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スピルバーグの魔法「ウエスト・サイド・ストーリー」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは1957年にブロードウェイで上演された同名のミュージカルを映画化。1961年に公開しアカデミー11部門中10部門を受賞した「ウエスト・サイド物語」を、巨匠スティーブン・スピルバーグがリブートした『エスト・サイド・ストーリー』ですよー!

最初にリブートの話を知った時は正直「何で今さらウエスト・サイド物語を?」「しかもスピルバーグが??」って思ったけど、実際に観たら、確かに今、作るべき物語になっていました。
やっぱすげぇやスピルバーグ

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

1961年に映画化もされたブロードウェイミュージカルを、スティーヴン・スピルバーグ監督が映画化。1950年代のアメリカ・ニューヨークを舞台に、移民系の二つのグループが抗争を繰り広げる中で芽生える恋を描く。脚本と振付は、共にトニー賞受賞歴のあるトニー・クシュナージャスティン・ペックが担当。主人公を『ベイビー・ドライバー』などのアンセル・エルゴート、ヒロインをオーディションで選出されたレイチェル・ゼグラーが演じるほか、1961年版でオスカーを受賞したリタ・モレノらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

ウエスト・サイド物語」とは

1961年公開の映画「ウエスト・サイド物語」は、ポーランド系白人の少年たちで構成される「ジェット団」とプエルトリコ系移民で構成される「シャーク団」の抗争と、それぞれのグループに属していたトニーとマリアの恋愛を、シェークスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」をベースに描いたミュージカル映画で、元々は1957年にブロードウェイで上演された同名舞台を、舞台版も手掛けたジェローム・ロビンズロバート・ワイズの共同監督で映画化されたんですね。

この作品はアカデミー賞では作品賞をはじめ、ノミネートされた11部門中10部門を受賞という快挙を果たしますが、一体何を評価されたのかというと、

・それまでなかった「若者」の物語であること。
・それまで映画では描かれてこなかったポーランド系白人やヒスパニック系移民を描いたこと。
・当時流行したマンボやサルサなどのラテン音楽を取り入れたこと。

の三点。

それまでは中学校を卒業した少年少女はすぐに働きに出て大人の仲間入りをし、10代のうちに親になるというのが当たり前。つまりいわゆる青春時代はなかったわけですが、第二次世界大戦後。大人でもなく子供でもなく、社会にも居場所のない「若者」たちが登場。そんな彼らが不良化して社会に反抗するというムーブメントが世界中で起こるんですね。

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ウエスト・サイド物語」はそんな若者たち。特に貧困層の若者たちを主役に描いた物語だったのです。

アメリカでは白人同士でも差別があって、要は先に入植した白人が後から入植してきた白人を今も差別している。
で、ポーランド系白人は後から入植しているので他の白人たちから差別される貧困層ゆえに、満足な教育を受けることが出来ず、当然働き口もなくゆえに不良化していく。
そんな彼らが警察所で歌う曲が「Gee, Officer Krupke(クラプキ巡査どの)」で、社会にたらい回しにされる彼らの状況をコメディチックに歌い踊るんですね。

さらにアメリカには多くのヒスパニック系移民もいるけれど、映画に登場する白人は全部”白人”と一括りにされ、他に登場するのは黒人・ネイティブアメリカンくらい。

つまり、エンターテイメントの世界で今までいない者として無視されてきた、ホワイト・トラッシュ(貧乏白人)やヒスパニック系移民を主役に据えたところを本作は評価されたわけですね。

また、それまで、わざわざ色を黒くするファンデを塗ってまで白人が有色人種役を演じてきた映画界で、初めてプエルトリコ出身のリタ・モレノが準主役級の役柄を演じ、アカデミー賞助演女優賞を受賞したのも、当時としては画期的なことだそうですよ。(トニー役はギリシャ系のリチャード・ベイマー・マリア役はロシア系のナタリー・ウッドが演じていた)

とはいえ、この映画では人種間の分断や差別はあくまで登場人物の背景であり、問題意識は若者の不良化や反抗の方に向けられていたらしいんですね。

僕はこの「ウエスト・サイド物語」は、多分テレビの洋画劇場で観たと思うんですが、子供過ぎて内容はほとんど覚えてないし、それこそタモリさんや多くの人がミュージカルを批判するときにこの映画をやり玉に挙げてきたように、僕にとってもミュージカルが苦手になるキッカケになった作品なんですよね。なぜなら悲劇だから。

