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きっと誰も見たことがない「透明人間」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは昨年夏に公開され、映画好きの間で話題になった『透明人間』ですよー!
H・G・ウェルズの小説を原作にした1933年公開の同名作品を現代的にリブートしたサスペンスホラーです。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

ゲット・アウト』や『パージ』シリーズなどのジェイソン・ブラムが製作を担当したサスペンス。自殺した恋人が透明人間になって自分に近づいていると感じる女性の恐怖を描く。メガホンを取るのは『アップグレード』などのリー・ワネル。『アス』などのエリザベス・モス、『ファースター 怒りの銃弾』などのオリヴァー・ジャクソン=コーエン、『キリング・グラウンド』などのハリエット・ダイアーのほか、オルディス・ホッジ、ストーム・リードらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

「ダーク・ユニバース」の忘れ形見

2017年、ユニバーサルスタジオは自社が過去に制作したモンスターホラー映画をリブート&ユニバース化する「ダークユニバース」の第一弾として「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」を公開します。

折しも映画界はMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が起こしたビックウエーブに乗っかろうと、各映画会社が自社作品のユニバース化を始めた時期でもあり、メジャー会社のユニバーサルもこの流れにいっちょ噛みしようと画策したんですね。

で、ユニバーサルは元々、モンスター映画でメジャーまでのし上がってきた会社なので、自社の財産でもあるクラッシックモンスターの復活&ユニバース化を狙ったわけです。
ところが、その第1弾である「ザ・マミー/~」が大コケ
ダークユニバースは事実上消滅し、ユニバーサルはモンスター映画のリブートを、それぞれ単発作品として製作していく方向に舵を切ったのです。

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「透明人間」も、ダークユニバースではジョニー・デップ主演でリブートが予定されていたものの、脚本家エド・ソロモンが降板したことで企画は一度立ち消えに。
しかし2019年、ジェイソン・ブラムがプロデューサーを務め、「ソウ」シリーズの脚本や「アップグレード」の監督で知られるリー・ワネルがメガホンを取り1933年公開のオリジナル版をリブートすることを発表。
昨年7月に公開されるや、映画好きの間で「俺たちが観たかった『透明人間』はコレなんだよ!」と高評価を得たわけです。

「透明人間」の“怖さ”を再構築

では、本作が映画好きのハートを掴んだ理由を一言でいうなら、それは「透明人間の”怖さ“を解体・再構築してみせたという一点に尽きるのではないかと思います。

ミイラや魔女と並んで日本人にはその怖さがいまいち伝わらない透明人間。
例えば、「ミイラ男」は本編よりもそのパロディーから観始めている人の方が多いし、「魔女」だって日本人の場合「魔女っ娘」やディズニーで漂白された「良い魔女」に触れる方が早いので、そもそも恐ろしいモンスターとは結びつかない。もっと言えば「ミイラ」は植民地政策、魔女は反キリスト教(異教徒)という出自のモンスターなので、日本人がピンと来ないのも当然ですよね。

そして(僕も含めた)ある年代の男子にとって「透明人間」とは、ちょっとエッチなラブコメのイメージであり、なんなら当時は自分と透明人間を重ね合わせて見ていたりしたわけですよ。

それは日本に限ったことではなく、透明人間はそもそも、ストーキングや覗き、あるいは対象への性的な支配(レイプ)など、男のほの暗い欲望(タブーを破る)を体現した怪人であり、また歴代の映画やドラマの多くが、怪人(モンスター)であるハズの透明人間自身を主人公に描いているので、常に加害者側の視点で物語が進んでいく=怖くないわけです。

ところが、本作ではそうした「透明人間」が抱える構造的な問題点を解体し、透明人間が持つサイコホラー・サスペンスホラーとしての怖さを正しく再構築してみせたんですねー。

ざっくりストーリー紹介

光化学の権威で大富豪の天才科学者エイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン )の恋人セシリア(エリザベス・モス)はある夜、意を決してセキュリティが張り巡らされた彼の豪邸から脱出。妹エミリー(ハリエット・ダイアー )の協力で、逃亡に気付き追いかけてきたエイドリアンを振り切って何とか逃げ切ります。

