今日観た映画の感想

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ベタを恐れず照れず真正面から描く「新喜劇王」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、みんな大好き「アジアナンバー1面白おじさん」ことチャウ・シンチー監督最新作『喜劇王』ですよー!

自身が1999年に主演、監督、脚本を手がけた「喜劇王」の主人公を女性に変えて復活させた本作、僕はオリジナルの方は未見なんですが、それでも十二分に楽しめる人情コメディーでしたねー。

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概要

少林サッカー』『カンフーハッスル』などのチャウ・シンチーが、監督・主演した『喜劇王』を自らアレンジしたコメディー。無名の女優と落ちぶれたスター俳優の出会いがもたらす奇跡を、笑いと涙で描く。共同監督として『イップ・マン』シリーズなどのハーマン・ヤウが参加。『アイスマン』シリーズなどのワン・バオチャンをはじめ、エ・ジンウェン、チャン・チュエンダンらが出演している。(シネマトゥディより引用)

感想

チャウ・シンチーとは

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このブログでは監督作を何本かご紹介しているチャウ・シンチーですが、彼が何者か知らない人もいると思うので、まずはざっくり経歴をご紹介。

チャウ・シンチーは1962年生まれの58歳。
ホンコンの民放テレビ局、「無綫電視」の俳優養成所第11期の卒業生となった彼は、人気子供番組『430穿梭機』の司会者としてデビューします。

この番組では2人の司会者が「いいお兄さん」「悪いお兄さん」に扮し、いいお兄さんが悪いお兄さんの素行を叱って話が展開していく内容で、チャウ・シンチーは悪いお兄さん役を担当、これが大好評だったため5年間勤め上げたのだそうです。

その後、テレビ番組の司会者を1年務めて俳優に転身。
最初のうちは仕事も少なかったそうですが、この下積み期間に本などで勉強をしたことが、後の俳優&監督業の支えになっているのだとか。

そうしてテレビや映画で俳優として頭角を現した彼は、スタッフも兼任するようになり、1994年公開の『0061北京より愛を込めて!?』で、監督として初めてクレジット、2001年の『少林サッカー』や2004年公開の『カンフーハッスル』は香港映画歴代興行収入の記録を塗り替え日本でも大ヒット。チャウ・シンチーは世界的にも注目を集めます。

その後、2008年に「ミラクル7号」、2013年「西遊記〜はじまりのはじまり〜」、2016年「人魚姫」とチャウ・シンチー印のコメディー作品を重ねて香港、中国でヒットメーカーとなるも、残念ながら日本での扱いはイマイチなんですよねー。

そんな彼の作風は、様々な作品のオマージュや引用を多用する、初期のタランティーノ的ミクスチャーセンスと、非常にクラシカルな香港映画ならではのコメディーセンスを合わせ持つ、唯一無二の監督なのです。

個人的には、多くのハリウッド映画がキリスト教的価値観に則って作られるように、彼の作品の根底には常に仏教的な価値観や倫理観があると思うんですよね。

”リメイク”か“新作”か

そんなチャウ・シンチー監督の最新作となる本作は、自身が主演・監督を務めた1999年の作品「喜劇王」の主役を女性に変えてアレンジした物語。
僕はオリジナルを観てないのでハッキリとは言えませんが、多分、物語の大筋はオリジナル版に沿った作りではあるけれど、単なるリメイク作品には留まらず、女性を主人公に変えたことで「今」の時代に相応しい新作になっているように感じました。

とはいえ、そこは“アジアナンバー1面白おじさん”ことチャウ・シンチー印の作品ですからね。

凡百の「とりポリ作品(取り合えずポリコレやっときゃいいだろ作品)」とは一味も二味も違う独自の作品に仕上がっているんですよね。

ベタを恐れず照れず

そんな本作の内容をざっくり説明すると、映画女優を夢見るも30歳を過ぎてもエキストラの仕事しかもらえないモン(エ・ジンウェン)が主人公。

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女優業に大反対の父、エキストラの彼女を相手にせず雑に扱う映画関係者、明らかにモンをカモにしている結婚詐欺師の彼氏、あっさりモンを裏切る友人などなど。

自身を取り巻く厳しい環境の中、それでも持ち前にポジティブ思考を失わずに頑張るモンの奮闘を描いた、ある意味で、昭和のスポコン的というか、「細腕繁盛記」や「おしん」的物語というか。

観客にストレスがかかるシーンは控えめが当たり前のイマドキの映画やドラマとは違って、主人公モンはこれでもかと次々に不幸な目に遭うわけですが、あまりにもめげないので観ていて「ちょっとアレな人なのか?」と思ってしまうくらい。

でも、実はそんな事はなかったって事が中盤の山場で描かれることで、観ているコッチも「もう、楽になってええんやで……」って気持ちになるんですが、クライマックスのあるシーンで、それまでのアレコレが実はこの一点に集約される壮大な前振りだったという事が分かり大感動してしまうのです。

また、主人公モンがそれだけひどい目に遭っても嫌な気持ちにならずに観ていられるのは、彼女を虐げる連中の中に必ず彼女の理解者というか、努力する彼女を見て、応援してくれている存在が配置されているからなんですね。

まぁ、その一人がお父さんで、「お前みたいな娘はいらん!」とか怒鳴りながら、こっそり様子を見に撮影所にやってきたり、モンを雑に扱うスタッフに抗議をしたりして、陰ながらモンを応援してくれるのです。

でもそこをお涙頂戴に描かず、お笑いにしてしまうセンスは流石チャウ・シンチーだなーと思いましたよ。

そんなモンと鏡合わせ的なもう一人の主人公とも言うべき存在が、落ちぶれた元大スターのマー・ホー

嵩山少林寺で修業を積んだ武術家でもあり、コメディーからアクションまで幅広い役柄を演じるワン・バオチャンが演じているんですが、その扱いがあまりにもひど過ぎて思わず笑っちゃうんですよねーw

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マー・ホーは中国のお正月である春節に公開される予定の映画で何故か白雪姫役に抜擢されるんですが、落ちぶれているのにプライドだけは高い彼は最初凄く嫌なヤツでモンにも辛く当たったりするんですね。
けれど中盤のあるシーンを境にモンのよき理解者となって応援するという役柄で、序盤のコメディーシーンとは真逆のワン・バオチャンの深みのある演技がホント素晴らしいのです。

