今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

ベタを恐れず照れず真正面から描く「新喜劇王」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、みんな大好き「アジアナンバー1面白おじさん」ことチャウ・シンチー監督最新作『喜劇王』ですよー!

自身が1999年に主演、監督、脚本を手がけた「喜劇王」の主人公を女性に変えて復活させた本作、僕はオリジナルの方は未見なんですが、それでも十二分に楽しめる人情コメディーでしたねー。

https://eiga.k-img.com/images/movie/92434/photo/6dcf0c42bb758280.jpg?1578623478

画像出展元URL:http://eiga.com

概要

少林サッカー』『カンフーハッスル』などのチャウ・シンチーが、監督・主演した『喜劇王』を自らアレンジしたコメディー。無名の女優と落ちぶれたスター俳優の出会いがもたらす奇跡を、笑いと涙で描く。共同監督として『イップ・マン』シリーズなどのハーマン・ヤウが参加。『アイスマン』シリーズなどのワン・バオチャンをはじめ、エ・ジンウェン、チャン・チュエンダンらが出演している。(シネマトゥディより引用)

感想

チャウ・シンチーとは

https://eiga.k-img.com/images/movie/92434/photo/7e3c709fe9b0c635/640.jpg?1578623200

画像出展元URL:http://eiga.com

このブログでは監督作を何本かご紹介しているチャウ・シンチーですが、彼が何者か知らない人もいると思うので、まずはざっくり経歴をご紹介。

チャウ・シンチーは1962年生まれの58歳。
ホンコンの民放テレビ局、「無綫電視」の俳優養成所第11期の卒業生となった彼は、人気子供番組『430穿梭機』の司会者としてデビューします。

この番組では2人の司会者が「いいお兄さん」「悪いお兄さん」に扮し、いいお兄さんが悪いお兄さんの素行を叱って話が展開していく内容で、チャウ・シンチーは悪いお兄さん役を担当、これが大好評だったため5年間勤め上げたのだそうです。

その後、テレビ番組の司会者を1年務めて俳優に転身。
最初のうちは仕事も少なかったそうですが、この下積み期間に本などで勉強をしたことが、後の俳優&監督業の支えになっているのだとか。

そうしてテレビや映画で俳優として頭角を現した彼は、スタッフも兼任するようになり、1994年公開の『0061北京より愛を込めて!?』で、監督として初めてクレジット、2001年の『少林サッカー』や2004年公開の『カンフーハッスル』は香港映画歴代興行収入の記録を塗り替え日本でも大ヒット。チャウ・シンチーは世界的にも注目を集めます。

その後、2008年に「ミラクル7号」、2013年「西遊記〜はじまりのはじまり〜」、2016年「人魚姫」とチャウ・シンチー印のコメディー作品を重ねて香港、中国でヒットメーカーとなるも、残念ながら日本での扱いはイマイチなんですよねー。

そんな彼の作風は、様々な作品のオマージュや引用を多用する、初期のタランティーノ的ミクスチャーセンスと、非常にクラシカルな香港映画ならではのコメディーセンスを合わせ持つ、唯一無二の監督なのです。

個人的には、多くのハリウッド映画がキリスト教的価値観に則って作られるように、彼の作品の根底には常に仏教的な価値観や倫理観があると思うんですよね。

”リメイク”か“新作”か

そんなチャウ・シンチー監督の最新作となる本作は、自身が主演・監督を務めた1999年の作品「喜劇王」の主役を女性に変えてアレンジした物語。
僕はオリジナルを観てないのでハッキリとは言えませんが、多分、物語の大筋はオリジナル版に沿った作りではあるけれど、単なるリメイク作品には留まらず、女性を主人公に変えたことで「今」の時代に相応しい新作になっているように感じました。

とはいえ、そこは“アジアナンバー1面白おじさん”ことチャウ・シンチー印の作品ですからね。

凡百の「とりポリ作品(取り合えずポリコレやっときゃいいだろ作品)」とは一味も二味も違う独自の作品に仕上がっているんですよね。

ベタを恐れず照れず

そんな本作の内容をざっくり説明すると、映画女優を夢見るも30歳を過ぎてもエキストラの仕事しかもらえないモン(エ・ジンウェン)が主人公。

https://eiga.k-img.com/images/movie/92434/photo/e798a4659ca78f34/640.jpg?1578623202