当時の僕にはまだ、ミュージカルのリテラシーがなくて、ミュージカル=楽しいものと思ってたのにこの映画はめっちゃ悲劇だし、悲しい時に歌ったりするのが凄く違和感だったんですよね。

なので、このオリジナル版を僕は子供の頃に一度観たっきりで、それから数十年ずっと観てなかったんですよね。

「ウエスト・サイド・ストーリー」へ

で、本作ですよ。

正直、観ようかどうしようかかなり迷ったけど、でもスピルバーグが監督ですしね。

あのスピルバーグが、なぜ今になって「ウエスト・サイド物語」をリブートしようと思ったのか、どんな風に撮ったのか凄く気になるじゃないですか。
で、劇場に観に行って「あーなるほどそういう事か」とめっちゃ腑に落ちましたよ。

基本的に大筋はほぼ一緒なんですが、前作では不良少年の抗争に重きを置いて描いていたのを、スピルバーグは、都市の再開発と高級化(ジェントリフィケーション)によって共に居場所を奪われようとしている被差別民の彼らが、分断・抗争することで起こった悲劇を描いているわけです。

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それはまさに、今、世界中に起こっている問題でもあり、スピルバーグずっと差別と分断を描いてきた作家ですからね。

その描き方も見事で、序盤から中盤にかけて故郷を恋しがる男たちに対し、シャークスのリーダー・ベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)の恋人アニタ(アリアナ・デボーズ)ら女性陣は、故郷には仕事もお金もないがアメリカには夢があるというアメリカに肯定的なスタンスなんですが、色々あった物語後半、ジェットツ・シャークスの中立地帯とも言えるヴァレンティナ(リタ・モレノ)の店でジェット団にレイプされそうになったアニタが「好きでアメリカにいると思うか。私はプエルトリカンだ!」と押さえていた本心が爆発するシーンは、観ていて本当に辛かったですね。

この男社会の中で生きる女性たちの生き方や心情をしっかり入れ込むところも、ちゃんと今の映画になってるし、その辺はトニー・クシュナーの脚本の素晴らしさだと思いました。

一方で、ジェットツに入りたがっているエニー・ボディズというトランスジェンダーのキャラクターを、本作ではその役をトランスジェンダーの俳優アイリス・メナスが演じていて、劇中ではその辺あまり言及されてないし物語にもあまり絡んでいないので、例によってポリコレ要員かと思ったら、エニー・ボディズというキャラクターは60年以上前のオリジナル版(多分舞台版から)にも登場していて、「ウエスト・サイド物語」という作品の先進性に驚きました。

映像作家スピルバーグの真骨頂

映画監督は大まかに、ストーリーテラーか映像作家に分かれると思うんですが、スティーブン・スピルバーグという人は生粋の映像作家
映像でストーリーを語る事においては、現状まさに世界一の監督なんですよね。

もちろんそれは監督の考えを実現できる撮影監督いてこそで、それがスピルバーグにとっては盟友ヤヌス・カミンスキーなんですが、本作でも二人のチームワークは抜群。

冒頭、カメラは瓦礫の山の上を滑るように進み、都市再開発の看板と鉄柵を乗り越えたと思ったら、今度は地面スレスレを進み、そして地面の鉄扉が突如開いて若者がペンキを持って出てくる。

その若者はジェッツで、リーダーのリフ(マイク・ファイスト)の口笛と指パッチンに合わせて次々仲間が集まってくる。
そして、通りに出ると彼らはキレッキレのダンスを踊るわけです。

で、確かその後、壁に描かれたプエルトリコの国旗に持ってきたペンキをぶっかけ、駆けつけたシャークスとひと悶着あって警察が駆けつけるところまで、ワンカットではないけどかなりの長回しで見せていきます。

オリジナル版ではNYマンハッタンの空撮からスタートして徐々にウエストサイド地区の運動場に寄っていくんですが、本作はジェッツの若者の目線でカメラが移動するんですね。

