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まるで異世界に放り込まれた感覚「ジャッリカットゥ 牛の怒り」(2021)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、あのアートディレクターで映画評論家の高橋ヨシキさんが自身のYouTubeチャンネルの中でおススメしていた『ジャッリカットゥ 牛の怒り』ですよー!

牛版ランボー」というか「牛版アポカリプト」というか「牛vs人間 怒りのデスロード」というか、とにかくスーパーハイテンションな映像に圧倒されっぱなしの91分でしたねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

ある村の精肉店から逃げ出した水牛をめぐるパニックスリラー。南インド・ケーララ州の最も奥に位置する村を舞台に、水牛に飜弄(ほんろう)されるうちに、人間の本能があらわになっていく人々を映し出す。リジョー・ジョース・ペッリシェーリが監督を手掛け、アントニー・ヴァーギス、チェンバン・ヴィノード・ジョース、サブモン・アブドゥサマード、サンティ・バラチャンドランらが出演。第93回アカデミー賞国際長編映画賞のインド代表にも選出された。(シネマトゥデイより引用)

感想

「ジャッリカットゥ」とは

ジャッリカットゥは、牛を群衆の中に放ち逃げようとする牛の背中の大きなコブに参加者が両手で捕まり続けることを競う牛追い競技のこと。

本作の内容はまさにそんなタイトルに相応しい物語で、南インド・ケーララ州の最も奥にある小さな村の肉屋で屠られようとしていた水牛が突如暴れて逃走。

村人たちは逃げ出した牛を捕まえようとするのだが、神出鬼没の牛に翻弄されるうち、やがて社会性や倫理といった人間の皮は剝がれ、欲望丸出しの獣になっていく――という物語。

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まぁ、言ってしまえば牛を追いかけるだけというシンプルなストーリーなんですが、これがメッチャヘンテコなのに凄い、今まで観たことのない映画なんですよねー。

まるで異世界、知らないカルチャーに放り込まれる感覚

そんな本作は、黙示録の引用からスタート。
自身もキリスト教徒であるリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ監督によれば、これはアカデミー賞国際長編映画賞インド代表作品に選ばれた際に後付けしたらしいんですが、舞台になっている村が、インドには珍しいキリスト教圏だからって事もあるのかもですね。

で、時計の秒針のような音に合わせて、横になってる人々が目を開けたり閉じたままだったり。ようは村の朝、目覚めた人、まだ眠っている人の顔のアップを秒針の音に合わせて映してるわけですが、このクセの強い映像にいきなり面食らってしまうんですよね。って言うか普通の映画なら、村の日常の描写でこんなショットの撮り方や編集のやり方しないじゃないですか。

その後起床した村人たちの日常が描かれるんですが、それが何と言うか凄く不穏なわけですよ。主役は肉屋の使用人なんですが、村には屠殺場などなくて、毎朝生きてる牛を自分たちで屠殺、解体、販売してる。その様子や、メニューが毎朝同じという理由で朝から奥さんに平手打ちするDV親父や、購入した肉の袋を教会の前の木の枝にぶら下げてミサに参加するとか、そういう、「日常」っていうワードでは決して描かいだろうシーンが繋がれているんですね。

そのバックに流れる音楽も何かヘンテコで不穏。
監督インタビューによれば、本作の音楽はほぼ楽器は使わず、人間の体を打ち付けたり、叫んだり、ため息で構成され、劇中の道端でカレーを作っている人たちをスタジオに呼んで音を出してもらい、それを合成して音楽にしているのだとか。

で、そんな日常描写が繰り返された後、突如、命の危機を感じた牛が暴れだし逃亡したところで、タイトルが映し出されるんですねー。

もう、万事がこんな感じで、いわゆる映画製作の通常のセオリー無視の撮影と音楽、そして編集に、観ているコッチが何が何やらと混乱しているうちに、あれよあれよという間に物語は進み、どんどん収集がつかなくなっていくんですねー。

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それでも、登場人物の名前と顔が一致すれば、まだ、いくらか理解出来ると思うけど、なんせ濃い顔系のインド人な上にヒゲ率&太っちょ率も高い&主役も特別カッコ良くない(むしろモブっぽい)ので、正直、最初から最後まで誰が誰だか見分けがつかないんですよね。あと、全員気が短くてすぐ怒るし。

それと独特な映像&編集が相まって、日本とはルールも文化も違う、まるで異世界に放り込まれたような感覚になるんですよねー。

一頭の牛が人間の皮を剥ぐ

とはいえ、小さな村の肉屋から逃げた牛を村人が追いまわすという、非常にミニマムなコミュニティーのシンプルかつ小さな物語だし、逃げ出した牛だって特別大きいとか、狂暴とかってわけでもなく、どちらかと言えば痩せっぽちで牛としては小さめだと思うんですよ。

この牛、撮影のために購入した本物の水牛一匹と、アニマトリニクスで作られた頭などの部位、それとほんの少しのCGの組み合わせで作れれていて、なので見た目が迫力不足なところも含めてリアルだし、ドキュメンタリー的な迫力があるんですよね。

ただ、この牛が何とも神出鬼没で、村人総出で探してるのに一向に見つからず、突如現れては店舗を壊したり、村人を病院おくりにしていくっていう、まるでランボーみたいなんですよねw

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で、そんな暴れ牛の情報を聞きつけて近隣の村からも愚連隊みたいな奴らが集まったり、村人も次々増えていき、なんかあれよあれよという間に人数が千人に膨れ上がるんですね。

監督によれば、茶畑で働いている労働者の日当に賃金を上乗せ、食事も提供して総勢二千人のエキストラを雇ったのだとか。
その辺はさすがインド映画ならではというか、世界中の映画見渡しても、今どき千人規模の人間が一つ画面に収まってる映像なんて中々観られませんよ

で、話をストーリーに戻すと、この神出鬼没な牛に翻弄されるうち、村人たちはだんだん倫理観や社会性、冷静さみたいな人間が人間足りうる表皮を剥がされて行って、その中から欲望丸出しの獣としての本性を覗かせていくんですね。

それが極に達するのがクライマックスの千人が牛に群がって出来る”人間山脈”で、観てるこっちはただただ圧倒されながらも、普遍的な人間の本質を垣間見るというか。

いや、そういうのを抜きにしても、単純に千人近い人間が松明やライトを持って暗い林や村の中を全力疾走する様子を空撮する映像は、それだけでも見る価値ありだと思いますよ!

興味のある方は是非!!

 

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