今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

圧倒的世界観に溺れる99分「JUNK HEAD」(2021)

ぷらすです。

一足遅れながら地元のシネコンで限定公開されていたので観てきましたよ『JUNK HEAD』をね!

先に一言で感想を言うなら、孤高のクリエイター・堀貴秀の脳内が100%表現された圧倒的世界観に溺れる99分でした!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

絶滅の危機に瀕した人類が地上で暮らし、地下には人工生命体が住む世界を舞台に描くSFストップモーションアニメ。地下調査員が人工生命体たちと協力しながら人類再生の道を模索する。堀貴秀が監督や原案などを一人で手掛け、制作に約7年の歳月を費やした本作は、第21回ファンタジア国際映画祭で、長編アニメーション審査員特別賞を受賞した。(シネマトゥデイより引用)

感想

製作期間7年!クリエイターの執念と狂気

個人的に「JUNK HEAD」という作品自体は、数年前にYouTubeにアップされていた30分版を観て知っていたし、これだけの規模とクオリティーの作品をたった一人で作り上げたという事にビックリしたんですよね。

www.youtube.com

このYouTube版で、 監督、原案、絵コンテ、脚本、編集、撮影、演出、照明、アニメーター、デザイン、人形、セット、衣装、映像効果、音楽、声優すべてをたった一人で担当した堀貴秀さんは高校卒業後、本職の内装業の傍ら芸術活動をしてきたそうですが、新海誠さんがデビュー作「ほしのこえ」を1人で作り上げたことを知って「映画は1人でも作れるんだ!」と衝撃を受け、そこから本職の内装業(といってもテーマパークなど、アート色の強い仕事が多かったらしい)と並行しながら2009年から4年の歳月をかけて、このYouTube版「JUNK HEAD1」を独学で完成。

そして、クラウドファンディングに失敗したり、英語が分からなくてハリウッドからのオファーをうっかり断ってしまったりしつつ、平均3名のスタッフと凡そ3年の時間をかけ、YouTube版を膨らませる形で本作、劇場版「JUNK HEAD」を完成させたのだそうです。

こうしてまとめてしまえば「へー凄いね」くらいの感じでしょうが、たった一人、ストップモーションアニメをイチから独学で学びながら計7年もの間作り続ける堀監督の執念には(いい意味で)狂気を感じるし、そのバックストーリーからもう面白いんですよね。

それは再開発で取り壊されそうになった台湾の「彩虹眷村」の建物を自身の壁画で埋め尽くした黄永阜氏と同じで、まず作品に圧倒され、バックストーリーを知って二度圧倒されるみたいな。
そういうある種の狂気すら感じる過剰さが伝播して、観客の心を動かすのです。

堀貴秀の脳内を100%表現した圧倒的世界観

そんな本作を要約すると、遺伝子操作で長寿になった代償に生殖機能がなくなり絶滅の危機にある未来の人類は、地下世界に暮らす人口生命体[マリガン]の遺伝子情報を調査するため主人公を広大な地下世界へと送り込むのだが――というストーリー。

このあらすじだけ聞けば「どっかで聞いたような設定」って思うかもしれません。
しかし、本作の面白さはその発想自体ではなく、自身の発想を自身の手で100%再現した圧倒的世界観と、その世界観を構成するディテールの作り込みにあるのだと僕は思うんですよね。

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画像出展元URL:http://eiga.com  / 職場の倉庫に作られたセット

例えるなら特撮マンから監督になったギレルモ・デル・トロと同タイプの作家性というか。

人間とは違う進化を遂げた人工生物マリガンたちの、グロかわいいルックや作品世界の独自原語(ポルトガル語かロシア語っぽい?)、食物連鎖が日常だったりマリガンたちにも階層や差別があったり。
そういう堀監督の脳内に広がるイメージを、物語の都合で希釈することなく、主人公を通して僕ら観客に追体験させてくれるんですね。

さらに、作劇場重要なキャラクターが割とあっさり死んでしまったり、っていうかそもそも主人公が劇中で計3回死んでしまったりする展開なんかは、いわゆるハリウッド的作劇とは全然違うし、ストップモーションアニメ界のトップランナーでもあるアードマン社やライカとも違う。その死生観も含めどこか仏教的というか東洋思想がベースにあるような。

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画像出展元URL:http://eiga.com  /この人が…

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画像出展元URL:http://eiga.com  / こんな姿に

かといって、じゃぁ中国・韓国・インド映画っぽいかというとそういう訳でもなく、もちろん邦画とも何か違う。あえて言うなら純度100%「堀貴秀の世界」なんですよね。

それはつまり、作劇に他人の考えが入らなかったからこそ実現した純度の高さだと思うし、(色々苦労もあったでしょうが)たった一人で制作していた時間が長かった事の恩恵と言えるかもしれません。

”独学”ゆえのオリジナリティー

あと、恐らく堀監督が元々映像や創作畑の人ではないってのも本作のオリジナリティーに繋がっていて、もちろんストップモーションアニメだから出来ないっていうジャンル的制限もあるかもですが、映画関係のプロなら(映像的にも物語的にも)絶対切るだろうっていうシーンが生かされてたり、逆に、入れれば絶対に盛り上がるシーンやカットが抜けていたり。

