今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

フランス版シティーハンターのチームによるアクションコメディー2作「シティーコップ 余命30日?!のヒーロー」(2021)&「バッドマン史上最低のスーパーヒーロー」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」の公開が話題になり日本でも一躍注目された、監督で俳優のフィリップ・ラショーらのチームが製作したアクションコメディー2作『シティーコップ 余命30日?!のヒーロー』と『バッドマン史上最低のスーパーヒーロー』の2作ですよ。

友人がレンタルしたDVDで見たんですが、「バッドマン~」の方はヒーロー映画好きな僕のツボにドンピシャだったし、「シティーコップ~」の中盤では一緒に見ていた友人が急き込むくらい爆笑してました。

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概要

北条司の漫画をフランスで実写映画化した『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』などのフィリップ・ラショー監督(バッドマン~)&タレク・ブダリ監督(シティーコップ~)によるアクションコメディー。

ジュリアン・アルッティ、タレク・ブダリ、エロディ・フォンタンなど『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』にも出演したキャスト・スタッフらがチームとして制作している。

感想

コメディグループ「La Bande à Fifi」による作品

「真夜中のパリでヒャッハー!」「世界の果てまでヒャッハー!」などのコメディー映画で脚光を浴びたフィリップ・ラショーは、俳優、監督、脚本家、アニメーターなどの顔を持ち、タレク・ブダリ、 ジュリアン・アルッティ、エロディ・フォンタン、リーム・ケリシらとコメディグループ「La Bande à Fifi」を結成していて、日本でも話題になった「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」や本2作も、このチームで作られた作品です。

「シティーコップ~」の方では、タレク・ブダリが監督・共同脚本・主演を務め、「バッドマン~」の方ではフィリップ・ラショーが監督・脚本・主演を。

なので、「La Bande à Fifi」は言い出しっぺが監督もするシステムなのかもしれませんね。

ざっくりあらすじ紹介

では両作のあらすじをざっくりご紹介すると、「ティーコップ~」の方は小心者のライアン(タレク・ブダリ)は、殉職した父親の意志を継いで警官になるもヘマばかり。そんなある日、犯人を捕まえ損ねたライアンはネズミに噛まれ、ネズミが媒介する奇病にかかってしまい—―というストーリー。

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バッドマン~」の方は、売れない役者のセドリック(フィリップ・ラショー)は、晴れて新作映画『バッドマン』の主役に抜てきされるも、初日の撮影終了間際に父が倒れたという連絡が。動揺した彼は衣装の「バッドスーツ」を着たまま「バッドモービル」に乗り、病院へ向かう途中で事故に遭ってしまい——。というストーリー。

まぁ、どちらの作品も、ちょっとした勘違いが大ごとに発展していくという、王道のコメディーなんですが、ストーリーというよりは明らかに笑いの方にウエイトが乗っていて、僕が昔見ていた70年後半~80年代の昔懐かしい洋画のコメディーを思い出しましたねー。

お国柄なのか、それとも彼らだからなのか

その「笑い」の方も、今どきの映画にしては結構ベタというか、作中に登場する警官が全員間抜けで役立たずというのは、もはやフランスコメディ映画の伝統とも言えると思うんですが、それ以外でも売れない役者のセドリックは極短小用コンドームのCMに出演してる(バッドマン)とか、自分の寿命があとわずかと知ったライアンが、祖母や片思いの相手に送る遺言のビデオメッセージを撮るも、スイッチを切り忘れてその後の乱痴気騒ぎも映っちゃってる(シティーコップ)とか、病院で、証人を殺しに殺し屋がくるのを待ち伏せしてたら勘違いした看護師に連れていかれて男なのに豊胸手術されてボインになっちゃう(シティーコップ)とか。アイデア自体は昔懐かしいコメディー映画のギャグなんですが、間もいいし全部面白いんですよね。

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あと、これはお国柄なのか、それとも彼らの作品だけなのか分かりませんが、基本本2作の主人公は成長しません。

今どきの映画って、例えコメディーでも主人公が事件や出来事を通して成長していく物語を、大上段に構えて、良き話風に描くじゃないですか。

もちろん、本2作の主人公たちも物語を通して成長はするんだけど、それは成長っていうより変化って言う感じで、物語が進むと、どんどん立場が悪くなっていくんだけど最後は元のさや(最初の状態)に納まるみたいな感じなんですよね。

その辺も、僕が子供のころ観ていた洋画コメディーってこんな感じだった気がする!って思い、何か懐かしい気分になりましたねー。

あと、これもお国柄なのか彼らの作品だけなのか分かりませんが、このコンプラコンプラとうるさいご時世に、しっかり下ネタをぶち込んでくるし、あと、子供が酷い目に遭うギャグとかもいれてたりするのはちょっと驚きました。

いや、別に子供が殺されちゃうとかではないんですよ?じゃなくて、大人も子供もちゃんと同じように痛い目に遭うみたいな。

フィリップ・ラショーはオタク監督?

「バッドマン~」では、DCやマーベルのパロディーも満載で、個人的にメッチャツボってしまいました。

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そのパロディーギャグの一つ一つも、しっかりオタクのツボを押さえすぎていて、僕の中で「もしやフィリップ・ラショーはかなりのオタクなのでは!?」という疑惑もw

それで言うと、前作の「シティーハンター~」も、舞台とキャストはフランスながら「シティーハンター」のツボをしっかり押さえた展開やギャグが、日本のファンにも評価されてましたしね。

「バッドマン」でも、元ネタはDC映画の「バットマン」ですが、パロディーの多くはMCUだったりするんですよね。

しかもクライマックスではあの「アベンジャーズグルグル」を見事に再現してて、爆笑しつつもグッとアガってしまうという。

他にも、サムライミ版「スパイダーマンのあのキスシーンや、スタン・リーのカメオ出演までしっかり押さえてたり。

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それらを分かる人にはわかる様、しれっと物語に溶け込めせるあたり、かなりの手練れだなーと思いましたねー。

時間の方も、「シティーコップ~」90分、「バッドマン」83分と、今どきの映画にしては時間が短くサクッと観られるもおススメポイントです。

興味のある人は是非!!

「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」(2022)

ぷらすです。

MCUマーベル・シネマティック・ユニバース)30作品目にして、フェーズ4最終作となる『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバ』を観ました。

面白かったし感心するシーンも沢山あったけど、全体的に色々モヤモヤする作品でしたねー。

で、今回はMCU作品の性質上、前作「ブラックパンサー」やMCU作品、本作についても軽くネタバレしますので、ネタバレが嫌な人は気を付けてくださいね

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概要

超文明国家ワカンダの国王とヒーローの二つの顔を持つティ・チャラが主人公の『ブラックパンサー』の続編。国王であり、ヒーローでもあるティ・チャラを失ったワカンダに、新たな敵が迫る。前作でも監督などを務めたライアン・クーグラーが今回もメガホンを取る。『アベンジャーズ』シリーズなどのレティーシャ・ライトのほか、『それでも夜は明ける』などのルピタ・ニョンゴダナイ・グリラ、ウィンストン・デューク、アンジェラ・バセットらが出演している。(シネマトゥディより引用)

感想

MCUとファン

まず、本作を語る前の前提として僕を含むMCUファンの多くは、登場ヒーローに強い思い入れがある――というか、登場キャラクターへの思い入れが強すぎてキャラクターと演じる役者を混同している人も少なくないと思います。

