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暴力映画最前線「トマホーク ガンマンvs食人族」(2015/日本ではDVDスルー)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、一部の映画マニアの間で話題沸騰のS・クレイグ・ザラー監督作品『トマホーク ガンマンvs食人族』ですよー!

現在公開中でメルギブ主演の「ブルータル・ジャスティス」の話がラジオで出ていて、その監督の長編デビュー作として本作が紹介されていたので、早速アマプラで観ましたよ!

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/91QOMOXxNGL._AC_SL1500_.jpg

画像出展元URL:https://www.amazon.co.jp

概要

ヘイトフル・エイト」のカート・ラッセルが主演を務め、食人族に連れ去られた人々を救うべく立ち上がった4人のガンマンの戦いを描いた西部劇アクションスリラー。アメリカの荒野にある田舎町で、複数の住人が忽然と姿を消した。さらに空き家の納屋で、惨殺された男性の遺体が発見される。現場の遺留品や遺体の状態から、犯人は食人族として恐れられている原住民であることが判明。保安官のハントら4人の男たちは拉致された人々を助けるため、足跡をたどって荒野を進んで行くが……。共演に「ウォッチメン」のパトリック・ウィルソン、テレビドラマ「LOST」のマシュー・フォックス、「扉をたたく人」のリチャード・ジェンキンス。「ザ・インシデント」の脚本を手掛けたS・クレイグ・ザラーがメガホンをとった。(映画・comより引用)

感想

エスタン・ホラー?

実はこの作品、アマプラのおススメでタイトルはチョイチョイ見かけてたんですが、なんせこのタイトル、いかにもインパクト狙いの出オチB級映画って感じじゃないですか。

なので最初は食指が動かなかったんですが、現在(日本では3館で)公開中の「ブルータル・ジャスティス」のS・クレイグ・ザラー監督が、ライムスター宇多丸さんを始め複数の映画評論家の人に激押しされてましてね。

その流れで長編監督デビュー作である本作も紹介されたのを聞いて、急に興味が湧いたわけです。

で、アマプラに入ってたので早速観てみたんですが――ビックリするくらいタイトルそのまんまの内容でしたねーw

そんな内容を超ざっくり説明すると、人食いインディアンに連れ去られた部下ニックエヴァン・ジョニカイト)と人妻サマンサ(リリー・シモンズ)をハート保安官カート・ラッセル)、サマンサの夫アーサーパトリック・ウィルソン)、ニヒルな紳士ブロンダーマシュー・フォックス)、老補佐官チコリーリチャード・ジェンキンス)の4人のカーボーイが救出に向かうのだが――というストーリー。

つまりは、カーボーイがインディアンと戦うというある意味で由緒正しい西部劇なんですが、西部劇全盛の1940~50年代ならともかく、悪いインディアンを正義のカーボーイが倒す西部劇なんて、諸々のリテラシーの進んだ現代では当然許されるわけもなく。

そこで、S・クレイグ・ザラー監督が取った手段が、敵がネイティブアメリカンたちからも忌み嫌われている“食人部族”であり、言葉も持たないため一切のコミュニケーションが取れないという設定。

なので音もなく忍び寄ってくる食人族は”敵”ではなく自分たちを捕食するモンスターであり、物語のプロットは西部劇じゃなくて完全にホラー
ほぼ「エイリアン」や「プレデターと同じなんですよね。

「暴力映画」最前線

そう書くといかにもB級映画っぽいというか、なんせガンマンと食人族が戦う映画ですからね。

“内容的”には確かにB級ホラー映画なんですが、ただのインパクト狙いの出オチ映画かと言うとちょと違うのです。

というのも本作のS・クレイグ・ザラー監督は元々脚本家ということもあって、ストーリーテリングが超上手。

なので、ある意味で荒唐無稽な本作のストーリーも思わず引き込まれてしまうんですよね。

例えば冒頭。

野宿中の旅人の喉元に刃物が押し当てられてゆっくり引かれる。
カメラが引くと、すでにもう一人の男も同様に殺されていて、会話の中身から殺した方の男2人は旅人の寝こみを襲う強盗であることが分かるんですね。

その二人の駄話中、死んだと思われた男が実は生きていて、死んだふりをしたままそっと銃を構えようとするも強盗の一人に撃ち殺されてしまう。

すると、その銃声を聞きつけた何者かが数名向かってくる馬の足音が聞こえ、二人は逃げようと丘を登るわけですね。

すると、丘の上では獣の鳴き声のような不気味な音が聞こえ、二人はどうやらネイティブアメリカンの墓場らしき場所に迷い込んでしまう。

若い強盗はビビって別の道を行こうと言うが、年老いた方の強盗は耳を貸さず進み、草むらに人の気配を感じて銃を発砲。

しかし、次の瞬間弓矢で喉を射抜かれた年老いた男を見て若い男は逃げ出し、その後方では刃物か鈍器で年老いた男が止めを刺されているのが小さく見えるわけです。

つまり、獲物(旅人)を狩る強盗を狩るインディアン(食人族)という図式を冒頭で見せることで、本作がアクション映画ではなく「暴力映画」であることが提示されるわけです。