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そんなある種の違和感や歪さは、観る人によって評価の分かれるところなのだと思うんですが、個人的にはもし脚本や映像・編集などのプロが関わって観客が見やすい様に本作の凸凹を均して観やすく整地されてしまったら、こんなには面白くはなってないと思うんですよね。

劇中の違和感や歪さも含めて「JUNK HEAD」という作品世界を構成しているし、物語自体は王道でストレートなのに、本作には油断したら何処に連れていかれるか分からない緊張感が常にあるのです。

で、そんな感じで圧倒されていると、いきなりジャンプの打ち切りマンガみたいな終わり方をするわけですが、実はこの作品、堀監督の計画では3部作の第2部なのだそうです。(SW的な?w)

で、続編が作られるかどうかは本作のヒットおよび、堀監督の会社「株式会社やみけん」で制作されたパンフレットの売り上げに掛かっているらしい。

というわけで、もしこれから本作を観る機会があれば絶対映画館に観に行った方がいいと思うし、続編を観るためにも鑑賞後はパンフ購入必須ですよ!

興味のある方は是非!!

 

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13日の君の名は。「ザ・スイッチ」(2021)

ぷらすです。

先日、久しぶりに映画館で『ザ・スイッチ』を観てきました。
あの「ハッピー・デス・デイ」と「~2U」を手掛けたクリストファー・ランドン監督最新作と聞いて、期待に胸を躍らせて劇場に行きましたよ!

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概要

気弱な女子高生とシリアルキラーの体が入れ替わってしまうホラー。24時間以内に入れ替わりを解かなければ永遠に中年殺人鬼の姿で生きることになる女子高生が、自分の体を取り戻すべく奔走する。『名探偵ピカチュウ』などのキャスリン・ニュートンと『ドッジボール』などのヴィンス・ヴォーン一人二役に挑み、『セラとチーム・スペード』などのセレスト・オコナーらが出演。『ゲット・アウト』などを手掛けてきたジェイソン・ブラムが製作、『ハッピー・デス・デイ』シリーズなどのクリストファー・ランドンが監督を務めた。(シネマトゥディより引用)

感想

「中年殺人鬼⇔冴えない女子高生」のスラッシャーコメディー

これは別にネタバレでも何でもないので最初に書きますが、本作の内容を一言で言うと、中年の殺人鬼と気弱で冴えない女子高生の入れ替わりモノです。

登場人物AとBの肉体と精神が入れ替わる「入れ替わりモノ」はSF、ファンタジー、ハートウォーミング、サスペンス、スリラーなど国やジャンル、内容を問わず数多くの作品が作られている、もはや物語の王道ジャンルの一つ。

日本でも大林宜彦監督の「転校生」や記録的大ヒットとなった劇場アニメ「君の名は。」、最近だと綾瀬はるか高橋一生W主演のドラマ「天国と地獄 〜サイコな2人〜」など小説、マンガ、アニメ、実写作品などメディアを問わず数多くの作品がありますよね。

そんな「入れ替わりモノ」最新作である本作。殺人鬼と女子高生の入れ替わりということで「天国と地獄~」を連想する人も多いかもですが、こっちの殺人鬼は高橋一生のような優男ではなく、身長196㎝の大男で「デンジャラス・プリズン -牢獄の処刑人-」や「ブルータル・ジャスティ」など、バイオレンス界の新星 S・クレイグ・ザラー監督作品でも常連の強面俳優ヴィンス・ヴォーン

そんな彼がお面を被って残虐の限りを尽くすアバンタイトルは、ほぼ「13日の金曜日」のジェイソンですよ。

そんなヴィンス・ヴォーンと入れ替わる気弱な女子高生ミリーを演じるのは「スリー・ビルボード」での フランシス・マクドーマンドの娘役や、「名探偵ピカチュウ」でCNMの新人記者ルーシー役を演じたキャスリン・ニュートン

そんな正反対の二人が入れ替わるコメディー映画ながら、スラッシャーホラーの残酷シーンもしっかり見せるのが「ハッピー~」との違いで、R-15指定も納得の切り株描写満載なので「ハッピー~」の残酷描写がぬるいと不満だった人も満足出来るんじゃないでしょうか。

逆に、残酷描写は苦手という人に本作はちょっと厳しいかもですが、(アバンシーンを除けば)殺されるのは、冒頭で殺されるクラスメイトをネタにSNSで「いいね」を貰おうとするようなクズい女子や、人気者のイケメンなのを鼻にかけてミリーをからかう男子、自分に逆らえないのをいいことにミリーにハラスメントする教師に、ブッチャーと入れ替わってイケてる女になったミリーを集団レイプしようとするジョックス(体育会系)の奴らなどなど、殺されるべくして殺されるヤツらばかりなので、基本心が痛むことないし、殺し方もいちいち創意工夫に溢れているので飽きることなく観られるようになってるんですねー。

オッサンのキスシーンに萌える

もう一方の見どころはヴィンス・ヴォーンとキャスリン・ニュートンが演じる入れ替わりの演技。

まぁ、ヴィンス・ヴォーンはリメイク版「サイコ」でノーマン・ベイツ、2013年のコメディー映画「インターンシップ」の主役、女子プロレスラーの半生を描いた「ファイティング・ファミリー」のコーチ役など、スリラーからコメディー、人間ドラマなど幅広い役柄を演じる芸達者な役者ですからね。
見た目オッサンの女子高生もコミカルかつ非常に魅力的に演じていましたねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com / 左から、入れ替わる前のミリー、ナイラ、ジョシュの仲良し三人組