それは2008年公開の「アイアンマン」から今日まで14年間30本もの各作品でそれぞれのキャラクター/役者が積み重ねてきた歴史にリアルタイムで付き合ってきた。それ自体が僕らにとってある種の自分史になっているからで、その分だけ、僕らは各キャラクターへの思い入れも深くなって、MCU作品に登場するキャラクターたちに起こる事を、我が事のように感じてしまうんですよね。

うん、キモイよね。自覚あります。

でも、映画、ドラマ、アニメ作品のファンなら、多かれ少なかれこの感覚は共感してもらえるんじゃないかなって思うんですよ。「〇〇(役者)個人のファンというより▲▲(役名)役を演じている〇〇が好き」みたいな。

で、そんなファン心理を作り手が理解し、作劇に反映させているのがMCU作品の強みでもあるわけですが、そんな中、ブラック・パンサー/ティ・チャラ王を演じたチャドウィック・ボーズマンの急逝は、ファンに大きなショックを与えると同時に、すでに制作が決まっていた続編=本作「~ワカンダ・フォーエバー」の内容に多くの関心が集まりました。

つまり、別の役者を代役にたててティ・チャラというキャラを生かすのか、それとも、ボーズマン=ティ・チャラの死を本作に反映させるのか。

MCUが出した回答は後者で、ここで前述したMCUキャラクターと役者の関係性が逆転します。
つまり、それまでキャラクターを演じる役者を重ねていたのが、現実の役者の死が、キャラクターや物語(フィクション)に影響を与えたんですね。

もちろん、長年続くMCU作品の中でもこれは異例の事で、前作がMCU初の黒人監督による黒人が主人公&主要キャストであるヒーロー映画であり、公開時にBLM(ブラック・ライブズ・マター)という社会的背景の中で、ブラックパンサーチャドウィック・ボーズマンがある種のアイコンになっいた事も考慮しての決定だったのだと思います。

なので、本作冒頭で描かれたティ・チャラ王の死のシーンは、そのままボーズマンの死とMCUの混乱を表していて、葬儀のシーンは制作陣がファンのために用意した、亡きチャドウィック・ボーズマンの弔いの場でもあったわけです。

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そのキャラクターと役者の同一視に対する是非は別にして、この演出、ファンなら泣いちゃうよね。

そして物語はそのまま、誰が偉大なるティ・チャラ王=ブラック・パンサーを継承するのかという展開に。それはそのまま、今後、誰がボーズマンに変わってブラック・パンサーを演じるのかという事でもあるんですね。

海の帝国タロカンとネイモア登場

そんな本作でワカンダの敵となるのが、海の帝国タロカンを率いるネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)。

原作では古参ヒーロー?の一人であるネイモアは、アトランティスの王子という設定でしたが、MCUではDCEUの「アクアマン」と設定が被るのを避けるため、アステカの神の楽園“トラロカン”を下敷きにしたのだそう。

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で、両国は共に宇宙から飛来した隕石に含まれていた超貴重な金属資源ヴィヴラニウム保有する国家であり、その恩恵によって共に大国からの搾取を免れていたという共通点を持つのですが、前作ラストでティ・チャラ王が”開国“したことで、ヴィヴラニウムの存在が世界に知られる事になり、彼の死後、ワカンダはヴィヴラニウムを狙う大国の脅威にさらされることに。

一方、ヴィヴラニウムの影響で人間から水生人になった民の国タロカンは、深海に国家を築く事で、これまで陸上の世界から気づかれる事なく発展していましたが、アメリカの天才少女リリ・ウィリアムズ( ドミニク・ソーン)がヴィヴラニウム探索機を発明したことで、国家の存在を知られる危機に陥ってしまうんですね。

そこでネイモアは海から単身ワカンダに乗り込み、「探索機を作り国家に危機を招いたリリを殺すので、お前らワカンダがリリを探して連れて来い。さもなくばお前らの国潰しちゃるけんのう」と、ラモンダ女王アンジェラ・バセット)とティ・チャラ王の妹シュリレティーシャ・ライト)にとんでもない無茶ぶり。

当然、ワカンダ側はそんな要求を呑むはずもなく、それでも最初こそ争いは避けたいシュリたちでしたが、その後、様々なすれ違いからワカンダとタロカンは全面戦争に――という物語。

うん、まぁ、監督のライアン・クーグラ―が本作で描きたかった事とやろうとしてる事は分かる。

ただ、うーん……。前述したように基本面白かったし、感心したシーンも多々あるけど、その一方でかなりモヤモヤも残ってしまったんですよねー。

というわけで、ここからネタバレしていきますのでご注意ください。

テーマ詰め込み過ぎ問題とMCUの病理

個人的に本作に感じるモヤモヤの原因はハッキリしていまして。

一言で言うなら詰め込み過ぎなんですよ。

前述したように、本作では誰がワカンダの王位と守護神ブラック・パンサーを受け継ぐのかというテーマがまずあって、本来はそこに物語を絞るべきだったと思うんですよ。

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しかし「ブラック・パンサー」には、そもそも大国(先進国)による小国(後進国)への搾取や人種差別というもう一つのテーマが前作からあり、それに加えてシュリとネイモアの復讐心に端を発したタロカンとワカンダの全面戦争、フェーズ5にむけての新キャラ(ネイモア&リリ/アイアンハート)紹介などなど、ブラック・パンサー続編として描くべきテーマ。監督のライアン・クーグラーが描きたいテーマ、MCUシリーズ作品としてのノルマがぎゅうぎゅうに詰め込まれ、その分、物語がとっ散らかって、各テーマの掘り下げも中途半端になってしまっているんですよね。

本来なら、本作では兄ティ・チャラの死を乗り越え、成長したシュリがワカンダの国王とブラック・パンサーを継承する物語に止め、ネイモアとの戦いやリリとの出会いはその次の作品で描けばよかった。

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でも、MCU的には今後のスケジュールの都合や登場キャラクターの順番もあり、恐らくそのしわ寄せが本作にきてしまっていると思うんですね。

これは以前から囁かれている事ですが、このシリーズに一貫性を持たせるため、あらかじめ作品に組み込まなくてはならない作劇ノルマは、特にフェーズ4に入ってから顕著になった、物語を圧迫し作劇の自由度を奪う病理だと思うんですね。

その結果、シュリと女王は国の長として、到底観客が感情移入出来ないような言動と決断を繰り返し、ネイモアとシュリの私怨によってワカンダ・タロカン両国は戦争に発展。映像を見る限り、兵士とはいえ多くの両国民が命を失っているハズなんですよ。それなのに、特に反省もなくラストだけ何となくいい感じ風に収めて

「ワカンダ・フォーエバー!」じゃねえよ!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッっていう。

いや、これがヒーローの個人的な物語ならいいんですよ。失敗から学び成長していくのは。

でも、シュリは一国の長ですからね。彼女の間違いは国民の命と直結している。

それが、僕が本作に感じるモヤモヤの正体で、シュリの状況に同情しつつも、お前の復讐に国民を巻き込むなよって思ってしまう。

しかも、その後、実はティ・チャラ王とナキアルピタ・ニョンゴ)の間に息子が生まれてましたーってあんた。

いや、分かるよ。本作で家族を全員失った(と思っていた)シュリへの救済として甥っ子を登場させたのは。

でも、あれはハッキリ蛇足だと思いましたねー。海を見つめるシュリの表情で終わりの方が絶対良かったし、それもまた今後の展開への布石なのかと勘ぐってしまったし、そもそもMCUが抱える男尊女卑的な「何か」がここでも匂ってしまうわけです。