そして、そんな作劇の根底にあるのはチャウ・シンチーの仏教的思想であり、人間賛歌の精神。
本作で語られる「夢を追い続け努力しつづすれば、必ず見ていてくれる人はいるし最後は報われる」というメッセージはあまりにもベタだし、昨今は逆に「きれいごと」と小ばかにされたり否定されたり、それを描くこと自体がベタすぎて恥ずかしいとされるくらいですが、チャウ・シンチーはそれを一切の照れも恐れもなく、真正面から堂々と肯定してみせたんですよね。

それはいわば、アメリカン・ニューシネマというムーブメントを終わらせたルーカスの「スター・ウォーズ」とやってることは同じと言っても過言ではないのです。

キャスティング

チャウ・シンチー映画のもう一つの大きな特徴といえば、キャスティングの妙ではないかと思います。

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これまでの作品でも、「一体どこで見つけたんだ!?」というような絶妙なキャストが登場しましたが、本作でもこれがデビューながら主人公モンを見事に演じたエ・ジンウェンから、冒頭の公園ダンスシーン?に登場するおばちゃんたちに至るまで、とにかく絶妙に”いい顔”のキャストが集まってるんですよねーw

映画の出来は8割キャスティングで決まる理論」に則っとって考えるなら、本作を含む近年のチャウ・シンチー作品はキャスティングの段階で勝利が約束されてるのかもしれないし、チャウ・シンチーの才能は自身のイメージにピッタリのキャストを見つける能力なのかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

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写らなければ意味がない「狂武蔵」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、アクション俳優、現代忍者、ユーチューバー、アクション監督などなど、様々な顔を持つ坂口拓(TAK∴)主演で撮影されるも、大人の事情で未完成のままお蔵入り。

クラウドファンディングなどでしい金を集めながら7年の時を経てついに完成させた時代劇『狂武蔵』(くるいむさし)ですよー!

なんと77分間400人切りをワンカットで撮影したという、色々規格外なチャンバラ映画です。

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概要

『RE:BORN リボーン』などのTAK∴こと坂口拓が主演を務め、剣豪・宮本武蔵と吉岡一門との決闘を描いたアクション時代劇。撮影後長らく未完成状態だった作品に追加撮影や再編集を行い、武蔵にふんした坂口が一人で400人の相手に挑む壮絶な死闘が、77分ワンシーン、ワンカットで展開する。『GANTZ』シリーズなどのアクション監督を担当してきた下村勇二がメガホンを取り、園子温監督が原案協力として参加。『キングダム』で坂口と共演した山崎賢人のほか、斎藤洋介、樋浦勉らが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

「狂武蔵」が劇場公開されるまで

僕は坂口拓という人はYouTubeで初めて知ったと思い込んでいたんですが、彼が主演の「VERSUS -ヴァーサス-」を始め、わりと僕が今まで観てきた映画に出演していることをWikipediaで知りました。

ただ、僕が彼を「坂口拓」としてハッキリ意識したのはやはりYouTubeで、彼が現代忍者として肩甲骨を使って戦う戦闘術「ウェイブ」マスターとして活躍していたのを、自粛期間中にたまたま見て興味を持ったんですね。

で、そんな彼が元々は役者だったこと、70分以上のチャンバラアクションシーンをワンカット撮影したチャンバラ映画が未完のままお蔵入りしていること。

そしてクラウドファンディングなどで資金を集め、同スタッフでキャストに山﨑賢人や斎藤洋介などを迎えて追撮影をして7年ぶりに完成、全国公開に至ったのを彼のYouTubeで知ったのです。
まぁ、おらが町の映画館では公開されませんでしたが。

ちなみにこの映画、吉岡家当主・吉岡清十郎と弟の吉岡伝七郎が相次いで武蔵との決闘に敗れメンツを失った吉岡一門が、当時まだ子供だった吉岡亦七郎を担ぎ出す形で、数百人がかりで武蔵を迎え撃とうとした「一乗寺下り松の決闘」のチャンバラシーンだけで構成されています。

400人(実際には数十人のキャストが何度も再登場)の相手と坂口拓アドリブで斬りあう様子を、1台のカメラで77分追い続けるという、とても正気とは思えない実験作だったんですね。

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そこに山﨑賢人や斎藤洋介らを迎え追加撮影した冒頭とラストシーンを付け加えて完成したのが本作で、つまりはチャンバラシーン以外のドラマパートはほぼゼロなのです。

まぁ、その事は僕も事前に知っていたし、こっちもワンカット400人斬りが観たくて本作を観るんだから、とにかくチャンバラシーンさえ面白ければ個人的には全く文句はなかったんですが―――。

まぁ、結論から言うと、残念ながら個人的にはまったくハマらなかったですねー。

写らなければ意味がない

物語は大勢の敵が待つ一乗寺下り松で、武蔵が敵の大将である吉岡亦七郎に奇襲を仕掛け仕留めるところからスタート。
そこから70分以上に渡るワンカットのチャンバラシーンへと続くわけですが、前述した通りこの殺陣は、敵役と坂口拓がアドリブで斬りあうわけですね。

もちろんそれ自体はとんでもない挑戦だし、やり切っただけで凄いです。

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でも、相手役は一応400人とは銘打ってるけど、どう見ても50人いるかいないかくらいの人数で、そんな彼らが武蔵に斬られるとカメラの外にハケて、しれっと別人として戻ってくるわけです。
ただ、それも1度や2度じゃないですからね。顔は出来るだけ写さないよう気は付けてるけど、それでも何度も同じ人が出入りしてれば「あ、コイツまた出てきた」って覚えちゃうじゃないですか。

で、そんなゾンビ剣士どもを武蔵はひたすら斬り続けるわけですが、この時のムーブ(動き)が大体4パターンくらいしかないし、斬られた相手は何度でもしれっと復活するのでまったく「画替わり」しないわけです。

もう、ずーーーーーーーーーーーーーーーっと同じ映像が続く。

正直、観ながら何度も意識を失いましたよ。
で、( ゚д゚)ハッ!っと意識を取り戻してもやっぱり同じ映像ですからねw
これは流石に辛い。

おまけに舞台の地理や的の人数。その配置と武蔵の位置も分からないし、武蔵が何の目的でどこに向かってて、決着方法など、このアクションシーンのルールとゴールが全く分からない。
いや、その場にいる吉岡一門を皆殺しにすれば終わりなのは分かってるけど、でも死んだハズの奴らが次々蘇ってくるじゃないですか。