入れ替わった事に気づいたミリーは、学校に忍び込んで親友のナイラセレステ・オコナー)とジョシュ(ミシャ・オシェロヴィッチ)に助けを求めるも、なんたって見た目は殺人鬼ブッチャーですからね。
中身がミリーだとは中々信じてもらえなかったり、警官のお姉ちゃんに追いかけられて母親が務めるしまむら的な服屋に飛び込み、偶然が重なって更衣室のカーテン越しに母親と心を通わせたり。

そして、片思いの男子ブッカー(ユリア・シェルトン)に正体を明かし、元に戻るための協力を頼む流れのなかで2人が両思いだったのが分かってのミリー(外見はブッチャー)とブッカーのキスシーンでは、(もちろん面白コメディーとして描かれているんだけど)あまりに芝居が自然なので、だんだんヴィンス・ヴォーンが可愛く見えてくるっていうw

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画像出展元URL:http://eiga.com / ブッチャー姿のミリーとミリーが恋する男子ブッカー。

その一方で、ミリーの体に入ってしまったブッチャー。
見た目のインパクトも含めついヴィンス・ヴォーンに目が行ってしまいますが、キャスリン・ニュートンの芝居も何気に上手だしとても自然なんですよねー。

目が覚めてミリーの体と入れ替わった事にブッチャーが気づくシーンでは「あ、やっぱおっぱい揉んで確かめるんだ」って思いましたよw(この件「君の名は。」の感想でも書いたな)

ちなみに本作の原題は「Freaky」で、クリストファー・ランドン監督はインタビューで「『フリーキー・フライデー』に触発されたオリジナル作品を作る」と述べたそうです。

「フリーキー・フライデー」は中学生のジョディ・フォスターが母親と入れ替わるというアメリカでは有名なテレビ映画で、2003年に「フォーチュン・クッキー」として劇場映画にリメイクされたんですよね。

OPタイトル、13日の金曜日風フォントで「Freaky」の文字がどーんと映し出されたあと、「Friday(金曜日)」の文字が画面に大写しになるのは、インスパイア元の「フリーキー・フライデー」のタイトルとパロディー元の「13日の金曜日」に掛けたダブルミーニングになっているんですね。

何てことないシーンの中に

あと、僕が個人的に関心したのは、ブッチャーの体になってしまったミリーが、劇中のドタバタのなかで自分が凄い力持ちになっている(大男ですからね)事に気づくシーンがあって、逆にミリーの体を手に入れたブッチャーがいつも通り相手を惨殺しようとするんだけど、非力な女子高生なので危うく獲物に返り討ちにされそうになって戸惑うっていうシーン。

それ自体は別に何てこともない短いシーンなんですが、実はこのシーンで描かれているのは本作の重要なテーマで、自分をいじめていた男子がブッチャー姿の自分に怯えるのを見て、ミリーは力を持つ事の自由さに気づくのです。

元々内気なミリーは、父親の死でより内にこもる正確になり、本当は都会の大学に行きたいけれど、夫を亡くしたショックでアルコールに溺れ自分に依存している母親を気遣って言い出せずにいるし、自分をいじめたり利用しようとするイケてるグループの女子や男子にも抵抗出来ずにいる。

つまり、本作においてミリーは弱者(性別や人種セクシャリティー的マイノリティー)の象徴として、逆にブッチャーは暴力的強者(マジョリティー)や前時代的マッチョイムズの象徴として描かれているんですよね。

なので、ラストのある展開はスラッシャーホラーとしてはお約束だけれど、本作のテーマに対して監督からの回答の暗喩にもなっていて、それゆえに超スッキリするのです!

「ハッピー~」とは別物

そんな感じで、本作は「ハッピー~」2作同様に隙のない脚本で非常に面白く出来ているんですが、それでも「ハッピー~」的な面白さを求めて観ると肩透かしを食らってしまうかもしれません。

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画像出展元URL:http://eiga.com 

「ハッピー~」2作はどちらかというとSF的で、主人公ツリーが誕生日をループし続ける理由も2作を通して明確に明かされるし、その謎解き自体が物語をけん引する魅力でもあるんですが、本作でブッチャーとミリーが入れ替わる理由は、冒頭でブッチャーがたまたま手に入れたナイフ(実はインカ帝国?の儀式に使う呪具)の効果で、24時間以内に同じナイフでブッチャー(ミリーの体)を刺さないと2度と元の体には戻れないっていう物語の始まりとオチをつけるのためのスイッチ以上の役割はないんですね。

なので「ハッピー~」ほど理に落ちた感じにはならないし、物語的にもランドン監督の手口(作劇)にコッチが慣れてしまった部分もあって、「ハッピー~」の時ほどの驚きもない分、幾分ストーリーが淡白に感じてしまうかもしれません。

とはいえ、今やホラー映画業界では飛ぶ鳥を落とす勢いのブラムハウス制作で、「ハッピー・デス・デイ」と「~2U」を手掛けたクリストファー・ランドンの監督ですからね。観て損はしない面白い作品なのは間違いないですけどね。

興味のある方は是非!!!