良かったところ

と、ここまでほぼほぼ文句しか書いてないですが、じゃぁつまらなかったのかと聞かれればそんな事はなく。前作「ブラックパンサー」よりも良くなっていたところ、単純に映画として面白かったところや感動したところは沢山ありました。

例えばアクションシーン。前作のクライマックスは比較的平面的なアクション設計だったのが、本作では空を飛べるネイモア&アイアン・ハート(リリ)の空中戦もあり立体的になっていたし、前半での母が言った事をシュリが海辺で体感するラストシーンの演出は素晴らしかった。

あと、前作では堅物キャラだったオコエダナイ・グリラ)姐さんの可愛らしい一面や、前作では脳筋ゴリラでしかなかったエムバク(ウィンストン・デューク)が一族の長として見せる思慮深い一面など、登場キャラがより立体的に描かれていたのも良かったです。

それだけに、前述したテーマ詰め込みすぎによるモヤモヤが悔やまれるんですよね。

とはいえ、フェーズはこれからも続いていくわけで、MCUが抱える病理はますます大きくなっていくと推測されますが、フェーズ5以降のどこかで、良い感じに方向修正されていく事を切に願う次第です。

興味のある方は是非!

 

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バーフバリの監督が描く、今、世界一面白い映画「RRR」(2022)

ぷらすです。

現在、全国映画館で絶賛公開中のインド映画『RRR』を観てきました!

感想を一言で言うなら、多分いま、世界で一番面白い映画だと思いましたよ!

で今回は基本、ネタバレしても面白さに影響のでるタイプの作品ではないと思うので、ネタバレありで感想を書いていきます。なので、ネタバレは嫌と言う人、これから本作を観る予定のある人は先に映画を観てくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

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概要

『バーフバリ』シリーズなどのS・S・ラージャマウリ監督によるアクション。イギリス植民地時代のインドを舞台に、イギリス軍に捕らえられた少女を救う使命を帯びた男と、イギリスの警察官が育む友情と闘いを描く。互いの事情を知らないまま親友となる男たちを、『バードシャー テルグの皇帝』などのN・T・ラーマ・ラオ・Jrとラージャマウリ監督作『マガディーラ 勇者転生』などのラーム・チャランが演じる。(シネマトゥディより引用)

感想

「バーフバリ」の監督が描く待望の最新作

S・S・ラージャマウリといえばインド・テルグ語映画圏、通称”トリウッド“で活躍。「マッキー」(2012年)や「バーフバリ」二部作でインドのみならず今や世界中にその名を轟かせる監督です。特にバーフバリ「~伝説誕生」(2015年)と「~王の凱旋」(2017年)2部作は日本でも異例のロングラン大ヒットをしたので、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。

本作はそんなS・S・ラージャマウリ監督の最新作。

しかも、バーフバリは古代インドを舞台にした貴種漂流譚でしたが、本作はイギリスに植民地支配されていた1920年の近代インドを舞台に、アッルーリ・シータラーム・ラージュコムラム・ビームという、実在したインド独立運動の英雄2人を主人公にしているんですね。

まぁ、“実在の英雄“とは言ってもそこはS・S・ラージャマウリ

本作は主人公の人生を描く「伝記もの」ではなく、あくまで二人の名前を拝借しただけの完全フィクションで、ラーマは単独で数万人の暴徒を警棒一本で鎮圧。ビームは狼やトラと素手で渡り合う超人的身体能力の持ち主。

しかも史実では年齢も違うし出会っていない二人が、ひょんな出会いから大親友の義兄弟となり、クライマックスではイギリス軍をちぎっては投げちぎっては投げする――という、いわば「伝奇アクションもの」なんですね。そんなん、面白いに決まってますやん。

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なんて書くと、「あーハイハイ、どうせおバカアクション映画なんでしょ」って思われるかもですが、ところがどっこい。脚本は隅々まで気が配られているし、次から次へと繰り出される見せ場や山場シーンの画力の強さときたら、これぞザッツ・エンターテイメント映画と言った感じ。

当分、この映画を越える映画は出てこないだろうと思っていた「バーフバリ」越えの面白さを叩き出しているんですねー。

ざっくりストーリー紹介

映画冒頭、ゴーンド族の村に訪れていたスコット英国軍提督とその妻キャサリン
提督が部下を引き連れ山に狩りに入っている間、村の少女マッリが一族に伝わる歌を歌いながらキャサリンの手の甲にアートを施しています。

そのアートをいたく気に入ったキャサリンは、たったコイン2枚でマッリを連れ去ろうとし、止めようとした母親を部下が銃で撃とうとする。

するとその部下を止めたスコット提督。マッリを返すのかと思いきや「インド人の命に銃弾一発の価値もない」的な事を言い、それを聞いた部下が道に落ちていた木の棒でお母さんをぶん殴ってマッリを連れ去ってしまう。この提督の顔がですね、見た瞬間に悪役って分かる顔でして、顔も演技も最初から最後までずっと超憎ったらしいんですよねーw

一方、インドの首都デリーでは、イギリス人の横暴に怒り狂った民衆が提督の屋敷?を取り囲んで大暴動。その中の一人が投げた石が、イギリス国王?の写真に当たった事に怒った提督は、その男を逮捕するよう指示。

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しかし、柵の外は数万人の群衆が取り囲んでいて、その中から1人を逮捕などできるはずもなく、逆に殺されてしまう――と警官たちが怯む中、警官隊にいたラーマは警棒片手に柵を飛び越え群衆の中に降り立つと、次々に襲い掛かる群衆をものともせず、投石犯を捕まえ、その気迫にビビった群衆は抵抗をやめるのです。

一方、ゴーンド族のビームは、村人を襲う?狼を罠におびき寄せて捕らえる囮役になるも、その途中野生のトラに遭遇。リアル前門の虎後門の狼状態ながら、襲いかかるトラを寸前でかわし2体を鉢合わせにしてまずは狼を撃破。

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そこから何とか、ギリギリで仕掛けた罠でトラを捕らえるも、トラのパワーで罠が破られ、危機一髪のところを手製の睡眠薬の入ったボールを投げつけ眠らせる事に成功します。

このビームは、何があっても命がけで村人を守る守護神的役割の通称“羊飼い“で、提督の屋敷からマッリを取り戻すため、仲間と共にデリーの街に潜伏しているんですね。

マッリを取り返すべくビームがまじかに迫っている事を知った提督と妻キャサリンは、ビームを捕らえた者に出世を約束。ある目的のため何としても出世したいラーマは、顔も分かっていないビーム逮捕に名乗りを上げ、調査を始めるんですね。

そんなある日、重油を積んだタンクを運ぶ機関車の火花がタンクの重油に点火。橋の上で大爆発を起こし下の川も火の海に。しかもそこには、漁に出ていた1人の少年が。

それを発見したラーマとビームは協力し、火の海となった川から少年を救ったところでやっとタイトルどーーーん!

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なんと、このOPまで30分かかっていますw

っていうか、このOPまでで、既に普通の映画のクライマックス級の見せ場が3回入ってますからね!

で、実は宿敵とも言うべき2人ですが、ラーマがビームの顔を知らずビームもラーマが警察だと知らなかったため、2人は義兄弟の契りを交わす大親友になるのだが―――と言うストーリー。

というわけで、ここから先はネタバレしますので、ご注意を!