画像出展元URL:http://eiga.com

女優業に大反対の父、エキストラの彼女を相手にせず雑に扱う映画関係者、明らかにモンをカモにしている結婚詐欺師の彼氏、あっさりモンを裏切る友人などなど。

自身を取り巻く厳しい環境の中、それでも持ち前にポジティブ思考を失わずに頑張るモンの奮闘を描いた、ある意味で、昭和のスポコン的というか、「細腕繁盛記」や「おしん」的物語というか。

観客にストレスがかかるシーンは控えめが当たり前のイマドキの映画やドラマとは違って、主人公モンはこれでもかと次々に不幸な目に遭うわけですが、あまりにもめげないので観ていて「ちょっとアレな人なのか?」と思ってしまうくらい。

でも、実はそんな事はなかったって事が中盤の山場で描かれることで、観ているコッチも「もう、楽になってええんやで……」って気持ちになるんですが、クライマックスのあるシーンで、それまでのアレコレが実はこの一点に集約される壮大な前振りだったという事が分かり大感動してしまうのです。

また、主人公モンがそれだけひどい目に遭っても嫌な気持ちにならずに観ていられるのは、彼女を虐げる連中の中に必ず彼女の理解者というか、努力する彼女を見て、応援してくれている存在が配置されているからなんですね。

まぁ、その一人がお父さんで、「お前みたいな娘はいらん!」とか怒鳴りながら、こっそり様子を見に撮影所にやってきたり、モンを雑に扱うスタッフに抗議をしたりして、陰ながらモンを応援してくれるのです。

でもそこをお涙頂戴に描かず、お笑いにしてしまうセンスは流石チャウ・シンチーだなーと思いましたよ。

そんなモンと鏡合わせ的なもう一人の主人公とも言うべき存在が、落ちぶれた元大スターのマー・ホー

嵩山少林寺で修業を積んだ武術家でもあり、コメディーからアクションまで幅広い役柄を演じるワン・バオチャンが演じているんですが、その扱いがあまりにもひど過ぎて思わず笑っちゃうんですよねーw

https://eiga.k-img.com/images/movie/92434/photo/7ed1120f5cb17dd0/640.jpg?1578623199

画像出展元URL:http://eiga.com

マー・ホーは中国のお正月である春節に公開される予定の映画で何故か白雪姫役に抜擢されるんですが、落ちぶれているのにプライドだけは高い彼は最初凄く嫌なヤツでモンにも辛く当たったりするんですね。
けれど中盤のあるシーンを境にモンのよき理解者となって応援するという役柄で、序盤のコメディーシーンとは真逆のワン・バオチャンの深みのある演技がホント素晴らしいのです。

そして、そんな作劇の根底にあるのはチャウ・シンチーの仏教的思想であり、人間賛歌の精神。
本作で語られる「夢を追い続け努力しつづすれば、必ず見ていてくれる人はいるし最後は報われる」というメッセージはあまりにもベタだし、昨今は逆に「きれいごと」と小ばかにされたり否定されたり、それを描くこと自体がベタすぎて恥ずかしいとされるくらいですが、チャウ・シンチーはそれを一切の照れも恐れもなく、真正面から堂々と肯定してみせたんですよね。

それはいわば、アメリカン・ニューシネマというムーブメントを終わらせたルーカスの「スター・ウォーズ」とやってることは同じと言っても過言ではないのです。

キャスティング

チャウ・シンチー映画のもう一つの大きな特徴といえば、キャスティングの妙ではないかと思います。

https://eiga.k-img.com/images/movie/92434/photo/66fa0da059ea7368/640.jpg?1578623203

画像出展元URL:http://eiga.com

これまでの作品でも、「一体どこで見つけたんだ!?」というような絶妙なキャストが登場しましたが、本作でもこれがデビューながら主人公モンを見事に演じたエ・ジンウェンから、冒頭の公園ダンスシーン?に登場するおばちゃんたちに至るまで、とにかく絶妙に”いい顔”のキャストが集まってるんですよねーw

映画の出来は8割キャスティングで決まる理論」に則っとって考えるなら、本作を含む近年のチャウ・シンチー作品はキャスティングの段階で勝利が約束されてるのかもしれないし、チャウ・シンチーの才能は自身のイメージにピッタリのキャストを見つける能力なのかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

▼良かったらポチッとお願いします▼


映画レビューランキング