「悪ふざけの駄作」とか「ジャンルに愛がない」とか「豪華俳優陣の無駄遣い」とか言われるんでしょうけど、そこは鬼才ジム・ジャームッシュ監督作ということで好意的に深読みしようと思えば出来なくもないし、「面白くない」なんて言おうものなら「分かってない奴」って思われそうなトコが、非常に質が悪いんですよねーw

監督自身インタビューで「消費社会の中で自分の事しか考えず欲望を満たす現代人はゾンビみたいなもの」(意訳)と話してるんですが、これはゾンビ映画の父ジョージ・A・ロメロ1978年の作品「ゾンビ」と同じテーマで、しかし、登場人物(生き残り)がいつまで経っても合流しないままという展開は、分断の進む国家や個人という2010年以降の世界を反映している=「ゾンビ」のアップグレード版をジャームッシュ監督ならではの切り口で――とか何とか。まぁ、どうとでも言えちゃう。

実際、劇中で町を訪れる若者たちが乗っている車は、ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」と同車種だったり、ゾンビもイマドキな”走るゾンビ”ではなくロメロ版の”歩くゾンビ“だったり、ロメロに対しての敬意は感じるんですよね。
言われてみれば田舎町だったり墓場が舞台なのも「ナイト・オブ~」感があるし。

でも「じゃぁ面白いのか」と聞かれれば、僕にとってはハッキリ「面白くはない」作品で、ビル・マーレイアダム・ドライバーのメタな会話も上スベりしてるし、この映画にティルダ・スウィントン必要!?って思っちゃう。
僕はわりとストーリー重視で映画を観ちゃうタイプなので、余計にそう思うのかもしれませんが。

ただ、賛否は分かれてるっぽいので好きな人には面白い作品なんだと思うし、ゾンビ映画とはいえ、グロ描写や恐怖演出は少ないので、ゾンビものが苦手な人でも安心して観られるんじゃないでしょうか。

興味のある方は是非!!

紹介した作品はこちらで視聴できます(有料)

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