 

 

キャサリンがやべえ

その後、2人のブロマンス的イチャコラを存分に見せつけられ、ラーマはビームと優しい英国人美女のジェニーの仲を取り持ち、パーティーでは2人で息ピッタリに超絶ダンスを踊り。

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色々あってビームはついにマッリ奪回作戦を決行。

その作戦とは、パーティーが開かれた夜、荷台に野獣をてんこ盛りのトラックで屋敷に突っ込み、野獣たちを解き放った混乱の隙を狙ってマッリを取り戻すという破天荒なもの。

この計画は見事にハマり、もう一歩でビームがマッリを救出というところまでいくもギリギリ駆けつけたラーマに阻止され、ビームはあえなく逮捕されてしまうのです。

そして、見せしめのため公開むち打ちの刑となったビームですが、鋼の精神を持つ彼はラーマの鞭を何発受けても決して膝を折らない。

それを見ていた提督の妻キャサリン、「そんなんじゃ足りないわ!私はもっと血がみたいのよぉぉぉ!」とトゲトゲつきの一本鞭を渡してビームを打つようラーマに命令するんですね。やべぇだろこの嫁。何なら極悪非道の提督ですらちょっと引いてたよ。っていうかその鞭どこで買ったんだよ。

そこからさらにアレコレあって、ビームとマッリを逃がした罪で投獄されたラーマを救出にきたビーム。

そしてついに二人は合体!襲い掛かるイギリス軍をちぎっては投げちぎっては投げ―――。っていうね。

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いやもう、この合体シーンを見た時は声出して笑ったけど、同時に心に熱いものが込み上げましたよ。

丁寧なフリとオチ

いやー、それにしてもこうやって文字にするとやっぱ「おバカ映画だろ」って感じですが、違うんです。

例えば冒頭の数万人を相手にラーマが一人で戦うアクションシーンも、ラーマの上に何人も乗っかってくる群衆を気合一発吹き飛ばす!みたいなマンガ的展開はなくて、ラーマは押しつぶされそうになりながらも一番手自家な奴から順に、手に持った警棒で一人ひとり地道にやっつけていくんですよ。根性で

ビームの方も、トラを素手でぶん殴って勝つみたいな事はなくて、山の民としての薬草の知識を活かして作った眠り薬を使ってトラを眠らせるとかね。
それでも、2人が人間離れした身体能力なのは変わりませんが、闘いと勝利には一応のロジックはちゃんとあって、それが後の重要な展開の布石にもなっていて、クライマックスでしっかり回収されたりする。

そういう物語上のフリとオチが随所に仕掛けられ、回収されることで観ているコッチは「なるほど!これ、あの時の!」と膝を打つ快感があるんですよね。

その辺の丁寧な脚本づくりは前作「バーフバリ」でも見られましたが、本作はそこからさらに洗練されている感じがしました。

また、インパクト抜群の画面の数々は、一見確かにバカっぽいし思わず笑っちゃうんだけど、同時に観ているコッチの心が熱くなるというか、こんな画を見せられたら惚れてまうやろ――!!って、僕の中の小学五年生男子が叫びだすカッコ良さで、しかもそれを茶化さず、本気でカッコいいと信じて真面目にやってるのです。

そういう意味で、ラージャマウリ監督は、ギレルモ・デル・トロジョン・ファヴローなどと同じ、世界的にも数の少ない「分かってる監督」なんですよね。

で、「実在の英雄の名前だけ拝借している」と書きましたが、イギリスの植民地支配はトータルで300年続いていたそうで、その間に各地方でインド開放運動の英雄が何人も現れ、悲劇的な結末を迎えていたのだそう。ラージャマウリ監督はそうしたインドの英雄たちを本作の二人のキャラクターに乗せて描いているんだと思うんですよね。多分。

そして本作でイギリス人を悪者一辺倒で描くのではなく、彼ら(イギリス)の良心として心優しいジェニーを登場させることでバランスを取っているのです。

さらにラスト。

ワンシーン・ワンカットに何そうにもレイヤーを重ね

目的を果たすことが出来たラーマがビームに「礼に欲しい物を言ってくれ」というと、ビームは一言「読み書き」と答える。

これは、山で暮らすビームの一族が文字を持っていないから教えて欲しい。とも取れますが、一方で今のインドの成長に数学と語学が大きく貢献している事のメタファーにもなっていて、ラージャマウリ監督はこの一見やりたい放題エンターテイメント作品の中に、先達への畏敬の念、そして、今のインドへのメッセージ性など、一つのシーン、一つのカットに何層にもレイヤーを仕込んで作り上げているのです。

その辺のバランス感覚やスマートさは、ラージャマウリ監督見事だなーと思ったし、ほぼ3時間ある本作ですが、あまりにも面白すぎて体感では2時間くらいにでした。

興味のある方は是非!!

 

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MCUドラマ「シー・ハルク:ザ・アトーニー」レビュー&解説

▼予告動画▼

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ぷらすです。今回は、Disney+にて2022年8月18日から10月13日まで配信された、MCUドラマ「シー・ハルク:ザ・アトーニー」のレビューと解説をしていこうと思います。ハルクといえば、1962年の初登場から現在もマーベルコミックスで描かれ続けている人気ヒーローの一人。MCUマーベル・シネマティック・ユニバース)でも重要キャラとして登場していますが、本作の主人公はそんなハルク/ブルース・バナーの従姉妹ジェニファー・ウォルターズなんですね。

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シー・ハルクとは

シー・ハルクは1980年2月発刊のマーベル・コミック『Savage She-Hulk #1』で初登場。その名の通り、女性版ハルクです。

そのオリジンは原作コミックとMCUドラマでは多少異なっています。ハルクことブルース・バナーの従姉妹ジェニファー・ウォルターズの職業が弁護士なのは一緒ですが、原作では起訴に追い込んだ犯罪者の部下から狙撃を受けて重傷を負い、従兄弟のブルースからの輸血によってハルクの能力を得るという設定。

対してMCUドラマ版では、ドライブ中事故に遭ってしまった2人。この時傷口からブルースの血液が体内に入ってしまい、ジェニファーはハルクの能力を得るんですね。

ちなみにブルース・バナーは元々は物理学者で、そんな彼がハルクになったのは、米軍のスーパーソルジャー計画再現実験の失敗により、大量のガンマ線を浴びてしまったことでDNAが変化し、緑色の大男(ハルク)に変身してしまう体質を得たから。

お気づきの人もいるでしょうが、ハルクはロバート・ルイス・スティーヴンソンの「ジキル博士とハイド氏」をベースにしたキャラクターなのです。

ブルースは強い怒りや負の感情によって心拍数が上がることでハルクに変身。変身後は理性を失い、敵味方関係なく破壊の限りを尽くすモンスターになってしまうんですが、MCUでは色々あって、ハルクに変身してもブルースの理性を持つ【スマートハルク】へと進化しています。

第1話の流れ

さて、ドラマ第1話冒頭でジェニファーは次の裁判に向け練習をしています。彼女はどうやらスーパーパワーを持つ超人の被害に遭った原告側?の弁護をするらしい。そして、ジェニファーの回想シーンとして、ドライブからの事故、ジェニファーの傷口にブルースの血液が入るシーンへ。

その後、ハルクの能力を得てしまったジェニファーをスーパーヒーローにさせるため、ブルースはメキシコの隠れ家で彼女を訓練。しかしジェニファーはヒーローには一切興味がなく、また、ブルースとは違って、変身後も自我を失うことなくハルクパワーをコントロールしてるんですね。