で、殺陣自体も、剣術というよりはむしろ剣道に近いというか、刀で「斬る」というより「叩く」という感じなんですよね。
で、この殺陣では刀を敵の体に当ててるわけですが、刃物が当たってるのに斬れてる描写がほぼないので、「え、逆刃刀なの!?」って思っちゃう。
普通に刀で斬るような振付でカットを割って良い角度で撮れば、実際に斬れてなくてもちゃんと斬られたように見えるハズだけど、本作では前述したように剣術というより剣道みたいな叩き合いで、もしかしたらそれがリアルな斬りあいなのかもだけど、そうなると余計にカメラワークやカット割りを考えないと、観客はこのアクションに違和感を覚えると思うんですよね。

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前述したように肩甲骨の動きを活かした近接戦闘術の使い手でもある、坂口拓さんの体力やアクション俳優としてのスキルが高いのは周知だし、自身が主演を張るアクション映画では、より実践的でリアル志向のオリジナリティーのあるアクションを目指す志の高さも素晴らしいと思います。
ただ、少なくとも本作に関して言えば、やってることは凄いけどアクション映画ではないなーと。

どんなに凄い動きや技も、それを映像で見せないと意味がないわけで。

そのための振り付けだし(カット割りも含めた)カメラワークじゃないですか。

なので、ラストのアクションシーンは最高だったし、「全編これでやってくれよー!」って思っちゃいましたねー。

でもまぁ、そもそも本作をアクション映画だと思って観るのが間違いで、例えば極真空手の100人組手みたいな、主演の坂口拓がどんどん追い込まれていく様子を追った、ある種のドキュメンタリー映画として観るのが正しいんでしょうね。きっと。

興味のある方は是非!

 

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“性春“コメディーの最新アップデート版「グッド・ボーイズ」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ルーム」「ワンダー 君は太陽」などの名演で世界を泣かせた天才子役ジェイコブ・トレンブレイが、思春期を迎えた小6男子を演じるジュブナイルコメディー『グッド・ボーイズ』ですよー!

なんとこの映画、本国アメリカでは過激な表現からR指定になっていて、主演の3人は完成作品を観れてないそうですw

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概要

バッド・ティーチャー』で共同脚本を担当したジーン・スタプニツキーがメガホンを取ったコメディー。ファーストキスのために全力投球する小学生たちが巻き起こす騒動を映す。主人公を『ルーム』などのジェイコブ・トレンブレイ、彼の仲間をキース・L・ウィリアムズとブレイディ・ヌーンが演じ、製作は『ネイバーズ』などの俳優セス・ローゲンらが務める。(シネマトゥディより引用)

感想

思春期童貞コメディー最新版の主人公は何と小学6年生

海外のコメディー映画には「ポーキーズ」や「グローイング・アップ」「アメリカン・パイ」などなど、童貞少年が初体験したくてジタバタするちょっとHな「性春コメディー」という系譜がありまして。

本作で制作に参加しているセス・ローゲンも以前「スーパーバッド 童貞ウォーズ」で脚本と製作総指揮を務めていますが、基本これらの作品での主人公の年齢設定が高校生くらいなのに対し、本作の主人公3人組は小学6年生なんですね。
まぁ、アメリカは学年制度が日本みたいに6.3.3で統一されてなくて州によっても違ったりするらしく、本作の主人公たちも日本だと小6なんですが、劇中では中1ってことらしい。

で、11~12才の男子なんて大体は性に目覚めて思春期に入るお年頃じゃないですか。
本作では、ジェイコブ・トレンブレイ演じる主人公マックスがまさに思春期の入り口に立っていて、クラスの女の子に片思いしている。
で、彼の親友の歌うことが好きで気が小さいけどワルぶってるソー(ブレイディ・ヌーン)と、黒人で体は人一倍大きいけどカードゲームが大好きなルーカス(キース・L・ウィリアムズ)はまだ思春期の手前にいるんですが、性に対して中途半端な知識と興味だけはあるんですよね。

ざっくりストーリー紹介

マックス、ソー、ルーカスの「ビーンバッグ・ボーイズ」(←3人のチーム名)は、クラスのイケてないグループですが毎日一緒に楽しく遊んでいる幼馴染で親友同士。

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画像出展元URL:http://eiga.com 左からルーカス・マックス・ソー

ソーは歌が大好きなのにクラスの男子たちにバカにされるのが嫌で所属してたミュージカルサークル?辞めてしまう。

一方、ルーカスはとても真面目で嘘がつけず、カードゲームと規則が大好きな少年ですが、ある日突然両親から離婚することを知らされます。

そして、マックスは同級生の女の子に絶賛片思い中なんですが、ある日食堂でイケてるグループのリーダーに呼ばれて、好きな女の子も参加するパーティーに誘われます。

実は、その前のシーンでクラスの男子たちの間で瓶ビールを何口飲めるかチャレンジみたいなことをしてて(これまでの最高記録が3口らしい)、ソーとルーカスはビビって口をつけないけど、マックスはギリひと口飲んだことで、イケてるグループのリーダーに男として認められたのです。
しかも、そのパーティー「キス・ゲーム」をやると言われたマックスは大張り切り。

ソー、ルーカスを巻き込んで参加を決めるんですが、肝心のキスのやり方が分からず、正しいキスの方法を知るため3人ですったもんだするが――という内容なんですね。

主人公の年齢設定を下げたことで観やすく

ぶっちゃけ、セス・ローゲンが絡んだコメディー映画って、下品で不謹慎でキツめの下ネタや薬物ネタ、外国人には分かりずらいスノッブなネタが満載で、笑えなかったり若干引いてしまう事が多かったんですが、本作は主人公たちがリアルに11~12才ということもあって、さすがに下ネタやヤバげなネタは抑え目。

