今日観た映画の感想

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信じるのか信じないのか「女神の継承」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年夏に公開されたタイ・韓国合同制作のホラー映画『女神の継承』ですよ。

あの2016年公開「哭声/コクソン」の続編的作品ということでずっと観たかったんですが、先日Amazonレンタルに入っていたのでやっと観る事ができました。

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概要

『哭声/コクソン』などのナ・ホンジン監督が、原案とプロデュースを担当したホラー。タイの村を舞台に、祈祷師一族の家に生まれた女性が不可解な現象に襲われる。メガホンを取ったのは『愛しのゴースト』などのバンジョン・ピサヤタナクーン。サワニー・ウトーンマ、ナリルヤ・グルモンコルペチ、シラニ・ヤンキッティカンらが出演する。(シネマトゥデイより引用)

感想

哭声/コクソン」のナ・ホンジンがプロデュース

本作は、「チェイサー」「哀しき獣」そして2016年公開「哭声/コクソン」を手掛けたナ・ホンジンが原案・プロデュースを務め、ハリウッドリメイクもされたホラー映画「心霊写真」「愛しのゴースト」などのバンジョン・ピサンタナクーンが監督を務める、タイ・韓国合同作品です。

哭声/コクソン」の続編的立ち位置の作品であり、ナ・ホンジンが同作に登場した祈祷師の物語を思いついたことから企画がスタート。その構想はタイの祈祷師をモチーフに、本作へと受け継がれたわけですね。

今もピー(精霊)信仰が残るタイ東北部イサーン地方で、地元の神、バ・ヤンの依り代として代々祈祷を行う女性二ムを追ったドキュメンタリーの取材を行うチームは、彼女の姉の夫の葬儀で姪・ミンの奇行を見て、彼女がバ・ヤンの次の巫女に選ばれたのではと考え、彼女に密着する。

しかし、ミンに憑いているのがバ・ヤンではないと見抜き、彼女にとり憑いているモノの正体を探っていくのだが――というストーリー。

モキュメンタリー映画

本作はドキュメンタリーの体で物語が進む、いわゆるモキュメンタリー形式の作品で、映画冒頭で二ムがインタビュアーの「祈祷で病気を治しますか」という質問に「もしガンの人が来たら医者に行くよう勧める」「自分が治すのは霊的要因の病い」と答えることで、彼女がカルト的思考の持ち主ではなく、冷静な現代的感覚を持つ人であることが示されます。

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元々バ・ヤンに選ばれたのは彼女ではなく、彼女の姉でミンの母親でもあるノイでしたが、ノイが巫女を拒否しキリスト教に改宗したため、バ・ヤンの魂は妹であるニムに移り、彼女が巫女を継ぐことになったんですね。

一方、ノイが嫁いだ夫・ウィロイの家系の男性には常に不幸が降りかかっていることを、ニムはウィロイの葬儀に向かう車中で語ります。ウィロイの祖父は労働者の投げた石が頭に当たって死に、ウィロイの父は工場が倒産。保険目当てに工場に放火した後、軸毒自殺。ウィロイ本人はガンで死に、ウィロイの息子マックはバイク事故で死んでいるんですね。

そんなウィロイのお葬式では、ノイと二ムはあまり良い関係ではないこと、ミンはシャーマニズムをまったく信じていない事が分かります。

しかし、通夜の夜、突如親戚の男性に向かって激高し、壁に向かって独り言を言うなど、ミンの奇行を見たドキュメントクルーは、彼女がバ・ヤンの巫女に選ばれたのではないかと思い(バ・ヤンの巫女に選ばれると心身に異常が出る)、彼女にも密着取材を行い、そして自体はどんどん恐ろしい方向に向かっていくのです。

信じるか信じないか

そんな本作のテーマは1973年公開の「エクソシスト」を始めとした、数々の悪魔祓い映画、そしてナ・ホンジン監督の「哭声/コクソン」と通底しています。

それは、物凄く乱暴に言えば「神を信じるか信じないか」

エクソシスト」で悪霊と対峙するカラス神父は神を信じられずにいるし、悪魔パズズとの戦いで命を落としたメリン神父も2004年公開の「エクソシスト・ザ・ビギニング」では神の存在を信じられずにいました。そして、キリスト教における悪魔の多くは、元を辿れば土着信仰の神・精霊だったりもしますよね。
「哭声/コクソン」の主人公ジョングは、後半で一体何を信じ、何を信じないのかの決断を迫られます。

本作もまた、上記の作品群とテーマを同じくしているんですが、「エクソシスト」でのキリスト教が、本作では土着の女神バ・ヤンに置き換わっているんですね。

というわけで、ここからはネタバレありの感想になるので、まだ本作を未見の方、ネタバレ許さないと言う人はお気を付けください。

 

そんな感じで、二ムが調査を進める間にも、ミンの奇行はどんどん常軌を逸していきます。

突如周囲の人々に毒づいたり、自分の仕事先(タイのハローワーク)に夜な夜な男を連れ込みSEXしていたり、生肉を食べたり、テーブルの上で放尿したり、飼い犬を煮て食べたり、自分の甥っ子を誘拐したり、行方をくらませたり。

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当初はミンの奇行は女神バ・ヤンの依り代に選ばれたからだと思われていましたが、ニムは調査の末に、息子マックはバイク事故ではなくミンとの近親相姦を家族に咎められての自殺だという事を突き止め、ミンの奇行はマックが彼女をあの世に連れ去ろうと祟っているのだと推測。マックを鎮める儀式を行うのですが、ひと月にも及ぶ儀式の最中「騙された!」と言って、ミンの祖父が放火した工場に向かうんですね。

ミンにとり憑いていたのは、バ・ヤンでもマックでもなく、ミンの父方の祖先の怨念をその身に受けていたからで、それは、呪われた一族の父親・ウィロイと女神バ・ヤンを拒絶した母親ノイが結婚した時点で、決められた運命だということなんですね。

まさに、親の因果が子に報いってやつです。

そこから先の展開はまさにアクセル全開。

自分の力では手に負えないと、仲間の祈祷師サンティに協力を依頼したニムが次の吉日にお祓いを行うと決めるも、その前日ニムは原因不明の突然死。

お前、主人公ちゃうんかーい!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ

それでもニムの志を継ぎ儀式を決行するサンティ。

儀式は、ミンの祖父の廃工場の周りに結界を張り、工場内でノイに悪霊を憑依させた後、その悪霊を壺に閉じ込め、工場敷地内に掘った穴の中に埋めて封印するというもの。

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一方のミンは、お札が張られた自分の部屋に閉じ込められていて、ドキュメントスタッフと、叔母が見張っているんですね。

そして、ノイに憑依した悪霊を壺に閉じ込め、封印まであと少しというところで、カメラはミンの自宅に変わり、部屋の中からミンが「何で私閉じ込められているの?」「出して」と言い始める。そんなミンの様子に「儀式が成功したのかしら」というミンの叔母ですが、「まだ連絡が来ていないので開けてはいけません」とドキュメントスタッフ。

