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88歳の鬼才は未だ進化中「エンドレス・ポエトリー」(2018)*ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、みんな大好きアレハンドロ・ホドロフスキーの最新作『エンドレス・ポエトリー』ですよー!

84歳で23年ぶりの前作「リアリティのダンス」を発表して世界を驚かせ、ファンを熱狂させたホドロフスキーですが、本作はそんな「リアリティ~」のまさかの続編です!

で、この作品はあまりネタバレとか関係ないと思うので、文中に多少ネタバレがあります。
なので、これから本作を観る人や、ネタバレは嫌という人は、本作を先に観てからこの感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

チリの鬼才アレハンドロ・ホドロフスキーが監督を務め、久々に発表した新作『リアリティのダンス』の続編となる自伝的ドラマ。監督自身の人生を反映させ、若き日の両親との葛藤や初恋、その後の人生を左右する数々の出会いが描かれる。ウォン・カーウァイ監督作品『楽園の瑕(きず)』などで知られるクリストファー・ドイルが撮影を担当。80歳を超えている監督の作品とは思えないほど、エネルギーに満ちあふれた映像に魅了される。(シネマトゥディより引用)

感想

アレハンドロ・ホドロフスキーの自叙伝的映画 青春編

前作「リアリティ~」と本作を一言で言うなら、アレハンドロ・ホドロフスキー監督が自らの過去を振り返る「自叙伝映画」です。

なぜ自叙伝「的」なのかといえば、この2作が「ホドロフスキーの脳内」をそのまま映像化してるからで、つまり基本的には事実に沿って描きながら、その時にホドロフスキー視点で彼が感じた感情やイメージまでを全て(極端にデフォルメしたり抽象化した、幻想的とも言える映像で)一つの画面に収めているからなんですね。(マジックレアリズム)

前作では強権的な父親との関係を描いた少年編が描かれ、本作はホドロフスキーが成長し詩人としての自我を確立するまでを描いた青春編になっています。

少年期のアレハンドロ、父親のハイメ、母親のサラは前作から引き続きイェレミアス・ハースコヴィッツホドロフスキー家長男のブロンティス・ホドロフスキーパメラ・フローレスが演じ、青年期の成長したホドロフスキーホドロフスキー家の末っ子で前作・本作で音楽も担当したアダン・ホドロフスキーが演じています。

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画像出典元URL:http://eiga.com  / 父親役のブロンティス・ホドロフスキーと母親役のパメラ・フローレス

前作では色んな体験を経て変わったように見えたハイメでしたが、故郷トコピージャを離れ、家族と共に引っ越した首都サンティアゴでのタフな暮らしの中、すっかり元の強権的な父親に逆戻り。アレハンドロに対しても医者になることを強要するんですね。

そんなある日、店に入った万引き娘が落としていった一冊の詩集に出会ったアレハンドロ。すっかり心を奪われて将来詩人になりたいと思うようになります。

しかし、強権的な父がそんなことを許すはずもなく、ぶち切れたアレハンドロは母の実家の木を斧で切り「詩人に俺はなる!」と家出。

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従兄弟リカルドの紹介で、さまざまな芸術家が集うコミューンで生活するようになり……。というストーリー。

コミューンで初めて自分の詩作を認められたアレハンドロは一気に詩人としての才能を開花させ、従兄弟に告白されたり、パンクな女性詩人ステラに夢中になったり、ゲイバーでオカマを掘られそうになったり、パリに移住する芸術家にアトリエを貰ったり、詩人の親友が出来たり、親友の彼女を寝取って絶交されたり、仲直りしたり。

しかし、チリでの活動に限界を感じた彼は、父親の制止を振り切ってパリに向かうのです。

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まるで舞台劇…というかほとんど歌舞伎!?