まぁ、それでも「10代前半の子供たちにこんな事させていいのか!?」ってくらいは攻めてますけど、声変わりもしていない主人公3人の一生懸命背伸びしてる姿に、男性なら過去の自分を思い出して「あー、分かるー」ってなるし、主人公が高校生で初体験目的だと生臭さが出てしまって今の時代にはフィットしない男目線の作品になりそうですが、本作は主人公の年齢が低い分、学校で教わった知識や常識を純粋に信じていて、そのアンバランスさが笑いに繋がると同時に、結果としてポリコレに沿った形でアップデートされてる。つまり「性春コメディー」系譜の現代的なアップデート作品になっているわけです。

例えばキスの練習で、ソーの親が持っている“心肺蘇生練習用の人形”にマックスがキスしようとすると、ルーカスが「キスをしようとする前に、ちゃんと相手の同意を得るって授業で教わったろ!」と注意するみたいな。

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画像出展元URL:http://eiga.com “心肺蘇生練習用人形”でキスの練習をしようとする3人

で、キスの練習をした後マックスが顔をしかめて「何でこの人形は口に毛がついてるの?」って言うんですけどねw

あと、マックスが好きな女の子に可愛いゴム製のネックレスをプレゼントするんだけど、それがソーの家から持ってきた大人のおもちゃだったり。
でも、彼女もそれが何か知らないから嬉しそうに受け取るみたいな。

そういう子供がやるから許されるギャグみたいのが満載で、観てるコッチ(大人)の心が汚れているほど笑っちゃうっていう、まさに「子供が主人公の大人向けR-指定コメディ」なのです。

下ネタと下らないギャグ満載だけど極めて現代的なメッセージ性

そういう下ネタギャグにプラスして、父親に絶対触るなと言われていたドローンを壊してしまったマックスが、隣町にあるショッピングモールで同型のドローンを手に入れようとする件や、ドローンを手に入れるため近所の女子高生の変わりに、ワルのたまり場に麻薬を買いに行く件などの不謹慎極まりないドタバタシーンも満載で、思わず声を出して笑っちゃうわけですが、本作はそれだけでは終わりません。

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色々あって三人がパーティー会場に到着し、そこで一度はイケてる男子たちに男を見せたソー。しかし、親友マックスのため再びヘタレ呼ばわりされる決断をするんですね。

アメリカのみならず世界中の男性が味わう「意味のない男らしさアピール」を通過儀礼と(ノスタルジーも込めて)肯定的にとる向きもあるけど、本作では3人を通して本当にやりたいことや自分らしくいられることが一番大事という、当たり前だけど極めて現代的なメッセージに着地するんですよね。

それまで下らないギャグや下ネタ満載だった分、この物語的着地には思わずグッときてしまいましたよ。

まぁ、だからと言ってちゃんとしたいい映画だと思ったら大間違いで、そこに辿り着くまでの下ネタと下らない不謹慎ギャグのつるべ打ちには顔をしかめる人も多いと思うし、ここまでやっておいて、ラストのラストは超くだらないオチに持っていきますからねw

ただ、最後だけいい話風にまとめて、それまでを無かった事にしないで、ちゃんと下らないオチで〆る制作陣の姿勢は、ライムスターの宇多丸さんも言ってたけど、コメディー映画として非常に品が良いって思いました。

下品・不謹慎・下ネタは人によって好き嫌いは分かれるし、本作が万人に好かれる映画とは思いませんが、個人的には声を上げて笑っちゃったし、大好きな作品になりましたよ。

興味のある方は是非!!

 

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ワンカットのためのワンカット「1917 命をかけた伝令」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは巨匠サム・メンデス監督が祖父から聞いた戦争体験を基に制作した『1917 命をかけた伝令』ですよー!

アカデミー賞で三冠に輝いた作品でもあるし、「007 スカイホール」のサム・メンデス監督作でもあるので、観よう観ようと思いながらも中々気分が乗らなくて、遅ればせながら先日やっとアマプラで観ました。

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概要

第1次世界大戦を舞台にした戦争ドラマ。戦地に赴いたイギリス兵士二人が重要な任務を命じられ、たった二人で最前線に赴く物語を全編を通してワンカットに見える映像で映し出す。メガホンを取るのは『アメリカン・ビューティー』などのサム・メンデス。『マローボーン家の掟』などのジョージ・マッケイ、『リピーテッド』などのディーン=チャールズ・チャップマン、『ドクター・ストレンジ』などのベネディクト・カンバーバッチらが出演する。全編が一人の兵士の1日としてつながって見えることで、臨場感と緊張感が最後まで途切れない。(シネマトゥディより引用)

感想

ワンカット”風“撮影で戦地最前線を追体験

第1次世界大戦が始まってから、およそ3年が経過した1917年4月のフランスが本作の舞台。
ドイツ軍と連合国軍が西部戦線で対峙する中、上官に呼び出されたイギリス軍兵士のブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)とスコフィールド(ジョージ・マッケイ)は、前線から退却を開始したドイツ軍に大規模な追撃作戦を行おうとしているマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)の部隊に作戦の中止を知らせる伝令を命じられます。

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ドイツ軍の退却は、大規模な砲兵隊が待ち構える陣地に連合軍をおびき出すための戦略的撤退、つまりは待ち伏せ作戦でマッケンジー大佐はその事実を知らないんですね。

しかも、ドイツ軍によって電話線は全て切られて前線との連絡が取れないため、伝令をもって自陣後衛部隊から最前線までをたった2人(しかも徒歩)で、行かなくてはならないという任務を任された若い二人が、戦地を突っ切って目的地に向かう――というストーリー。

そんな二人が体験する地獄めぐりを、ワンカット“風”撮影によって臨場感と没入感たっぷりに観客が追体験するという趣向なのです。

映像は確かに凄いが……

そんな本作の撮影監督は、「007 スカイフォール 」でもメンデス監督とタッグを組んだロジャー・ディーキンスですからね。そりゃぁ、映像は凄いですよ。

アリの巣のように張り巡らされた、狭い塹壕の中でひしめく兵隊たちを押しのけながら進む二人をハンディーカメラで後ろから追いかけ、少し開けたポイントで前に回って今度は二人の表情を撮影したり、敵襲から逃げるため敵味方も分からないような死体の山を乗り越える様をすぐ間近で撮影したり。

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そうかと思えば、遮る物のない銃弾飛び交う開けた平地を突っ走る二人と並走するように撮影して――と、観客自身が主人公の二人と共に戦地を進む第三の兵士になったようなカメラワークで物語が進むので、その臨場感や緊張感は半端ないし、もしこれを映画館の大画面で観てたら圧倒されてたと思うんですね。