すると、部屋の中から叔母の息子の泣き声が。いつの間にかミンの部屋に連れ去られた!? と半狂乱の母親は、スタッフをぶん殴って部屋のドアを開けてしまいます。

すると、そこにいは後ろ向きのミンが赤ん坊の泣きまねをしていて――。

ここからは大殺戮ショーの開幕。

まず手始めに叔母とスタッフをぶち殺したミンは、事のついでに自分の甥っ子を美味しく召し上がり、ミンが解放されたことで儀式が失敗した工場跡では結界を守っていたサンティの弟子が獣化してスタッフを襲い、工場内ではサンティの弟子が見ずから壁に頭を打ちつけて自殺するわ、サンティは壺を抱えたまま飛び降りて体がマジ卍みたいになって死んじゃうわ、大パニックの中、突然ノイが「バ・ヤンを感じるわーー!ホホホホー」と笑い出し、そこに現れたミンを制圧――したかに思われたが、ミンの「お母さん」という呼びかけで我に返ってしまい敗北。最後はガソリンをかけられ燃やされてしまいましたとさ。

そして、スタッフが落としたカメラがとらえた最後の映像は、ミンの姓である「ヤサンティア」とラベル付けされた、針が突き出たブードゥー人形だったわけです。

これで終わりかと思ったら、死の前日の二ムが映し出され、彼女は「実は以前から自分がバ・ヤンの霊媒になっていた感覚を持っていなかった」と告白して物語は幕を閉じるんですね。

正直クライマックスの大殺戮ショーは、まさにホラー映画全部盛りと言う感じで、いくら何でもやり過ぎではと感じましたが、まぁ、これもお国柄ってやつなのかな?

あと、本作は生理的に嫌なシーン(ミンがワンコ食べたり、放尿したり)は多いですが、いわゆるジャンプスケア(ワッと脅かされるやつ)はほぼないので、ジャンプスケアが苦手な僕も安心して観られました。

祈祷師ニム役のサワニー・ウトーンマさんの、いかにも普通の叔母さんっぽい佇まいなんかは、あまりケレン味がない分、霊媒師・シャーマンとしてのリアルさがあって良かったですねー。

あと、中盤のミンの奇行は、「怖い」っていうよりミン役のナリルヤ・グルモンコルペチさんが頑張ってるなーと思っちゃいました。

実際、本作の恐怖シーンの殆どは、彼女の頑張りによって成り立っているんですよね。

そんな本作の何が怖いのかというと、何一つ確かなものがないというところ。

例えばミンの奇行の数々も、単純に彼女が精神的に病んでいたり、普通に性格が悪かったり、ビッチだったりするかもだし、ミンとマックが近親相姦をしているというニムの言葉も、結局それを証明するシーン、例えば家族の証言などは一つもなく、あるのはニムが発見した兄妹仲睦まじい写真のみなんですね。つまり、それはただニムの思い込みだったかもしれない、親の因果でミンが呪いを受けているというサンティの言葉も、言葉だけで確かなものはなにもなく、本作で起こっている現象も理屈で説明しようと思えば出来なくはない。

その一方で、全てが本当に悪霊や女神バ・ヤンが起こした超常的な出来事かもしれないわけで、何を信じて何を信じないかは、観ているこっちに丸投げされているのです。

その辺もまた「哭声/コクソン」と共通しているので、コクソン好きの人は本作も楽しめるんじゃないかと思いましたねー。

あと、お国柄と言えば本作で僕が一番衝撃を受けたのは、ミンの父・ウィロイの葬儀の様子で、原色のネオンライトみたいのがチカチカしてたり、火葬の時も棺をガソリンの入った袋の上に置いて、そこにロケット花火で着火するんですよ!

マジか!!って思ってググってみたら、本当に火葬の時はそうするみたいで、2度驚きましたよw

最後は映画と関係ない話になってしまいましたが、個人的にはかなり楽しめた映画でした。

興味のある方は是非!!

普遍的な家族の物語「フェイブルマンズ」(2023)

ぷらすです。

スティーブン・スピルバーグ最新作『フェイブルマンズ』を、公開初日、初回に行ってきました。

スピルバーグの半自伝的作品と聞いて「あの作品やあの作品の裏側とか描かれるのかしらん」とワクワクしながら観に行きましたが、結論から言うと本作は、もっと普遍的な家族の物語でしたねー。

というわけで今回は、まだ公開したばかりということで、出来るだけ内容に触れないよう気を付けてこの感想を書きますが、まだ本作を未見と言う人、ネタバレ許すまじと言う人はお気を付けください。

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概要

E.T.』など数多くの傑作を生み出したスティーヴン・スピルバーグ監督の自伝的作品。映画に心を奪われた少年がさまざまな人々との出会いを通じて成長し、映画監督になる夢を追い求める。『デッド・シャック ~僕たちゾンビ・バスターズ!~』などのガブリエル・ラベル、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』などのミシェル・ウィリアムズ、『ルビー・スパークス』などのポール・ダノのほか、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュらが出演。第47回トロント国際映画祭で最高賞に当たる観客賞を受賞した。(シネマトゥディより引用)

感想

スピルバーグの半自伝的物語

おそらく、映画をほとんど観ない人でもその名前は知っているであろう映画監督、スティーブン・スピルバーグ

ジョーズ」「ET」「インディー・ジョーンズ」「シンドラーのリスト」「ジュラシック・パーク」「プライベート・ライアン」などなど、どの世代の人でも彼の作品を1作は観ているのではないかと思います。

かく言う僕は、まさにスピルバーグドンピシャ世代で、スピルバーグの映画で育ったと言っても過言ではありません。

そんなスティーブン・スピルバーグ監督39作目となる本作『フェイブルマンズ』は半自伝的映画だと聞き、「一体どんな映画になるのか、もしかしてあの作品やこの作品の裏話が見られるんだろうか」と楽しみに観に行ったんですが、結論から言えば本作は、映画人スピルバーグではなく、スピルバーグ少年が映画人になるまでを描いた物語でした。

物語はスピルバーグの分身、サミー・フェイブルマンが幼少時代両親と映画を観るところから始まります。

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暗いのが嫌だゴネるサミーに、映画の理屈(1秒間24コマの写真がスクリーンに映写されることで写真が動いて見える云々)を説明するエンジニアの父親、映画の面白さを感覚的に話す母親。この冒頭数分のシーンで、両親のそれぞれの性格や、今のスピルバーグ監督の基礎が両親にあることを端的に説明していて、もう、どんだけ映画上手いんだよスピルバーグ!って思いましたよ。

そんな彼が始めて観た映画が「史上最大のショウ」(52)。

自動車と列車がクラッシュし、大脱線事故を起こすシーンに衝撃を受けたサミーは、父に買ってもらった鉄道模型とミニカーをクラッシュ。鉄道模型は壊れ父親に怒られるも、サミーがやろうとしたことを察した母親は、もう一度クラッシュさせて、それを父親の8㎜カメラでフィルムに残す事を提案。

こうして映画製作に夢中になったサミーは、最初は姉妹や家族を、やがて友人とともに8㎜映画を作り続けながら、映画の娯楽性を学ぶ一方で、その卓越した感性と観察眼ゆえにフィルムが映し出す真実に傷つき、愛する家族をも傷つけてしまうことで映画の残酷さを知っていくんですね。

ラブストーリー

映画ファンには、彼が映画作品に自身の経験を投影し続けている事を知る人も少なくないと思います。

特に彼が幼少のころから母とのケンカが絶えなかった父親が、離婚後子供たちを捨てて家を出た経験はスピルバーグの心に深い傷を残し、主人公が家族を捨ててUFOに乗って行ってしまう「未知との遭遇」を始め、数々の映画で父親の不在、もしくは子供たちとコミュニケーションの取れない父親が描かれています。

しかし、1989年以降、2度の結婚と7人の子供に恵まれ、また両親が長い別離を経て再び寄り添い始めたこともあってか、スピルバーグ自身も父親との関係を修復。そうした父親との関係性の変化は、以降の作品にも反映しています。

