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オヤジギャグは娘を救う!?「ありがとう、トニ・エルドマン」(2017)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは第89回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたドイツ映画『ありがとう、トニー・エルドマン』ですよー!

非常に評判の良い映画だったのでTSUTAYAでレンタルしたんですが、正直に言えば「良い映画なのは分かる……けど、長いし分かりづらい」って感じの、まさに大人の映画でしたねー。

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概要

第89回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた家族ドラマ。ルーマニアで働く女性と、彼女を心配してドイツから訪ねてきた風変わりな父親との触れ合いを見つめる。メガホンを取るのは『恋愛社会学のススメ』などのマーレン・アデ。テレビドラマ「ヘリ」シリーズや『ヒランクル』などのペーター・ジモニシェック、『ピノキオ』などのザンドラ・ヒュラーらが出演する。ユーモラスなタッチ、父と娘がこれまでの関係を見つめ直す姿に魅せられる。

感想

本作をざっくり一言で言えば、「超ウザイ親父に娘が迷惑する」っていう映画です。

ただ、その背景には親子の価値観の違いとか、EU連合を取り巻く格差問題なんかが巧みに、それとなく差し込まれていて、非常に社会派な映画でもあるんですねー。

ざっくりストーリー紹介

恐らく30半ばと思われる娘イネス(ザンドラ・ヒュラー/サンドラ・ヒューラー?)は、グローバル企業であるコンサルタント会社に勤めており、現在はルーマニアブカレストで進行中のプロジェクトの責任者で実に忙しい日々を送る、バリバリのキャリアウーマン。

一方の父親、ヴィンフリート(ペーター・ジモニシェック)は音楽教師? ですが、すでに現役引退しているようで、ドイツで年老いた愛犬とともに暮らしているんですね。
ヴィンフリードは離婚していて、イネスは奥さん側に引き取られていたらしいんですが、そんなイネスは自分が主役の集まりでも仕事の電話をかけまくっています。

で、別れ際「今度ルーマニアにも遊びに来てよ」という、イネスの社交辞令を真に受けたヴィンフリートは、何の連絡もせずに娘の職場に現れて、次々とウザイ行動を取ってはイネスを困らせる……。という物語です。

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画像出店元URL:http://eiga.com / 娘の社交辞令を真に受けてイキナリ会社に来ちゃったパパ

「あれ? トニ・エルドマンは?」と思われるかもですが、このヴィンフリート、イネスと気まずい数日感を過ごしたあと、一旦帰ったと思わせておいてカツラと出っ歯になる入れ歯というバレバレな変装をして、トニ・エルドマンを名乗ってイネスをストーキングするわけです。

行く先々に現れてペースを乱す父親ことトニ・エルドマンに、ただでさえ仕事が上手くいかなかったり女性差別的な扱いにキリキリしてるイネスのイライラは頂点に達して……という展開になっていくんですねー。

笑えないコメディー映画

こんなふうに書くと、父親扮するトニ・エルドマンと娘イネスのドタバタコメディーみたいに思われるかもしれませんし、確かにコメディー映画なのは間違いないんですけど、これがもう全然笑えないわけですよw

というのも、この親父は悪ふざけ大好きおじさんなんですが、残念ながらユーモアのセンスが決定的に欠けていて、周りの人はただただ、ウザイ思いをするだけなのです。

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画像出店元URL:http://eiga.com / 老健と二人暮らしのパパ(いたずら中)

映画冒頭、この親父の家に宅急便が届くんですが、出てきたと思ったら「その小包は爆弾テロでムショ帰りの弟が注文したんだ」というドッキリを仕掛けて一旦引っ込み、出っ歯入れ歯にサングラスをかけて再び登場。
「フフフ、心配しなくてもこれは爆弾じゃないし、これはただのジョークだぜ~」とネタばらし……。

ウっっゼえぇぇぇぇぇぇ!!!ww

ルーマニアに突然現れ、困ったイネスが会社の懇談会に同行させれば、お得意さんの社長に「実の娘が構ってくれないので、今、代理の娘を雇ってるんですよ」とか言ってイネスを困らせたり、トニ・エルドマンに扮して現れると「私は有名なテニス選手の友達でねー」なんて、イネスの友達に話しかけたり……。

超ウっっっゼえぇぇぇぇぇぇ!!!ww

30代の娘が仕事仲間の前で、親にこんなことされたら、もう地獄ですよw

案の定、困ったイネスが連れ出して「パパは一体何がしたいの!?(# ゚Д゚)ムキー!」と問い詰めれば、「私はパパではありません。コンサルタントのトニ・エルドマンです(。-`ω-)キリッ!」と言い張ってその場から逃げていくっていう。

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画像出店元URL:http://eiga.com / 「そうです。アタシがトニ・エルドマンです」