その理由について彼女は「女はいつだって怒りをコントロールしているから」と説明。結局ブルースはジェニファーのトレーニングを諦め、彼女は弁護士の仕事のためにロスに戻るのです。そこで回想が終わり裁判のシーンに。

裁判はジェニファー有利で進むものの、突如怪力を持つインフルエンサータイタニアが乱入。ハルクに変身したジェニファーは彼女を撃退します。

これによりジェニファーは「シー・ハルク」として一躍有名人になりますが、陪審員の心証を操作したとして勤務していた事務所をクビになってしまいます。

しかし、先の裁判で対立していた大手法律事務所GLK&Hが彼女を採用。ただし、ジェニファー・ウォルターズではなく超人部門専門弁護士、シー・ハルクとしてなんですね。ここからジェニファーとシー・ハルクの二重生活が始まるのです。

ほぼ一話完結のコメディードラマ

実はこのドラマ、ほぼ1話完結のコメディーシリーズです。煽り文句では「法廷コメディー」と謳われていますが、法廷シーンはそれほどなくて、物語の主軸は人気者のシー・ハルクと冴えない自分の間で揺れ動くジェニファーの恋と仕事の等身大な日常をメインに描いているんですね。

なので、ジェニファーがシー・ハルクに変身してヴィランと闘うような描写も殆どなくて、マッチング・アプリに登録するも相手に恵まれないジェニファーが、シー・ハルクで登録した途端デートの申し込みが殺到するとか、仕事面では、ハルクの敵として「インクレディブル・ハルク」登場し現在は刑務所に収監中のエミル・ブロンスキー / アボミネーションの弁護をするハメになったり、その参考人としてドクター・ストレンジの友人で至高の魔術師ウォンが登場したり。あ、ジェニファーが弁護士ということで、“あのヒーロー”も登場しますよ。

まぁ、この他作品のキャラクターが大量にゲスト出演する展開こそMCUらしさである一方、そのやり方にうんざりする人がいるのも事実。

しかも、今回はハルク、アボミネ―ション、ウォン、あのヒーローだけでなく、他作品の原作にしか登場していないキャラが何人も登場するので、「あれ、このキャラクター他の(MCU)作品で見たっけ?」と混乱したりするんですよね。

ただ、それが出来るのも自由度の高いコメディーという本作の特性ゆえでもあり、それが衝撃の最終回への伏線にもなっているわけです。

シーハルクの能力

シー・ハルクにはどんな能力があるのかというと、基本、ハルクが出来ることは全部出来るし、なんならパワーもハルクより上だったりします。

さらに、シー・ハルクだけの固有能力として、「第四の壁を超える」というのがあるんですね。

「第四の壁」とは、ざっくり言えば観る者(視聴者)と観られる者(キャラクター)の境界を分けるカメラのこと。

基本、ドラマや映画で役者の人ってカメラ目線にならないし、カメラに向かって話しかけないですよね。それは、フィクション=物語はカメラの向こうの世界という不文律があるからなんですが、シー・ハルクはそのカメラ越しに、視聴者にガンガン話しかけてきます。

マーベルヒーローの中で同様の能力を持っているのが、デップーことデッドプールで、彼は自分が”物語のキャラクター“であることを理解しているんですね。

で、第1話からジェニファー/シー・ハルクも第四の壁を越えて我々視聴者に話しかけてくるし、この能力が最終回への布石にもなっているわけです。

というわけで、ここから先はネタバレになるのでご注意を。

賛否分かれる最終回とシー・ハルクの敵

この「第四の壁を超える」という彼女の能力が発揮されるのが最終回。

それまで、7話に渡りシー・ハルクをつけ狙ってきた謎の敵組織「インテリジェンシア」が、第8話で、その年の最優秀女性弁護士?の授賞式の席で隠し撮りしたジェニファー/シー・ハルクのプライベート動画を流し、これにキレたジェニファーが大暴れ。即座にダメージ・コントロール局 最高警備レベル刑務所に収監されてしまった所から物語はスタートします。

彼女は、変身できないよう制御装置をつける事を条件に釈放されますが、今まで彼女、というかシー・ハルクをちやほやしていた世間は手のひらを返してシー・ハルクを叩きはじめるんですね。

その後、色々あって「インテリジェンシア」のリーダー、ハルク・キングの正体はシー・ハルクのファンを拗らせた金持ちのボンクラ、トッド・フェルプスであり、メンバーは概ねミソジニーを拗らせたボンクラどもであることが判明。

トッドはスパイを利用して手に入れたジェニファーの血液から作った血清でハルク化。変身できないジェニファーに襲い掛かるもアボミネ―ションが彼女を守り、そこに宿敵タイタニアやハルクまで乱入して――と、まさにしっちゃかめっちゃかの状況に。

そんな状況の中、ジェニファーが画面に向かって「これ、面白い?」と聞くと、画面がディズニープラスのホーム画面にもどります。(我々視聴者が呆れてドラマを見るのをやめたという表現)

そこでジェニファーは制御装置を外しシー・ハルクに変身。メニューの窓(シー・ハルクのアイコン)を壊しホーム画面から、MCU作品のメイキングを流す「マーベル・スタジオ アッセンブル」の動画に潜入。「シー・ハルク:ザ・アトーニー」の制作会議に突入し抗議するも、「ケヴィン・ファイギが臨んだ展開だから」と埒が明かないため、シー・ハルクはMCU統括のケヴィン・ファイギに直談判に。

ところが、実はケヴィン・ファイギは人間ではなく「知識拡張型映像相互接続隊 (Knowledge Enhanced Visual Interconnectivity Nexus)」、略してKEVINである事が判明。

ジェニファーの抗議にKEVINは「作品の評価はネットの議論に委ねる」と言いますが、ここでジェニファーは「最終弁論」をスタート。

”法廷コメディー”のラスボスが、MCUのトップというトンデモ展開ですが、このメタ構造は「第四の壁」を破れるシー・ハルク(とデップー)にしか出来ないんですよね。

ジェニファーはMCU作品が全て同じ結末に陥っている事を指摘し、本作が自分とシー・ハルクの両立に悩み、受け入れていく物語であることを訴えるとKEVINは考えを変え、ジェニファーの要望を聞きながら最終話のストーリーを改変。

トッドがハルクパワーを得る展開をやめ、ハルク登場の展開もなしに。

さらにジェニファーは第8話で良い中になったマット・マードック/デア・デビルの再登場も要求し、ついでにMCUヒーローにはファザコンが多すぎ問題を指摘したり、X-MENはいつ登場するのかと質問するなど、ケヴィンのAI化も含め、我々視聴者がMCUに思っている事を代弁してくれるんですね。

まぁ、この展開は原作コミックなどでシー・ハルクのキャラクターを知っている人と、MCUしか見ていない人で賛否が分かれるというか、ぶっちゃけMCUの映画&ドラマしか観ていない人が、この展開に批判的なのも仕方ないかもとは思うんですよね。

だって、ドラマのキャラクターが製作スタッフにストーリーを変えさせるのがアリなら、いよいよ何でもアリになっちゃうし、ただでさえフェイズ4に入り、マルチバース設定が盛り込まれてからは脱落者続出ですからね。そこにこんなちゃぶ台返しされたら、おいおい…ってなっちゃう人の気持ちも理解できます。

ただ、僕はこの展開大いに楽しんだんですよね。

2016年公開の「ゴーストバスターズ」では、メインキャラクターを女性に変更したところ旧作のファンが激怒。SNS上で出演者を叩く騒ぎになったり、Amazonプライムの「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」で黒人?のエルフが登場したことで炎上したり、MCU作品でも女性が主人公の作品などを叩く連中もいると聞きます。

