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ワンカットという手法に意味と意義がある「アイスと雨音」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは「私たちのハァハァ」「アフロ田中」などの松居大悟監督による2018年公開の青春映画『アイスと雨音』ですよー!

世界21の映画祭が参加し、YouTube上で作品が観られる10日間のデジタル映画祭「We Are One: A Global Film Festival」の、東京国際映画祭のプログラムとして無料公開されてて、ネット上でお世話になってる方が推していたので気になって観てみました!

www.youtube.com

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

『私たちのハァハァ』『アズミ・ハルコは行方不明』などの松居大悟監督による青春ドラマ。オーディションを経て舞台の上演に臨みながら中止を言い渡された少年少女たちが、それでも舞台に立とうと奮闘する。『デスフォレスト 恐怖の森3』などの森田想、『デメキン』などの田中偉登、『14の夜』などの青木柚、ベテランの利重剛らが出演。衣装をファッションデザイナーのKEISUKEYOSHIDAが担当している。(シネマトゥデイより引用)

感想

全編ワンカット撮影?という試み

本作は、ある町で上演される舞台演劇のキャストに選出された少年少女たちの青春を描いた、いわゆる“バックヤードもの”なんですが、キャストが上演に向けて練習している劇中劇と、役者たち自身の物語が同時進行で絡み合いながら進んでいくんですね。

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画像出展元URL:http://eiga.com

それ自体はバックヤードものではよくある作劇ですが、本作が面白いのは全編ワンカットで撮影しているということ。

74分間カットを切る(割る)ことなく、主役を追い続けながら稽古初日から“本番当日”までの数か月と言う時間を描くというのは、僕の知る限りほとんど例がないと思うし、この試みは演劇を題材にした本作ならではだなーと思いました。

全編ワンカット(風)で演劇を題材にした作品といえば「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を、バックスヤードものといえば「カメラを止めるな!」を連想する人もいるかと思いますが、本作はこの2本ともまた違う感じ。

ワンカット撮影は、物語の中で起こっている事柄をリアルタイムで見せるために用いられる事が多い(カメ止めはこのパターン)と思うんですが、本作の場合は(説明が難しいんですけど)、例えばカメラが主演の森田想を追って稽古場から別室に移り、再び稽古場に戻るとセットやキャストが変わっていて、テロップで「本番まで〇日」と表示されて数日の時間が経過して(いる事になって)いたり、彼女たち(役者)の物語と劇中劇をシームレスに繋げ、二つの物語を同時進行させながら、物語の切り替えの瞬間に時間が経過しているという体(てい)で物語が進んだりするんですね。

つまり本作では、舞台演劇的な「見立て」の手法を映画の中に取り込んでいるわけです。

その辺は、映画と演劇の世界を行き来する松居大悟監督だからこその発想だと思うし、稽古が佳境に差し掛かったある日、突如上演中止を告げられ――というストーリーも松居監督の実体験を反映しているらしく、それを演劇的「見立て」を使ってワンカット撮影することで、生々しい感情の流れや緊迫感が、ある種のドキュメンタリー的に映像に映し出されているんですよね。

*まぁ、もしかしたら(NGなどの理由で)途中でカットを切って編集で”ワンカット風“に繋げてるかもですが。

それでも、リアルと芝居、現実と虚構を有機的に絡めながら物語を進める本作には、ワンカット撮影という手法にちゃんと意味と意義があるし、それは舞台演劇を題材にした作品という前提があって初めて映画として成立しているわけです。

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また、エピソードの転換では二人組のラップグループ「MOROHA」が劇伴?を”生歌で語る”わけですが、どのナンバーもその場のシチュエーションと歌詞がいろんな形でリンクしていて、まるで歌舞伎の地歌みたいって思ったりもしましたねー。

キャスト

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そんな本作のメインキャストはこの作品の撮影時、多分17才の森田想を筆頭に田中玲子田中偉登青木柚紅甘戸塚丈太郎若杉実森門井一将と殆どが10代の若手で構成され、説明が抽象的過ぎてで何を言ってるのかよく分からない演出家役は松居監督自身が務めています。

メインキャストの8人は、「演技経験の有無を問わず」と募集期間約100時間で集まった400人の中からオーディションによって選ばれたそうで、ほぼ全員が役者としては未熟ですが、そんな彼ら彼女らが74分もの時間、二つの物語・二つの役をぶっ続けで演じ続けることで出てくる演技を超えた剥き出しの感情は、理屈抜きで観ているこっちの感情を揺さぶるし、その盛り上がりが極に達するクライマックスからラストシーンにかけては思わず泣いてしまいましたねー。

綿密な計算と仕掛け

本作を観た人の中には、もしかしたら「舞台演劇をそのまま撮影して映画にしただけ」と思う人もいるかもですが、僕は決してそうではないと思います。

上演の叶わなかった舞台演劇を一本の“映画作品”にするため物語の解体と再構築、ワンカットに違和感を持たせない作劇の綿密な計算と数々の仕掛けが施され、しっかり映画であることに必然性を持った作品に仕上がっていたと思います。

ワンカット撮影は多分、普通に映画を撮るよりずっと手間が掛かって大変なのは想像に難くないし、キャストの苦労・心労も並大抵ではなかったと思いますが、苦労分の価値がこの映画にはあったのではないでしょうか。

興味のある方は是非!!

 

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