今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

絵柄で侮るなかれ!「映画大好きポンポさん」(2021)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年公開された劇場アニメ作品『映画大好きポンポさん』ですよー!

「pixiv」で発表された同名コミックを「空の境界矛盾螺旋」などの平尾隆之監督で劇場アニメ化。SNSを中心に話題になった映画を作る映画です。

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概要

イラストコミュニケーションサービス「pixiv」で発表された杉谷庄吾によるコミックを原作にしたアニメーション。映画通の製作アシスタントの青年が目利きの映画プロデューサーに監督として抜てきされ、映画づくりに奔走する。監督を『劇場版 空の境界/第五章 矛盾螺旋』などの平尾隆之が務め、制作を『この世界の片隅に』などに携わったスタッフが立ち上げたCLAPが担当。ボイスキャストには清水尋也小原好美大谷凜香加隈亜衣大塚明夫などが名を連ねる。(シネマトゥデイより引用)

感想

映画好きの作者が映画好きの観客に贈る物語

公開時にTwitterなどのSNSで話題を呼んだ作品なので、僕も、作品名は知ってましたが内容はまったく知らないまま、今回Amazonレンタルで視聴したんですね。

絵柄やキャラクターのポップさもあって、日本の映画ファンが映画についてワチャワチャ語る作品だと思ってたんですがこれ、ハリウッドがモデルの架空の映画都市で映画を製作する物語だったのでビックリでした。

物語は架空の映画都市「ニャリウッド」で、伝説の映画プロデューサー・ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ペーターゼン小形満)の孫娘で、自身も映画プロデューサーのジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット。通称ポンポさん小原好美)の助手として働く映画マニアのジーン・フィニ清水尋也)が、ポンポさんから出されたテストを(そうとは知らず)クリアして監督デビュー。初めての作品を完成させるまで=成長を描いているんですね。

ジーンが撮影を終えるまでの前半では、人間関係のゴタゴタなどのノイズはサクッとカットしている、まさに夢の世界なので非常に観やすい反面、テンポのいい展開をご都合主義に感じる人もいるかもとは思いましたねー。

ファンタジーとリアリティー

例えば、映画マニアだけど非リアでコミュ障気味な主人公ジーンが、(初めての)映画の現場で海千山千のプロたちを動かせるわけがない=リアリティーがない。みたいな。

確かにそこはまぁおっしゃる通りなんですけど、まぁ、本作の舞台はハリウッドではなく、あくまで「ニャリウッド」で、いわゆるファンタジー世界ですしね。

それに、確かに色々ノイズカットはされているんだけど、理論的には破綻していないというか。

監督としてジーンに足りていないこと経験を、ポンポさんは明るくムードメイカーでもある大御所俳優マーティン・ブラドック大塚明夫)を主役に据え、自身も現場にいることでフォローする体制を作っている。

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その辺のファンタジーとリアリティーのさじ加減が絶妙なうえに、テンポもとてもいいので観ているこっちはストレスなく物語に引き込まれていくわけです。

原作にない後半部分が本番

そして、そんな夢の様な撮影が終わり編集作業に入るジーン。

実はこの編集シーンは原作マンガにはないアニメオリジナル。
原作ではスイスロケを中心にした撮影シーンをメインに添えていたんですが、このアニメ版ではこの編集シーンが物語のメインになっているのです。

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今まで「映画を作る映画」は星の数ほど作られていますが、実は編集作業に重きを置いた作品は珍しいと思うし、それは同時に映画製作における監督の役割にスポットを当てている事でもあるんですね。

映画は、カメラはカメラマンだし、照明は照明マン、大道具小道具、衣装、音楽、役者と、それぞれ専門家が寄ってたかって作るわけですが、その中で映画監督の仕事ってぼんやりこんな感じってのはあるけど、いまいちハッキリしないないじゃないですか。

で、映画における監督の仕事って、それら専門家たちが監督のイメージに沿うように揃えた“素材“から取捨選択の判断をして一本の物語に仕立てること。
つまり編集こそが仕事の本分なんですよね。
もちろん編集にも専門家がいますが、編集マンは監督と二人三脚で行う印象です。

本作ではジーンが1人で編集作業を行うんですが、編集によって如何にシーンの印象が変わるかを映像として見せた上で、72時間にも及ぶ膨大なデータから何を切って何を活かせばいいいのかにジーンは苦悩します。

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そのデータには、恐らくはジーンが初めて味わったであろう、映画撮影の夢の様な楽しい時間と感動が封じ込められているわけで、つまりはご都合主義にも見える前半の撮影シークエンスが、この後半の編集作業の苦悩の伏線になってるわけです。

さらに本作には、原作にはいないオリジナルキャラも登場します。
それが、ジーンの同級生アラン木島隆一)。

彼は学生時代はイケてたし、器用で何でもそこそここなせるので、卒業後はニャリウッド銀行に勤めているわけですが、仕事にやりがいが見いだせず悩んでいるんですね。

そんな彼が偶然撮影中のジーンに出会う。
学生時代は見下していたジーンが今は学生時代から好きだった事を仕事にしていることに驚き、自身の今と比べて落ち込むんですね。

そんなアランが、その後ジーンのピンチを救うという展開になり、それが彼自身も救う展開になるんですが、個人的に感心したのは、平尾監督はこのアランというオリジナルキャラクターを出すことで、本作を「才能を持つ一握りの人間」の物語ではなく、「なぜ仕事をするのか」=「仕事の中に自分をみつけられるか」というすべての人々に通じる普遍的な問いかけと答えになっているんですね。

創作論としてのポンポさん

そんな本作序盤。

ジーンとポンポさんが映画に対しての軽い問答をするシーンがあります。

ジーンが試写室を借りたいと言い、ポンポさんが何を観るのかを聞くと、ジーンが「ニューシネマパラダイス」と答える。

するとポンポさんは「うげー」と嫌な顔をするんですね。
その理由は上映時間が2時間以上と長いから

彼女は伝説の映画プロデューサーである祖父に英才教育を受けた反動で、90分の分かりやすいB級映画を好むようになってしまったんですね。

更にポンポさんは「2時間以上の集中を観客に求めるのは現代の娯楽としてやさしくない」「製作者はシーンとセリフを取捨選択し、出来る限り簡潔にメッセージを表現するべき」「ぶよぶよと脂肪だらけの映画は美しくない」と言います。

このポンポさんの理論には異論のある方も多いでしょうが、近年の、3時間近い長尺な作品が何かと持てはやされる風潮に些かうんざりしている身としては、このポンポさんの意見には頷く部分も多いんですよねー。

いや、昔の映画が90分なのは、単純に映画館での上映回数=経済的な問題というのはもちろん承知ですが、しかしその制約=ルールがあるからこそ、昔の映画監督は90分で自メッセージを表現するためシーンやセリフを極限まで研ぎ澄まし、結果今も語り継がれるような名作が生まれているわけですしね。

2時間越えの作品が全て悪いとは思いませんが、大作が増えてきた昨今の映画界の中には、ぶよぶよと贅肉だらけの作品も確かにあるし、逆にどんなに興味のある作品も、上映時間3時間前後と聞くと映画館に運ぶ足が鈍ってしまうんですよね。