また冒頭の瓦礫の中には、あの名曲「tonight」のシーンの鉄階段があって、オリジナル版を知ってる観客なら一瞬「あれ!?」って思うんじゃないでしょうか。

あとミュージカルシーンは全体的に、オリジナル版よりも立体的というか映画的。
物語と歌やダンスがシームレスに繋がっていて、ダンスの躍動感や画面の広がりもあり、もちろんそれはダンスの技術やダンサーのレベルが1961年当時よりも上がってるってのもあるんでしょうが、オリジナル版ではセットの限定的な空間で固定カメラの前での歌やダンスが多かったのに対し、本作ではオープンセット?のストリートなど、開けた空間でのダイナミックなダンスシーンを移動カメラでより映画的に追っていくのです。

何て言うか、子供の頃観たザ・ミュージカル映画のあの感じというか、あの頃のミュージカル映画よりミュージカル映画っていうか、スクリーンの中で沢山の人が踊り歌う絵面は物凄くリッチでした。

さらに光と影、色彩の演出も見事で、例えばジェット団の縄張りの方は割と色調を落とした灰色っぽい色合いなんですけど、シャーク団の住むエリアは色彩が豊かで如何にも南米って感じ。もちろんそれはお国柄の演出だけではなくて、同じ貧乏でもプエルトリコ移民の彼らは仕事も家族も夢もある。つまりスタート地点にいるのに対し、ホワイト・トラッシュのジェット団は家族は崩壊し、仕事も未来もないどん詰まりにいる。

スピルバーグはそんな両者の違いを色彩で表現して見せたんですね。

キャスト

そんな本作のキャストは正直ほとんど知らない人ばかりで、名前を知ってるのはトニー役のアンセル・エルゴートくらい。
彼は「ベイビー・ドライバー」のベイビーを演じています。

ジェッツ、シャークスの両者が一目置いている、いわば中立地帯になる「ダグの店」の店主は、オリジナル版では白人のダグでしたが、本作ではオリジナル版でアニタ役を演じたリタ・モレノがダグの奥さん役で、ダグ亡き後に店を守っている女店主ヴァレンティナとして、仮釈放中のトニーの更生のため、店で働かせているんですね。
御年90歳の彼女が終盤で歌い上げる「Somewhere」は、字幕を読みながら聞くと、もう、号泣ですよ。

あとジェッツのリーダー・リフを演じているマイク・ファイストは、カッコいいし二枚目なんだけど、絶妙にちょっとだけショボい感じが出てるのが良かったです。

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こう、無理してジェッツをまとめてる感というか、本来ならトニーがリーダーなんだけど、途中で抜けちゃったので自分が頑張るしかないみたいなね。

マリア役のレイチェル・ゼグラーは、何と言うか、ザ・美人って感じ。
その上歌も上手で、トニー役のアンセル・エルゴートと歌う「tonight」は惚れ惚れしてしまいますよね。

で、僕が個人的に一番素晴らしいと思ったのが、アニータ役のアリアナ・デボーズ
もう、歌も上手いしダンスもキレッキレでダイナミック。しかも芝居も素晴らしくて、もうパーフェクトでしたよ!

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それと彼ら不良少年の抗争を止めようとするクラプキ巡査(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)とシュランク警部補(コリー・ストール)。

シュランク警部補の方は、ポーランド系白人もプエルトリコ移民も明らかに差別していて、両者の争いを止めるのは、死人が出て再開発にケチがつくのが嫌だからなんですが、現場に出て日々彼らと接しているクラプキ巡査の方はジェッツのメンバーにやや同情的だし、あからさまではないけど気にかけているように僕には見えたんですが、どうなんでしょうね?

スピルバーグの魔法

本作について、アートディレクターで映画ライターの高橋ヨシキさんは「スピルバーグが映画撮るの上手すぎて、(悲劇と分かってるのに)もしかしたら上手く行くんじゃないかって思っちゃう」(意訳)と話していたんですが、僕も本作を観に行って、ヨシキさんの言葉の意味が解ったし、全く同じことを思ってしまいました。

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内容をうろ覚えとはいえ大まかな物語も結末も分かってるのに、初めて観る映画みたいにずっとドキドキワクワクしながら観てしまうんですよね。

まさに、映像にスピルバーグの魔法が掛かっているのです。

このオリジナル版の内容はそのままに、語り口と視点で全く別の物語として語りなおすところは、故・高畑勲監督の「かぐや姫の物語」を思い出しました。

興味のある方は是非!!

 

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