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それらの経験を経て、本作は半自伝的作品でありながら、実質、主人公はサミーの両親と言っても過言ではありません。

自由奔放で芸術家肌の母親と、真面目でもろに理系の父親。

そんな両親に愛されながらも、時にはぶつかり反発してしまうサミー。

御年76歳のスピルバーグは、そんな両親、そして”あの時の自分“を慈しむように本作を描いているんですね。

それはある意味、あの時もっとこうしていれば――という少年時代のやり直しにも見えるし、年齢と経験を重ねた今の自分だから分かる両親の気持ちに寄り添って描いた作品とも言えるのでしょう。

本作は、そういう意味でスピルバーグが両親に送るラブレターであり、愛し合いながらも離れざるを得なかった両親のラブストーリーでもあるのです。

だからこそ、映画や映画作りにさほど興味のない人にも、本作はきっと心に刺さる物語になるのではないでしょうか。

映画作りの楽しさと怖さ

それはそれとして、そこはスピルバーグ映画なので、彼が作る8㎜映画の制作風景などと完成したフィルムの上映会は観ていて心躍るし、逆に、父親に頼まれて撮った家族キャンプのフィルムや、高校時代に引っ越した先で受けるユダヤ差別に対し、(自身の意図ではないにせよ)撮影した映画の暴力性に怯えながら、それでも映画から離れられないスピルバーグの業など盛りだくさんの内容で、ほぼ3時間と長尺な作品ながら、観ている体感としてはあっという間に終わってしまったという感じ。

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観ながら何度も涙したし、めっちゃ楽しんだし、結論としては、やっぱスピルバーグはホント映画神男だな!って思いました。

興味のある方は是非!!

 

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ジョージ・ミラーが描く”愛の物語“「アラビアンナイト 三千年の願い」(2023)

ぷらすです。

昨日、ジョージ・ミラー監督最新作、『アラビアンナイト 三千年の願い』を観てきました。

ジョージ・ミラーと言えば「マッドマックス」というジャンルを生み出し、2015年公開「~怒りのデスロード」では、世界中のファンを熱狂させた監督。

そんな彼の次回作は、てっきり「~怒りのデスロード」の前日譚となる「フュリオサ」だと思っていたところに、突如公開されたのがこの作品だったんですね。

というわけで今回は、前半ネタバレなし、後半ネタバレありで自分なりの考察などもしていきたいと思うので、本作を未見の人、ネタバレは嫌と言う人はお気を付けください。

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概要

マッドマックス 怒りのデス・ロード』などのジョージ・ミラーがメガホンを取り、A・S・バイアットの短編集を原作に描くファンタジーイスラムの説話集「アラビアンナイト」をモチーフに、長い間幽閉されていた魔人と学者による時空を超えた旅路を描く。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でもミラー監督と組んだ製作のダグ・ミッチェル、撮影のジョン・シール、音楽のトム・ホルケンボルフらが再集結。『ビースト』などのイドリス・エルバ、『ヒューマン・ボイス』などのティルダ・スウィントンらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

ジョージ・ミラーと本作

僕的には何の前触れもなく突如公開された印象の本作ですが、実はASバイアットが1994年に発表した短編集「The Djinn in the Nightingale's Eye」の一篇の映画化であり、ミラー監督は90年代には本作の映画化権を手に入れ、「ロレンツォのオイル/命の詩」で脚本を担当したニック・エンライトと共に脚本の準備をしていたという事なので、かなり長い間準備していたようです。

しかし、2003年エンライトが癌で死去。

彼が生前「僕が死んだらオーガストに任せるといい」と言っていた事から、実の娘でもあるオーガスタ・ゴアとの共同脚本で本作は制作されたんですね。

そんな本作のストーリーをざっくり紹介すると、物語や神話を研究するナラトロジー(物語論)の専門家アリシアは講演で訪れたトルコのイスタンブールで美しい小瓶を見つけ購入。その小瓶を磨くと蓋が外れ、中から魔人(ジン/精霊)が。

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「瓶から出してくれた礼に願い事を3つかなえよう」というジンですが、職業柄「願い事叶える系」の物語はハッピーエンドにならない事を知っているアリシアは彼の誘いには乗らず、ジンは彼女の信用を得るため3人の女性との物語を語り始める――という物語。

アリシア役はアカデミー俳優でもある名優ティルダ・スウィントン。ジン役は2018年「最もセクシーな男性」に選ばれ次の007という噂もあるイドリス・エルバがそれぞれ演じています。

あと、本作のタイトルに「アラビアンナイト」とありますが、ジンが語る物語は主にオスマントルコが舞台であり、アラビアンナイトとは基本無関係らしいですよ。

物語の物語

そんな本作を一言で言うなら「物語の物語」でしょうか。

本作はトルコ行きの飛行機でのアリシアの語りからスタート。ラストも彼女の語りで幕を閉じます。そして彼女が語るのは魔人が語った4つの物語で、つまり本作はジンの語る物語をアリシアが語るという入れ子構造になっているんですね。

アリシアはジンに会うよりずっと前、少女時代から孤独を好み、学生時代はイマジナリーフレンドがいました。

トルコの空港や講演でも、明らかに人間ではない何者か(ジン?)と接触したりしていて、それが実際にいたのか、それとも彼女の想像の産物なのかはぼやかされています。

もしかしたら、そんな彼女だからこそジンと出会う事が出来たのかもしれません。

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そして、ジンに願い事を言うように言われるアリシアですが、彼女は「願い事を叶える物語では、必ず依頼と異なる結末を迎える」とジンの誘いに乗ろうとしません。

ですが、その実、彼女は叶えたい願い事が思いつかないんですよね。

というわけで、ここから先はネタバレしていくのでお気を付けください。

 

魔人が語る3人の女性の物語

そんな彼女の警戒心を解くため、ジンは4つ(実質3つ)の物語を語り始めます。

1つ目はシヴァの女王の物語。

人間とジン/精霊の間に生まれたシヴァの女王の元に、ソロモン王が求婚に訪れます。

ソロモン王は「全ての女性が望む事とは」という女王の質問に正解、見事女王のハートを射止めるんですね。女王に恋していたジンは大ショック。ベッドを共にする二人を覗き見ていたところを、ソロモン王の魔法によって真鍮の瓶に閉じ込められたうえ、深海に捨てられてしまうんですね。

2つ目はムスタファ王子に恋した奴隷の少女グルテンの物語。

ソロモン王の時代から2000年後、サビと海中の汚れで覆われ石と間違えられた真鍮の瓶はムスタファ王子の城の外壁に使われていました。
美しいムスタファ王子に一目ぼれし、外壁から彼を覗き見ていた奴隷の少女グルテンは足を踏み外し、その拍子に真鍮の瓶を発見。

周りにこびり付いた汚れを落とし、蓋を開けるとジンと出会います。

ジンの力でムスタファ王子に愛され、彼の子を身ごもったグルテンでしたが、スルタン・スレイマン王の寵愛を受ける妾のハーレムは、ムスタファが王座を狙い王への謀反を企てていると唆し、王はムスタファ王子を殺害。ジンはムスタファが殺された事を伝えグルテンが助かるよう願えと言いますが、それを信じないグルテンはお腹の子共々王の部下の殺されてしまい、真鍮の瓶を他の者に見つからないよう浴室に隠させたことで、ジンは城を彷徨う存在になってしまうのです。