あと、ジーンに「なぜ自分をアシスタントに選んだか」を聞かれたポンポさんが、「スタッフの中でダントツ目に光がなかったから」と答えるシーン。

ポンポさんによれば「光り輝く青春を謳歌した満たされた人間は物の考え方が浅くなる」「現実から逃げた人間は自分の中に自分だけの世界を作る」「それこそがクリエイターの資質」であると。

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まぁ、これもかなりの極論ではあるし異論も多いとは思いますが、一方でこのポンポさんの意見は映画好きであれば多かれ少なかれ思い当たる節はあるハズ。

本作ではポンポさんのセリフを通して、そんな映画好きたちの虐げられし魂を救済してくれているんですよねw

それに、他人が他の事をしているその時間を一つの事に使ったからそれに秀でることが出来たという理屈はある意味だたしくて、それはスポーツに例えれば分かりやすいんじゃないでしょうか。

他の子が友達とゲームをしている時間を、スポーツに費やしたから金メダルが取れた。とかね。

もちろんそればかりではないし例外も沢山あるけれど、特に創作においては、物事に費やした時間と結果が比例するという面は確かにあると思うのです。

そういうアレコレも含め、本作は思った以上に深い作品で、いわゆる萌え絵的な絵柄のアニメだからとナメててサーセンって思いましたねー。

興味のある方は是非!!

 

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ある意味”シン・バットマン”「THE BATMAN-ザ・バットマン-」(2022)

ぷらすです。

公開日初日の初回9:40の回で観に行ってきました!

『THE BATMANザ・バットマン-』をね!

上映時間2時間56分という長尺に、観る前は正直怖気づいていましたが、いざ始まってしまえば、体感2時間くらいに感じましたねー。

というわけで、今回はまだ公開したばかりの作品なので出来るだけネタバレはしないように感想を書いてますが、もしも今後見る予定があって情報を一切入れたくないという人は、先に映画を観てからこの感想を読んで下さい。

いいですね? 注意しましたよ?

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概要

『トワイライト』シリーズなどのロバート・パティンソンが、DCコミックスが原作のキャラクター「バットマン」ことブルース・ウェインを演じるサスペンスアクション。ゴッサム・シティで探偵をしているブルースが、知能犯リドラーの挑発的な攻撃に苦悩しながらも戦いを繰り広げる。監督を務めるのは『猿の惑星』シリーズなどのマット・リーヴスコリン・ファレルポール・ダノゾーイ・クラヴィッツなどが共演者として脇を固める。(シネマトゥディより引用)

感想

映画版「バットマン」の歴史

アメコミ史上スーパーマンに続いて2番目に歴史の長いヒーロー・バットマンは、実写化作品においても1943年にコロンビア ピクチャーズより公開された全15章の連続活劇『Batman』から現在に至るまで劇場公開版で12本(ユニバース作品も含めれば16本)、バットマンを演じた俳優は本作のロバート・パティンソンで9人目になります。

とはいえ、一般的に映画版バットマンとしてカウントされるのは、やはり1989年公開。ティム・バートン監督、マイケル・キートン主演の「バットマン」からでしょう。

このティム・バートンバットマンは、アメコミとしては1978年に公開されたリチャード・ドナー監督の「スーパーマン」以来の世界的大ヒット作品であり、その後に続く「スパイダーマン」やMCU作品、DCEUなど、現在の(大人も楽しめる)アメコミ映画の先駆けとも言える作品でした。

その後紆余曲折あり、2008年~2012年にかけて公開されたクリストファー・ノーラン監督、クリスチャン・ベール主演による通称「ダークナイト3部作」、特に2作目の「ダークナイト」の世界的大ヒットによって、バットマンというヒーローの名は広く一般に知られるようになったのです。

一方、同時期にDCコミックのライバル会社マーベル・コミックが自社のコミックに登場するスーパーヒーローをクロスオーバーさせるプロジェクト「マーベル・シネマティック・ユニバースMCU)」をスタート・大成功を収めたのを受け、DCコミックはスーパーマンを主人公にした「マン・オブ・スティール」からスタートするDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)プロジェクトをスタート

続く2作目「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」5作目「ジャスティス・リーグ」では、ベン・アフレックバットマン役を演じましたが、DCコミックの親会社WBの思惑ほどは当たらず、DCは作品のユニバース化を一旦見直し、2019年公開の「ジョーカー」など、それぞれのヒーロー映画を単独作品として発表していく方向に舵を切ったんですね。

本作、「THE BATMANザ・バットマン」も、元々はバットマン役のベン・アフレックが主演・監督・脚本で単独映画化される予定でしたが、2017年にベン・アフレックがプロジェクトから降りたことで、監督・脚本は「猿の惑星:新世紀 ・聖戦記 」のマット・リーヴスに引き継がれ、新たなバットマン役にロバート・パティンソンが選ばれたんですね。

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そして、この「THE BATMANザ・バットマン-」では、これまでの老成したベテランヒーローのバットマンではなく、まだ2年目の若きバットマンの姿で描かれていて、DCEUなど、今までのどのバットマンとも繋がりのない、新たな単独作品として公開されたのです。

つまり、他の作品を一切見なくても、この作品だけ観れば物語が分かるんですね。

本作のメインヴィランリドラー

そんな本作で若きバットマンの敵となるのはリドラー

古いバットマンを知っている人は、「バットマン フォーエヴァー」でジム・キャリーが演じた、緑の全身タイツに“?マーク”がびっしり書かれた、あの面白おじさんを連想するかもですが、今回のリドラーは黒い覆面にメガネ、ダークグリーンのロングコート姿の連続殺人犯。ゴッサムシティ―の市長を始め、次々と人を殺してはバットマン当てにヒントを残す手口は多くの人が指摘するように、実在の未解決連続殺人犯ゾディアックをモデルにしているようです。

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他にもキャットウーマンセリーナ・カイル( ゾーイ・クラヴィッツ)として、有名ヴィランであるペンギンも、ギャングのオズワルド・“オズ”・コブルポットコリン・ファレル)として登場。

新米バットマンブルース・ウェイン同様、どのキャラクターもまだキャットウーマンリドラー・ペンギンとして完成する前の姿で登場するんですね。

例えばバットマンのスーツやマスク、ブーツ、バットモービルやバイクなどのガジェットも、これまでと比べるとまだ手作り感があるというか、既製品を改造したような素人っぽさが残る仕上がりに。キャットウーマンもマスクではなくニットの目出し帽ですしね。

その一方で、リドラーの出す謎を瞬時に解く頭脳や、敵を叩きのめす動きのキレなどは、原作の「世界最高の探偵」というバットマンの初期設定に寄せている感じでした。

つまり本作は、バットマンバットマンになるまでを描いた、いわばバットマンのコスプレをした若きブルース・ウェインの物語なのです。

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その辺は、 ホアキン・フェニックスの「ジョーカー」にも近い感じで、「ジョーカー」がジョーカーというキャラクターを使って「タクシードライバー」的な犯罪映画を作ったように、本作は若きバットマンを探偵役にしたサスペンス・ミステリー映画なんですね。

リフォームの匠マット・リーヴスの面目躍如

そんな本作を監督したのは、「クローバーフィールド/HAKAISHA」の監督で世に知られ、スウェーデン映画「ぼくのエリ 200歳の少女」をアメリカ映画にリブートした「モールス」や「猿の惑星」のリブート版第2弾「猿の惑星: 新世紀 」、第3弾「猿の惑星: 聖戦記」を監督したマット・リーヴス

