今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

重い題材をユーモアを交えて描く 「ハッピーエンドの選び方」(2015) 感想

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、第71回ベネチア国際映画祭観客賞を受賞したイスラエル映画、

『ハッピーエンドの選び方』ですよー!

感想としては、「タイトルと予告編に騙されたー!」って感じでした。ぶっちゃけ超重い。そしてある世代の観客にとっては身につまされる映画なんじゃないかなーって思いましたよー。
ちなみに今回はややネタバレありなので、これから本作を観る予定の方は、映画を見たあとにこの感想を読んでくださいませー。
いいですね? 注意しましたよ?

http://image.eiga.k-img.com/images/movie/81761/poster2.jpg?1440381880

画像出典元URL:http://eiga.com/

あらすじと概要

第71回ベネチア国際映画祭ベニス・デイズ BNL観客賞などを受賞した、人生の終盤に差し掛かった老人たちの最期の選択に迫るヒューマンドラマ。

ストーリー:発明が好きなヨヘスケル(ゼーブ・リバシュ)は、妻のレバーナ(レバーナ・フィンケルシュタイン)と共にエルサレムの老人ホームに住んでいる。ある日、彼は死の床にある親友マックスに、何とか自らの意志で穏やかな最期を迎えられる装置を発明してほしいと頼み込まれる。人のいいヨヘスケルはレバーナの反対にも耳を貸さず、新たな発明に挑む。

監督の実体験をベースに、命尽きる瞬間まで自分らしく生きようとする人々の姿をユーモアを交えて映す。ベテラン俳優のゼーブ・リバシュとレバーナ・フィンケルシュタインが夫婦役で出演。
監督脚本はシャロン・マイモンとタル・グラニット。(シネマトゥデイより引用)

 

 

感想

本作を最初に知ったのは、他の映画のDVDに入っていた予告編でした。

www.youtube.com

観てもらうと分かると思うんですが、何ていうか、ちょっとライトなコメディー的な雰囲気の予告編ですよね?

実際、コメディー的演出やユーモアのあるシーンは多々ある映画です。
な・ん・で・す・け・ど、鑑賞した感想としては正直、ずっしりと重い
タイトルや予告編からも分かるように、本作は老人の尊厳死安楽死を描いた作品で、ゆえにユーモラスなシーンやコメディー的なシーンにも、常に死の影がつきまとう作品なんですよね。
ちなみに原題はヘブライ語で「良い死を」、英語題は「The Farewell Party」で日本語で言うと「送別会」だそうです。

重い題材を中立の立場で描く

本作の主人公ヨヘスケルと妻のレバーナは、二人で老人ホームに入居しています。
ヨヘスケルは元技術者らしく、得意の機械工作で妻や友人の助けになりそうな機械を作るのが趣味。
末期ガンの女性が神様と会話できる電話を作ったり(ヨヘスケルが神様を演じてて、しかも相手にはバレバレ)、奥さんが薬を間違わないように、曜日分の薬を出してくれる機械を作ったり(すぐ故障する)する善人です。

そんな彼の友人は末期ガンが進んで寝たきり状態。モルヒネも効かず見舞いに来たヨヘスケルに「もう楽になりたい」と言うんですね。

友人の奥さんも旦那をこれ以上苦しませたくないと願い、ヨヘスケルも苦しむ彼を何とか苦しみから“救ってやりたい“と思います。

しかし、イスラエルでは、安楽死尊厳死は法律で認められていません。
なので、友人が望んでも自分の意思で死を選ぶことは出来ないし、もし彼を安楽死させれば殺人罪(というか自殺幇助)に問われてしまう。ちなみに日本も同じみたいです。

ただ、日本と海外では安楽死尊厳死は考え方が違って、この作品で描かれるのは日本で言う『安楽死』です。

で、その後すったもんだの末、ヨヘスケルは妻レバーナの反対を振り切って、同じ入居者の元獣医と元警察官のゲイカップル(不倫)の協力を得て、安楽死装置を作り友人を“救い“ます。

http://image.eiga.k-img.com/images/movie/81761/gallery/sub4_large.jpg?1442311589

画像出典元URL:http://eiga.com/ 本作のメインキャスト

ヨヘスケル的には、ただ一度だけのつもりで行った行為でしたが、何故か老人ホーム中に噂が広まり、“救い“を求める老人たちから次々に依頼される。
そして、その話と並行するように、レバーナは認知症を発症し、その症状は日に日に重くなっていき……という物語。

しかし本作で監督は、ヨヘスケルや仲間たちの行為や、“救い“を求める老人たちに対して肯定も否定もせず、あくまで中立の立場を保つように描いている印象を受けました。
それは同時に、「あなたは彼ら彼女らの行為をどう思いますか?」と自分に突きつけられているようでもありました。

これ、多分、観客の立場や思想、年代によって受け取り方は違うと思いますが、個人的にはずっしりと重たい荷物を持たされてしまったような気持ちになってしまったんですよね。

自分が安楽死装置を持っていたとして、もしくは法律で安楽死が認められていたとして、もし助かる見込みがない病で苦しみ続けているのが自分だったら。
親、子供、愛する人、親友が「死なせて欲しい」と頼んできたら。

観終わったあと、そんな事を考えずにはいられない作品なんじゃないかなと。

もし、僕が80歳を超えていたら、本作の登場人物の気持ちに同調するかもしれないし、逆にもっともっと若ければ「そんなことは許されない」って思ったかもしれません。

でも、僕も含め年老いた親を持つ年代の人たちにとっては、本作は決して遠い他人事ではなく、「ただのフィクション」として割り切れない。何ていうか身につまされる思いになる物語なんじゃないかと思ったりするんですよね。

本作は、そういう老いや病、生と死、その中に微かに灯る希望やおかしみを、淡々と、でも真摯に寄り添うように描かれた作品だと思ったし、大ベテランの俳優陣が熟練の演技で物語に深みを与えていると思いました。

ちなみに主演のゼーブ・リバシュさんは、本国では顔芸? の得意なコメディアンなんだとか。そういえば日本でも年齢を重ねたコメディアンの人の演技って、役者さんとは別の深みや怖さがあったりしますよね。

決して(内容的に)万人にオススメ出来る映画ではありませんが、年齢を重ねて再び観ると、また違った感想になるかもなーなんて思いましたよ。

興味のある方は是非!