一方のイネスは石油会社の合理化のため、リストラの責任者としてバリバリ頑張るものの、女性キャリアということで取引先や会社の同僚にナメられて、もうイライラしっぱなし。

見かねた上司が、「彼氏(同じ会社の同僚)と仲直りしなさい」と時間を作ってあげて、彼氏と濡れ場が始まるんですけど、これが今まで見たことがないくらい殺伐としたHシーン

つまり、父親ことトニ・エルドマンの行動で笑うっていうより、常に噛み合わずに気まずい思いをする登場人物たちの「間」を笑うコメディなんですよね。(日本で言えばアンガールズのネタ的な)

ただ、この映画は手持ちカメラで登場人物たちの行動を追っていく、ドキュメンタリー的な撮り方をしていて、演者にも分かりやすい演技をさせずに、本当にリアリティーにある演技をさせているので(しかもBGMもなし)、可笑しいはずの「間」も、観ているこっちまで居心地が悪くなっちゃって、もう全っっっ然! 笑えないのですw

ただそれは、監督が下手くそというわけではなく、作り手が、わざとそう見えるように計算して作っているんですね。

多分、やろうと思えばもっとテンポのいい分かりやすいコメディーに出来たと思うんですが、 マーレン・アデ監督を始めとした作り手たちは、手持ちカメラでドキュメンタリーのように撮影、役者たちにも分かりやすい演技はさせずあくまでリアリティーにこだわった演出。劇中は自然音だけでBGMで盛り上げたりもしない。

まるで実在の親子に密着したようなリアリティーにこだわったのは、そうすることで、この親子の間の問題だったり、EC加盟諸国の間で起こっている格差から起こる搾取の構造を、より身近な“自分たちの物語”として観客に捉えてもらいたいっていう事なんじゃないかと思ったり。

だからこそ、父親の立場や気持ちも、娘の立場や気持ちも、両者が上手く伝えられずにすれ違ってしまう気まずさも、痛いほど伝わって来るのです。

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調子っぱずれな父親は、ただ娘が心配なだけだし、娘の方もウザイし困った父親だと思ってはいるけど、ちゃんと愛しているのですね。

で、娘の方は自分の汚れ仕事に対して心をシャットダウンしているんだけど、それでも本当は少しづつ心が傷ついていて、父親のウザイ攻撃や会社関係のあれこれによるストレスが少しづつ積み重なっていってついに……。っていうクライマックスになるんですが、その手前、パーティーで知り合ったルーマニアの女性のお宅に、ドイツ大使“トニ・エルドマン”と秘書としてお邪魔した二人が、お礼に歌をプレゼントする件があって、そこで父の伴奏で娘が歌うのがホイットニー・ヒューストンの『Greatest Love Of All』なのです。

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映画評論家の町山智浩さんの解説によれば、この曲は元々モハメッド・アリの伝記映画のテーマソングとして作られた歌で、「全ての人生のはじまりはまず自分を愛することからしか始まらない」という歌詞なんだそうです。

つまり、父親がこの歌をチョイスしたのは、仕事仕事で自分を見失いかけている娘への父からのメッセージなんですね。

そしてラストのクライマックスでは、色々なことが積み重なった娘イネスがついに静かにブチキレ。仕事の懇親会を兼ねた自分の誕生日パーティーである行動に出ます。

そのとき現れたのが、ポスターにもなっている毛むくじゃらの生き物(ルーマニアの幸福を司る精霊らしい)なんですねー。

そして、そのあとの精霊とイネスの行動は、やっぱりサラッと描かれているんですけど、それまでの描写の積み重ねがある分、観ているこっちもグッときてしまうんですよねー。

良い映画だけど観る人を選ぶ?

そんな感じで、ほんと良い映画なんですが、この映画なんと162分あるんですよねw

流石に長い! この物語を描くためにこれだけの時間が必要なのも分かるし映画の意図も分かるし、確かに感動もしたけど、劇映画的な盛り上げがまったくない映画の2時間40分は個人的にかなり辛かったです。

そういう意味では、この映画に乗れる人と乗れない人にクッキリ分かれそうな、ある種観る人を選ぶ映画と言えるかもしれません。

この映画に惚れ込んだジャック・ニコルソンが主役に名乗りを上げて、この映画はハリウッド・リメイクが決まっているらしいんですが、もしかしたらもっと劇映画的演出で分かりやすく誰もが感動出来る手頃な映画になるかもしれません。

ただ、それをやったら多分、この映画で作り手が目指している部分や、この演出だから出る味わいみたいなものは全部消えてしまうかもなー…なんて思ったりもするんですよね。
この長さと、観ているこっちまで居心地が悪くなるくらいリアルな作り方じゃないと、この映画で本当に伝えたい事は伝わらないのかもしれません。

興味のある方は是非!

 

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