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エイドリアンは反社会的な行動や気質を抱えるソシオパスであり、これまでセシリアを自分の思い通りに支配しようとしていたんですね。

その後、エミリーの友人で刑事のジェームズ(オルディス・ホッジ )の家に匿われていたセシリアの元に、エイドリアンが自殺したという知らせがあり、彼の持つ遺産をすべてセシリアに譲ると弁護士から連絡が入ります。
エイドリアンの兄で弁護士のトムによれば、セシリアがエイドリアンの遺産を受け取る条件は、1・精神疾患がない事、2・犯罪を起こさないことの二点。
この一見何て事のない条件そこが、この後セシリアを苦しめる罠なのです。

エイドリアンの死を疑いながらも、セシリアは徐々に落ち着きを取り戻していくんですが、ある日を境に彼女の周囲に不可解な現象が次々に起こり、そこにはエイドリアンが残したとおぼしき痕跡が――というストーリー。

こうしてあらすじだけ読めば、ビックリするくらい古典的な物語に見えると思います。

僕は「本作は『透明人間』抱える構造的な問題点をすべて解体し、透明人間が持つサイコホラー・サスペンスホラーとして怖さを再構築してみせた」と前述しましたが、実はこれまでの「透明人間」と本作が違う点はたった2つ。

1・物語の主人公をセシリアにし、2・透明人間を見えなくした。だけなのです。
それだけで、本作はこれまでの作品とは別の、まったく新しい「透明人間」になっているんですねー。

見えない透明人間

「透明人間が見えないのは当たり前じゃない?」と思われるかもですが、ライムスターの宇多丸師匠がラジオで解説していた通り、実は「透明人間」の映像化の歴史は、透明人間を如何に見せるかを追求する歴史でした。

例えば誰もいないハズなのに部屋に置かれた物質が勝手に持ち上ったり、床に積もった埃に足跡が付いたり、ヒロイン(被害者)が見えない何者かに襲われたり格闘したり。

登場人物には見えなくても、観客に透明人間が見えることでスリルやサスペンスを生む。つまり「志村後ろ―!」的なヤツですね。

そうした透明人間を見せる試みは、特撮・合成・CGなど映画のテクノロジーと共に進化していき、ポール・バーホーベン監督の「インビジブル」で一旦頭打ちになったと言えるでしょう。

ただ、これら透明人間を見せる演出は透明人間(モンスター)が主役だから成立するわけで、被害者側が主人公である場合、透明人間は“見えない方が怖い“のです。

なので本作では、これまでとは違い透明人間を見せない映像演出がされていて、例えばカメラが誰もいない場所にパン(カメラを固定したままフレーミングを縦・横に移動)するとか、セシリアしか映っていないのにあたかも横に誰かがいるような構図で撮るとか。

でもそこには部屋の風景以外何も映っていないので「セシリアの不安な心を映像で表現してるのかな?」と思いながら観ていると、中盤のある場面で「ホントにいたーー!!」となるのです。

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この辺の演出はいわゆるJホラー表現を上手く応用していて、さすが、ハリウッドナンバー1のJホラー演出の使い手でもあるジェームズ・ワンの盟友、リー・ワネル監督だなーと感心しましたねー。

物語の向こうにテーマが視える現代的な作品

事程左様に、本作は主人公を加害者(透明人間)から被害者に移したことによって、前述した透明人間が本来持つ性質が浮き彫りになり、それがフェミニズムやハラスメントといった非常に現代的なテーマと直結。
かと言ってテーマありきの物語ではなく、あくまで物語の中にテーマがある作りになっているんですね。

それはとても上品でスマートだと思うし、基本的にはセリフは最小限に、映像やエリザベス・モスの表情でテーマを語っているのも非常に映画的だし、今回の透明人間のデザインは、一方的な窃視や男から女性に向けられた性的な視線を具象化してみせた秀逸なデザインだったと思いましたよ。

そして、主人公や物語の視点をずらすことで古典的な物語を新たな物語に解体・再構築してみせた手腕の見事さは、高畑勲監督の遺作「かぐや姫の物語」を観た時の衝撃に近いものを感じました。

興味のある方は是非!!

 

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