 

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SWの魅力を再発掘したドラマシリーズ「マンダロリアン」感想

ぷらすです。
今回は映画の感想ではないんですが、先日、ディズニープラスのオリジナルドラマ「マンダロリアン」を友達の家で見せてもらったので感想を書こうと思います。

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マンダロリアン

正史9部作の終焉と「マンダロリアン」の登場

1977年(日本では翌78年)公開の第1作を小学校高学年で食らったドンピシャ世代ながら、「スター・ウォーズ」(以降SW)にあまりハマれなかった――という話を、僕はSWシリーズ劇場版の感想を書くたび何度も書いてきたわけですが、改めてその理由を振り返ってみると、SWではなく中心にドンと置かれたスカイウォーカの物語に乗れていなかったんだと思います。

僕は元々、王子や王女、貴族が登場するような西洋史観のファンタジーが苦手だったし、当時はSFも正直あまり好きじゃなくて、SWにはその両方が入ってましたからね。

SW正史(劇場版)では42年間9本の映画に渡ってスカイウォーカー一族の家族喧嘩を延々見せられてきたわけですが、旧3部作/オリジナル・トリロジー(4.5.6)はまだ、どハマりはしないまでもそれなりに楽しん気がするけど、新3部作/プリクエル・トリロジー(1.2.3)はどんなに話が盛り上がっても「でも結局この人は最後ダースベイダーになるんでしょ」って思うと楽しめず。

ルーカスからディズニー体制に移った続3部作/シークエル・トリロジー(7.8.9)に至って、やっと数十年ぶりに物語が前に進んでくれたのは良かったけれど、なんていうかこう……作り手も観客も「SWらしさ」という呪いに掛かっていて、あんなに自由だったSWがひどく窮屈な映画になっていたし、そんな新作を気に入らなかったコアなファンが叩いてる感じもなんだかなーと。

そうなると、一応全作品観てるけど元々そんなにSWにハマれなかった身としてはどこか疎外感があり、それらの周辺状況も含めてちょっと引いてしまうというか、ファンと作り手、ファン同士のゴタゴタも全部含めての大騒ぎがSWなんだろうな……なんて悟ったような事を思っていたわけです。

そして、2019年公開の「エピソード9/スカイウォーカーの夜明け」をもって、予定されていた劇場版SW9部作は幕を閉じたことでやがてファンの熱も冷めるだろうと思われたんですが、僕のTwitterのTLは一向に熱が冷める気配がない。どころか、その熱は時間を追う程に上がっていく。

何だろうと思ったら、「スカイウォーカーの夜明け」公開と前後するように、ディズニー作品専門の配信チャンネル『Disney+』で配信が開始されたSWのスピオフドラマ「マンダロリアン」の評判が回を追うごとに上がっていったんですね。

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主人公交代でSWの魅力が浮き彫りに

「マンダロリアン」はSWシリーズ初となる実写ドラマ作品で、脚本・企画・ショーランナー(現場の総責任者)を「アイアンマン1・2」を手掛けたジョン・ファヴローが務め、SWのアニメシリーズ「クローン・ウォーズ」のデイブ・フィローニや、数多くのTVドラマシリーズを手掛けたリック・ファミュイワ、デボラ・チョウ、「ジョジョ・ラビット」を手掛けたタイカ・ワイティティなど錚々たるメンバーがエピソード監督を担当(デイブ・フローニは製作総指揮も)。

映画「SW・EP6/ジェダイの帰還」から5年後の銀河を舞台に、孤独な賞金稼ぎの"マンダロリアン"が、ヨーダと同種族の赤ん坊の通称ベビー・ヨーダこと”ザ・チャイルド”と共に銀河の星々を旅するというのが物語の大筋で、基本は30分1話完結の8話構成になっているんですね。(エピソードによっては50分だったり40分だったりすることも)

主人公に名前がなく周囲から“マンドー“と呼ばれているのが、クリント・イーストウッド演じるマカロニウエスタンの主人公ジャンゴ(名無し)インスパイアなのは一目瞭然だし、シーズン1では黒沢明の「七人の侍」をリスペクトしたエピソードもあり。また、ベビー・ヨーダとマンドーの、時に親子、時に相棒のような関係性は「子連れ狼」インスパイアなのだとか。

つまり、「マンダロリアン」とは銀河の辺境を舞台にした西部劇で、それはスペースオペラとしてのSW”への原点回帰とも言えるし、シリーズの中心にあったスカイウォーカー家がスッポリ抜けた代わりに、”名無し”のオリジナルキャラを主人公に据えたことで、彼を通してSWのもう一つの大きな魅力である「多様性溢れる世界観」が浮き彫りになったのです。

“あの時“のワクワクを再現

ところで、SWに詳しくない人は「そもそもマンダロリアンって何?」って思うかもしれません。
マンダロリアンはSW/EP5~6に登場。ファンの人気を得て、その後アニメシリーズや小説にもたびたびメインで登場する人気のキャラクター、ボバ・フェットのビジュアルでもお馴染みの、ライトセイバーでも斬ることが出来ない最強の金属ベスカーで作られ、ミサイルや火炎放射器などを仕込んだ鎧やヘルメットに身を包む戦闘民族の総称

過去の大きな戦争で故郷の星と、多くの同胞を失った彼らの生き残りは銀河に散らばっていて、その高い戦闘能力を活かして傭兵や賞金稼ぎで生計を立てているらしいんですね。(僕はこの辺の設定に詳しくないので端折ります)