3つ目は、ムラド王とその弟イブラヒムの物語。

グルテンの死から100年間、城を彷徨っていたジンはある日自分の気配を感じられる少年に出会います。

その少年は後のムラド王で、ジンは彼を誘導し真鍮の瓶を見つけさせようとしますが、瓶の上にある重い石畳みは子供の力では動かすことが出来ず。

そのまま年月は過ぎ、ムラド王子は戦地に出陣。後継者を失わないよう女王は弟のイブラヒム王子を城の一室に閉じ込め、デブ専のイブラヒムはその一室にデブ専ハーレムを作って甘やかされる日々。そんなある日、戦地から戻ったムラド王子は血に飢えた暴君になっていました。そんな彼の死後、イブラヒムは意に反して王座に就き、イブラヒムの副官となったシュガー・ランプは偶然見つけた浴室で足を滑らせ尻もちをついたことで石畳が割れてジンの瓶を発見。ジンは喜びのあまり、すぐさま3つの願い事させようとするも、彼女の逆鱗に触れてしまい再び瓶に封印され海の底に。

4つ目は、19世紀ごろ。

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捨て子だった女性ゼフィールは年老いた商人に見初められ結婚。

しかし、学も無く礼儀や立ち居振る舞いを知らない彼女は他の妻たちや使用人からバカにされていたんですね。

しかし、実は彼女は天才的な頭脳の持ち主だったのです。

そんなある日、釣られた魚のお腹から出てきた真鍮の瓶を、老夫はゼフィールにプレゼント。彼女が蓋を開けるとジンが現れ、彼女はジンに文字と知識を願うんですね。

乾いた土が水を吸うようにあらゆる知識を身につけていくゼフィールに恋をしたジンは自分の知識や魔法を彼女に教え、好奇心旺盛なゼフィールは世界の真理に辿りつくのですが、しかし、そんな彼女の頭脳と自身を取り巻く状況のギャップに精神的限界を迎えた彼女は、「ジンと出会わなければよかった」と願ったことで彼の事を忘れ、ジンはガラス瓶の中に封印されてしまい——、そしてアリシアと出会うわけです。

この4つの物語を聞いたアリシアは、ジンに対し「私とあなたが愛し愛されるように」願います。

ここ、かなり急展開というか、それまでジンに対してかなり懐疑的だったアリシアが彼に恋する心境の変化が分かりずらいので、最初は「え、どういうこと!?」ってなったんですが、恐らく4つの物語を聞いて彼女はジンと自分が同じだと思ったんじゃないでしょうか。アリシアは物語の構造を研究する学者、つまり物語の外にいる存在。対するジンも3人の女性(と二人の王子)の物語を外から眺める存在なんですよね。

二人とも物語を語ることは出来ても、物語の登場人物にはなれない。それに気づいたアリシアは、ジンに対して深く共感し、彼を受け入れることで共に物語の登場人物になりたいと願ったのではないかと。

そして、一緒にアリシアが住むイギリスに戻るも、イギリスではジンの力が急速に弱まっていく事を知ったアリシアは、残り二つの願いをジンの為に使うことで、物語の主人公になったとも言えるのかなと思ったりしました。

アリシアと3人の女性

同時に、ジンが語った3人の女性は、アリシアの先祖、もしくは前世なのではないかとも考えたりしました。

シヴァの女王がソロモン王と出会った時、つばを飲み込むカットが印象的に差し込まれます。そして、3人の物語を聞いているアリシアも途中唾を飲み込むカットがあるんですね。また、冒頭飛行機の中で仕事をしているアリシアはずっと貧乏ゆすりをしてるんですが、3人目の女性ゼフィールも勉強中はずっと貧乏ゆすりをしているんですね。

また、シヴァの女王はジンと人間のハーフなので、その血を引いている、もしくは生まれ変わりであれば、アリシアがイマジナリーフレンドや、人外の何かを視てしまう事も不思議ではなく、そう考えればアリシアがジンに恋をしたのも、長い年月で繰り返し出会った2人が、4度目の出会いでついに結ばれた純愛の物語ともとれるかな?なんて思いましたねー。

舌っ足らず

まぁ、そうは言っても本作はやや舌っ足らずな印象をぬぐい切れないのもまた事実。

それが一番目立つのが、前述したようにアリシアがジンに恋するシーン。

恐らくアリシアは、ゼフィールとの物語に心打たれてジンに恋をしたんだと思いますが、そこはもう少しアリシアの心の動きを表現するシーンが欲しかったかなと。

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また、ジンが入った瓶を赤外線にかけようとした税関をアリシアが止めようとしたり、イギリスに来てジンが死にかけるという流れも、一応流れの中でジンは電磁波で構成されていて云々=電波や電磁波がジンに悪影響を与える的なロジックは語られるんですが、あそこももう少し丁寧に語られれば、もっと物語に入り込めたのかな?なんて思いましたねー。

映像やエフェクトなどはとても綺麗で、またカットやショットなども流石はジョージ・ミラーらしい広がりと奇想天外なイメージが見えて、ある意味で、小作品ながら安っぽさは一切ない素晴らしい映画だっただけに、正直ちょっと残念だったかも。

ただ、「物語は人間を救う」「人間は物語によって構成されている」というテーマを思いっきり描いてくれているのは、物語を愛する者としてはとても嬉しかったです。

興味のある方は是非!!

MCU第2章の幕開け「アントマン&ワスプ:クアントマニア」(2023)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、アントマンシリーズ3作目にして、MCU31番目の作品にして、MCUフェーズ5第1作となる『アントマン&ワスプ:クアントマニア』ですよー!

公開初日の今日、さっそく劇場で観てきました!

というわけで、今回はMCU最新作であり、まだ公開したばかりでもあるので、出来る限りネタバレしないように気をつけますが、ほんの少しのネタバレも嫌!って人は先に映画を観てから、この感想を読んで下さい。

いいですね?注意しましたよ?

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概要

マーベルのキャラクター・アントマンを実写映画化した『アントマン』シリーズの第3弾。体長1.5センチになれる特殊なスーツを身に着けた主人公が、量子世界に引きずり込まれてしまう。ポール・ラッドエヴァンジェリン・リリーマイケル・ダグラスらキャスト陣、監督のペイトン・リード、製作のケヴィン・ファイギも続投。ミシェル・ファイファー、ジョナサン・メジャース、キャスリン・ニュートンビル・マーレイらもキャストに名を連ねる。(シネマトゥディより引用)

感想

アントマンとは

アントマンMCUヒーローの一人でアベンジャーズメンバーでもあります。

MCU初登場は2015年。フェーズ2最終作としていきなり単独作品で初登場するわけですが、最初「アントマン」という名前を聞いた時は「おいおいアリってなんだよw」と、正直まったくテンションが上がらなかったというか、ぶっちゃけそれまでのアイアンマンやハルク、キャップやソーなどのヒーローと比べてあまりにも異色なヒーローだったんですよね。

でも、いざ観てみたらこれがメッチャ面白い
そもそも主人公が負け犬のコソ泥っていうところからビックリですが、アントマン最大の特徴。スーツを使って体の大きさを変えられるという能力、特に体を小さくしたアントマンの目で見る世界を映像を通して見る新鮮な面白さや、丁度他のMCU作品の内容が重くなり始めていた頃に、コメディチックな作品の軽やかさも相まってメッチャ面白かったんですよね。

