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皮肉と悪意たっぷりに描かれたディストピアSF「未来世紀ブラジル」(1986)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、今から30年前に作られたディストピアSF『未来世紀ブラジル』ですよー!

今まで何度もタイトルは耳にしていたものの、中々観る機会がなくて今回が初見でしたが、何とも言えない独特の世界観や、皮肉と悪意たっぷりな内容にクラクラしてしまう映画でしたー!

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画像出典元URL:https://www.amazon.co.jp

あらすじと概要

コンピュータによる国民管理が徹底した仮想国ブラジル。その情報管理局で、ある役人が叩き落としたハエによって、コンピュータ情報の一部が壊れてしまう。そしてその影響は、善良な靴職人をテロリストと誤認逮捕させる結果を生み出すが……。「12モンキーズ」のテリー・ギリアム監督による管理社会を痛烈に皮肉った、ファンタジックなSF近未来映画。(allcinema ONLINEより引用)

 

感想

『未来』じゃなくて『現代』を描いた作品

テリー・ギリアム監督は本作を『バンデットQ』(1981年)に始まり『バロン』(1989年)で終わる「3部作」の2作目と位置づけていて、3作に共通するテーマは

「ぶざまなほど統制された(awkwardly ordered)人間社会の狂気と、手段を選ばずそこから逃げ出したいという欲求

なんだそうです。

劇中で描かれる政府の全体主義的な官僚政治は、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』にインスパイアされたらしくって、監督自身本作を「1984年版『1984年』」と言っているんだとか。

邦題が『未来世紀 ブラジル』(原題はそのまま「Brazil」)なので、近未来SFをだと思ってたんですが、舞台は“20世紀のどこかの国”になっていて、描かれる世界も(当時から見ても)レトロフューチャーな未来感というか、現代社会を寓話的にデフォルメした「どこか世界の物語」という感じでしたねー。

トーリーも凌駕する圧倒的なビジュアル力とダクト

本作のストーリーは至って単純で、政府が個人を徹底管理する架空世界で夢想癖のある男の初恋を描いています。
ただ、その中に監督は目いっぱいの皮肉と悪意を込めたシーンを散りばめているんですね。

徹底した個人認証(管理)システム、美容整形中毒の母親、「情報剥奪局」に捕まった人たちの悲鳴とそこで普通に働く役人の対比、レストランで爆弾テロが起こり阿鼻叫喚に中でも無関心に食事を続ける上流階級などなど。

そのビジュアルはとても強烈で、観ているこっちが思わず圧倒されてしまうほど。

特に本作で象徴的に使われているのがダクトです。

例えば、一般庶民の家では張り巡らされたダクトを避けるように生活しているのに対し、役人のサムのアパートではダクトは全て壁の裏に隠されていて、しかし、空調の故障修理で金属パネルの壁をめくると、そこには夥しいダクトが張り巡らされているんですね。

また、高級レストランではダクトの巨大オブジェが飾られていたり、同じ役所でも部署によってダクトが顕になっている部署とそうでない部署があります。

つまり本作では、ダクトは独裁的な政府やそこに勤める役人、個人を支配するシステムの象徴であり、国民の階級を表すイメージとして使われているんですね。

なぜ『ブラジル』なのか

タイトルから本作の舞台は未来のブラジルだと思っていたんですが、この映画、ブラジルの「ブ」の字も出てきません

というのも本作のタイトルは、テリー・ギリアム監督の第一作目『ジャバーウォーキー』のロケで行った南ウェールズで見た工場から噴出す黒煙と、海に沈む夕陽のコントラストが美しさが心に残り、この砂浜で日光浴をする男のイメージが頭に浮かんだ時、そのラジオからはラテン音楽がかかっていたんだそうです。

なので、本作では1939年のアリ・バホーゾのヒット曲『ブラジルの水彩画』という曲が全編に渡って使用されてるんですね。

じゃぁ、本作の舞台のモチーフはといえば、アメリカなんだと思います。
というのも、ベトナム戦争が泥沼する中、当時のジョンソン大統領がL.A.を訪れた時に戦争反対の座り込みデモがあったんだそうで、たまたまその場に居合わせたテリー・ギリアム監督は、警官達がその場に居た人達を暴力で制圧する様子を見て(さらに自身も巻き込まれた)、アメリカという国に不信を抱き、母国であるアメリカを捨ててイギリスに渡り、モンティ・パイソンの一員としてアニメーションを作るようになったという経歴の持ち主らしいんですね。

もちろんデモに対する武力制圧はアメリカだけの話ではないんでしょうけど、その時の経験が、国家の建前と実態=整理された部屋と壁の奥のダクトという形で本作に投影されているんだと思います。

また、本作の絶望的なラストシーン(このラストシーンを巡って監督とユニバーサル・スタジオとの間でひと悶着あった)も、個人と国家や組織の関係を悪意たっぷりに皮肉っているんですよね。

じゃぁ本作は重苦しいだけのディストピア映画かと言えば、そんなことはありません。
そこはさすがモンティー・パイソン印というか、本作は基本ブラックコメディーです。
前述したようなシーンも滑稽に描くことで、思いっきり皮肉っているんですよね。
そして滑稽な描写で軽やかに皮肉っている前半~中盤の前フリが効いているからこそ、後半の展開は観ていてゾッとするような怖さがあるんだと思います。

もう30年前の作品で、映像や特撮など今の視点で観ると、ぶっちゃけしょぼさや古臭さも感じてしまいますが、カルト的人気を誇る作品だけあって見ごたえは十分だったし、現代にも通じる普遍的な物語だったと思いますよー!

興味のある方は是非!!