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ただ、本作はこのワンカット”風“撮影という手法に、作劇上の「必然性」を感じないんですよね。

ワンカット撮影は映像を観れば誰でもハッキリそれと分かる手法で、カットを割らない分物語の「時間」の流れを観客もリアルタイムで共有出来る、ある種の舞台演劇的楽しみ方が出来る一方で、観る側はどうしてもワンカットという手法に作劇上の意図や意味を探してしまうと思うんですよね。

ところが本作のワンカットには、映像的な臨場感や没入感はあっても作劇的な意味はなく、ワンカットにしなくても物語は成立する――というか、なんなら普通にカットを割った方が、ワンカット撮影という縛りがない分、観客は違和感なく物語に没頭できたのでは?とすら思ってしまうし、本作の場合、ワンカットの為のワンカットになってる感じがするんですよねー。(ワンカット撮影という手法ありきで作られている)

フェティシズム感じられない問題

さらに映像の方も、臨場感、緊張感、没入感は凄いんだけど、いかんせんどの映像も綺麗すぎて引っ掛かりがないというか。

例えば二人が敵軍の銃撃を避けるため、爆撃跡の水たまりに飛び込むとそこには敵味方も分からない死体が積みあがっていて――みたいなシーンがあるんですが、そこで二人が感じる嫌悪感?みたいなものを表現するカットがない(死体の匂いに思わずえづくとか嘔吐するとか)ので、観てるこっちも戦争の悲惨さや残酷さみたいなものをあまり感じることなくサラッと観れちゃうんですよね。

これが、サム・メンデス監督の資質の問題なのか、ロジャー・ディーキンスの撮影の問題なのか、ワンカットだからかは分かりませんが、例えば、スピルバーグや、メルギブや、バーホーベンだったら、人間が肉塊に変わる瞬間を嬉々として見せてくるに違いないんですが、メンデスが見せるのは肉塊になったあとの死体だけだし、その見せ方も悪い意味で「お上品」すぎて、(物語に関係ないけど)戦場の匂いや痛み、武器や軍服、その他もろもろ何でもいいですけど、メンデスならではのフェティシズムが全然入ってないので、だから観てる最中や観終わった直後は「凄い映像観た感」があるけど、多分1か月も経てば観たことも忘れちゃうような凡庸な戦争映画になってしまったと思うんですよね。

まぁ、僕がちゃんと読み取れてないだけの部分も沢山あるのかもしれませんが。

興味のある方は是非!!

 

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時代に逆行する男子校映画!「ブルータル・ジャスティス」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのはAmazonvideoでレンタルして観た『ブルータル・ジャスティ』ですよー!
劇場長編デビュー作の「トマホーク ガンマンvs食人族」で映画ファンの度肝を抜いた、“暴力の伝道師“こと、みんな大好きS・クレイグ・ザラー監督の最新作です!!

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概要

ブラッド・ファーザー』などのメル・ギブソン主演の刑事アクション。闇取引の金を奪う計画を立てた刑事コンビが、思いも寄らない事態に陥っていく。『人生、サイコー!』などのヴィンス・ヴォーン、『ハリエット』などのトリー・キトルズ、『マッド・ウォーリアーズ 頂上決戦』などのマイケル・ジェイ・ホワイトのほか、ジェニファー・カーペンターウド・キアトーマス・クレッチマンドン・ジョンソンらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

時代に逆行する超硬派男子校映画!!

S・クレイグ・ザラー監督と言えば本作の前に「トマホーク ガンマンvs食人族」と「デンジャラス・プリズン -牢獄の処刑人-」を監督していますが、この2本は日本では劇場公開されてなくてビデオスルー。
しかし本作は、主演が日本でも知られているメル・ギブソンだからか、公開館数は少ないながら3本目にしてついに劇場公開されたんですねー。

その作風は非常に前時代的というか時代に逆行してるというか。
1作目の「トマホーク~」2作目の「デンジャラス・プリズン」共に、70年代のグラインドハウスを意識した過剰な暴力とブロマンス満載の僕らのようなボンクラ映画ファンしか喜ばないであろう超硬派な、いわゆる「男子高映画」ばかりを専門に撮っている監督なんですねー。

多分、自身も相当なボンクラ映画マニアだと思うし、だからこそ、ボンクラ映画ファンが信頼する”分かってる監督“でもあるのです。

日本で言えば、孤狼の血」の白石 和彌監督に近いかもしれません。

ざっくりストーリー紹介

そんな本作のストーリーをざっくり一言で言うなら「金に困った貧乏刑事が悪党から金を横取りしようとする」という物語。

メルギブ演じるリッジマンと相棒のトニーヴィンス・ヴォーン)は、強引な犯人逮捕により6週間の(無給料)停職処分になってしまいます。

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しかし、リッジマンの奥さんは多動性硬化症という難病を患っていて、貧しい黒人が多い地区に住んでいるため白人である娘は黒人少年に嫌がらせを受けている。
なので、リッジマンは奥さんの治療費と引っ越しのための金が必要なんですね。

そこで彼は、昔馴染みの情報屋の伝手でボーゲルマントーマス・クレッチマン)のヘロインの取引情報を入手。その金を横取りしようとトニーと共にボーゲルマンの動向を見張るのだが――っていう内容です。

こうしてあらすじだけ見れば、物語は超シンプルだし「せいぜい90分くらいのアクション映画だろ?」って思うでしょ?

