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『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001) 感想

ぷらすです。
今回ご紹介するのは、国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』の劇場版9作目、『~嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』ですよー!
劇場版『クレしん』シリーズ最高傑作と言われている本作ですが、案外まだ未見という方もいるんじゃないかなーと思い、今回感想を書く事にしましたー。

 

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画像出典元URL:http://www.amazon.co.jp/

概要

劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズ第9作目のアニメ映画。
テレビシリーズの、懐かしのアトラクションが出来て、みんなで行くというストーリー『母ちゃんと父ちゃんの過去だゾ』を原型にストーリーを膨らませ、アニメ・実写作品の監督として国内外で高い評価を受けている原恵一監督が89分の劇場版アニメ作品に仕上げた。

 

あらすじ

1960年~70年代の懐かしさを体験できるテーマパーク『20世紀博』がしんのすけの住む春日部市に出来て以来、すっかり虜になった街の大人たちは、子供たちそっちのけで休日の度に会場を訪れ、懐かしグッズを買い漁る日々。

そんなある日、テレビで『20世紀博』からの「重要なお知らせ」を見たしんのすけの父  ヒロシと、母 みさえは様子が一変。

しんのすけや妹ひまわりの世話もせずに、眠ってしまう。
そして翌日、この町の大人たちは『20世紀博』からの迎えの三輪トラックに乗り込み、子供たちを置き去りにして『20世紀博』に行ってしまう。

これはこれはケンとチャコをリーダーとする秘密結社「イエスタデイ・ワンスモア」による、大人を子どもに戻して「古き良き昭和」を再現し、未来を放棄するという、恐るべき計画の始まりだった。

最初は途方に暮れていたしんのすけたちだったが、ヒロシ・みさえを取り戻すため、仲間と一緒に『20世紀博』に乗り込んでいく。

 

感想

実は、僕が本作を観るのは今回が2回目です。
1回目はたまたまテレビで放映されていた本作を観て死ぬほど号泣し、今回もう一度観て、やっぱり号泣してしまいました。

本作の監督、原恵一さんと言えば、本作の翌年『~嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』(後に『BALLAD 名も無き恋のうた』として実写リメイクされた)
2007年には劇場アニメ作品『河童のクゥと夏休み
2010年に『カラフル』
2012年には自身初の実写作品で、木下惠介生誕100年記念映画『はじまりのみち』を手がけ、
昨年は再び劇場アニメ作品に戻り、杉浦 日向子の同名漫画を原作に、長編アニメ『百日紅』で世界中で高い評価を受ける名監督です。

物語は、しんのすけ一家が『大阪万博』会場にいるシーンから始まります。
ここで、みさえのナビゲーションによって『大阪万博』が当時の少年少女にとってどれほどインパクトや夢を与えたイベントであったかが説明され、そして突然の怪獣襲来。

怪獣を倒すためにしんのすけ、みさえ、ひまわりは科学特捜隊に早変わりし、ヒロシはジェットモービルっぽい飛行機で怪獣に攻撃を加えますが、反撃にあいジェットモービル的な飛行機は撃墜され、もうだめだ! というところで正義の超人『ヒロシSAN』が登場し怪獣と戦います。

なんのこっちゃと思いながら観ていると、これ、自分が特撮ヒーローになってプライベートビデオを撮れるという『20世紀博』のアトラクションなんですね。

その後、しんのすけとひまわりは託児所に預けられ、そこで大人たちがいかに『20世紀博』にどハマリしているかが、子供たちによって語られます。

ここまでが、物語の起承転結でいう『起』の部分。

野原一家は一見いつも通りですが、ほんの少しヒロシとみさえの行動に違和感があることで、観客にこれから起こるであろう事件を予感させる見事な流れだと思いました。

この『20世紀博』を運営しているのが秘密結社「イエスタデイ・ワンスモア」のリーダー ケンとチャコで、二人は子供の頃に夢見たのとはまったく違う21世紀の姿に絶望・嫌悪し、もう一度世界をやり直すために『20世紀博』で大人たちを徐々に洗脳。
機が満ちたところで、「古き良き昭和の匂い」で日本中に散布し、日本中をもう一度、昭和30年代からやり直そうという計画を立ててるわけですね。

実に荒唐無稽な設定だし、ある意味バカバカしい物語なんですが、そこにリアリティーを与えているのが、『クレヨンしんちゃん』という何でもアリのフォーマットで物語を作ったことだと思います。

普通なら「そんなアホな」と大人が見向きもしないような物語を、もともとアホな話をベースにすることでリアリティーラインを下げて、受け入れやすくしているっていうか。

あと、ディテールの細かさ。
クレしんのあの絵柄なので気づきにくいですが、劇中に登場する『大阪万博』のパビリオンの造形や配置、旧車のデザイン、昭和30年代の町並みなどがシッカリと描かれていてるんですね。
その辺は、『~アッパレ! 戦国大合戦』でも同じで時代考証などのリサーチをちゃんとして、当時の生活を作り込むことで、荒唐無稽な設定にもリアリティーが生まれてきてるんだろうなって思いました。

そしてなにより、本作が作られたのが2001年という事が大きいと思います。
時代が移り変わっていく節目の年で、高度経済成長やバブルが終わり、世代間断絶が起こり、誰もが『これから』に不安を感じたり、(美化された)古き良き子供時代を懐かしく思い返したりしていた時代の空気みたいなものを、原監督は敏感に捉え、デフォルメして見せたことで、多くの『大人たち』の共感を得たんじゃないかと思うんですよね。

だから劇中、我に帰ったヒロシが(美化された)甘美な過去と、家族との『現在』の狭間で『なんでここはこんなに懐かしいんだよ!』と涙ながらに叫ぶシーンにグッときちゃうんだろうなーと。

じゃぁ、大人しか楽しめない映画なのかというと、そんなことはなくて、前半部分で子供たちははある種のホラー的な感覚で本作を観るんじゃないかなって思います。
絶対的な信頼を置いている親や大人たちが、ある日別人のように変わって、自分たちを捨てる(危害を加えようとする)のは、多分子供にとって相当怖いことで、僕が子供の頃にもそういうマンガがあって、震え上がったのを覚えています。

しかし、中盤以降はその理由(ケンに操らえている)ことが明らかになり、両親を取り返すために敵地に乗り込んでいく しんちゃんにグッと感情移入していくんじゃないでしょうか。

もちろん物語が重くなりすぎないように、ルパン三世カリオストロの城オマージュのカーアクションシーンや、クレしんならではのギャグシーンも満載で、ハラハラドキドキしたり笑ったり出来る、極上のエンターテイメントとして成立してますし、ヒロシとみさえが、しんのすけやひまわりを思い出して以降、野原一家が『未来を取り戻す』という目的に向かって頑張る姿は、大人も子供も応援せずにはいられないんじゃないかと思います。

悪役のケンとチャコの正体はハッキリとは描かれていません。
それは多分、前述したように、ケンとチャコが大人が抱える時代への『不安』や『不満』や『諦め』の象徴的存在であり代弁者だからだと思います。

つまりこの二人は、監督自身であり、ヒロシやみさえであり、観客の大人たちであるわけですね。
そんな大人と、未来の象徴であるしんのすけの対決を通して、「色々大変だけど、それでも未来向かってに進んでいこうよ」という原監督のメッセージが伝わるからこそ、本作は大人にも子供にも支持される名作になったんじゃないかと、そんな風に思います。

普段、アニメを観ない人や、「クレヨンしんちゃんだから」と敬遠していた人たちも、きっと楽しめる作品だと思います。

興味のある方は是非!!!

 

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