主人公のマンドーも惑星ネヴァロのギルドに所属している賞金稼ぎですが、SW/EP6で新銀河共和国が帝国側に勝利したことで仕事が激減。
マンドーは裏の仕事と知りながら帝国の残党から50歳の要人を捕獲するという依頼を引き受けるのです。

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ところが辺境の星で捕らえた獲物は確かに50歳ではあるけど、あのヨーダと同種族の幼児(ザ・チャイルド)だったんですね。
自身も孤児でマンダロリアンに拾われた過去を持つマンドーは、依頼を果たすべくザ・チャイルドを連れて惑星ネヴァロを目指すも、同じ境遇のザ・チャイルドに徐々に情が移っていき――というのがシーズン1のあらすじ。

全8話のストーリーの中で、SW劇場版で人気のキャラクターやマシン、武器などが次々に登場するだけでなく、映画ではチョットしか登場しないようなキャラクターたちの生態?や生活様式などが、マンドーやザ・チャイルドとの関わりの中で深掘り――というか、むしろ掘り返されることで、SW正史とは似て非なる新たな表情を見せてるのです。

それは1977年の「SW/EP4新たなる希望」が世界中のファンを虜にしたのと同じ、スペースオペラならではの世界観の面白さや、マシンや武器のディテールのカッコよさにワクワクした“あの時”の再現でもあり、それこそが「マンダロリアン」がファンのみならず、SWに乗れなかった人や、SWを知らない新規ファンをも取り込んでいる理由なのです。

僕自身、「マンダロリアン」を観て初めて、多くのファンがSWに熱狂する(面白さの)理由がやっと分かったんですよね。

「なるほど、こういう事なのかー!( ゚д゚)」ってw

さらにシーズン2では、正史(映画版)に留まらず、コミック、小説、アニメーションシリーズなどで人気のキャラクターも登場して、その世界観を更に拡張。続くシーズン3の制作も決定しているようなので、これからどうなっていくのかが今から超楽しみです!(;゚∀゚)=3ハァハァ

そして、第1作から42年ぶりに僕にSWの面白さ、楽しさを教えてくれたジョン・ファヴローとデイブ・フローニには、心から「ありがとう」と言いたいですよ!

興味のある方は是非!!

 

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B級要素全部乗せ「スカイ・シャーク」(2021)※R-18

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「未体験ゾーンの映画たち2021」で上映されたドイツ映画『スカイ・シャーク』ですよー!

サメ・ナチス・ゾンビというB級映画の三大要素全部盛り(+裸)という、「美味しいもの+美味しいもの=超美味しいもの」っていうバカのご馳走理論で作られた作品です。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

現代によみがえったナチスのゾンビ軍団が空飛ぶサメを操って世界を襲う姿を描いたドイツ製パニックアクション。フランクフルト行きの飛行機が、飛行中に外部からの襲撃を受ける大惨事が発生。同じ頃、北極でナチス第三帝国の巨大な戦艦が発見される。戦艦の中には、かつてナチスが開発した極秘兵器が眠っていた。それは、遺伝子改変された超人ゾンビたちが操るサメの戦闘機で、世界各国の都市を襲い始める。70年前にこの兵器の開発に携わったリヒター博士と2人の娘たちは、世界を救うべく立ち上がるが……。「ゾンビ」「13日の金曜日」などの特殊メイクアーティスト、トム・サビーニが特殊効果のスーパーバイザーとして参加。ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2021」上映作品。(映画.comより引用)

感想

バカのご馳走理論で作られた出オチ映画

本作は、サメ・ナチス・ゾンビ+ちょっとエロっていう、まさにB級要素全部盛りのザ・B級映画です。

豚カツ、ピラフ、スパゲティを一つの皿に盛った『トルコライス』を筆頭に、オムライス+カツの『ボルガライス』、オムライス+フィッシュフライ+タルタルソースの『ハントンライス』、ケチャップライスまたはバターライスにポークカツを乗せてドミグラスソースを掛けた『エスカロップ』などなど、「美味しいもの+美味しいもの=超美味しいもの」という、いわゆるバカのご馳走理論で作られたB級グルメは枚挙にいとまがないですが、それらの料理と違って、残念ながら本作の場合サメ・ナチス・ゾンビというB級映画三大要素を全部盛ってみたけどそれぞれの美味しさがまったく活かされてないっていう、非常に残念な作品になってるんですね。

フランクフルト行きの航空機には空の旅に飽きた娘とその父親や、アジア系酔っ払い親父、飛行機恐怖症のシスターと元ギャングの神父などなど、あの航空機パニック映画「エアポート」シリーズをオマージュしたと思われるグランドホテル方式の冒頭シーンは、これから起こる惨劇を予感させるし、その飛行機をサメに乗ったゾンビのナチ兵が襲うシーンのゴア描写もド派手で、「お、これは面白くなるんじゃないの!?」と期待させるんだけど、残念ながらこの冒頭シーンが本作最大の山場。

その後は、北極の氷の中に閉じ込められたナチスの戦艦をたまたま発見した主人公?が調査に入るシーンや、中盤に航空機の乗客大虐殺パート2など、多少の見どころはあるものの、予算の都合か、それとも単純に作劇が下手なのか、なぜナチスのゾンビ兵士が復活したのか(地球温暖化で北極の氷が融けたから)とか、そもそもナチスゾンビや空飛ぶサメは誰が作ったのかなど、この作品の設定を延々説明するだけのシーンが続くっていう、この手のB級映画にありがちなグダグダで退屈な展開になっていくんですね。(やたら説明したがるのはドイツ人気質なのかしらん?)