元作品の本質は外さず、それでいてよりスマートに描く手腕はまさにリフォームの匠といった感じで、本作も単純にサスペンス・ミステリーとして面白くストーリーテリングしながら、バットマン/ブルースウェインの本質に迫り、格差や分断、負の遺産といった現代社会に横たわる問題にも鋭く迫っているんですね。

正直、本作のメインヴィランに据えるにはリドラーはちょっと弱いのでは?と観る前は思ったけれど、頭脳と情報を駆使しながら己の正義を実行する本作のリドラーと、両親を殺した「悪という概念」に復讐するためバットマンになったブルースを鏡像関係として描くことで、正義とは何かという普遍的な問いに答えを出し、バットマンが真のヒーローになるまでを描くマット・リーヴスの手腕は見事だなーと感心しましたねー。

まぁ、その一方でテーマ的に「ダークナイト」と被るのでどうしても比べられてしまうと思うんですが、それも監督は折り込み済みなんじゃないかと思うんですよね。

そう考えると、今回のロバート・パティンソンバットマンが仮面を取った時の目の周りのメイクは、ヒース・レジャー版のジョーカーに意識的に寄せてるのかなと思ったりしました。(考え過ぎ?)

自警活動に熱中し過ぎて、仕事もしないで昼は自宅に引きこもっているブルース・ウェインを見守るアルフレッド役はこれまでお爺ちゃん俳優が演じていたけど、本作ではバットマンの年齢に合わせてまだ50代のアンディ・サーキスが演じて、頼もしさもアップ。何と言っても彼は「猿の惑星」三部作のシーザーですしね!

バットマンユニバース?

そんな本作で登場したキャットウーマンとペンギンの前日単スピンオフがHBO Maxでドラマ化され、ロバート・パティンソン版で2つの続編が計画されるなど、現在進行中のDCEUとは別に、「ザ・バットマンユニバース」が展開される予定らしいので、今後の展開も気になるところですし、ここからリスタートする作品でもあるので、これまでバットマンを観たことがない人でも楽しめるのではないかと思います。

興味のある方は是非!!

 

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原作とはかなり違うけれど「いとみち」(2021)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、越谷オサムの同名人気小説を実写映画化。
青森出身の横浜聡子監督、 駒井蓮主演で製作した『いとみち』ですよー!

個人的に原作のファンだったので、今回Amazonレンタルで観てみました!

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概要

映画化もされた「陽だまりの彼女」などで知られる作家・越谷オサムの小説を原作にした青春ドラマ。強い津軽なまりと人見知りに悩む青森の女子高生が、メイドカフェでアルバイトを始めたことをきっかけに成長していく。監督・脚本は『俳優 亀岡拓次』などの横浜聡子津軽三味線が得意な主人公を『名前』などの駒井蓮、彼女の父を『後妻業の女』などの豊川悦司メイドカフェの先輩を『美人が婚活してみたら』などの黒川芽以が演じるほか、横田真悠、中島歩、お笑いタレントの古坂大魔王らが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

原作と映画

本作「いとみち」の原作は越谷オサムの同名人気小説。
訛りが強く人見知りな少女・相馬いとが人見知りの克服とメイド服への憧れから、青森市内の「津軽メイド珈琲店」でアルバイトを始め、次第に成長していく様子を描いた青春コメディーです。

本作では相馬いと役を青森出身の駒井蓮が演じ、いとの三味線の師匠でもある祖母ハツヱ役を、津軽三味線高橋竹山最初の弟子でもある西川洋子、東京出身の父・耕一豊川悦司が演じています。

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他にも青森出身の古坂大魔王や青森のアイドルグループ・リンゴ娘のジョナゴールドなど、青森出身のキャストが多いのも本作の特徴。

なので、本作で話される津軽弁。特にいととお祖母ちゃんの会話などはネイティブ津軽弁であり、そういう意味でインチキ方言みたいな違和感は感じませんでした。

そんな本作の物語は基本、3冊ある原作シリーズの1巻目からエピソードを抜き出す形で描かれていますが、例えば原作ではお祖母ちゃんとお父さんが実の親子だったのに対し、本作ではお父さんは娘婿という形に。
また原作では145㎝と小柄ないとを演じるのが身長168㎝の駒井蓮が、いかにもやくざ者っぽい厳つく大柄で太っているメイド喫茶のオーナー成田を古坂大魔王が演じるなど、原作ファン的には登場人物のキャラクター像に違和感を感じると思うんですよね。

物語的にもいとと、メイド長の葛西幸子黒川芽以)や漫画家志望の先輩メイド福士智美(横田真悠)、お客さん、親友・早苗ジョナゴールド)との関係性を描く描写が大幅にカットされているので、ストーリー展開やキャラクターの言動が総集編みたいでかなり唐突に感じてしまいました。

もしかしたら横浜聡子監督は『キャラクター』を描くのが苦手なのかも。

あ、でもお祖母ちゃんといとの会話を津軽弁そのままに、変に分かりやすく(例えば字幕とかね)しなかったのは英断だったと思いましたよ。

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ただ、原作ではいとのお祖母ちゃんがヘビメタ好きで、三味線でヘビメタ曲を弾いてそれがYouTubeにアップされて世界的ヘビメタバンドとセッションする――みたいな、マンガ・アニメ的な設定や表現も多く巻数も多いので、そのまま実写化は難しいことは重々理解できるし、個人的には原作通りでなくとも「いとみち」という物語の核心の部分を押さえていればOKで、少なくとも本作ではその部分はクリアしていたんじゃないかなと思いましたねー。

ライブシーンをクライマックスに

本作の一番の特徴は、主人公いとが津軽三味線の奏者だということ。
そして、オーナーが詐欺で逮捕され苦境に陥った店を救うため、引っ込み思案だったいとが店で三味線のライブを行うというのが1巻のクライマックスだったんですが、本作もその原作の流れを汲んで、いとの三味線ライブがクライマックスになっています。

ライブシーンがクライマックスになる映画は、古今東西数多有りますが、本作は物語の性質上、このクライマックスのライブシーンにどれだけ説得力を持たせられるかに、成否がかかっているんですよね。

その描き方には、例えば、主演の駒井蓮がエアで弾いてそれにプロの音を乗せる。

最初の一音を鳴らす瞬間でカットを切ってライブ終わりにジャンプする。

ライブが始まった瞬間に消音してそれっぽいナレーションを乗せる。(堤方式)

などなど、やり方はいくらもありますが、本作で横浜監督が選んだのは、主演の駒井蓮が実際に三味線を弾いて見せるというもの。

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結論から言えば、このやり方は見事成功したわけですが、だからと言って駒井さんの津軽三味線がプロ級に上手いというわけではないんですよね。

まず、映画序盤の祖母との会話の中で、写真で自分が三味線を弾いている姿を見たいとがショックを受け、それ以来三味線から離れていたという前振りがあり、中盤ではいら立った状態で弾いて三味線の皮を破いてしまい、後半、バイト代で三味線を修理し祖母と三味線を弾くという、いとの心情や状況と三味線を物語の中でリンクさせる描写を積み重ねてのクライマックスなので、技量は問題ではなく、店での三味線ライブがいとの成長のあかしであり、演奏が心理的な開放を表す描写になっているし、観客もそれを受け取っているからライブシーンに説得力とカタルシスを感じるわけですね。

その辺の横浜監督の丁寧な演出は見事だなーと感心しました。

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いとと父親の山登りのラストシーンを蛇足と思う人もいるかもだけど、個人的に物語の〆としてあのカットを入れたのは正解だと思ったし、確かに原作とは別物だけど「いとみち」ではあると思いましたよ。

興味のある方は是非!!