ところがこの作品、なんと約2時間40分もあるんですよねー。

長尺だからこそ分かる“暴力”の怖さ

なぜそんな事になるかと言えば、主人公リッジマンと相棒トニーのメインエピソードの他に、家族を養うため金の必要な出所したばかりの黒人青年ヘンリー(トリー・キトルズ)のエピソードや、出産後、心が不安定になり「仕事に行きたくないのよー」とごねるも旦那に説得されていやいや出勤する銀行員ケリージェニファー・カーペンター)のエピソード、そしてボーゲルマンの部下の覆面男ブラック・グローブ&グレー・グローブの残虐非道な行いの数々を結構な尺を取ってじっくりじっくり描くので、ある意味で群像劇?っぽいというか。

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また、クライマックスのチェイスシーンや、リッジマンたちとボーゲルマンたちの銃撃戦よりも、リッジマンとトニーが張り込みしてるシーンの方をわざわざ長尺で延々見せたり。
トニーが車中で食事してるシーンを長々見せてから、リッジマンが「84分も飯食ってる音と匂いに悩まされた」「アリでももっと早く食う」と文句を言うシーンなんかは、もう少し短くできるだろっていうw

ぶっちゃけそういう“余分“なシーンを削れば90分にだって収まりそうなのに、映画会社のお偉いさんに言われてもザラー監督は固くなにシーンをカットしなかったそうんですよね。

それはつまり、ザラー監督にとって本作に余分なシーンなど1つもなくて、ゆえに2時間40分の上映時間も全てが必然というわけなのです。

まぁ、その無駄に思える時間の長さとヘンテコなシーンの切り取り方こそがザラー監督のオリジナリティーを担保してるとも言えるし、評価の分かれるところでもあるわけですけどね。

その辺は何と言うか、ちょっと初期のタランティーノに近い部分でもあるし、ザラー作品を評する人の多くが枕詞みたいにタランティーノの名前を出すんですが、こと「暴力映画」という括りで見ればタランティーノとザラー監督は全く違っていて、ザラー監督の資質はどちらかと言えば、 ニコラス・ウィンディング・レフン北野武作品に近いと思うんですよね。

笑っちゃうくらい過剰なのに決して暴力を茶化してないというか、暴力の本質に迫る姿勢みたいな部分が。

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で、そんな暴力の怖さや緊張感を担保しているのが前述した、無駄に長い「キャラクターたちの日常」というわけです。
生活や性格を見せられることで自然とキャラクターに感情移入してしまうし、そんな彼ら(彼女ら)が唐突に理不尽で過剰な暴力の餌食になるから、観ているこっちはショックを受けるし、暴力本来の怖さを思い知るわけですね。

それを悪趣味と取る人もいるだろうけど、個人的にはザラー監督は暴力を描くことに対してとても誠実な監督だと思いましたねー。

そんな”暴力の伝道師“S・クレイグ・ザラー監督が、「パッション」や「アポカリプト」など元祖暴力の伝道師のメルギブを主役に迎えて作り上げた映画ですからね。そんなん面白いに決まってるじゃないですか!

ただし、その面白さは万人には勧められる面白さとは種類が違うんですよねw

興味のある方は是非!!!

 

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きっと誰も見たことがない「透明人間」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは昨年夏に公開され、映画好きの間で話題になった『透明人間』ですよー!
H・G・ウェルズの小説を原作にした1933年公開の同名作品を現代的にリブートしたサスペンスホラーです。

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概要

ゲット・アウト』や『パージ』シリーズなどのジェイソン・ブラムが製作を担当したサスペンス。自殺した恋人が透明人間になって自分に近づいていると感じる女性の恐怖を描く。メガホンを取るのは『アップグレード』などのリー・ワネル。『アス』などのエリザベス・モス、『ファースター 怒りの銃弾』などのオリヴァー・ジャクソン=コーエン、『キリング・グラウンド』などのハリエット・ダイアーのほか、オルディス・ホッジ、ストーム・リードらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

「ダーク・ユニバース」の忘れ形見

2017年、ユニバーサルスタジオは自社が過去に制作したモンスターホラー映画をリブート&ユニバース化する「ダークユニバース」の第一弾として「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」を公開します。

折しも映画界はMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が起こしたビックウエーブに乗っかろうと、各映画会社が自社作品のユニバース化を始めた時期でもあり、メジャー会社のユニバーサルもこの流れにいっちょ噛みしようと画策したんですね。

で、ユニバーサルは元々、モンスター映画でメジャーまでのし上がってきた会社なので、自社の財産でもあるクラッシックモンスターの復活&ユニバース化を狙ったわけです。
ところが、その第1弾である「ザ・マミー/~」が大コケ
ダークユニバースは事実上消滅し、ユニバーサルはモンスター映画のリブートを、それぞれ単発作品として製作していく方向に舵を切ったのです。

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「透明人間」も、ダークユニバースではジョニー・デップ主演でリブートが予定されていたものの、脚本家エド・ソロモンが降板したことで企画は一度立ち消えに。
しかし2019年、ジェイソン・ブラムがプロデューサーを務め、「ソウ」シリーズの脚本や「アップグレード」の監督で知られるリー・ワネルがメガホンを取り1933年公開のオリジナル版をリブートすることを発表。
昨年7月に公開されるや、映画好きの間で「俺たちが観たかった『透明人間』はコレなんだよ!」と高評価を得たわけです。

「透明人間」の“怖さ”を再構築

では、本作が映画好きのハートを掴んだ理由を一言でいうなら、それは「透明人間の”怖さ“を解体・再構築してみせたという一点に尽きるのではないかと思います。

ミイラや魔女と並んで日本人にはその怖さがいまいち伝わらない透明人間。
例えば、「ミイラ男」は本編よりもそのパロディーから観始めている人の方が多いし、「魔女」だって日本人の場合「魔女っ娘」やディズニーで漂白された「良い魔女」に触れる方が早いので、そもそも恐ろしいモンスターとは結びつかない。もっと言えば「ミイラ」は植民地政策、魔女は反キリスト教(異教徒)という出自のモンスターなので、日本人がピンと来ないのも当然ですよね。

そして(僕も含めた)ある年代の男子にとって「透明人間」とは、ちょっとエッチなラブコメのイメージであり、なんなら当時は自分と透明人間を重ね合わせて見ていたりしたわけですよ。

それは日本に限ったことではなく、透明人間はそもそも、ストーキングや覗き、あるいは対象への性的な支配(レイプ)など、男のほの暗い欲望(タブーを破る)を体現した怪人であり、また歴代の映画やドラマの多くが、怪人(モンスター)であるハズの透明人間自身を主人公に描いているので、常に加害者側の視点で物語が進んでいく=怖くないわけです。

ところが、本作ではそうした「透明人間」が抱える構造的な問題点を解体し、透明人間が持つサイコホラー・サスペンスホラーとしての怖さを正しく再構築してみせたんですねー。

