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キューブリックが世界の終焉を描いた風刺ブラックコメディー「博士の異常な愛情」(1964)*ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』ですよー!
実はこの映画『博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(原題:Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)というのが正式なタイトルなんですが、あまりに長いので頭の部分だけで呼ばれるようになったみたいですねw

今回は古い作品でもあるので、ネタバレは気にせず感想を書いていこうと思います。
なので、何も知らずに観たいという方は、この感想の前に映画を観てくださいねー。

いいですね? 注意しましたよ?

 

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画像出典元URL:http://www.amazon.co.jp/

あらすじと概要

巨匠キューブリックが近未来を舞台に、核による世界破滅を描いたブラック・コメディ。アメリカ軍基地の司令官が、ソ連の核基地の爆撃指令を発した。
司令官の狂気を知った副官は、司令官を止めようとするが逆に監禁されてしまう。大統領は、ソ連と連絡を取って事態の収拾を図る。しかし、迎撃機によって無線を破壊された1機が、ついに目標に到達してしまう……。(allcinema ONLINEより引用)

 

感想

キューブリック唯一のコメディー作品!?

本作が制作されたのは1963年。
米ソ冷戦の真っ只中であり、年間50回以上の核実験が行われ、その2年前にはキューバ危機が起きていたという一触即発の物騒な時代です。

当時ソ連の核攻撃や侵略にヒステリー状態の米国内では1948年頃より1950年代前半にかけて共産党員、および共産党シンパと見られる人々の排除(赤狩り)が行われ、映画界でも自分の気に入らない人間を共産党員だと告発する動きなどもあり、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2016)という映画になったりもしていますよね。

で、そんな危機的状況をキューブリックが徹底的に皮肉り茶化した風刺ブラックコメディーが本作『博士の異常な愛情~』なんですねー。

こんなストーリー

本作のストーリーをざっくり説明すると、陰謀論に取り憑かれたアメリカ空軍基地の司令官リッパー准将が精神に異常をきたし、勝手にソ連への核爆撃を命令して基地に立てこもるところから物語はスタートします。

普通だったら、下士官が勝手に核攻撃の命令なんか出来るわけがないんですが、ソ連からの核攻撃で命令系統が混乱したときに、下士官が報復の核攻撃命令を出せる「R作戦」というのがあって、それを利用されちゃうわけですね。

で、それを食い止めるべく大統領や政府、軍のお偉方が集まって会議したり、ソ連の首相に電話したりするんですが、どいつもこいつもスットコドッコイな上に、ソ連ソ連で核攻撃を食らったら全自動で地球を滅亡させちゃう「皆殺し爆弾」っていうのを持ってて、結局地球は滅亡するという物語で、キューブリックはこの作品で人間の愚かしさを上から目線でシニカルに皮肉っています。

元々キューブリックは 核戦争の危機を描いたピーター・ジョージの小説『赤い警報』をベースに、シリアスなサスペンスドラマとして描こうとしたらしいんですが、風刺コメディーにしたのはその方が小説で描かれた水爆のジレンマが伝わりやすいと判断したということみたいですね。

そこには、自分たちを破滅に導く兵器を自らせっせと作っている両大国のバカさ加減に対するキューブリックの怒りと、恐怖から愚かしい行動に出てしまう人間に対する諦観もあったんだと思います。

映画冒頭にアメリカ空軍にから「映画はフィクションであり、現実には起こりえない」と解説がつくんですが、それが逆に映画の皮肉を際立たせてるような気がしました。

一人三役

本作では、アメリカ空軍基地の司令官リッパー准将から命令解除の暗号を聞き出そうと奮闘するイギリス軍のマンドレイク大佐、米国のマフリー大統領、元々ナチ党員だったストレンジラヴ博士を、『ピンクパンサー』シリーズのジャック・クルーゾー警部役で有名なピーター・セラーズが一人三役で演じています。

ただ、言われなければ三人が同一人物とは気づかない人も多いんじゃないでしょうか。
もちろん髪型やメイクを変えているのもあるんですが、三人のそれぞれ全く違う役柄をピーター・セラーズは見事に演じ分けているんですよね。

僕は事前情報を殆ど入れずに観ていたので、三人を同じ役者が演じていると後で知ってビックリしましたよ!

普段は完璧主義で、絶対に指示通りでなければ許さないと言われているキューブリックですが、セラーズにはアドリブを許し、その演出が本作を成功に導いたとも言われているそうですね。

唐突なエンディング

本作を観た人の中には、あのラストに対して唐突な印象を受けた人も多いのではないかと思います。正直僕も随分イキナリだなーと思いました。

たった一人の男の独断と数々偶然から、ソ連の基地に核爆撃をしてしまうアメリカ。
対してソ連は自国に核攻撃をされた瞬間に自動で作動し、地球上の全ての動植物を死なせてしまう「皆殺し爆弾」を密かに持っていて、結局地球が皆殺し爆弾による死の灰に包まれてしまうんですが、そんな時でもストレンジラヴ博士は、選ばれた男女だけが炭鉱に避難してそこで新世界を創るという選民思想に基づくハーレム計画(男性1:女性10の割合で残して子孫を作りまくる)を提案し、そこまで比較的まともだった大統領はその提案に満更でもない表情を見せ、ソ連大使は地球が滅亡するって言ってるのに会議室の様子をカメラで隠し撮りしてるというホントにどうしようもない状態。

で、実はそこでソ連大使のスパイ活動が見つかって、揉めてすったもんだの挙句にパイ投げ合戦に発展、パイに腰までうまった大統領とソ連大使が、砂浜で遊ぶ子供のように大きなパイのお城をつくり、やがてその場にいる全員で『For he's a jolly good fellow(彼はいいやつ)』を歌い、それがエンディングのヴェラ・リンの『We'll meet again(また会いましょう)』に繋がるというラストだったようですが、公開前の試写をした際に評判がよくなかったので、このパイ投げのシーンはカットしたらしいんですね。

このパイ投げシーンは核戦争のメタファーということらしいんですが、まぁ確かに言われないと分からないかも?w

邦題について

ちなみに本作の原題は「Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb」直訳すると、「ストレンジラブ博士は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」(合ってるかな?)なんですが、長い割にイマイチ分かりづらい。しかし、キューブリック原題とかけ離れた訳の題を付けることを許可しなかったので、苦肉の策として「Dr.(博士)『の』 Strange(異常)『な』love(愛情)」と、登場キャラクターの名前を直訳して邦題にしちゃったってことらしいですね。

もしも今こんなタイトルをつけたら炎上必至かもですが、個人的にはインパクトが強くて印象に残るセンスのいいタイトルになってるなーと思いますねー。

 

1963年製作の作品なので、今観れば映像自体はチープではあるんですが、でもところどころ「どうやって撮ってるんだろう」というシーンがあったり、リッパー准将を止めるために基地を攻撃する陸軍と基地隊員との戦闘シーンなんかは、ドキュメンタリータッチで超リアルだったり、この辺は後のキューブリック作品の原点だなーって思ったり、突拍子もないのに見ているうちにどんどん引き込まれていくストーリーの構成だったり、ナチ・権力者・核・冷戦など、一まとめに皮肉りつつ、どうしようもない人間の愚かな一面を暴き出す手腕も、さすがキューブリックだなーって思いましたよ。

本作は本編93分しかないので、サクッと観られるのも良いですしね。

興味のある方は是非!!

 

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