 

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前2作と比べると地味「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」(2021)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、人気ホラー「死霊館」シリーズ第3作であり、番外シリーズを含む「死霊館ユニバース」第8作目となる『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』ですよー!

Amazonレンタルで見つけたので、早速観てみました。

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概要

著名な心霊研究家のエド、ロレイン・ウォーレン夫妻の実体験をベースにしたホラー『死霊館』シリーズの第3弾。殺人を犯しながらも悪魔の仕業だと無罪を主張する青年を救うため、ウォーレン夫妻が真相解明に挑む。『ラ・ヨローナ ~泣く女~』などのマイケル・チャベスが監督を務め、同シリーズの生みの親であるジェームズ・ワンが製作に名を連ねる。ウォーレン夫妻役でパトリック・ウィルソンヴェラ・ファーミガが続投するほか、ルアイリ・オコナー、サラ・キャサリン・フック、ジュリアン・ヒリアードらが出演。(シネマトゥディより引用)

感想

監督交代

本作は、実在の心霊研究家エドとロレインのウォーレン夫妻が主役の「死霊館」本編シリーズと、「死霊館」に登場した呪いの人形アナベル、ウォーレン夫妻の宿敵である悪魔のシスターヴァラクを描いた番外編のシリーズがあり、本編である「死霊館」シリーズを「ソウ」シリーズなどのジェームズ・ワンが、番外編はワンが選んだ監督がそれぞれメガホンを取ってきたんですね。

死霊館」シリーズはウォーレン夫妻が実際に関わった事件を元に劇映画にしているのが特徴で、1作目はロードアイランド州ハリスヴィルの一軒家に引っ越したペロン一家が様々な怪現象に悩まされた「ペロン一家事件」を。

続く「~エンフィールド事件」ではイギリス・ロンドンの北部エンフィールドで暮らすホジソン家の母親と4人の子供たちが2年にも及んだ最長のポルターガイスト現象に悩まされた事件を元ネタに。

そして本作では、アルネ・シャイアン・ジョンソンが家主のアラン・ボノを殺害した「悪魔が私に殺させた事件」を映画化。
前2作の監督ジェームズ・ワンは「マリグナント 狂暴な悪夢」を監督するため、本作は「死霊館ユニバース」7作目「ラ・ヨローナ〜泣く女〜」で監督を務めたマイケル・チャベスがメガホンを取っているんですね。

「悪魔が私に殺させた事件」とは

1981年、コネチカット州ブルックフィールドで、アルネ・シャイアン・ジョンソンが家主のアラン・ボノを殺害した事件です。

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それ自体は(ショッキングではあっても)さして珍しい事件ではなかったんですが、その前に犯人アルネの恋人デビーの弟で11歳のデビッドが悪魔のとり憑かれ、ウォーレン夫妻とカトリックの司祭が悪魔祓いを行っていて、その手伝いに来ていたアルネがデビッドの中の悪魔に向かって「デビッドから離れて俺に憑け!」と言ったことで、悪魔がアルネに乗り移った事が殺害の原因だと、彼の弁護士が裁判で主張しようとしたことで事件が一気に有名になったんですね。(アルネ本人は悪魔云々とは一切言ってないらしい)

ところが、実際には裁判が始まる前「『悪魔のせい』とか一切認めないから」と裁判官に弁護士が釘を刺されたことで、アルネの悪魔憑きは俎上に上ることはなく、なのでウォーレン夫妻も裁判には一切関わっていないのです。

ちなみにアルネは10年~20年の実刑判決を受けたものの、模範囚だったので5年で刑期を終えて出所後デビーと結婚、子供にも恵まれ今は幸せに暮らしているそうですよ。

ざっくりストーリー紹介

そんな本作のストーリーは、ウォーレン夫妻とカトリック司祭によるグラツェル家での悪魔祓いからスタート。

悪魔に憑かれているのはグラツェル家の息子デビッドで、数日間に渡った悪魔祓いの終盤、最後の抵抗を見せる悪魔に、デビッドの姉の彼氏で悪魔祓いの手伝いに来ていたアルネが「デビッドではなく自分に憑け!」と悪魔を挑発。
止めようとしたエド・ウォーレンは悪魔によって心筋梗塞にされ。悪魔はアルネに乗り移ったのです。

その数か月後、アルネが家主を殺したという知らせがウォーレン夫妻の元に届き、二人はアルネが悪魔憑きだったという証拠を探すための調査に乗り出す。

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というストーリー。

調査の中で二人は、自宅、デビッドとアルネのアパートから共通の呪物を見つけ、一連の事件が繋がっていることに気づくわけです。

っていうかビックリしたのは、予告編でも流れた悪魔祓いのシーンがめっちゃ序盤で終わってしまったこと。

基本、このシリーズは悪魔研究家のエドと霊能者のロレインが事件を調査、事件の真相に迫るという心霊版X-ファイル的なシリーズで、二人が調査の末に被害者を悩ませる悪魔の正体を暴く→悪魔祓いが前2作のクライマックスでしたからね。

あと、本作では物語に絡めてウォーレン夫妻の馴れ初めも語られるなど、全体的に二人の愛を描いたラブストーリーになっているんですね。

ジェームズ・ワンとマイケル・チャベスの違い

では前2作と比べ本作は面白かったかというと、正直、地味だなーと。

というのも、前2作を手掛けたジェームズ・ワンは、一言で言うとケレンの人で、突然の大きな音や映像の変化で観客を驚かせる”ジャンプスケア”など、観客の観たいものを全部見せた上で、さらに観客を驚かせる仕掛けを足していくという、サービス精神満点の作品作りが魅力の監督。

一方、本作の監督マイケル・チャベスはビリー・アイリッシュのMV「bury a friend」なども手掛け、非凡な映像センスの監督だしどの作品もそつがないんだけど、その分飛びぬけた個性も特徴(クセ)もないとうか。

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まぁ、ジェームズ・ワンと比べるのも気の毒ではあるけど、前2作を見た(僕も含めた)ファンは、このシリーズのアイデア・映像にケレンを期待しているので、そういう意味で本作は普通だったし、ワン作品と比べるとどうしても地味に見えちゃうんですよね。

今後の「死霊館

ジェームズ・ワンという人は、「ソウ」シリーズや「インシディアス」シリーズなど、まず自分で監督した作品がヒットすると、自身はプロデューサーに回ってシリーズ作品の監督を自身が見つけた若手に任せていくスタイル。

本シリーズも本編の「死霊館」2作は自身で監督したものの、番外編となるアナベル悪魔のシスターシリーズは他の監督に任せていました。

そして、今回「マリグナント 狂暴な悪夢」を手掛け、「アクアマン」の続編も監督する関係上、この「死霊館」本編シリーズも今後若手監督に任せていくのかなと。

個人的に「死霊館」のウォーレン夫妻が大好きなのでワン監督で観たいけど、でも彼の他の作品も観たいですしね。

それに、「死霊館」シリーズを監督することで無名の若手監督が世に出るチャンスにもなるので、このワン監督のスタイルは応援していきたいところです。

なので今後、本シリーズが他の監督に変わっても追いかけていこうかなとは思いますよ。

興味のある方は是非!!