そんなアントマンことスコット・ラングは、その後のMCU作品の節目で重要な役割を果たすキャラクターになっていて、「アベンジャーズ・エンドゲーム」でアベンジャーズが一度は敗れたサノスとの戦いで逆転勝利を収めるキッカケを作ったのも、彼だったんですよね。

そして、MCUフェーズ5第1作となる本作「アントマン&ワスプ:クアントマニア」では、おそらく今後のマルチバースサーガを通して、サノス以上のラスボスとなるであろうヴィラン・征服者カーンと闘うことになるんですね。

量子世界を舞台に

そんな本作のストーリーをざっくり説明すると、サノスとの戦いに勝利した後、平和を謳歌していたスコット・ラングポール・ラッド)。
そんな彼の悩みのタネは正義感の強さゆえに暴走しがちな娘キャシー(キャスリン・ニュートン)。彼女はハンク・ピムマイケル・ダグラス)、ホープエヴァンジェリン・リリー)の協力を得ながら今後の脅威に備えて量子世界の全容を把握するべく、量子世界と実世界を信号で繋ぐ人工衛星を開発。
家族にお披露目するも、その信号を量子世界にいる恐るべき敵、征服者カーン(ジョナサン・メジャース)に発見され、家族もろとも量子世界に吸い込まれてしまい――というストーリー。

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量子世界は、アントマン3部作すべてに関わる世界で、乱暴に言うならミクロのその先にある世界なんですね。

初代ワスプのジャネット・ヴァン・ダインミシェル・ファイファー)がソ連の核ミサイルを止めるため、体を縮小させすぎたことで、30年量子世界に閉じ込められたり、そんなジャネットを救いにスコットが量子世界に行ったその時、サノスの指パッチンで妻ホープと義父ハンクが消えてしまい、5年間量子世界に閉じ込められたり、それがきっかけで「エンドゲーム」でタイムマシンを開発することが出来たりするんですが、本作ではついに、量子世界そのものが物語の舞台に。

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予告編でも登場しますが、量子世界には独自に進化した生態系と文明があって、普通の人間タイプだけでなく、頭がライトのライト人間やブロッコリー人間、グミっぽいのや、ビル・マーレイが住んでいるわけですが、その多種多様なキャラクターや量子世界、その世界を支配する征服者カーンと反乱軍の戦いなどは、ルックも込みでスター・ウォーズっぽさもあり、かなりワクワクしましたねー。

征服者カーンとモードック

そんな本作のヴィランとして登場するのが、征服者カーンとM.O.D.O.K.(モードック)

どちらもマーベルコミックでは大人気のヴィランあり、特に征服者カーンはマーベル世界においては最強ヴィランの一人です。

実はこの実写版カーンは本作が初登場ではなく、フェーズ4のMCUドラマ「ロキ」にも、“在り続ける者”というキャラクターとして登場。名前は違いますが同一人物で、どちらもジョナサン・メジャースが演じています。

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ただ、原作コミックでのカーンは非常に設定のややこしいキャラクター。

過去・現在・未来、あらゆるタイムライン、ユニバースに存在し、その全てを行き来でき、タイムラインを移動するたびに(並行宇宙とともに)増えていき、1人倒してもすぐ次のカーンが現れるので、実質倒すことが不可能なのだとか。

もっと平たく言えば、超未来から超化学で作った、超凄い武器を持ってタイムマシンでやってきた超ヤヴァイやつで、その超凄い武器と交渉力でその世界の住人を支配するのが特徴らしいです。

で、もう一人のヴィラン、M.O.D.O.K.(モードック)も、原作では人気のヴィランらしいんですが、実写作品では今回が初登場。マーベル世界のヴィランとしては、こちらもかなり強いらしいんですが、なんせ巨大な頭に小さな手足といういかにもマンガっぽい見た目なので、実写では中々登場させられなかったみたいです。

しかし、本作の多種多様な生物がいる量子世界ならイケる――、ということで、ついにMCU初登場となったんですね。

ファミリー映画

そんなアントマンシリーズに通底するテーマの一つが「家族」

本作では、初代アントマンであるハンク・ピムと初代ワスプの妻ジャネット、そして二代目ワスプで娘のホープと二代目アントマンで婿養子のスコット、そしてスコットの愛娘キャシーと、ついに親子三代勢ぞろいで強敵カーンに挑む事になります。

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過去・現在・未来、全てのユニバース(世界)を支配するカーンに、家族という最小単位のコミュニティーで挑むというある種の対比構造にもなっているのが面白いところだったりするし、アントマン=最小ヒーローというキャラ設定にもかかっているのかなと思ったりしました。

MCU第二章の幕開け

本作では、アベンジャーズとして世界を救ったスコットの自伝に書かれている「小さな者を見逃さない」という一文が度々引用されます。

これはもちろん、アントマンが最小のヒーローであることにかけているわけですが、同時に本作の大事なテーマにもなっています。

原作では初代アントマンとして活躍したハンク・ピム。
しかし彼もまた、カーン同様非常にややこしいキャラクターで、アントマンとして活躍した期間はごくわずか。すぐに「アリとか超ダサくね?」となって、今度は大きくなってジャイアントマンというヒーローにジョブチェンジ、さらにゴライアスと名前を変え、実験中の事故により統合失調症になって逆の人格を持つイエロージャケットになるなどなど、とにかくキャラ変が多いんですね。

で、アントマンって、アリの様に小さくなれるから―と誤解している人も多いかもですが、実はそうではなく、アリと会話・協力できるからアントマンなのだそう。

MCU版では、2代目のスコットがフューチャーされてて、ハンクはサポーター枠というか、面白おじさん枠として登場していたんですが、本作のクライマックスではしっかり初代”アントマン”としての活躍を見せてくれたんですね。

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僕もみんなのピンチにハンクが颯爽と登場したあのシーンでは、ぶち上ってしまいましたよ!

そして、量子世界というミクロよりも小さな世界で、アントマン&ワスプ&キャシー家族と、量子世界の住人達が協力し、あらゆるユニバースを支配する強大な敵・征服者カーンと対決するという展開は、いわゆる大国のエゴや傲慢さに苦しめられる小国という現在の世界情勢、特に最近で言えばロシアとウクライナの戦争を思い起こさずにはいられません。

もちろん、現実世界のあれやこれは一回脇に置いたとしても、本作のストーリーは普遍的で誰もが楽しめるようになっているし、なんなら今までMCU作品を見たことがない人でも本作から楽しめるのではないかと。それで面白かったら遡って過去作品を観るのもアリだと思いました。

サノスを倒すという物語の道筋がハッキリ見えていたから楽しかったフェーズ3までと比べ、どこに向かおうとしているのか道筋が見えなかったことからモヤモヤも多かったフェーズ4でしたが、フェイズ5第一弾として倒すべき敵の姿が見えたことで、今後の道筋がハッキリした本作は、まさにMCU第2章の幕開けとなる作品になったと言っても過言ではないと思いましたねー!

興味のある方は是非!!

 

 

 

どこを切ってもマイケル・ベイ「アンビュランス」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、みんな大好きマイケル・ベイ監督最新作『アンビュランス』ですよー!