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画像出展元URL:http://eiga.com

あと、カットとカットの繋ぎも上手くなくて、冒頭でも「え、そのカットいる?」っていう映像が多く、そのせいで全体のテンポが悪くなってたり。

ナチス+ゾンビ+(空飛ぶ)サメなんて、素材だけ見れば絶対美味しくなるハズなんだけど、残念ながら料理人の腕とセンスが圧倒的に足りてなかったっていう感じでしたねー。

とはいえ、本作には特殊効果のスーパーバイザーとして、『13日の金曜日』シリーズ(1980年ほか)で知られる、あのトム・サヴィーニ御大が参加していて、なのでナチスゾンビによる大虐殺シーンは基本的に迫力満点だったりするし、サメやナチスゾンビのビジュアルデザインはところどころ無駄にカッコいいので、そこだけでも観る価値はあるかもしれません。

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最新作のハズが最終作に……「ニュー・ミュータント」(2020)*日本ではビデオスルー

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、20世紀フォックスの「X-MEN」シリーズ最新作のハズが、ディズニーの買収やらコロナの大流行によって公開延期に次ぐ延期の末、日本では結局ビデオスルーになってしまった不運の1本、『ニュー・ミュータント』ですよー!

ぶっちゃけX-MENシリーズとしては低予算の小作品だけど、個人的には結構面白かったですねー。

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概要

マーベルコミック原作の人気シリーズ「X-MEN」のスピンオフとなるSFアクション。自らの特殊能力をまだうまく扱うことができないミュータントの若者たちが、過酷な運命に立ち向かっていく姿を描く。未熟さゆえに特殊能力を制御できず、つらい過去を背負った5人の若者。極秘施設で訓練を受ける彼らの前に突如謎のモンスターが出現。恐怖で錯乱する中、さらなる危機が訪れる。自身の未知数の能力に戸惑いながらも仲間とともに運命を切り開いていこうとする主人公ダニを新星ブルー・ハントが演じるほか、勝ち気な性格で5人のリーダー的存在のイリアナ役にNetflixドラマ「クイーンズ・ギャンビット」で注目されるアニヤ・テイラー=ジョイ、ダニの良き理解者でもあるレイン役に「ゲーム・オブ・スローンズ」のメイジー・ウィリアムズなど、注目の若手俳優がそろう。監督は「きっと、星のせいじゃない。」のジョシュ・ブーン。(映画.comより引用)

感想

シリーズ最新作のはずが最終作に

この作品の原作は、マーベルコミック「X-MEN」シリーズの人気スピンオフ?作品「The New Mutants」で、自らの能力をコントロール出来ない5人の若者がミュータントとして過酷な運命に立ち向かう青春物語。

そんな原作コミックを「X-MEN」シリーズや「デッドプール」シリーズを大ヒットさせたサイモン・キンバーグとローレン・シュラー・ドナーが手掛け、実話ベースの感動作「きっと、星のせいじゃない。」のジョシュ・ブーンが監督。

ネイティブアメリカンの主人公ダニ役には本作が映画デビューとなるブルー・ハント

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最初はダニと敵対するセクシーな少女イリアナ役に「スプリット」と続編「ミスター・ガラス」のケイシー役で注目を集めたアニャ・テイラー=ジョイ

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ダニの親友となるレイン役に、「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのメイジー・ウィリアムズ

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炭鉱での事故によって心に深い傷を負い、自分を変えたいと願うサム役にドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シリーズのチャーリー・ヒートン

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しっかり者に見えて実は気弱なロベルト役にドラマ「13の理由」(シーズン1)のヘンリー・ザガ。と、新進気鋭の監督&人気若手俳優が揃った豪華な布陣で制作が始まったんですね。

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ストーリーはミュータントの能力をコントロールできるまで街から遠く離れた”病院で治療中”の若者5人が、過酷な現実を乗り越えるまでの成長を描く本作は、「X-MEN」シリーズ13作目として全世界で公開されるハズでしたが、前述したように、本作を制作中に20世紀フォックスがディズニーに買収されたためシリーズ最終作に。

しかも新型コロナウイルスの影響による映画館の閉鎖が重なり2018年4月13日公開の予定が、2019年2月22日、同8月2日、2020年4月3日と変更され、最終的に2020年8月28日まで延期。
日本では結局劇場公開はされず、X-MENシリーズとしては初のビデオスルーになってしまうという、まさに不運としか言いようのない作品になってしまったのです。

同じ世界観の別作品として観れば

シリーズ作品としてはこれまでの作品と比べて明らかに低予算だし、登場人物は上記の5人+彼らを“管理・治療”する医師、セシリア(アリシー・ブラガ)のみ。

舞台は人里離れた“病院“の中だけという小作品なのでファンには物足りないかもだけど、X-MENと同ユニバースの別作品(X-MENの設定を活かした青春映画)だと思って観れば、ストーリーやテーマ性もまとまっていて、個人的には結構面白かったです。