 

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ゼロカロリーのアドベンチャー映画「アンチャーテッド」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、つい先日公開「スパイダーマン:ノーウェイホーム」でMCU版のスパイダーマン3部作の主演に一区切りをつけた、みんな大好きトム・ホランドが主演、同名の人気アドベンチャーゲームを実写映画化した『アンチャーテッド』ですよー!

アニメやジャンル映画でも、劇中に社会的問題を取り込む脳の使用カロリーが高い作品が多い昨今、本作は頭を空っぽにして楽しめる、まさにゼロカロリーのアトラクション映画でしたねー。(誉め言葉

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概要

ゲームシリーズ「アンチャーテッド」を原作にしたアクションアドベンチャー。トレジャーハンターからスカウトされた青年が、50億ドル相当の財宝を探し求める。メガホンを取るのは『ゾンビランド』シリーズなどのルーベン・フライシャー。『スパイダーマン』シリーズなどのトム・ホランド、『マイル22』などのマーク・ウォールバーグ、『ペイン・アンド・グローリー』などのアントニオ・バンデラスのほか、ソフィア・アリ、タティ・ガブリエルらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

”世界の甥っ子”トムホが演じる人気ゲームの前日単

本作は、ソニー・インタラクティブエンタテインメントから発売されている同名人気アクションアドベンチャーゲームの前日単を描いた映画で、隠された財宝を求めて世界中を飛び回るという「インディー・ジョーンズ」や「ハムナプトラ」の系譜に連なるトレジャーハントもの。

主人公ネイサン・ドレイクを演じるのは、つい先月「スパイダーマン:ノーウェイホーム」が公開されたばかり、”世界の甥っ子“こと、みんな大好きトム・ホランドです。

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物語を一言で説明すると、天涯孤独のトムホが悪いマーク・ウォールバーグおじさんに唆されてお宝さがしの旅に出る。といういたって単純明快なストーリー。
で、同じくお宝を狙う悪の軍団との争奪戦になるという今まで人生で100万回くらい観てきたヤツ

なんですが、やはり現代劇として制作するには、ややリアリティーにかける題材でもあるトレジャーハントものを、ある種アトラクション化。「ワイルドスピード」的な物理法則どこ行ったアクションを矢継ぎ早に繰り出すことで、観客に深く考えるスキを与えないという、この手の映画としては正しい見せ方で2時間弱の時間を楽しませてくれるのです。

職人監督ルーベン・フライシャー

そんな本作を監督するのは「ゾンビランド」や「ヴェノム 」など、決して100点は取らないけど常時50~60点くらいは叩き出す職人監督ルーベン・フライシャー
特に作品に思想信条を入れることなく、手掛けるジャンル映画の古典的なあるあるを特にアップデートすることなくそのまま見せてくれる。
飲食店で言えば吉野家ココイチ的な「どこの店舗に入っても、いつものアレが食べられる安心のお店」という感じでしょうか。

猫も杓子も劇中に何かしら社会的問題を取り込むのがトレンド化している昨今。
もちろんそういう作品全てがダメとか嫌いというわけじゃないけど、たまには何も考えずに牛丼並盛つゆだくを搔っ込みたい時だってあるわけで、このルーベン・フライシャーのようにいつもの味をいつも通り出してくれる”俺たちの映画監督“という感じなのです。

トムホの魅力詰め合わせ映画

本作はゲームの前日単?らしく、主人公ネイサン(トムホ)は生き別れの兄の行方を知っていると近づいてきたビクター・“サリー”・サリバンマーク・ウォールバーグ)にスカウトされて行動を共にするんですが、いわばこのサリーという男はネイサンの相棒であると同時にメンター的存在でもあって、共に行動しながらネイサンはトレジャーハンターや裏社会のルールを知っていく=ネイサンを通して観客に物語世界のルールを提示していくという、中々上手い構成になってるんですね。

そしてトレジャーハントものらしく謎解きのシークエンスもあるんですが、これも基本的には観ながら考えるタイプの謎解きではなく、謎解きもお宝の行方も、物語を進めるための燃料に過ぎません。

そんな本作の見どころといえば、我らがトムホが常人離れした身体能力で見せるスーパーアクションの数々。

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映画冒頭と中盤に繰り広げられる、空中で目を覚ましたトムホが飛行機から落ちてくる荷物を伝って飛行機の貨物室に戻ろうとするアクションシークエンスは「ワイスピ」の車でスカイダイビングしたり、大きな金庫を車で引っ張りまわしたり、果ては潜水艦や戦車とスポーツカーで戦うという、あのトンデモアクションを見ているときの感覚に近いというか。物理法則無視のスーパーアクションに「そんなアホな」と思いつつ、観ていて興奮してしまうんですよね。

あとはまぁ、歴史トリビアをドヤ顔で語るトムホや、本作では峰不二子的立ち位置のヒロイン、クロエ・フレイザー(ソフィア・アリ)を好きになるトムホ、胡散臭いマーク・ウォールバーグにナメられまいとイキって見せるトムホや、でも結局マーク・ウォールバーグにいい様に丸め込まれるトムホなどなど、色んなトムホをの魅力を詰め合わせた、トムホ好きにはたまらないトムホ特盛映画になっていましたよ。

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ポストクレジットではしっかり次への布石も用意されていて、続編作る気満々といった感じだったので、本作が当たれば、ネイサンはピーター・パーカーに続くトムホの当たり役になるかもしれませんね。

興味のある方は是非!!

 

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作品の背景込みでグッとくる「ゴーストバスターズ/アフターライフ」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』ですよー!

1984年・1989年公開でオリジナル版を監督したアイヴァン・ライトマンの息子、ジェイソン・ライトマンがメガホンを取ったシリーズ正当続編です。

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概要

幽霊退治に乗り出した科学者たちの活躍を描くSFコメディー『ゴーストバスターズ』シリーズの第3弾。祖父が遺(のこ)した田舎の家で新生活を始めた兄妹に待ち受ける運命を描く。『gifted/ギフテッド』などのマッケナ・グレイス、ドラマシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」などのフィン・ウォルフハード、『アントマン』シリーズなどのポール・ラッドらが出演。前2作を手掛けたアイヴァン・ライトマン監督の息子で『マイレージ、マイライフ』などのジェイソン・ライトマンがメガホンを取った。(シネマトゥディより引用)

感想

ゴーストバスターズ」とは

1984年のオリジナル版は、出演もしているダン・エイクロイドとハロルド・ライミスが脚本を務め、アイヴァン・ライトマンがメガホンを取ったSFコメディ映画です。

元々はアメリカの長寿コメディー番組「サタディ・ナイト・ライブ」出身のコメディー俳優で脚本家でもあるダン・エイクロイドが、番組の企画としてスタートして人気を博し、1980年に映画化された「ブルース・ブラザーズ」を経て、科学者がオバケ退治をする物語を発案。