前作では低予算ながらもCGなどを使って色鮮やかで幻想的な世界を描いたホドロフスキーですが、本作ではさらに予算は少なかったようで、クラウドファンディングで資金を得たけれど、VFX(CG加工)はおろか、セットや大道具、エキストラを雇う予算もなかったようで。

そこで考え出したのが前作でも行った、書き割りを使う方法。

ロケ地の家の前に白黒で印刷した巨大な書き割りを配し、蒸気機関車やエキストラも同じ手法で書き割りに。機関車に至っては後ろに配したスタッフが書き割りを持ち上げて移動したりしていますからね。

あと、キャストの芝居を黒子がアシストしたりしてて、まるで舞台演劇のようでしたねー。

っていうか、ホドロフスキー自身が監督・出演し、長男が父親を演じ、末っ子がアレハンドロ本人を演じ(劇伴や音楽も)、奥さんが衣装を担当してと、ほぼホドロフスキー家が総力戦で「ホドロフスキー家の歴史」を作っている姿は最早、ホドロフスキー一座っていうか、どこか歌舞伎っぽいなーとすら思いました。

ここまで読んでくれた人は「え、それってショボイんじゃないの?」と思われるかもですが、驚くべきことにCGなどを使った前作よりもずっと映像がリッチに見えるんですよねー!

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画像出典元URL:http://eiga.com

カメラマンが「恋する惑星」などを担当したクリストファー・ドイルということはもちろんですが、「書き割りも映像的、物語的な効果を狙って最初からそうしたように見えるし、赤い服と骸骨模様の黒タイツを着たエキストラ(ボランティアのみなさん)が大勢登場するシーンは度肝を抜かれましたよ。

実在した女流詩人ステラ

で、アレハンドロが一目惚れする豪快な女流詩人ステラ・ディアス・バリン

真っ赤な髪に毒々しい化粧、豊満な肉体で2リットルのビールを飲み干し、近づく男をパンチで叩きのめし、背骨に沿うようにドクロの刺青を入れている、悪役女子プロレスラーのような彼女を、お母さん役のパメラ・フローレス一人二役で演じているんですねー。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 悪役女子プロレスラーのようなステラ姐さん

恥ずかしながら、僕はネットで調べるまで二役だと気づきませんでしたねー。

で、さらに驚いたのは、このステラ・ディアス・バリンは実在の詩人だそうで、元秘密警察の一員でカラテを習っていて、酒豪だったのも当時は映画のように真っ赤に髪を染め、顔を化粧する代わりに絵の具を塗っていたのも本当だったという、かなりパンクな女性だったようです。(出典元:http://aribaba39.asablo.jp/blog/2017/10/31/8718629

過去改変でホドロフスキー家の呪いを解く

 この二作では、主人公のアレハンドロが精神的窮地に陥ったときに、現在のアレハンドロが本人役(アレハンドロの祖父説もあり)で登場し、少年時代、青年時代の自分に助言をしたり抱きしめたりするシーンが度々登場します。

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画像出典元URL:http://eiga.com / ちょいちょい登場しては過去の自分に助言するアレハンドロ・ホドロフスキー(現在)

本作でも、自分のアイデンティティを見失って悩むアレハンドロに助言を与え、パリへの旅立ちを止めようとする父との殴り合いの喧嘩に「そうじゃない!」と割って入って、和解させたり。

アレハンドロ・ホドロフスキーは自身が抱える強い後悔を、自叙伝的映画で過去に戻って改変することで、自分自身、ひいてはホドロフスキー家の呪いを解いているんですね。

同時に、現在のホドロフスキーが発する言葉は、多くの若者や、かつて若者だった大人たちが抱える悩みや後悔、苦悩などをひっくるめて全肯定した上で、背中を押してくれる応援詩のようでもあるのです。

個人的に本作は、アレハンドロ・ホドロフスキー作品の中でも一番の傑作だと思ったし、80代を越えても尚、進化し続け、これだけ美しく生命力溢れる映画を作るホドロフスキーのパワーや芸術的信念にはただただ脱帽ですよ。

とはいえ、ぶっちゃけ少々ショッキングなシーンもあるし、ホドロフスキーリテラシーのない人は多少面食らってしまうかもですが、本作はホドロフスキー作品の中では多分、一番ストレートで観やすいと思うし、共感出来るのではないかと思います。

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より楽しみたい人は、「ホドロフスキーのDUNE」→「リアリティーのダンス」→本作の順に観るのが個人的にオススメですよー。

興味のある方は是非!!

 

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