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「キング・オブ・コメディー」(1984) 感想 ネタバレ有り

ぷらすです。
今回ご紹介するのは、数々の作品でコンビを組んできた盟友、ロバート・デ・ニーロマーティン・スコセッシ監督が1982年に制作した『キング・オブ・コメディー』ですよー!
僕は本作は初見だったんですが、30年以上前の作品とは思えない作品でした。

で、今回は昔の作品ということもあり、ネタバレ有りで書きますので、もしもこれから本作を観る予定のある人は、感想部分は映画鑑賞後に読んでいただけたら嬉しいです。(*´∀`*)ノ

いいですね? 注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://www.amazon.co.jp/

概要

『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』『グッドフェローズ』など、数々の名作を生み出してきた俳優ロバート・デ・ニーロマーティン・スコセッシのタッグが、1982年に発表したブラック・コメディー映画。

興業的にはあまり成功しなかったが、映画人や芸能関係者からの評価は高いらしい。
キャラクター像やストーリー構成が似ているので、1976年の「タクシードライバー」の双子的な作品とも言われている。
アメリカの喜劇俳優、ジェリー・ルイスが、『ほぼ』本人役で登場している。

 

あらすじ

コメディアン志望の男、ルパート・パンプキン(ロバート・デ・ニーロ)は、有名なスタンダップ・コメディアン ジェリー・ラングフォード(ジェリールイス)の出待ちをしていたファンの群衆から救い出し、自分を売り込む。

そして、すっかり人気コメディアンとなったパンプキンは、高校時代チアリーダーだった初恋の女性リタ・キーン(ダイアン・アボット)を夕食に誘い、自分がコメディアンとして成功したことを報告するが……。

 

感想

とにかく痛くて怖い映画でした。
と言っても、暴力描写が激しいとか血がビュービュー吹き出るとか、そういうのではないです。むしろ本作で血はほとんど出てきません。

大人気スタンダップコメディアン(日本で言えば、きみまろさん的な感じ)のジェリー・ラングフォード(ジェリー・ルイス)が出演しているTVショーから車に乗り込もうとすると、出待ちのファンが殺到。
なんとか車に乗り込むと、中にはこっそり忍び込んでいた熱狂的ファンの女マーシャ(サンドラ・バーンハード)が抱きついてきて、慌てて外に出るとまたファンが……。
その時、群衆からジェリーを守りどさくさにまぎれて一緒に車に乗り込むのが、本作の主人公ルパート・パンプキン(ロバート・デ・ニーロ)です。

パンプキンは車中でジェリーに、『自分には才能がある』と言い『チャンスが欲しい』とジェリーに懇願。ジェリーが「後日、自演のテープを事務所に届けるように」と言うと、有頂天になった彼はジェリーに昼飯を奢ると言って帰っていきます。

そして場面変わってレストラン。
ジェリーとパンプキンは一つテーブルを囲んで、昼食をとっています。
そこでジェリーは「君が忙しいのは分かっているが、6週間だけ自分の番組の司会を代わってほしい」と頼み込んでいます。

ここで『ああ、数年後にジャンプしたのか』と思うとそうではなく、これ、パンプキンの妄想なんですね。

つまり、パンプキンは現実と妄想の区別のつかない人なんです。

彼は30才を超えても仕事に就くことなく、自宅で母と二人暮らし。
2階の自室にジェリーの出演するTVショーのセットを自作し、そこにジェリーやゲストの等身大パネルを置いて司会ごっこをしている『痛い人』です。

そんな彼が『自分には才能がある(ハズ)』で『1度のチャンスがあればみんなは自分の才能に驚き、スターダムに駆け上がれる(ハズ)』という妄執に囚われた彼が、目標としているコメディアン、ジェリーに接触するのが冒頭の部分なわけです。

『事務所にテープを~』は当然メンドくさいヤツを追い払う口実で、真に受けたパンプキンは自宅で録音したテープを事務所に持っていきます。
後日秘書の女性に「あなたには光るものがあります。まずはクラブのステージで実績を積んでください。ステージが決まったらスタッフを見にやります」とやんわりと断られますが、パンプキンはジェリーはテープを聞いたのか、あんたじゃ話にならないと居座り、結局警備員につまみ出される始末。

もう、観ていて『あ痛たたたたたたたたた!!』ってなります。

しかもパンプキン、高校時代憧れていた女性リタに『自分はジェリーの別荘に誘われている』なんて言って、一緒に別荘に押しかけちゃいます。
何も知らないリタは信じてついて行ったものの、パンプキンの話とジェリーの様子がどうも話と違う。
結局、パンプキンの妄言だったことに気づいてまた大騒ぎ。