ピーター・ヴェンクマン博士役に、「ブルース・ブラザース」で共演・盟友でもあったジョン・ベルーシを当て書きしていたんですが、その最中、ベルーシはコカイン中毒で急死。

同役に、同じく「サタディ・ナイト・ライブ」出身のビル・マーレイ、監督に「ミートボール」や「パラダイス・アーミー」でマーレイとタッグを組んだアイヴァン・ライトマンを起用。
自身は主役3博士の一人レイモンド・スタンツ博士役として出演する一方、本作の脚本を「サタディ・ナイト・ライブ」出身のハロルド・レイミスと共作。

ゴーストバスターズの“頭脳”でもあるイゴン・スペングラー役もコメディ俳優を中心に多くの俳優に打診するも結局は物語を熟知しているハロルド・レイミスが演じる事になったんですね。

さらに、ヒロインのディナ・バレット役に「エイリアン」のシガ二―・ウィーバールイス・タリー役には「セカンド・シティ」→「サタディ・ナイト・ライブ」出身のリック・モラニゴーストバスターズ社の受付嬢ジャニーン・メルニッツ役にアニー・ポッツがそれぞれ配されました。

つまり、本作の主要キャスト3人はコメディー番組「サタディ・ナイト・ライブ」出身であり、もっと言えばシカゴのコメディ劇団「セカンド・シティ」出身の仲間でもあるのです。

アメリカではこの「セカンド・シティ」→「サタディ・ナイト・ライブ」出身のコメディアンがドラマや映画に出演する事はよくあって、人手不足で3博士に雇われるウィンストン・ゼドモア役も最初はエディ・マーフィで構想されてたんですが、彼は同年公開の出世作ビバリーヒルズ・コップ」出演のためアーニー・ハドソンが演じることになったんですね。

ちなみに、2016年公開で主人公を女性に変えたリブート版に出演した、クリスティン・ウィグ、ケイト・マッキノンレスリー・ジョーンズ、セシリー・ストロングなども「サタディ~」出身だったりします。

こうした布陣で1984年に公開された「ゴーストバスターズ」は、オカルトと科学を融合させ、レーザービームを発射するプロトンパックや、電子エネルギーでゴーストを捕らえるゴーストトラップゴーストバスターズ社のシンボルでもある専用車ECTO-1などのガジェットや、当時最先端のSFXで描かれた個性豊かなゴースト、ビル・マーレイダン・エイクロイドハロルド・レイミスの半分はアドリブという掛け合いが、当時の好景気が生み出す、ある種の呑気な空気感と噛み合って映画は大ヒット。

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80年代を代表するカルチャーの一つになったのです。

ゴーストバスターズ2」不評&続編製作難航

これを受けて1989年に「ゴーストバスターズ2」が製作・公開されますが、「前作の繰り返し」と評価は散々。また1984年とは時代の空気が変わってしまった事も本作が当たらなかった要因の一つなのだと思われます。

その後「ゴーストバスターズ」の企画が生まれては立ち消えを繰り返しますが、1993年公開の「恋はデジャ・ブ 」で、主演のビル・マーレイと監督を務めたライミスがケンカ別れをしたことで続編は難しくなった2014年、ライミスは病気のため69歳で亡くなってしまうんですね。

ちなみに、このライミスが亡くなる直前、ビル・マーレイが彼の自宅を訪ねて二人は和解したそうですよ。

そんな2016年、メインキャストを女性に変えたリブート版が製作・公開されます。

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このリブート版は、単純に映画としてならオリジナル版よりよく出来てたと思うし、時代的にもメインキャストを女性に変えることに意味があったと思いますが、これが子供時代にゴーストバスターズの洗礼を受けた全米思い出ミソジニーおじさんの逆鱗に触れ、何故か出演する女性キャストがSNS上で叩かれるという事態になってしまったんですね。

確かに、このリブート版に出演したオリジナルキャストの扱いのひどさに対しては、僕も思う所がありますが、それはあくまで監督や脚本など制作陣の問題であって、出演者の女性を叩く風潮は如何なものかと思うんですよね。
「SW・episode8」でも、ローズ役のケリー・マリー・トランが叩かれたりしましたが、彼女たちに罪がある訳ではないですからね。
ほんと、そういうトンチンカン思い出ミソジニーおじさんは滅亡すればいいのにね

ともあれ、そんなこんなでもはや続編の制作は絶望的かと思われたんですが、オリジナル版のアイヴァン・ライトマン監督の息子で映画監督のジェイソン・ライトマンがメガホンを取り、イゴン・スペングラー博士の孫がゴーストを退治するというストーリーの正当続編が、全米では昨年、日本では2022年の今年公開されたのです。

 

というわけで、ここからはネタバレありで語っていきますので、まだ本作を観てなくてこれから観る予定の方は、先に映画を観てからこの先を読んで下さいね。
いいですね?注意しましたよ?

 

 

 

 

 

 

ゴーストバスターズ/アフターライフ」へ

そんな本作のストーリーをざっくり説明すると、突如家族を捨て、仲間を裏切ってNYからオクラホマ州サマーヴィルの荒れ果てた農家に引っ越して破壊神「ゴーザ」の復活を阻止しようとしていたイゴン・スペングラー博士がある日“心臓発作“で亡くなってしまいます。

一方、彼の娘キャリー(キャリー・クーン)、その息子トレヴァー(ィン・ウルフハード)、娘のフィービー(マッケナ・グレイス)は、生活に困窮し、スペングラー博士のボロ家に引っ越すことに。

サマーヴィルでは長年、原因不明の地震が続いていて、科学オタクのフィービーは、友達のポッドキャスト(ローガン・キム)、トレヴァー、トレヴァーが片思いするラッキーセレステ・オコナー)と共に、その謎に迫っていくという物語で、その過程で、引っ越しの前は周囲と中々馴染めなかった変人のフィービーが、自身のルーツを知ってセカイを受け入れるというジュブナイル物語でもあるんですね。

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また、フィービーがYouTubeで見た今はなきゴーストバスター社に連絡。
クライマックスで、窮地に陥った彼女らの下に、レイモンド・スタンツ、ピーター・ヴェンクマン、ウィンストン・ゼドモアの3人が駆けつけ、スペングラー博士のゴーストも協力してゴーザオリヴィア・ワイルド)を再び封印。

そして仲間や娘キャリーとの誤解やわだかまりの解けたスペングラー博士は成仏し――という、普通にいい話。

なんですが。

ゴーストバスターズ」の続編に関しては、父親のアイヴァン・ライトマンから何度も監督を打診されたものの断り続けたジェイソン・ライトマンでしたが、ある日、広大な田舎の牧場でゴーズトバスターズのツナギを着てプロトンパックを背負うフィービーのイメージが浮かんで父親に続編の制作を告げたという背景があり、またジェイソンの書いた脚本を読んだアイヴァン・ライトマンが涙したという逸話もあり。

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劇中で描かれるスペングラー博士と仲間たちとの決別も、現実にハロルド・レイミスと他のメンバーが疎遠になっていた事実を踏まえて本作を観ると、なんかもう、特にクライマックスでゴーストバスターズオリジナルメンバーが横並びでゴーザを封印するシーンハロルド・レイミスは別役者の顔にCGで彼の顔を加工している)はもう、号泣ですよね。