本作に登場する「インテリジェンシア」の連中が言う「(自分たちは)シー・ハルクが男でも批判してる」「スーパーパワーを持てるのは実力ある者だけ」などのセリフは、まさに、現実世界のネット上で、上記の作品に調子っぱずれな批判や度の過ぎる非難を繰り返すボンクラミソジニーやアンチポリコレ勢の言説そのもの。

もっと言えば、ジェニファー=シー・ハルクの敵は、彼女の都合も考えずをスーパーヒーローにしようとするブルースであり、弁護士としてではなく、シー・ハルクの話題性にしか興味のないGLK&Hの社長であり、ジェニファーには目もくれないのにシー・ハルクとはデートしたがるマッチングアプリの男どもであり。

そして、男性ヒーローに比べ、女性ヒーローに対して不遇な扱いをしてきたMCUであり。

陳腐な言い方をすれば、そうした男性・マジョリティー優位な今の社会構造そのものなのです。

そうした相手(敵)に対し、ドラマを通して正面から批判するのではなく、卑近で間抜けな存在として笑い飛ばし、さらにはシー・ハルクの「第四の壁を超える」能力を使うことで、最終話ではメタ的にMCUをも批評してみせる。

その一方で、偶然手に入れたハルクの能力に最初は振り回されながらも、徐々に折り合いをつけて受け入れていくという「ハルク」の文脈はしっかり継承し、同時にそれは多くの人が普遍的に抱える、社会的の中の自分と自分の中の自分自身のズレや違和感という悩みとリンクしているんですね。

そんなのシリアスなドラマでやられたら「うわぁ……」と落ち込んじゃうけど、それをコメディという枠の中で軽やかに描いてみせた本作の作劇は個人的には凄いって思ったし、ジェニファー/シーハルクのこれからの活躍も期待せずにはいられませんでしたねー。

というわけで、MCUドラマ「シー・ハルク:ザ・アトーニー」のレビュー&解説でした。

9話構成のドラマですが、1話30分とサクサク観られるので、

興味のある方は是非!

「トップガン マーヴェリック」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのはトム・クルーズ主演と製作をつとめた今年公開のメガヒット大作『トップガン マーヴェリック』ですよー!

今回僕は映画館ではなくAmazonレンタルで視聴したんですが、本作を観た多くの人が「劇場で、出来ればIMAXで観た方がいい」という気持ちがよく分かりましたよ!

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概要

トム・クルーズをスターダムにのし上げた出世作トップガン』の続編。アメリカ軍のエースパイロットの主人公マーヴェリックを再びトムが演じる。『セッション』などのマイルズ・テラーをはじめ、『めぐりあう時間たち』などのエド・ハリス、『ビューティフル・マインド』などのジェニファー・コネリー、前作にも出演したヴァル・キルマーらが共演。監督は『トロン:レガシー』などのジョセフ・コシンスキー。(シネマトゥディより引用)

感想

なぜみんな、劇場視聴を勧めるのか

実は最初、僕は本作を観る気はありませんでした。

何故かというと1986年の「トップガン」を観ていないからで、「トップガン」を観なければ、36年越しの続編となる本作だけ観ても内容が分からないのではないか。っていうか、本作の為に今更36年前の映画を見返すのも正直面倒くさいんだよなー。

などとグズグズ考えているうちに時間が過ぎ、時間の経過と共に本作の評判はうなぎ上りで、どんどん気になっていくんだけど、じゃぁこれから「トップガン」みるか。でもなー、うーん……。てな感じで。

そうしてウダウダしている間に本作のAmazonでレンタルが始まったので、「まぁ一応観ておくか」という感じで観てみたら、「なるほどこれは劇場で観るべき作品だ」と、大いに納得したんですねー。

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なぜなら、映像・音響のすべてが、劇場の大画面と音響で観るように設計されているから。

いや、もちろん劇場公開される殆どの映画は劇場で観るよう設計されているわけですが、本作は物語の設定や扱う題材も含め劇場での鑑賞に特化していて、家庭のテレビやタブレットスマホなどのメディアで得られるカタルシスは劇場のそれとは比べ物にならないんですよね。

ざっくりストーリー紹介

前作となる1986年公開の「トップガン」は、当時まだ若手だった主演のトム・クルーズを一躍トップ俳優へと押し上げた作品です。

アメリカ海軍のパイロット:ピート・ミッチェルコールサイン:マーヴェリック)は野生の勘を頼りに無鉄砲で型破りだが天才的な直感力と技量を持つパイロット。

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そんなある日、色々あって心優しく陽気な性格の相棒グースと共にミラマー海軍航空基地に所在するアメリカ海軍戦闘機兵器学校(通称:トップガンへ派遣されたマーヴェリックは、ドッグファイトの戦技を磨くために教育を受けることとなる。という物語。

そこでの出会いと別れを経て成長したマーヴェリックの36年後を描いたのが本作「トップガン マーヴェリック」で、とあるならず者国家NATO条約に違反するウラン濃縮プラントを建設し稼働させようとしている事を察知した米国は、それを破壊すべく特殊作戦を計画。

同作戦に参加させるためにトップガン卒業生から選りすぐられた若き精鋭パイロット達の教官としてマーヴェリックが戻ってくる。というのが大まかなストーリーです。

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前作「トップガン」は、いわゆる軍隊ものに青春学園もののテイストを盛り込み、元々CMディレクター出身でもあるトニー・スコットらしい、カッコいい映像と流行りの音楽をふんだんに盛り込んだ、イケイケである意味呑気な時代を象徴した80年代を代表する作品の一つであり、そうした”ノリ”は映画の枠を超え、トム・クルーズが身につけたサングラスやMA-1ジャンパーなどは、当時の若者の間でファッションアイコンにもなるなど、社会現象にもなったんですね。

そんなこんなで当時特大ヒットを飛ばした本作の続編を――という話は何度も持ち上がったものの中々実現には至らず、その間にトニー・スコットが亡くなり続編の企画の続行が危ぶまれたものの、主演のトム・クルーズや1作目でアイスマンを演じたヴァル・キルマーらが続編製作に強い興味を持っていたこともあって、36年ぶりの続編となる本作が制作されたのです。

しかし、コロナパンデミックによって当初2019年公開予定だった本作は2020年、2021年と延期の末に2022年5月27日にようやく公開。

その間にも、大作映画が次々劇場公開からネット配信での公開に切り替わっていく中、それでも劇場公開にこだわったところに、トム・クルーズを始めとしたスタッフの映画人としてのこだわり、また次世代に映画(館)文化を残したいという心意気を感じずにはいられませんでした。そして、実際に本作を観てみると、前述したように彼らが劇場公開にこだわった理由がよく分かる作りになっていたんですね。

正当派続編であり、映画論であり、トム・クルーズ論であり、ロッキー

そんな本作、「映画」としては素晴らしいんですが、「物語」としてはそれほど大したことがないというか。

前述したように本作のストーリーは、作戦実行ほぼ不可能という困難なミッションに挑むトップガンたち。というこれ以上ないくらいシンプルな物語。

トム・クルーズ演じるマーヴェリックの役どころは、そんな若者たちが作戦を成功させ生還できるように鍛え上げるというものなんですが、そこは我らがトム・クルーズ

本来主役になる次世代の若者たちに道を譲る気などサラサラなく、しっかりと「トム・クルーズの映画」にしてしまっているんですよねw

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その辺は、前作「トップガン」と同じく1986年公開で、若きトム・クルーズと当時大スターだったポール・ニューマンが共演した「ハスラ―2」と同じイムズを感じてしまうというか「結局お前が主役なんか―い!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ」っていう。