ざっくりストーリー紹介

光化学の権威で大富豪の天才科学者エイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン )の恋人セシリア(エリザベス・モス)はある夜、意を決してセキュリティが張り巡らされた彼の豪邸から脱出。妹エミリー(ハリエット・ダイアー )の協力で、逃亡に気付き追いかけてきたエイドリアンを振り切って何とか逃げ切ります。

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エイドリアンは反社会的な行動や気質を抱えるソシオパスであり、これまでセシリアを自分の思い通りに支配しようとしていたんですね。

その後、エミリーの友人で刑事のジェームズ(オルディス・ホッジ )の家に匿われていたセシリアの元に、エイドリアンが自殺したという知らせがあり、彼の持つ遺産をすべてセシリアに譲ると弁護士から連絡が入ります。
エイドリアンの兄で弁護士のトムによれば、セシリアがエイドリアンの遺産を受け取る条件は、1・精神疾患がない事、2・犯罪を起こさないことの二点。
この一見何て事のない条件そこが、この後セシリアを苦しめる罠なのです。

エイドリアンの死を疑いながらも、セシリアは徐々に落ち着きを取り戻していくんですが、ある日を境に彼女の周囲に不可解な現象が次々に起こり、そこにはエイドリアンが残したとおぼしき痕跡が――というストーリー。

こうしてあらすじだけ読めば、ビックリするくらい古典的な物語に見えると思います。

僕は「本作は『透明人間』抱える構造的な問題点をすべて解体し、透明人間が持つサイコホラー・サスペンスホラーとして怖さを再構築してみせた」と前述しましたが、実はこれまでの「透明人間」と本作が違う点はたった2つ。

1・物語の主人公をセシリアにし、2・透明人間を見えなくした。だけなのです。
それだけで、本作はこれまでの作品とは別の、まったく新しい「透明人間」になっているんですねー。

見えない透明人間

「透明人間が見えないのは当たり前じゃない?」と思われるかもですが、ライムスターの宇多丸師匠がラジオで解説していた通り、実は「透明人間」の映像化の歴史は、透明人間を如何に見せるかを追求する歴史でした。

例えば誰もいないハズなのに部屋に置かれた物質が勝手に持ち上ったり、床に積もった埃に足跡が付いたり、ヒロイン(被害者)が見えない何者かに襲われたり格闘したり。

登場人物には見えなくても、観客に透明人間が見えることでスリルやサスペンスを生む。つまり「志村後ろ―!」的なヤツですね。

そうした透明人間を見せる試みは、特撮・合成・CGなど映画のテクノロジーと共に進化していき、ポール・バーホーベン監督の「インビジブル」で一旦頭打ちになったと言えるでしょう。

ただ、これら透明人間を見せる演出は透明人間(モンスター)が主役だから成立するわけで、被害者側が主人公である場合、透明人間は“見えない方が怖い“のです。

なので本作では、これまでとは違い透明人間を見せない映像演出がされていて、例えばカメラが誰もいない場所にパン(カメラを固定したままフレーミングを縦・横に移動)するとか、セシリアしか映っていないのにあたかも横に誰かがいるような構図で撮るとか。

でもそこには部屋の風景以外何も映っていないので「セシリアの不安な心を映像で表現してるのかな?」と思いながら観ていると、中盤のある場面で「ホントにいたーー!!」となるのです。

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この辺の演出はいわゆるJホラー表現を上手く応用していて、さすが、ハリウッドナンバー1のJホラー演出の使い手でもあるジェームズ・ワンの盟友、リー・ワネル監督だなーと感心しましたねー。

物語の向こうにテーマが視える現代的な作品

事程左様に、本作は主人公を加害者(透明人間)から被害者に移したことによって、前述した透明人間が本来持つ性質が浮き彫りになり、それがフェミニズムやハラスメントといった非常に現代的なテーマと直結。
かと言ってテーマありきの物語ではなく、あくまで物語の中にテーマがある作りになっているんですね。

それはとても上品でスマートだと思うし、基本的にはセリフは最小限に、映像やエリザベス・モスの表情でテーマを語っているのも非常に映画的だし、今回の透明人間のデザインは、一方的な窃視や男から女性に向けられた性的な視線を具象化してみせた秀逸なデザインだったと思いましたよ。

そして、主人公や物語の視点をずらすことで古典的な物語を新たな物語に解体・再構築してみせた手腕の見事さは、高畑勲監督の遺作「かぐや姫の物語」を観た時の衝撃に近いものを感じました。

興味のある方は是非!!

 

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“あの”韓国発ゾンビ映画の続編「新 感染半島 ファイナル・ステージ」(2021)

明けましておめでとうございます!

ぷらすです。

というわけで本日、2021年元日公開の『新 感染半島 ファイナル・ステージ』を観てきましたよー!
2016年に公開し世界をあっと言わせた、あの「新感染 ファイナル・エクスプレス」の続編です!

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概要

韓国発のパニックホラー『新感染 ファイナル・エクスプレス』の4年後を描いた続編。パンデミックを逃れて香港に渡っていた元軍人の主人公が、ある任務のために「半島」に戻りサバイバルを繰り広げる。監督は前作のヨン・サンホが続投。『華麗なるリベンジ』などのカン・ドンウォンが元軍人を演じ、ドラマ「輪舞曲 ~RONDO~」などのイ・ジョンヒョンや『それから』などのクォン・ヘヒョらが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

“あの”韓国発ゾンビ映画の続編

本作は2016年に公開された韓国発のゾンビ映画新感染 ファイナル・エクスプレス」から4年後の世界を描いた続編です。

ゾンビパンデミックにより僅か1日で壊滅した韓国を舞台にしたポストアポカリプスもので、「新幹線」に掛けた前作のタイトルが通じなくなって困った日本配給会社は「新」の後ろにスペースを開け、「感染」の後ろに「半島」を足すことで、「新感線」の続編ながら今回は「半島」に規模を広げたことを表現し、何とか難局を乗り切ったんですねー。(←どうでもいい話)