ただまぁ、本作の売り文句として「(X-MEN)シリーズ初のホラー」ってのがあるんですが………まぁ、全く怖くはないよねw

フォックスとしては本作を「青春ホラー」として売り出したかったらしいんですが、ジョシュ監督は「青春ダークファンタジー」にしちゃったもんでちょっと揉めたらしいですね。(まぁ、ダークファンタジーとしてもかなりヌルいけど)

多分、監督はホラーとかヒーローとか全く興味がなくて、なのでファンタジーがギリ妥協できるラインだったのかもしれません。

とはいえ、ミュータントの能力を成長期の不安定でコントロール不能な心のメタファーとして描き、その背景にある大人(男)の理不尽な暴力によって負った心の傷を脚本と映像で匂わせるなど、(別に目新しくはないけど)良い部分も結構あったりするし、何より94分と近年の映画としては非常にコンパクトに物語がまとまっていて見やすいのも個人的には良かったと思いますねー。

あと、主人公役のブルー・ハントは森泉さんに超似てると思いました。

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興味のある方は是非!!

 

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知らない世界を知る喜びに満ちた良作「ようこそ映画音響の世界へ 」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、映画“音響“にスポットを当てたドキュメンタリー映画ようこそ映画音響の世界へ 』ですよー!

僕は映画製作やメイキング系のドキュメンタリーは色々観ている方だと思うんですが、音響にスポットを当てた作品は本作が初めてなんじゃないかと思いますねー。

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概要

ハリウッドの映画音響の世界に迫るドキュメンタリー。劇中の登場人物のセリフをはじめ、映画音楽や環境音など、映画にまつわるさまざまな音に光を当てる。ジョージ・ルーカススティーヴン・スピルバーグソフィア・コッポラクリストファー・ノーランアルフォンソ・キュアロンら映画監督のほか、『E.T.』『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』でアカデミー賞音響効果編集賞を受賞したベン・バートや、『イングリッシュ・ペイシェント』で第69回アカデミー賞音響賞を受賞したウォルター・マーチらも出演している。(シネマトゥデイより引用)

感想

”音響“にスポットを当てて映画の歴史を語る良作ドキュメンタリー

実は僕は、映画のDVDやブルーレイの映像特典でメイキングが入ってると絶対観てしまう「メイキングフェチ」でして。

子供の頃に公開された「スター・ウォーズエピソード4」も、本編よりむしろメイキング映像で構成されたテレビ番組(ビデオ?)?の方が大好きで、以来、SFやホラー映画のメイキングを見まくるようになってしまったんですよね。
まぁ、近年は特殊撮影もSFXからVFXに移ってしまって、面白いメイキング映像は減ってしまいましたけども。

でも、それらのメイキング映像でも「音楽」までは紹介されてるけど「音響」となると紹介されることは殆どなくて、テレビの特集で小豆を入れたデカいザルを揺らして海の波の音を作るみたいな効果音の紹介がたまーーーーーーーにされるくらい。

つまり映画製作の中でも、一番謎のベールに包まれているのが「音響」の仕事なんですよね。

本作ではそんな映画音響の世界を物語を盛り上げる役者の“セリフ”、映画にリアリティーと迫力を持たせる“効果音”、観客の感情を高めていく“音楽”に分解して、それぞれの技術発展を新旧の名作と、そこに関わってきた著名な映画人たちへの取材を通して描き出していくんですね。

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映画はエジソンが蓄音機(録音媒体)を発明するところからスタート。
オーケストラが映像に合わせて生演奏していた無声映画時代、フィルムに記録された音を同時に再生する“サウンドトラック“の誕生、モノラルからステレオ、さらに立体的なサラウンドへと表現域を拡げていく技術の進歩と並行して、撮影現場でのセリフの同時録音からノイズを取り除き、聞こえにくいセリフをスタジオで録音するアフレコ。

SF映画では電子音で音をつけるのが普通だった時代に動物の鳴き声や自然の音を録音・加工して効果音に使った「スター・ウォーズ」、ジェット戦闘機の音に猛獣の鳴き声を合成して本物以上の迫力を出した「トップ・ガン」など、誰もが知るメジャーな映画の「音」を解説。

また、映画に詳しいマニアでも誤解しがちなドルビーステレオの起点が「スター・ウォーズ」ではなく「スター誕生」であることを主演/製作総指揮のバーブラ・ストライサンドに証言を基に紹介しているんですね。

技術の進化と並行して映像技術が進歩するように音響技術もまた時代と共に進歩、観客に驚きと感動を与えていることが分かります。

例えば本作では取り上げられてないけど、スラッシャーホラーの先駆けとなったトビー・フーパ―監督の「悪魔のいけにえ」は、実は思ってるより残酷描写は少なくて、恐怖のメインは鉄扉の閉まる音やレザー・フェイスが振り回すチェーンソーなどの音の演出なんですよね。

またコッポラの「地獄の黙示録」以降、5.1chサラウンドの音響によって立体化された音が映画の迫力を増しているのは、映画館で映画を観る人なら良くご存じなのではないでしょうか。

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つまり、観客が感動する映画、ヒットする映画の多くは、映像や役者(演技)だけでなく音楽や音響も素晴らしいし、一流の映画監督は映画における音の大切さをよく分かっているんですよね。

とはいえ、かなりマニアックな内容なので映画製作に興味のない人は楽しめないと思うかもですが、「知らない世界を知る喜び」が本作には満ちていて、映画の舞台裏に興味のある人もそうでない人も楽しめる、ドキュメンタリーの良作だと個人的には思いましたよ。

興味のある方は是非!!