そうしてみると、本作は36年間トップスターの座を走り続けてきたトム・クルーズの人生とも重なっていて、時代遅れなロートルが「まだまだ若いもんには負けん!」と怪気炎を上げながら大暴れして、青春して、一瞬弱気になるも結局実力で全部さらってしまうマーヴェリックはまさに、今のトム・クルーズそのものでもあるんですよね。

映画のキャラクターに役者の人生がリンクするといえば、シルベスタ・スタローンの「ロッキー」シリーズがありますが、本作の構造はまさにトム・クルーズ版「ロッキー」と言っても過言ではないと思いました。

同時に本作は、テレビの普及、インターネットの発展によるサブスクの登場や、タブレットスマホなど新たなメディアの登場、そしてコロナの世界的な流行も重なって今や瀕死状態の映画興行というエンターテイメントともメタ的に重なっていて、「トップガン」の36年後を描いた正統派続編でありながら、そういう意味で映画論でありトム・クルーズ論でもあるんですね。

だからこそ、本作は劇場で観なければあまり意味がないという結論に至ってしまうのです。

劇中でも、前作のキャラクターやエピソードを下敷きにしていて、36年前に「トップガン」を喰らった世代のファンはたまらないんじゃないかと思いますが、じゃぁ、前作を観てないと楽しめないかと言われればそんな事はなく、前作を基にしている部分はそうと分かるように説明の描写があるので、本作だけを観てもちゃんと物語の筋は分かる親切設計。

まぁ、そうは言っても前作を観ていた方が感動は大きいと思いますけれどもw

ディテールの圧倒的リアリティー

ただ、本作における物語の筋は、前作ファンへのサービスのようなもので。

本作の白眉は、米海軍全面協力の元で本物の空母「エイブラハム・リンカーン」に乗艦しての飛行甲板での撮影であり、トム・クルーズを始めとした主要役者陣が本物のジェット戦闘機に乗り込んでのコックピットの撮影など、本物でしか表現しえないディテールの圧倒的リアリティーなんですよね。

もちろん本物のパイロットが操縦し、キャストは後部座席に乗り込んで撮影するわけですが、キャストの身体にかかるGなどは、セットやCGでは中々表現できないと思うし、そこにも「ミッション:インポッシブル」以降、トムがこだわってきた本物を使った肉体表現の凄さがこれでもかとぶち込まれたとても贅沢な作品なのです。

まぁ、トムはともかく、それに付き合わされる他のキャストは大変だったでしょうけどもw

ともあれ、そんなアレコレを堪能するには、やはり劇場の大画面と音響設備が最適だし、幸い本作はロングラン上映中の劇場も多いと思うので、もし、これから本作を観るという人は、劇場での鑑賞が絶対におススメです!
僕も、行けそうなら劇場に行ってもう一回本作を観てみようと思いますよ!

興味のある方は是非!

 

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進化する2.5次元「ベイビーわるきゅーれ」(2021)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、前回の「最強殺し屋伝説国岡 完全版」でご紹介した阪元裕吾監督2021年の作品『ベイビーわるきゅーれ』ですよー!

「国岡」と同系列の殺し屋が主人公の日常系アクション映画ですが、全てが進歩した大傑作でしたねー。

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概要

女子高生の殺し屋コンビの青春を描いたバイオレンスアクション。人殺しの方法しか知らない二人が、高校卒業を機に一般社会になじもうと悪戦苦闘する。監督・脚本・編集を『ハングマンズ・ノット』などの阪元裕吾、アクション監督を『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』などの園村健介が担当。阪元監督作『ある用務員』に出演した高石あかりとスタントパフォーマーの伊澤彩織が主演を務めるほか、三元雅芸、秋谷百音、うえきやサトシらが出演する。(シネマトゥデイより印象)

感想

2.5次元

前回ご紹介した「最強殺し屋伝説国岡 完全版」は殺し屋が主人公の新作映画のシナリオ執筆のため、阪本監督が関西最強の殺し屋・国岡に密着取材するという体のフェイクドキュメンタリーでしたが、その時、阪本監督がシナリオを書いてたのが本作「ベイビーわるきゅーれ」という設定だったんですね。

なので本作はフェイクドキュメンタリーの「国岡」とは違って完全な劇映画として描かれているわけですが、基本設定は「国岡」と同じ我々の生活の中に「殺し屋」という職業が普通にある世界観。

主人公の杉本ちさと(髙石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)は女子高生の殺し屋として活躍していたが、所属する組織から高校卒業と同時に寮を出て二人でアパートを借りて“表の職業”を持つように言われ、嫌々バイトを探しているところから物語がスタートするんですね。

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性格が明るくアッパー系のちさとと、コミュ障で陰キャのまひろのコンビというキャラ付けと、そんな二人の日常生活を描くというコンセプト自体は「国岡」とほぼ一緒なんですが、主人公が若くてかわいい女の子2人組という事もあって「国岡」以上にポップでキャッチ―。まるでそういう設定の日常系アニメ(キルミーベイベーとか)を観てる気分。

しかし一方で、アクションコーディネーターの園村健介氏を招いて設計された2人、特にスタントパフォーマーである伊澤彩織のアクションシーンには観た人誰もが驚くんじゃないかと思います。

そんな超絶アクションをこなす伊澤彩織の肉体性と、アクション自体は少ないけれど、その分、演技面で本作を引っ張る髙石あかりとのコンビネーションが、この突拍子のないアニメ的キャラクターの二人に実在感を持たせていて、また、そんな二人の関係がちさととまひろの関係ともリンクしていて、まさにアニメと実写のいいとこ取り、いわゆる2.5次元的面白さを体現しているんだと思いましたねー。

アクションの凄さ

僕が阪本祐吾監督作品を観るのはこれが2作目。

前作「国岡」でも確かに目を見張るアクションはあったんですが、まだアクション、監督自らの撮影共に粗削りな印象のあった「国岡」から、本作のアクションは明らかに進化しています。

それはアクション監督の田中清一に師事し、数多くの作品でスタントをこなしてきた伊澤彩織の身体能力と、それを活かす園村健介のアクション設計、そしてそれを撮影する  伊集守忠。

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アクション映画に必要なプロフェッショナルが揃ったことで、世界中のアクション映画と比べても、画作りがかなりリッチになったのは間違いないと思います。

また、本来アクション畑ではない髙石あかり演じるちさとを、最小限の動きでバリバリのスタントパフォーマー伊澤彩織演じるまひろと互角に見せるアクション設計も見事でした。

リアルで愛すべきキャラクターたち

そんな阪本監督作品の白眉は、何と言ってもデフォルメされているのにリアリティーのあるキャラクターたち。

前作では関西最強の殺し屋ながら私生活はごく普通のあんちゃんである国岡や、クセ強めの殺し屋たち。

本作では、ちさとのバイト先であるメイド喫茶の貧乏な先輩や、殺し屋の後始末を請け負う業者の田坂さんは、印象に残るほんと良いキャラでしたねー。

とくに、メイド喫茶でヤクザの親子を殺したちさとに後始末を頼まれ、その殺し方に「拳銃使う時は頭は狙わないでくださいって前にも言いましたよね。あなたがたは僕らを便利屋みたいに思ってるかもですが、僕らも人間なんでね」とグチグチ苦情を言う田坂さんは、「あー、こういう人いるわーー!!」ってなるんじゃないでしょうかw

そういう直接本筋に関わるわけではないけど、観終わった後メイン級のキャラと同じくらい印象に残る愛すべきキャラクターを造形するところは、さすが阪本監督という感だし、そうしたキャラクターたちディテールが、作品を構成する世界観に繋がっているんですよね。

シスターフッドの傑作

実は、本作の二人は前作となる「ある用務員」という作品にも登場しています。
といっても本作とは別のキャラクターらしいんですけどね。

ただこの「ある用務員」が本作での二人のキャラ造形に、少なからず影響を及ぼしたのは間違いないんじゃないかと思いました。

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恋人関係にない男同士がいちゃこらキャッキャする作品を「ブロマンス」と呼び、その対義語というか女性版の作品を「シスターフッド(ロマンシス)」と言ったりしますが、本作での二人の関係性はまさに、シスターフッドの傑作と言えるんじゃないかと思いましたよ。

興味のある方は是非!!