まぁ、亡くなった役者をCGで復活させるのはアリかナシか問題はありますが、最晩年のレイミスがビルマー・レイと和解していたことや、ジェイソン・ライトマンが遺族の許可を取った上で行っていること、オリジナルメンバーの和解を物語の中でファンに見せたと考えれば、今回はアリってことでいいんじゃないかなと。

あと、髪を染めてパーマもかけ、背丈も大きくなってたので最初は気づかなかったんですが、フィービー役を演じたのは、天才子役のマッケナ・グレイスちゃんだったんですね。

元々可愛い女の子ですが、テンパ、メガネっ子、リケジョっていう、アニメキャラみたいな役をしっかり地に足をつけて演じてましたねー。
ポッドキャスト役を演じたローガン・キム君とのコンビバランスもバッチリだったと思います。

まぁ、フィービーのお母さんとサマースクールのゲイリー・グルーバーソン先生ポール・ラッド)が門の神、鍵の神以上の役割がなかったり、いくら田舎とはいえ、今どきあんなダイナーはもうないだろうだったり、ポストクレジットのビル・マーレイシガニー・ウィーバーのコントは明らかな蛇足だし、それで言えばオリジナル版のカットシーンを使ったジャニーンとスペングラー博士のロマンスも、アバンのシーンも正直余計だし、物語のテンポや余韻を崩しちゃってると思いましたねー。

なんだろう? あれはアイヴァン・ライトマンの希望だったのかな?

アイヴァン・ライトマンと言えば、本作の撮影中はずっと現場に来て(製作だしね)ジェイソン監督が迷惑がってたということですが、本作の完成後の2022年2月12日に亡くなってしまったそうで、ジェイソン監督としては最後に親孝行が出来て良かったと思うし、アイヴァン監督も最後に心残りが解消されて良かったんじゃないかと思ったりしました。

ご冥福をお祈りします。

興味のある方は是非!!

 

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スピルバーグの魔法「ウエスト・サイド・ストーリー」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは1957年にブロードウェイで上演された同名のミュージカルを映画化。1961年に公開しアカデミー11部門中10部門を受賞した「ウエスト・サイド物語」を、巨匠スティーブン・スピルバーグがリブートした『エスト・サイド・ストーリー』ですよー!

最初にリブートの話を知った時は正直「何で今さらウエスト・サイド物語を?」「しかもスピルバーグが??」って思ったけど、実際に観たら、確かに今、作るべき物語になっていました。
やっぱすげぇやスピルバーグ

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概要

1961年に映画化もされたブロードウェイミュージカルを、スティーヴン・スピルバーグ監督が映画化。1950年代のアメリカ・ニューヨークを舞台に、移民系の二つのグループが抗争を繰り広げる中で芽生える恋を描く。脚本と振付は、共にトニー賞受賞歴のあるトニー・クシュナージャスティン・ペックが担当。主人公を『ベイビー・ドライバー』などのアンセル・エルゴート、ヒロインをオーディションで選出されたレイチェル・ゼグラーが演じるほか、1961年版でオスカーを受賞したリタ・モレノらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

ウエスト・サイド物語」とは

1961年公開の映画「ウエスト・サイド物語」は、ポーランド系白人の少年たちで構成される「ジェット団」とプエルトリコ系移民で構成される「シャーク団」の抗争と、それぞれのグループに属していたトニーとマリアの恋愛を、シェークスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」をベースに描いたミュージカル映画で、元々は1957年にブロードウェイで上演された同名舞台を、舞台版も手掛けたジェローム・ロビンズロバート・ワイズの共同監督で映画化されたんですね。

この作品はアカデミー賞では作品賞をはじめ、ノミネートされた11部門中10部門を受賞という快挙を果たしますが、一体何を評価されたのかというと、

・それまでなかった「若者」の物語であること。
・それまで映画では描かれてこなかったポーランド系白人やヒスパニック系移民を描いたこと。
・当時流行したマンボやサルサなどのラテン音楽を取り入れたこと。

の三点。

それまでは中学校を卒業した少年少女はすぐに働きに出て大人の仲間入りをし、10代のうちに親になるというのが当たり前。つまりいわゆる青春時代はなかったわけですが、第二次世界大戦後。大人でもなく子供でもなく、社会にも居場所のない「若者」たちが登場。そんな彼らが不良化して社会に反抗するというムーブメントが世界中で起こるんですね。

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ウエスト・サイド物語」はそんな若者たち。特に貧困層の若者たちを主役に描いた物語だったのです。

アメリカでは白人同士でも差別があって、要は先に入植した白人が後から入植してきた白人を今も差別している。
で、ポーランド系白人は後から入植しているので他の白人たちから差別される貧困層ゆえに、満足な教育を受けることが出来ず、当然働き口もなくゆえに不良化していく。
そんな彼らが警察所で歌う曲が「Gee, Officer Krupke(クラプキ巡査どの)」で、社会にたらい回しにされる彼らの状況をコメディチックに歌い踊るんですね。

さらにアメリカには多くのヒスパニック系移民もいるけれど、映画に登場する白人は全部”白人”と一括りにされ、他に登場するのは黒人・ネイティブアメリカンくらい。

つまり、エンターテイメントの世界で今までいない者として無視されてきた、ホワイト・トラッシュ(貧乏白人)やヒスパニック系移民を主役に据えたところを本作は評価されたわけですね。

また、それまで、わざわざ色を黒くするファンデを塗ってまで白人が有色人種役を演じてきた映画界で、初めてプエルトリコ出身のリタ・モレノが準主役級の役柄を演じ、アカデミー賞助演女優賞を受賞したのも、当時としては画期的なことだそうですよ。(トニー役はギリシャ系のリチャード・ベイマー・マリア役はロシア系のナタリー・ウッドが演じていた)

とはいえ、この映画では人種間の分断や差別はあくまで登場人物の背景であり、問題意識は若者の不良化や反抗の方に向けられていたらしいんですね。

僕はこの「ウエスト・サイド物語」は、多分テレビの洋画劇場で観たと思うんですが、子供過ぎて内容はほとんど覚えてないし、それこそタモリさんや多くの人がミュージカルを批判するときにこの映画をやり玉に挙げてきたように、僕にとってもミュージカルが苦手になるキッカケになった作品なんですよね。なぜなら悲劇だから。

当時の僕にはまだ、ミュージカルのリテラシーがなくて、ミュージカル=楽しいものと思ってたのにこの映画はめっちゃ悲劇だし、悲しい時に歌ったりするのが凄く違和感だったんですよね。

なので、このオリジナル版を僕は子供の頃に一度観たっきりで、それから数十年ずっと観てなかったんですよね。

「ウエスト・サイド・ストーリー」へ

で、本作ですよ。

正直、観ようかどうしようかかなり迷ったけど、でもスピルバーグが監督ですしね。

あのスピルバーグが、なぜ今になって「ウエスト・サイド物語」をリブートしようと思ったのか、どんな風に撮ったのか凄く気になるじゃないですか。
で、劇場に観に行って「あーなるほどそういう事か」とめっちゃ腑に落ちましたよ。

基本的に大筋はほぼ一緒なんですが、前作では不良少年の抗争に重きを置いて描いていたのを、スピルバーグは、都市の再開発と高級化(ジェントリフィケーション)によって共に居場所を奪われようとしている被差別民の彼らが、分断・抗争することで起こった悲劇を描いているわけです。