 

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映像特典のメイキングになるハズが……「ロスト・イン・ラ・マンチャ」(2001)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、鬼才、テリー・ギリアム監督が制作を熱望した作品「ドン・キホーテを殺した男」の準備から挫折までを追ったドキュメンタリー『ロスト・イン・ラマンチャ』ですよー!

ギリアムは19年間の間に9回「ドン・キホーテ~」の映画化に挑戦しては失敗してて、公式サイトでは映画史に刻まれる呪われた企画と銘打たれてるらしいんですが、本作はその第1回目の挫折の様子を追ったドキュメンタリー作品です。

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画像出展元URL:https://www.amazon.co.jp/

概要

テリー・ギリアム監督が次回作「ドン・キホーテを殺した男」の準備に取り掛かったとき、キース・フルトンルイス・ペペはギリアム監督からメイキングの製作を依頼される。やがて2000年秋、ヨーロッパ資本としてはかつてない規模の本作はついに主演のジョニー・デップをはじめヴァネッサ・パラディジャン・ロシュフォールら出演者が顔を揃え撮影を開始した。ところが、撮影は上空を飛び交うNATOの戦闘機の騒音に邪魔されてしまう。さらに、ロシュフォールの病気降板、豪雨によるセットの崩壊という事態が追い討ちを掛けるのだった…。(allcinema ONLINE より引用)

感想

テリー・ギリアムとは

テリー・ギリアムは大学卒業後、広告代理店を経て雑誌「ヘルプ!」の編集者に。
その傍らコミック・ストリップ(新聞の1コマ漫画)家やアニメーターとしても活動を始め、1960年代半ばにはイギリスに渡ってイラストレーターとして活躍。
やがてイギリスの伝説的コントグループモンティ・パイソン」唯一のアメリカ人メンバーとして出演の他、主にアニメーションを担当しています。

1975年には、映画「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」で(テリー・ジョーンズと共同監督)商業映画デビュー。
1977年、初の単独監督作「ジャバーウォッキー」を手掛け、以降「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ 」「ゼロの未来 」など、監督としては比較的寡作ながら、独特な世界観の前衛的なビジュアルやストーリーで、映画マニアの間ではカリスマ的人気を誇る監督なんですね。

しかし、そんなファンとハリウッドの評価は比例せず、ギリアムの独創的な発想は他者に理解されづらく、ゆえに思うように映画を撮れない事も多いらしいんですね。
特に、口先だけの無能なプロデューサー・トーマス・シューリーと組んでしまったことで当初の予算2,000万ドルが最終的には4,600万ドル強に膨れ上がり、史上最大の失敗作と言われた「バロン」(1989)の後、手に負えない監督の烙印を押されたギリアムは新たな企画の立ち上げは不可能に近くなってしまったんですね。

映像特典のメイキングになるハズが……

そんな中企画された「ドン・キホーテ~」はハリウッドでは企画が通らず、欧州で撮影することになったんだとか。
しかし予算は3120万ドルとハリウッド資本とは比べ物にならないほど低く、撮影前の準備段階から作品には暗雲が立ち込めます。

それでも主演のトビー役にジョニー・デップ、ヒロイン役にヴァネッサ・パラディ、そしてドン・キホーテ役には名優ジャン・ロシュフォールを迎え、何とかスペインマドリードでの撮影開始に漕ぎつけたものの、撮影場所がNATOの軍事演習場のすぐ近くだったことから上空をF-16 が飛び回り、翌日には予期せぬ大雨によって現場が洪水に。セットや機材が流されるだけでなく、洪水によって景観や色合いも変わってしまったんですね。
さらに、ジャン・ロシュフォールの腰痛が悪化。椎間板ヘルニアの診断が下され撮影は不可能、映画は完全に頓挫してしまったのです。

本作では最初はノリノリだったギリアムが、度重なるアクシデントで徐々に追い詰められ、そしてとうとう心が折れるまでの様子を追っているわけですが、そもそもこのフィルムは、「ドン・キホーテを殺した男(The Man Who Killed Don Quixote)」のDVDやブルーレイに入る映像特典のメイキングフィルム用に撮影していたフィルムなので、正直事情を知らない人が観ても「何のこっちゃ?」な内容でしてね。

結果、テリー・ギリアムの執念によって2019年「The Man Who Killed Don Quixote(邦題:テリー・ギリアムドン・キホーテ)」が完成、公開されたことでこの企画を巡る一連の騒動と、その様子を記録した本作が再注目を浴びる事になるわけですが、本作単体ではドキュメンタリーとしてはいかにも物足りなく、事情を知るコアなファンしかみないマニアックな珍品止まりだったと思うんですよね。

もっと当時の関係者へのインタビューや後の様子を追加撮影するなどして、一連の騒動を立体的に描き出し、事情を知らない人でも本作を観れば事の一部始終を理解できるようなドキュメンタリーにしていれば、映画史的傑作ドキュメンタリーになっていたかも

しれなかっただけに、単純に残念だと思いましたねー。

まぁ、「テリー・ギリアムドン・キホーテ」の方も評価はかなり分かれていると聞くので、本作と合わせて観て丁度いい感じなのかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

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