2時間16分の上映時間、どこを切り取ってもマイケル・ベイ印でしたねー。

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概要

トランスフォーマー』シリーズなどのマイケル・ベイ監督によるカーアクション。瀕死(ひんし)の警察官を乗せた救急車を銀行強盗が逃走のためにジャックしたことで、街中を巻き込む追走劇へと発展する。人質を死なせずに警察の追跡をかわそうと奮闘する兄弟を、『エンド・オブ・ウォッチ』などのジェイク・ギレンホールと『キャンディマン』などのヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世、彼らの逃走に巻き込まれた救命士を『ブラッドショット』などのエイサ・ゴンサレスが演じる。(シネマトゥディより引用)

感想

破壊王復活

マイケル・ベイといえば、スタイリッシュな映像、超ド迫力のアクション、グリングリン動きまくるカメラワーク、カラフルな色彩設計など、彼独自のセンスと撮影技法が、ファンから「マイケル・ベイ」と「Mayhem(破壊行為)」を合わせた、通称「ベイヘム」というミームになるくらい作家性の強い監督です。

特にカーアクションと爆破・破壊シーンには並々ならぬこだわりがあり、スピード感あふれる映像を撮るために地面すれすれにカメラを据え高速で走るゴーカート・通称「ベイ・ボマー」や、車と車に激突する様子を撮影するために作られた装甲車のような「ベイ・バスター」、屋根に大型のリモコン駆動の無人クレーンカメラが付いたほぼ360℃の角度で撮影できる車両「カイエン」など、迫力のある映像を撮影するため、独自の特殊車両まで開発しているんですね。

また、安価に撮影出来ることから近年どんな映画でも使われているドローン撮影も、本作ではドローンの競技パイロット世界チャンピオン、アレックス・バノーバーを起用。

ビルの屋上から壁面に沿って地面に落ちるドローンが、地面スレスレで捻って、そのままジャンプするパトカーの下を潜り抜けるという、いまだかつて誰も見たことのない、とんでもない映像を見せてくれるのです。

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そんなベイですが、前作「6アンダーグラウンド」はネットフリックス配信で、自身が監督する劇場公開作は2017年の「トランスフォーマー/最後の騎士王」以来5年ぶり。

こまれでのベイ作品に比べれば低予算ながら、本作は多くのファンに破壊王マイケル・ベイ復活を印象付けたんですね。

モブにもちゃんとキャラ付け

そんな本作の内容をざっくり説明すると、妻の手術のための保険金が下りず、しかし、手術のために何としても231,000ドルが必要なウィル(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は、義兄のダニージェイク・ギレンホール)に借金を申し込む。

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するとダニーにフェデラル銀行から運び出される予定の3200万ドルの銀行強盗に参加させられるも計画は失敗。救急車を奪った2人は、瀕死の警官ザックと救急救命士キャムエイザ・ゴンザレス)を乗せたまま何十台ものパトカーやヘリを相手に逃走劇を繰り広げるという物語。

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2005年製作のデンマーク映画「25ミニッツ」のリメイクながら、そこはしっかりベイ印になっていて、特に個人的に感心したのは、ダニーの強盗仲間や、キャムにスマホで手術法を教える3人の医師などのモブキャラにも、しっかりキャラ付けをしてるんですよね。

アクションと爆破と破壊ばかり取り上げられがちなベイですが、そういう細かい部分もしっかり描くことで物語に厚みを持たせているんですよね。

まぁ、そのせいで上映時間が長くなってるわけですがw

ジェイク・ギレンホールがちゃんとバカ

金に困っているウィルを銀行強盗に誘う義兄のダニー。

演じる ジェイク・ギレンホールの見た目も手伝って、一見、情に厚くデキる男っぽいんですが、実は計画が穴だらけだったり、刑事との交渉でぶち切れて怒鳴ったり。

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思えばマイケル・ベイのクライム映画って、主人公がちゃんとバカに描かれる事が多いんですよね。もちろんその方が面白いからってのもあるんでしょうが、犯罪者をバカで間抜けに描くところにマイケル・ベイの良心が垣間見えるし、やった事の分だけひどい目に遭う因果応報なところは、何気にちゃんと道徳的だったりするんですよね。

一方で手術中に目を覚ました警官のザックをウィルがぶん殴って気絶させる――みたいな不謹慎ギャグも満載なんですけけどもw

つじつまの合わなさに気づく前に

ここまで褒めると超完璧な映画っぽいですが、もちろんそんなことはなく。

映像的にもストーリー的にも「え?」「あれ?」となる部分は決して少なくありません。しかし、そうした粗にツッコミを入れる前にパトカーや車がじゃんじゃんクラッシュ・爆発し、拳銃やマシンガンを景気よく撃ちまくるド派手なシーンがやってくるので、少なくとも観ている間は気にならないし、なんだかんだエモーション描写も上手いので最後は強引に感動させられ、良いものを見た気にさせられてしまうんですよね。

ラストの親切設計

あと、本作の特徴としてエンドロールが極端に短いというのがあります。

昨今のハリウッド映画って、上映時間に比例してエンドロールもやたら長くなってるじゃないですか。

出来ればエンドロールの終わりまで観ていたいけど、こっちも膀胱の限界があるので途中でスクリーンを後にする事もしばしば。

本作の場合、上映時間は結構長めですがエンドロールをギュっとしてくれてるところに、観客の膀胱を気遣うベイのという優しさが垣間見えて、ちょっとキュンとしてしまいましたよw

興味のある方は是非!!

 

全てが過剰で楽しい「ブレット・トレイン」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、先日Amazonレンタルで観たブラピ主演映画『ブレット・トレイン』ですよー!

セットやアクション、キャラクターなどなど、とにかく全てが過剰で楽しい映画でしたねー。

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概要

映画化もされた「グラスホッパー」などで知られる伊坂幸太郎の小説を原作に、ブラッド・ピットが主演を務めたアクションスリラー。日本の高速列車を舞台に、謎の人物から指令を受けた殺し屋が、列車に乗り合わせた殺し屋たちから命を狙われる。メガホンを取ったのは『デッドプール』シリーズなどのデヴィッド・リーチ。共演には、『キスから始まるものがたり』シリーズなどのジョーイ・キング、『キック・アス』シリーズなどのアーロン・テイラー=ジョンソンのほか、真田広之マイケル・シャノンらが名を連ねる。(シネマトゥディより引用)

感想

伊坂幸太郎の原作小説をハリウッド映画化

本作は小説家伊坂幸太郎の原作小説「マリアビートル」を、「デッドプール2」や「ジョンウィック」などのアクション映画で有名なデヴィッド・リーチが監督を務め、ブラッド・ピット、「キックアス」のアーロン・テイラー=ジョンソン真田広之マイケル・シャノンら豪華キャストで制作されたハリウッド映画。

不運な殺し屋レディバグ(ブラッド・ピット)は、仕事復帰のため新感線に乗り込み、目印のついたブリーフケースを盗んで次の駅で降りるという簡単な仕事を受けるも、様々な目的から列車に乗り込んでいた6人の殺し屋の騒動に巻き込まれて――という群像劇です。

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多数のキャラクターが入り組んで絡み合う複雑なプロットの作品が特徴の伊坂作品が原作とあって、本作でも10人ものキャラクターが様々な形で絡み合いながら進む物語になっているんですね。

ただ、僕は原作未読なので、本作の内容が原作順守なのか映画だけの展開かは分かりませんが、このキャラクターたちの絡み方や伏線の張り方と回収が割と雑(というか後出しジャンケン的)なので、パズルのピースがハマるようなストーリー的快感は味わえませんでした。

その分、アクション畑のデヴィッド・リーチ監督らしく、それぞれキャラクターの特徴を生かした武器やアクションは見事で、作品自体のオフビートでありながらアッパーな雰囲気とも相まって、観ているコッチをぐいぐい引き込んでくれるんですね。