国岡を愛でる映画「最強殺し屋伝説国岡 完全版」(2021)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ベイビーわるきゅーれ」「グリーンバレッド」に繋がる阪元裕吾ユニバース第一弾?となる『最強殺し屋伝説国岡 完全版』ですよ。

前々から気になっていたので、今回はAmazonレンタルで鑑賞しました。

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概要

『ベイビーわるきゅーれ』などの阪元裕吾監督が、殺し屋の男を描いたドキュメンタリーテイストのアクション。阪元監督が新作映画のシナリオを書くため”関西殺し屋協会”に取材を申し込んだところ、フリー契約の殺し屋を紹介される。ドラマシリーズ「龍虎の理(ことわり)」などの伊能昌幸、『恋するけだもの』などの上のしおり、『ファミリー☆ウォーズ』などの吉井健吾らが出演する。(シネマトゥディより引用)

 

感想

阪元裕吾ユニバース第一弾?

本作の監督・阪元裕吾は、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)在学中に制作した「べー。」 で残酷学生映画祭2016グランプリを受賞。

その後、心に闇を抱えた内気な大学生の青年と、田舎で暴力衝動を発散し続ける最凶不良兄弟を描いた「ハングマンズ・ノット」でカナザワ映画祭2017「期待の新人監督」賞を受賞して注目を集め、続く「ファミリー☆ウォーズ」(2018)で商業映画デビュー。

殺し屋の日常を描いた本作「最強殺し屋伝説国岡」や、ヤクザに暗殺者として育てられた主人公を描いた「ある用務員」、社会に適合できない女子高生殺し屋コンビの青春バイオレンスアクション「ベイビーわるきゅーれ」など、低予算ながら見ごたえのあるアクションやブラックな笑いを内包したバイオレンスで、映画ファンから熱い支持を受ける監督です。

特に、本作から「ベイビーわるきゅーれ」までの3作と、現在公開中の「グリーンバレット」は世界観や登場キャラクターを共有する、いわば”阪元裕吾ユニバース“であり、本作はその第一弾になるんですね。

ざっくりストーリー紹介

そんな本作を一言で言うなら「殺し屋の日常を描いたアクションコメディー」です。

新作「ベイビーわるきゅーれ」の脚本執筆の参考にするため、阪本監督は「関西殺し屋協会」の紹介で京都最強と言われるフリー契約の殺し屋、国岡昌幸を密着取材。
その仕事や日常生活をカメラに収めたドキュメンタリーという体の、フェイクドキュメンタリー作品です。

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阪本監督は新作が公開されるたび僕の耳にも話が入ってくるし、特に話題になった「ベイビーわるきゅーれ」は気になってるものの配信環境が合わずまだ未見でして。
ならばAmazonで見られる本作で阪元裕吾作品初体験となったわけです。

本作についても、「とにかくアクションが凄い」などの噂は聞いていたんですが、実際観てみると、殺し屋であること以外はごく普通の青年である国岡の日常と、我々の日常生活の中に殺し屋がいる世界線というおかしみが秀逸で、ストーリーだけ聞けば「ジョン・ウィック」を思い浮かべる人も多いかもですが、個人的にはタイカ・ワイティティ監督の「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」の雰囲気に近い感じがしましたねー。

目指すべきは週刊少年ジャンプ

というのも本作で描かれる国岡たち殺し屋は、一応裏社会の住人という設定ながら、国岡を取材する阪本監督が拍子抜けするほど我々の日常の中に普通に溶け込んでいるんですよね。

殺し屋たちは協会に属する正規社員と、国岡のようなフリー契約、そして協会に属していない野良に分かれていて、思った以上に殺しという仕事に対してカジュアルに臨んでいて、袋に入れたライフルの飛び出した銃口をビニールとガムテープで縛って持ち歩いたり、やり取りを電話でしたがる協会に対し「全部LINEでいいのに」と愚痴を吐いたり、仕事依頼用のwebページを見つけた子供が勝手に依頼し、仕事が終わった後に親が依頼を取り消して欲しいと言ってきて裁判沙汰になったり。

その一方で私生活では、出会い系サイトで出会った女の子と付き合うことになって国岡がウキウキしたり、殺し屋になりたいという友達に「副業から始めたら?」とアドバイスしたり、飲みの席で酒癖の悪い先輩殺し屋にうんざりしたり。

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職業が殺し屋であること以外、国岡はホントに普通のイマドキのあんちゃんで、僕ら観客はそんな国岡と一癖も二癖もある殺し屋たちとのやりとりを楽しむ。

つまり国岡というキャラクターを愛でる映画になっているわけです。

で、阪本監督本人がインタビューで「目指すべきはハリウッドではなく週刊少年ジャンプ」と言うように、このキャラクターを中心にした作劇法って映画というよりマンガのそれなんですよね。

フェイクドキュメンタリーという性質上

一方で、フェイクドキュメンタリーという性質上、観客は「カメラマン」(本作では阪本監督)の視点を通してこの物語を観るわけだけど、作中でちょいちょい阪本監督以外の「これ誰が撮ってるの?」という視点が入ってきたり、「いやいや、その位置にいたらダメでしょ」という無理のあるカメラ位置が気になるし、手持ちワンカメで引きを多用したアクション撮影ゆえか、せっかくの凄いアクションがショボく観えてしまう――というか「イップマン」オマージュっぽいアクション設計も「相手を倒す(目的を達する)為のアクション」ではなく「アクションを見せる為のアクション」という感じがして個人的には(´ε`;)ウーン…と言う感じ。
正直その辺の僕が感じるような違和感に対して、阪本監督はあまり頓着がない様に見えるんだけど、もし潤沢な予算があったらアクションの撮り方や見せ方は変わるのかな?
と思ったりしました。

とはいえ、その辺の雑さも含めた「ゆるさ」はそのまま、国岡や他の殺し屋たちや作品全体、もっと言えば阪本ユニバース全体に通底するオフビートな空気感にも繋がっているように見えるので、これはこれで「こういうもの」として観るのが正しいのかも。

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画像出展元URL:http://eiga.com

いや、他の作品も観てみないと分かりませんけども。

とにかく、本作で阪本監督が一番描きたいのは凄いアクションでも凝ったストーリーでもなく、国岡というキャラクターと彼が過ごす日常の風景だと思うので、そこに乗れる人は楽しめるんじゃないかと思いました。

興味のある方は是非!!