前作では狭い列車の中に舞台を限定するというアイデアで、ハリウッドなどに比べれば低予算ながら大迫力のゾンビ映画を作りあげたヨン・サンホ監督が本作も続投。

予算が2倍になった本作ではさらにスケールを広げて、“難民”として差別される日々から抜け出すため、香港ギャングからの「3日以内にソウルに乗り捨てられたトラックに積まれた2000万ドルの大金を回収する」という仕事を請け負った主人公たちが、再びゾンビだらけの母国に潜入するという内容で、「ワールド・ウォーZ」並みに大量な走るゾンビや韓国に取り残されヒャッハー化した民兵集団631部隊を相手取りながら、密かに生き残っていた家族とともに地獄と化した韓国からの脱出を図るというストーリー。

前作のゾンビ設定は引き継ぎながらも、本作では完全にサバイバルアクションに振り切っているんですね。

サンホ監督によれば、本作は「マッドマックス」「ザ・ロード」「AKIRA」「ドラゴンヘッド」、そしてロメロの「ランド・オブ・ザ・デッド」に影響を受けているそうで、「なるほど確かに!」と思わせるシーンが多々あるんですが、特に後半、631部隊と主人公たちが繰り広げるカーチェイスのくだりは完全に「怒りのデスロード」でしたねー。

ざっくりストーリー紹介

人を狂暴化させるウイルスの感染爆発から4年後。
姉と甥を救えなかった元軍人のジョンソク(カン・ドンウォン)は、亡命先の香港で失意の日々を送っていました。

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そんなある日、香港マフィアから「3日以内にソウルに乗り捨てられたトラックから2000万ドルの大金を回収する」という仕事を請け負ったジョンソクは、義兄のチョルミン(キム・ドゥユン)らとともに裏ルートで封鎖された朝鮮半島に上陸。
すぐにトラックを発見した彼らでしたが、港に向かう途中、本能のまま生存者狩りを楽しむ民兵集団631部隊と大量の感染者に襲撃されトラックを奪われてしまうんですね。

押し寄せるゾンビに死を覚悟したジョンソクを間一髪救ったのは、二人の少女ジェニ(イ・レ)とユジン(イ・イェオン)。

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二人は、ミンジョンイ・ジョンヒョン)とソ大尉(ク・ギョファン)と4人で暮らしていて、ミンジョンとユジンは4年前にジョンスクが見捨てた母子だったのです。
そんな4人を地獄から救い出すため、ジョンソクはミンジョンと共に631部隊のアジトに潜入しトラックを奪い返すミッションに挑む――という物語。

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前作と世界観を共有しているものの、登場人物もストーリーも繋がりはないので、本作だけ観ても全然問題なく楽しめると思うし、その上で前作を観ていればさらに楽しめるという感じだと思います。

ただまぁ、アクション映画としては面白いけど、本作でのゾンビは(特にカーチェイスシーンでは)恐ろしい怪物ではなく、ジョンスクvs631部隊のカーチェイスの障害物でしかないため、「ゾンビ映画」としての怖さやスリルはまったくありませんでしたねー。

あと、CG描写は作りの荒さが目立つし、伏線の張り方が如何にもこれ見よがしであまり上手くなかったり、エモーションを優先させるあまりストーリーのテンポが完全に崩れたりしてるし、631部隊のヒャッハー振りがあまりにもテンプレ的で漫画(アニメ)っぽい。っていうか、本作のキャラが全体的に漫画っぽいと思いました。

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まぁ、その辺はヨン・サンホ監督が元々アニメ監督だからっていうのもあるとは思うし、前作でも多少感じた部分ではありますが、前作が劇中の行動でキャラの背景を見せる演出の積み重ねで、ドラマやエモーションに深みを出していたのに対し、本作はストーリーの都合に合わせてキャラが動いている感があるし、キャラのチートな能力(ジェニのドライビングテクニックとか)は、アニメならいいけど実写映画としてはちょっと説得力に欠ける感じでした。

ゾンビと時間

あと、これを言ったら元も子もないし本作に限ったことではないんですが、この世界のゾンビは何を喰って生きてるのかっていうね。
本作のゾンビは死んでいるわけではなく、ウィルス感染によって狂暴化してるという設定で、つまり栄養を補給しないと死んじゃうわけじゃないですか。なのにあれだけの数のゾンビが4年以上生きているってことは……共食い?

これと同じ設定の「28週後...」ではパンデミックから5週後、感染者が飢餓で死に絶えるという設定を取り入れてますよね。

というか、実は「時間」は全てのゾンビ映画が構造的に抱えている問題で、生死にかかわらずゾンビはいつまでゾンビでいられる(ゾンビ状態を維持できる)のかという問題を避けるため、製作者は脚本で上手く時間をぼやかしたり、舞台をパンデミック後数週間に絞ったりしながら、観客に気づかれないようにやりくりしたり、逆に「28週後…」みたいに設定に盛り込んだり、あえてツッコミを入れることでメタ的に笑いにもっていったりするわけです。

ところが本作は、前作から「4年後」とハッキリ時間を設定したことで、前述の「時間の問題」が露わになってしまったんですねー。

withコロナとゾンビ映画

昨年の世界的コロナパンデミックによって、今後観客がゾンビ映画を観る目は確実に変わると思います。
そもそもロメロ以降のゾンビ映画は構造的にパンデミックを連想させる作りになっていて、僕らは昨年「本物」のパンデミックを経験し、今もその渦中にいます。

本作でも、ゾンビパンデミックから他国へ亡命する人々が受け入れを拒否されたり、主人公ジョンスクたちが亡命先の香港で差別を受けている描写があったりしますが、ヨン・サンホ監督はコロナウィルスが世に現れる以前に、本作の構想と撮影を終わらせているので、前述の描写にコロナ後の世界情勢の反映を意図したわけではないでしょう。

しかし、現実のコロナ騒動を経験した我々観客は、どこかで無意識的にリアルを意識しながらゾンビ映画を観しまうと思うんですね。

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そういう意味で、これからのゾンビ映画はどうしたってwithコロナを意識せざるを得ないし、本作は奇しくも「withコロナ」最初のゾンビ映画になってしまったわけです。

まぁ、そんな面倒くさいことは横に置いておいて、個人的には「~怒りのデスロード」と「ワイルド・スピード」と「ワールド・ウォーZ」を足して3で割ったような、あの全てにおいて過剰なカーチェイスだけでも映画館で観る価値はあると思うし、日本とさほど規模の変わらない韓国映画でこれだけの大作アクションが作れたのは素直に凄いなーと感動しましたよ!

興味のある方は是非!!

 

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