魅力的なキャラクター陣

そんな本作を彩るのは個性豊かなキャラクターと、それを演じるキャスト陣。

原作は日本が舞台なので登場人物は当然全員日本人なのですが、本作はハリウッド映画ということで、原作とは性別・人種・キャラ造形などをアレンジしているんですね。

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ブラッド・ピットが演じた「レディバ」は、原作では七尾という運のない殺し屋で、原作小説では彼は主人公ではないっぽいです。

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コンビの殺し屋「ミカンとレモン」はミカンを白人のアーロン・テイラー=ジョンソンが、レモンを黒人のブライアン・タイリー・ヘンリーがそれぞれ演じていて、レモンがきかんしゃトーマス好きな設定などは原作からそのまま流用されているようです。

本作では、別組織に誘拐されたホワイト・デスの息子と身代金を奪い返し、京都まで送り届ける任務中。

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 ジョーイ・キング演じる「プリンス」は、元は王子慧という男子中学生らしいんですが、本作では女学生に変わっていて、設定も原作とはかなり変わっているキャラクターです。木村雄一の息子・渉をビルから突き落とし、木村が新感線に乗る様仕向けています。

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アンドリュー・小路演じる「木村雄一」は、息子をビルの屋上から突き落としたプリンスに復讐するため新幹線へと乗り込むのは原作設定と同じかな?

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真田広之演じる「エルダー」は木村の父親。原作では木村茂。こちらも原作とは設定が異なっているようで、本作では過去に日本の裏社会を牛耳っていたヤクザの大親分・峰岸の元舎弟で、裏切り者のホワイト・デスに妻を殺されたという設定になっています。

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マイケル・シャノン演じる「ホワイト・デス」は、原作では峰岸に当たるキャラクター。峰岸の忠実な部下として出世するも、突然裏切り組織を乗っ取ったロシア人という設定です。

大体この辺が主要人物ですかね。

全員がそれぞれ魅力的で、例えば女子学生のプリンスは、20代のジョーイ・キングがコスプレしたような微妙な違和感が、そのままキャラクターの不気味さに繋がっていたり、そんなプリンスによって殺されかける木村を救うべく乗り込んでくるエルダー(真田広之)が登場した時の安心感とか。

そんな中でも個人的お気に入りはコンビの殺し屋ミカンとレモン。

皮肉屋のミカンと素直で純粋なレモン。

「俺は機関車トーマスからすべてを教わった」というくらいのトーマス好きで、人間を分析してはトーマスの登場キャラにハメ込むレモンと、そんなレモンの言動にうんざりしながらも、彼を信頼しているミカンは、そのブロマンス的関係性はも含めて、何だかんだで一番愛せるキャラクターなんですよね。

序盤からケースを盗まれたり、依頼人の息子を殺されたりと間抜けな二人組っぽく描かれますが、レモンは中盤でプリンスの演技を見抜く鋭さがあるし、ミカンはレディバグにハメられ駅に置いてきぼりにされそうになった時、走る新幹線に飛び乗って拳と頭突きで窓を割って新感線に戻るド根性をみせますからね。

二人が幼少期から一緒だった描写の後のある展開では、思わず泣きそうになってしまいましたよ。

全てが過剰で楽しい

そんな本作は、ストーリーや設定、アクション、キャラクター、セットなど、全てが過剰。そこを楽しいと思えるかどうかが評価の分かれ目だと思いますが、個人的には、ネオンビカビカなトンデモTOKIOや新幹線の中のセットも、鬼面をつけたキルビルっぽいヤクザのみなさんも、ぶっ飛んだ設定の殺し屋たちも、全部楽しく観ましたねー。

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変にリアルっぽくされるくらいなら、このくらい突き抜けたトンデモ描写の方がむしろ爽快ですし、新幹線を舞台にヤクザと殺し屋が大乱闘とか、新感線と新感線が激突して大惨事(ただし主要人物は無事)なんて描写、日本映画では絶対出来ませんからね。

気になった点

ただ個人的に、ストーリー的に無理と矛盾とツッコミどころが多いのは仕方ないとして、気になったのは真田広之と木村役を演じるアンドリュー・小路が日本語で話すシーン。

まぁ(多分)日系アメリカ人のアンドリューさんがややカタコトなのは仕方ないとして、真田広之のセリフも、英語をGoogle翻訳にかけたみたいな日本語になってて違和感があったんですよね。

もしかしたら真田さんがあまり流暢な日本語で話すと、アンドリューさんのカタコトが目立っちゃうからという判断なのかもですが、個人的には真田さんのセリフは、真田さん自身が訳してもいいんじゃないかなとは思いました。

興味のある方は是非!!

 

シンプルなストーリーに何層にもレイヤーが重ねられている「NOPE ノープ」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ハリウッドのスター監督の一人ジョーダン・ピール制作で、昨年公開された『NOPE ノープ』ですよー!

公開時から、映画好きの間ではめっちゃ評価の高かった本作。

僕は都合が合わなくて劇場では観られなかったんですが、今回、Amazonレンタルで鑑賞して、評価の高い理由がよく分かりましたねー。

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概要

ゲット・アウト』『アス』などのジョーダン・ピールが監督、脚本、製作を務めたサスペンススリラー。田舎町の上空に現れた謎の飛行物体をカメラに収めようと挑む兄妹が、思わぬ事態に直面する。『ゲット・アウト』でもピール監督と組んだダニエル・カルーヤ、『ハスラーズ』などのキキ・パーマー、『ミナリ』などのスティーヴン・ユァンのほか、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレアらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

劇場で観るべき作品だった

2017年公開の「ゲット・アウト」2019年公開の「アス」で世界的に名前を知られたジョーダン・ピール監督。

元はコメディアンとして、キーガン=マイケル・キーとのコンビ「キー&ピール」としてテレビ番組などで活躍。その後、脚本・監督を務めたホラー映画「ゲット・アウト」でアカデミー脚本賞を受賞。続く「アス」でも高い評価を受けて、今やハリウッドを代表するスター監督の一人になったんですね。

本作はそんなジョーダン・ピールの劇場長編第3作とあって、公開時から映画好きの間では高い評価を受けていたんですね。

僕も公開時気になっていたものの、都合が合わず劇場で本作を観ることが出来ず、今回Amazonレンタルに入っていたので早速視聴したんですが………やっぱ劇場の大画面で観るべきだったよねー(´Д`)

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いや、もちろん家のテレビで見ても内容が面白い事には変わりはないんですけどね。
でも、クライマックスのあのシーンは劇場の大画面で、出来ればIMAXで観れば、家で観る3倍楽しめたと思いましたよ。

本作の内容についてはずっと、決定的なネタバレこそ避けてきたものの、ある程度の内容は知った状態で観たわけですが、ストーリー自体はめっちゃシンプル。けれども、そこは、前2作品でも差別や格差社会などの問題を(メタ的に)描いてきたピール監督。

本作も「見る・見られる」という関係性を軸に、様々なメタファーをワンシーンの中に何重もレイヤーを重ねた多層的な作品になっていましたよ。

そこを面白いと感じられるか否かが本作の評価の分かれ目で、前2作以上に扱うテーマが象徴化・多層化されていることで逆に見えづらくなっている部分もあって、それゆえにピール監督の言いたいことが伝わらなかった人も多かったのかもしれません。

というわけで、ここから先はネタバレしていくので、まだ本作を未見の人、ネタバレ嫌いという人はご注意を。

初期スピルバーグAKIRAエヴァ!?