この場合の「暴力映画」とは、例えば主人公が能力や腕力で悪者たちを倒すような勧善懲悪のアクション映画ではなく、例えばニコラス・ウィンディング・レフン監督作品や、スコセッシのギャング映画、一連のペキンパー作品や韓国ノワールなど、暴力の痛みや本質を描く、または暴力とは何かを観客に突きつける作品のこと。

そうした暴力映画の系譜自体は洋の東西問わず連綿と受け継がれていて、現在その先頭を走っているのがS・クレイグ・ザラー監督なんですね。

そんなザラー監督のデビュー作となる本作、ガンマンと食人族が戦う、いわゆるアクションシーンは殆どありませんし、あっても襲い掛かる食人族を主人公たちが銃で撃つのをサクッと見せる程度なんですが、何故か痛い描写は執拗に撮るししっかり見せます。

特に中盤、捕まった副保安官のニックが裸にひん剥かれ食人族に捌かていくショックシーンは観ていて本当に怖いし超シンドイ。
石か動物の骨で出来た斧で剥がれた頭の皮を口に突っ込まれ、逆さにYの字状にされて(刃物みたいに切れないから)股間から何度も斧を叩きつけられて縦に真っ二つに裂かれますからね。(←自主規制。読んでもいいよという人は文字反転で)

「こんな死に方は絶対に嫌だ」ランキング第1位ですよ。

それまで彼らを同じ「人間」として観ていた考えの甘さを突きつけられるような、何とも絶望的なシーンだし、捌かれていくニックに「コイツらを皆殺しにしてやるからな!」と声をかけるハート保安官に観ているこっちも感情移入するシーンであります。

その前のシーンでは、執拗にインディアンを憎み女子供まで160人以上を殺してきたブロンダーに対して批判的だったハート保安官とチコリー
この二人は非常にリベラルな精神の持ち主なんですね。
実はブロンダーの方は少年時代、インディアンに母と姉を殺されるという地獄を既に経験済みなので、価値観や宗教観、倫理観など何もかもが違うインディアンとは分かり合えない事を身をもって分かっていた。

そんなブロンダーの気持ちを、ハート、チコリー(と観客)はこの(ニック捌き)シーンで追体験し、骨身に染みて”分からされる“わけですね。

もちろん、人間を縦半分に裂いちゃうこのシーンは画的にも設定的にも荒唐無稽だし、コントギリギリなんだけど、それを悲惨&悲壮なシーンとして成立させているのは、脚本と監督を兼任するS・クレイグ・ザラー監督の手腕なんですよねー。

特に脚本は素晴らしく、一つ一つのシーンやエピソードには常にフリとオチがあって、前後のシーンが有機的にリンクしてるのです。

ただ、そんな激痛暴力描写の合間合間に、すっとぼけたギャグを挟んでくるので、この監督は油断が出来ないんですよねw

例えばこのニック捌きの次のシーンでは、食人族のリーダーがニックの足をケンタッキー感覚で歩き食いしてたりねw

その辺のセンスや省略の仕方なんかは北野映画に近いかもしれません。

まぁ、そのお陰で観ているこっちは息がつけるし、最後まで面白く観られるわけですが。

で、色々あってのラストの方で、この食人族の女がチラリと映るわけですが、彼女らは手足を切られ、いわゆる達磨状態にされたうえに棒のようなものを刺されて目も潰され妊娠させられている。(←自主規制。以下略)文字通り「子供を産む道具」にされているわけです。

実はその前に、サマンサが「身重の女たちは手足が不自由で盲目」と説明しているんですが、それがフリになっていて、説明を聞いてコッチが想像したのとは全然違う「暴力」を見せることで、食人族を完全なる怪物にする&ニックのシーン以前なら罪なき食人族の女たちを助けたであろう彼らが、放っておけば死ぬ事を知りながら放置して帰ることで、彼らの中でハッキリと「何か」が変わった事が示されているわけですね。

それは監督がリベラルに傾く映画業界を批判をしているようにも見えるし、現在のディスコミュニケーションな世界を映す鏡のようにも見えなくもないというか。

好き嫌いは分かれる

ただ、そんなS・クレイグ・ザラー監督作品は多分、相当好き嫌いが分かれるのは間違いなくて、実際評価サイトでも評価はハッキリ分かれてました

それは、もちろんグロ描写がエグいってのもあるけど、グロや暴力シーンに何某かの意味や意図、テーマ性みたいなのがあるのかないのか分からないってところで、ただのB級グロ映画に見える人もいれば、(勝手に)意味や意図を見出そうとする人もいるかなーと。

あ、あと、この作品ってBGMが一切入ってないんですよね。
で、エンディングロールだけテーマソングが入ってるんですが、どうもこの曲S・クレイグ・ザラー監督自身が作詞作曲したっぽいんですよね。
というのも、監督はプロのミュージシャンでヘヴィーメタルバンドのメンバーでもあったらしい。

なので、彼の作品のBGMは基本、監督自身が作詞作曲・演奏?もしてるらしいです。

というわけで、個人的には超面白かった本作ですが、とにかくグロシーンがキツめなので他人にはちょっとおススメ出来ない作品でしたーw

興味のある方は是非!!

 

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