このことを逆恨みしたパンプキンは、ジェリーをストーキングしている女マーシャと手を組みジェリーを誘拐。スタッフを脅迫して番組を一回だけ乗っ取るというストーリー。

で、本作を観て思い出すのが、本作と同じくデ・ニーロ主演、スコセッシ監督で作られた1967年の作品『タクシードライバー』

トラビスは元海兵隊あがりの男で、腐りきった社会や孤独に耐え切れず精神を病み、次第に過激な妄想にとりつかれていく男で、本作のパンプキンによく似ています。
ただ、トラビスとパンプキンは表面上は似ていても、本質的な部分で正反対の人間の様に僕は思いました。

トラビスは戦争体験や都会の孤独感から精神を病み、いわゆる「陰謀論」に傾倒した結果、大統領暗殺を計画するわけで、その根底にあるのは(歪んではいるけれど)正義感で、彼の行動の根本にある願望は他者との関わりなんですね。

一方のパンプキンは、学生時代いじめられたり、モテなかったり、バカにされたりというコンプレックスから逃れるために『妄想』の中に逃げ込んだ男です。
自室の『スタジオ』で『コメディーの王様』として君臨することで、『社会』や『現実』に背を向けて見聞きしないようにしている、彼の願望の中に他者はいなくて『自分』だけなんですね。
なので、現在の日本に暮らす人にとっては『タクシードライバー』のトラビスよりも本作のパンプキンの方が、よりリアルに、身近に感じられるんじゃないかなーと思いました。

パンプキンの言動は、滑稽で哀れで、そしてとても怖いです。
トラビスは分かり合えないだろうけど、まだ話し合いの余地があるように思えるんですが、パンプキンの方は最初からもう言葉が通じない感じなんですよね。通じないというか聞く気がない。

冒頭の車中でジェリーはパンプキンに「我々の職業は簡単にできると思われている」「自分たちの『技術』は下積みの上にある」みたいなことを言っていて、パンプキンはそれに同意してるんですが、自分のことを言われているとは思ってないんですね。

この、話の通じない感。

ジェリーの秘書も似たような事を言いますけど、パンプキンはやっぱり聞き入れません。自分に都合のいいことは拡大解釈するけど、自分に都合の悪いことは他人事にしてしまったり、話をすり替えてなかったことにしてしまったり。

パンプキンの中では、願望→結果で、その間にあるはずの『努力とか段階』という概念がないんですね。
最近ネットでこういう人をたまに見かけるし、僕自身にもそういう部分があるわけで、だからパンプキンを見ていると、まだ、自分が少年だったころの膨れ上がった自意識を見せつけられてるようで凄く痛いし、多少気持ちが分かるだけに怖いと思ってしまいます。

そして、ラストシーン。

ジェリーを誘拐し本懐を遂げたパンプキンは捕まるわけですが、その後獄中で書いた手記が大ヒット。仮出所後にすぐにTVの冠番組が決まるというオチになってます。
で、ここは、現実にそうなった説とパンプキンの妄想説に解釈が分かれるんですが、僕はパンプキンの妄想だと思いました。

ラスト、アナウンサー? に紹介されて登場するパンプキンですが、登場の音楽が終わりそうで終わらないくて、パンプキンが話し出せなくて戸惑うところで映画が終わります。(コントでよくあるアレです)

それは、文字通り『一夜限りの夢』を現実で叶え、満足してしまったがゆえに、パンプキンは自分の王国である『妄想』すらも失いかけているという事じゃないかと、そんな風に思いました。

あと、パンプキンと組んでジェリーを誘拐するマーシャを演じるサンドラ・バーンハードの次に何をするか分からない感は超絶怖かったですw

本作はブラックコメディーというより、ある種のサイコホラーと言ったほうがしっくりくる感じですが、その中にも、即興演技が入ったり、映画だと思わない通行人がジェリー・ルイスに話しかけたり(多分ゲリラ撮影だから)、パンプキンのお母さんの声がスコセッシの実のお母さんだったり、本来ならNGテイクをそのまま使ったりと、思わず笑っちゃう面白シーンも沢山あって、途中で飽きちゃうことはないと思います。

なにより、本作は今観たほうが新鮮な感じがすると思います。

興味のある方は是非!!

 

 

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