そんな本作の内容でよく言われているのが「未知との遭遇かと思ったらジョーズだった」で、確かに的を得てるなーとw

スピルバーグのファンであることを公言しているピール監督。
本作では、まさに初期スピルバーグのジャンル映画オマージュが、そこまかしこに散りばめられているんですね。

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他にも、大友克洋の名作「AKIRA」の露骨すぎるオマージュや、クライマックスでの「エヴァンゲリオン」を思わせる造形など、この辺はアニメオタクとしても有名なピール監督のボンクラっぷり(ほめ言葉)がよく出ているなーと思ったりしましたねー。

そんな本作のストーリーをざっくり紹介すると、

ある日、田舎町で広大な敷地の牧場を営むOJダニエル・カルーヤ)と父親が仕事中、空中から落ちてきたコインが顔面に当たり父親が(突き刺さり)死亡。

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その後、家業を受け継いだOJと妹エメラルド(キキ・パーマー)でしたが、父が生きていた時から経営は苦しく、元TVドラマの人気子役だったリッキー・“ジュープ”・パーク(スティーヴン・ユァン)の経営するテーマパークに馬を売って何とか生活していたのです。

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そんなある夜、ヘイウッド家の電子機器が全て使用不能となり、彼らは未確認飛行物体(UFO)が馬を連れ去り、父の死の原因となった無機物のかけらを吐き出しているのを発見。

このUFOを撮影し、一攫千金を狙うOJ兄妹は空を映す監視カメラを設置するのだが、実はこのUFOは生きていて目が合った生物を捕食する飛行生物だった――という物語。

OJとエメラルドは、OJが「Gジャン」と名付けたこの飛行生物をビデオカメラに収めようと行動を始めますが、彼らの馬を買い取っていたリッキーは、もっと早くGジャンの存在に気づいていて、買い取った馬をエサにGジャンを飼いならし、テーマパークの目玉にしようと画策していた事が後に分かります。

結果、OJ兄妹、リッキー、パパラッチや各メディアの誰が最初にGジャンの存在を世に知らしめるかという展開になっていくわけですが、相手は生物と見れば何でも食べちゃう空飛ぶ怪物ですからね。

後半、Gジャンに襲われ、OJたちも大ピンチに陥るのだが――という展開になっていくのです。

で、本作では、そんなGジャンの生態が前半から中盤にかけ、じわじわと明らかになっていきます。

1・雲に擬態している。

2・OJの牧場やリッキーのテーマパークなどを縄張りにしている。

3・目を合わせると攻撃してくる(食べられる)

4・無機物は消化できない。布などは器官に詰まるので吐き出す。

5・感情がある。怒らせると嫌がらせしてくる。

それらのルールが示されたところで、クライマックスでのOJ兄妹とGジャンの対決になり、結論から言えば、OJ兄妹がある方法でGジャンをやっつけたところで、物語は終わるんですね。

様々なメタファーと引用

そんな感じで物語自体は非常にシンプルな本作ですが、前述した通り、本作のテーマは「見るものと見られるもの」であり、ワンシーン・ワンカットに、本筋以外の色々なテーマやメッセージがメタ的に含まれています。

旧約聖書のナホム書第3章6節「わたしはあなたに汚物をかけ、あなたをはずかしめ、あなたを見せものとする。」という引用から本作はスタートします。

OJの家業は映画撮影用に調教したタレント馬のレンタルで生計を立てていて、父亡きあと、映画撮影の現場に馬を連れてきたOJですが、言う事を無視した映画スタッフが馬に蹴られそうになったことをOJたちのせいにされクビにされるというシーン。

ここは、映画関係者に馬の調教師が軽んじられているというシーンですが、(恐らくは)意図的にOJが黒人だから軽んじられて見えるように撮られているし、馬が暴れるシーンは、その後のリッキーの子役時代のエピソードや、OJやリッキーがGジャンで一儲けしようという後半のエピソードにも呼応するように作られています。

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リッキーが子役として出演していた「ゴーディ 家に帰る」は、アメリカ人家族とチンパンジーのゴーディのふれあいを描くシットコム(ホームコメディ)です。

しかしある日の撮影中、フーセンの割れる音をキッカケに狂暴化したゴーディによって、出演者が次々襲われるという事件が起こり、ゴーディと直接目を合わせなかったリッキーだけは無事だったというエピソードが明かされます。

映画の冒頭や中盤にかけて、分割される形でこの事件の概要が明かされていくのですが、ゴーディの誕生日プレゼントに父親が腕時計を贈ると、母か娘が「ゴーディは時計の針を読めないでしょ」とツッコミを入れるというギャグが入っていて、その直後にゴーディが暴れ出すんですね。

彼らはゴーディに対して家族ぶっているけど、この白人の父・母・姉は、ゴーディが自分たちより下だという事を笑いのネタにしている。で、ゴーディが暴れると銃殺されるという展開は明らかに白人の黒人差別を暗喩していて、それを、リッキーの視点で見せているんですよね。

他の家族は攻撃したけど、テーブルの下にいたリッキーだけは攻撃されなかったし、一瞬、心が通じたように見えるシーンもある。

本当は、単に風船の音に驚いたゴーディが暴れ出し、テーブルの下に隠れてゴーディと直接目を合わせなかったリッキーだけが攻撃されなかっただけだと思いますが、白人キャストの中で一人アジア系だったリッキーも、(直接は描かれてないけど)撮影中に人種差別を感じ、同じく差別されていたゴーディに仲間意識を感じていた→ゆえに自分は攻撃されなかった。と変換されているわけです。

なので、リッキーはGジャンとも心が通じると思い、餌付けをしていたんだけれど――という後の展開に続くんですね。

で、この二つのエピソードは、冒頭のナホム書の「あなたを~見せものに」にも呼応しているんですよね。

 

OJがこの飛行生物に名付けた「Gジャン」という名前。

これはエメラルドが初めて調教するハズだった馬の名前で、しかし、父親は約束を反故にしてOJにGジャンの調教をさせるんですね。

エメラルドは「父は私を見ていなかった」と言いますが、これは家父長制や女性差別を表していて、父親はエメラルドを跡継ぎとしては見ていなかったけど、兄のOJはそんな妹の事をちゃんと見ていたというエピソードに繋がるのです。

事程左様に、本作では見るもの、見られるものの関係を色々な角度から描くことで、差別や格差など、現代社会の様々な問題を映し出しているんですね。

 

こんな風に書くと、何だか難しい作品のように感じるかもしれませんが、前述した通り、物語自体は主人公vs人食い生物という一本道の単純明快なストーリーだし、特にクライマックスの熱い展開は最高にぶち上るモンスターパニック映画なんですね。

特に、後半でGジャンをカメラに収めるための囮として、愛馬を駆るOJの姿はまさに西部劇で、めっちゃ上がりましたよ。

あえて言えば

そんな感じでめっちゃ楽しんだし、各エピソードを呼応するように配置したり、一つ一つのエピソードで、しっかり前フリしてオチをつけていく丁寧な作劇は「RRR」に近いものを感じました。

ただあえて言えば、後半部分は面白いんだけど、前半部分は後半へのフリのシーンが多く、多少かったるい印象を受けたかも。

あと、事前に想像していたよりは大人しいというか、思ったよりちゃんとしてるなーという印象。

もっとはっちゃけた映画を想像してたんだけど、その辺、ピール監督生来の真面目さが出ちゃったのかなーなんて思ったりもしました。

それでも、十分すぎるほど面白かったですけどね。

興味のある方は是非!!