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それはまさに、今、世界中に起こっている問題でもあり、スピルバーグずっと差別と分断を描いてきた作家ですからね。

その描き方も見事で、序盤から中盤にかけて故郷を恋しがる男たちに対し、シャークスのリーダー・ベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)の恋人アニタ(アリアナ・デボーズ)ら女性陣は、故郷には仕事もお金もないがアメリカには夢があるというアメリカに肯定的なスタンスなんですが、色々あった物語後半、ジェットツ・シャークスの中立地帯とも言えるヴァレンティナ(リタ・モレノ)の店でジェット団にレイプされそうになったアニタが「好きでアメリカにいると思うか。私はプエルトリカンだ!」と押さえていた本心が爆発するシーンは、観ていて本当に辛かったですね。

この男社会の中で生きる女性たちの生き方や心情をしっかり入れ込むところも、ちゃんと今の映画になってるし、その辺はトニー・クシュナーの脚本の素晴らしさだと思いました。

一方で、ジェットツに入りたがっているエニー・ボディズというトランスジェンダーのキャラクターを、本作ではその役をトランスジェンダーの俳優アイリス・メナスが演じていて、劇中ではその辺あまり言及されてないし物語にもあまり絡んでいないので、例によってポリコレ要員かと思ったら、エニー・ボディズというキャラクターは60年以上前のオリジナル版(多分舞台版から)にも登場していて、「ウエスト・サイド物語」という作品の先進性に驚きました。

映像作家スピルバーグの真骨頂

映画監督は大まかに、ストーリーテラーか映像作家に分かれると思うんですが、スティーブン・スピルバーグという人は生粋の映像作家
映像でストーリーを語る事においては、現状まさに世界一の監督なんですよね。

もちろんそれは監督の考えを実現できる撮影監督いてこそで、それがスピルバーグにとっては盟友ヤヌス・カミンスキーなんですが、本作でも二人のチームワークは抜群。

冒頭、カメラは瓦礫の山の上を滑るように進み、都市再開発の看板と鉄柵を乗り越えたと思ったら、今度は地面スレスレを進み、そして地面の鉄扉が突如開いて若者がペンキを持って出てくる。

その若者はジェッツで、リーダーのリフ(マイク・ファイスト)の口笛と指パッチンに合わせて次々仲間が集まってくる。
そして、通りに出ると彼らはキレッキレのダンスを踊るわけです。

で、確かその後、壁に描かれたプエルトリコの国旗に持ってきたペンキをぶっかけ、駆けつけたシャークスとひと悶着あって警察が駆けつけるところまで、ワンカットではないけどかなりの長回しで見せていきます。

オリジナル版ではNYマンハッタンの空撮からスタートして徐々にウエストサイド地区の運動場に寄っていくんですが、本作はジェッツの若者の目線でカメラが移動するんですね。

また冒頭の瓦礫の中には、あの名曲「tonight」のシーンの鉄階段があって、オリジナル版を知ってる観客なら一瞬「あれ!?」って思うんじゃないでしょうか。

あとミュージカルシーンは全体的に、オリジナル版よりも立体的というか映画的。
物語と歌やダンスがシームレスに繋がっていて、ダンスの躍動感や画面の広がりもあり、もちろんそれはダンスの技術やダンサーのレベルが1961年当時よりも上がってるってのもあるんでしょうが、オリジナル版ではセットの限定的な空間で固定カメラの前での歌やダンスが多かったのに対し、本作ではオープンセット?のストリートなど、開けた空間でのダイナミックなダンスシーンを移動カメラでより映画的に追っていくのです。

何て言うか、子供の頃観たザ・ミュージカル映画のあの感じというか、あの頃のミュージカル映画よりミュージカル映画っていうか、スクリーンの中で沢山の人が踊り歌う絵面は物凄くリッチでした。

さらに光と影、色彩の演出も見事で、例えばジェット団の縄張りの方は割と色調を落とした灰色っぽい色合いなんですけど、シャーク団の住むエリアは色彩が豊かで如何にも南米って感じ。もちろんそれはお国柄の演出だけではなくて、同じ貧乏でもプエルトリコ移民の彼らは仕事も家族も夢もある。つまりスタート地点にいるのに対し、ホワイト・トラッシュのジェット団は家族は崩壊し、仕事も未来もないどん詰まりにいる。

スピルバーグはそんな両者の違いを色彩で表現して見せたんですね。

キャスト

そんな本作のキャストは正直ほとんど知らない人ばかりで、名前を知ってるのはトニー役のアンセル・エルゴートくらい。
彼は「ベイビー・ドライバー」のベイビーを演じています。

ジェッツ、シャークスの両者が一目置いている、いわば中立地帯になる「ダグの店」の店主は、オリジナル版では白人のダグでしたが、本作ではオリジナル版でアニタ役を演じたリタ・モレノがダグの奥さん役で、ダグ亡き後に店を守っている女店主ヴァレンティナとして、仮釈放中のトニーの更生のため、店で働かせているんですね。
御年90歳の彼女が終盤で歌い上げる「Somewhere」は、字幕を読みながら聞くと、もう、号泣ですよ。

あとジェッツのリーダー・リフを演じているマイク・ファイストは、カッコいいし二枚目なんだけど、絶妙にちょっとだけショボい感じが出てるのが良かったです。

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こう、無理してジェッツをまとめてる感というか、本来ならトニーがリーダーなんだけど、途中で抜けちゃったので自分が頑張るしかないみたいなね。

マリア役のレイチェル・ゼグラーは、何と言うか、ザ・美人って感じ。
その上歌も上手で、トニー役のアンセル・エルゴートと歌う「tonight」は惚れ惚れしてしまいますよね。

で、僕が個人的に一番素晴らしいと思ったのが、アニータ役のアリアナ・デボーズ
もう、歌も上手いしダンスもキレッキレでダイナミック。しかも芝居も素晴らしくて、もうパーフェクトでしたよ!

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それと彼ら不良少年の抗争を止めようとするクラプキ巡査(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)とシュランク警部補(コリー・ストール)。

シュランク警部補の方は、ポーランド系白人もプエルトリコ移民も明らかに差別していて、両者の争いを止めるのは、死人が出て再開発にケチがつくのが嫌だからなんですが、現場に出て日々彼らと接しているクラプキ巡査の方はジェッツのメンバーにやや同情的だし、あからさまではないけど気にかけているように僕には見えたんですが、どうなんでしょうね?

スピルバーグの魔法

本作について、アートディレクターで映画ライターの高橋ヨシキさんは「スピルバーグが映画撮るの上手すぎて、(悲劇と分かってるのに)もしかしたら上手く行くんじゃないかって思っちゃう」(意訳)と話していたんですが、僕も本作を観に行って、ヨシキさんの言葉の意味が解ったし、全く同じことを思ってしまいました。

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内容をうろ覚えとはいえ大まかな物語も結末も分かってるのに、初めて観る映画みたいにずっとドキドキワクワクしながら観てしまうんですよね。

まさに、映像にスピルバーグの魔法が掛かっているのです。

このオリジナル版の内容はそのままに、語り口と視点で全く別の物語として語りなおすところは、故・高畑勲監督の「かぐや姫の物語」を思い出しました。

興味のある方は是非!!

 

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