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絵柄で侮るなかれ!「映画大好きポンポさん」(2021)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年公開された劇場アニメ作品『映画大好きポンポさん』ですよー!

「pixiv」で発表された同名コミックを「空の境界矛盾螺旋」などの平尾隆之監督で劇場アニメ化。SNSを中心に話題になった映画を作る映画です。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

イラストコミュニケーションサービス「pixiv」で発表された杉谷庄吾によるコミックを原作にしたアニメーション。映画通の製作アシスタントの青年が目利きの映画プロデューサーに監督として抜てきされ、映画づくりに奔走する。監督を『劇場版 空の境界/第五章 矛盾螺旋』などの平尾隆之が務め、制作を『この世界の片隅に』などに携わったスタッフが立ち上げたCLAPが担当。ボイスキャストには清水尋也小原好美大谷凜香加隈亜衣大塚明夫などが名を連ねる。(シネマトゥデイより引用)

感想

映画好きの作者が映画好きの観客に贈る物語

公開時にTwitterなどのSNSで話題を呼んだ作品なので、僕も、作品名は知ってましたが内容はまったく知らないまま、今回Amazonレンタルで視聴したんですね。

絵柄やキャラクターのポップさもあって、日本の映画ファンが映画についてワチャワチャ語る作品だと思ってたんですがこれ、ハリウッドがモデルの架空の映画都市で映画を製作する物語だったのでビックリでした。

物語は架空の映画都市「ニャリウッド」で、伝説の映画プロデューサー・ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ペーターゼン小形満)の孫娘で、自身も映画プロデューサーのジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット。通称ポンポさん小原好美)の助手として働く映画マニアのジーン・フィニ清水尋也)が、ポンポさんから出されたテストを(そうとは知らず)クリアして監督デビュー。初めての作品を完成させるまで=成長を描いているんですね。

ジーンが撮影を終えるまでの前半では、人間関係のゴタゴタなどのノイズはサクッとカットしている、まさに夢の世界なので非常に観やすい反面、テンポのいい展開をご都合主義に感じる人もいるかもとは思いましたねー。

ファンタジーとリアリティー

例えば、映画マニアだけど非リアでコミュ障気味な主人公ジーンが、(初めての)映画の現場で海千山千のプロたちを動かせるわけがない=リアリティーがない。みたいな。

確かにそこはまぁおっしゃる通りなんですけど、まぁ、本作の舞台はハリウッドではなく、あくまで「ニャリウッド」で、いわゆるファンタジー世界ですしね。

それに、確かに色々ノイズカットはされているんだけど、理論的には破綻していないというか。

監督としてジーンに足りていないこと経験を、ポンポさんは明るくムードメイカーでもある大御所俳優マーティン・ブラドック大塚明夫)を主役に据え、自身も現場にいることでフォローする体制を作っている。

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その辺のファンタジーとリアリティーのさじ加減が絶妙なうえに、テンポもとてもいいので観ているこっちはストレスなく物語に引き込まれていくわけです。

原作にない後半部分が本番

そして、そんな夢の様な撮影が終わり編集作業に入るジーン。

実はこの編集シーンは原作マンガにはないアニメオリジナル。
原作ではスイスロケを中心にした撮影シーンをメインに添えていたんですが、このアニメ版ではこの編集シーンが物語のメインになっているのです。

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今まで「映画を作る映画」は星の数ほど作られていますが、実は編集作業に重きを置いた作品は珍しいと思うし、それは同時に映画製作における監督の役割にスポットを当てている事でもあるんですね。

映画は、カメラはカメラマンだし、照明は照明マン、大道具小道具、衣装、音楽、役者と、それぞれ専門家が寄ってたかって作るわけですが、その中で映画監督の仕事ってぼんやりこんな感じってのはあるけど、いまいちハッキリしないないじゃないですか。

で、映画における監督の仕事って、それら専門家たちが監督のイメージに沿うように揃えた“素材“から取捨選択の判断をして一本の物語に仕立てること。
つまり編集こそが仕事の本分なんですよね。
もちろん編集にも専門家がいますが、編集マンは監督と二人三脚で行う印象です。

本作ではジーンが1人で編集作業を行うんですが、編集によって如何にシーンの印象が変わるかを映像として見せた上で、72時間にも及ぶ膨大なデータから何を切って何を活かせばいいいのかにジーンは苦悩します。

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そのデータには、恐らくはジーンが初めて味わったであろう、映画撮影の夢の様な楽しい時間と感動が封じ込められているわけで、つまりはご都合主義にも見える前半の撮影シークエンスが、この後半の編集作業の苦悩の伏線になってるわけです。

さらに本作には、原作にはいないオリジナルキャラも登場します。
それが、ジーンの同級生アラン木島隆一)。

彼は学生時代はイケてたし、器用で何でもそこそここなせるので、卒業後はニャリウッド銀行に勤めているわけですが、仕事にやりがいが見いだせず悩んでいるんですね。

そんな彼が偶然撮影中のジーンに出会う。
学生時代は見下していたジーンが今は学生時代から好きだった事を仕事にしていることに驚き、自身の今と比べて落ち込むんですね。

そんなアランが、その後ジーンのピンチを救うという展開になり、それが彼自身も救う展開になるんですが、個人的に感心したのは、平尾監督はこのアランというオリジナルキャラクターを出すことで、本作を「才能を持つ一握りの人間」の物語ではなく、「なぜ仕事をするのか」=「仕事の中に自分をみつけられるか」というすべての人々に通じる普遍的な問いかけと答えになっているんですね。

創作論としてのポンポさん

そんな本作序盤。

ジーンとポンポさんが映画に対しての軽い問答をするシーンがあります。

ジーンが試写室を借りたいと言い、ポンポさんが何を観るのかを聞くと、ジーンが「ニューシネマパラダイス」と答える。

するとポンポさんは「うげー」と嫌な顔をするんですね。
その理由は上映時間が2時間以上と長いから

彼女は伝説の映画プロデューサーである祖父に英才教育を受けた反動で、90分の分かりやすいB級映画を好むようになってしまったんですね。

更にポンポさんは「2時間以上の集中を観客に求めるのは現代の娯楽としてやさしくない」「製作者はシーンとセリフを取捨選択し、出来る限り簡潔にメッセージを表現するべき」「ぶよぶよと脂肪だらけの映画は美しくない」と言います。

このポンポさんの理論には異論のある方も多いでしょうが、近年の、3時間近い長尺な作品が何かと持てはやされる風潮に些かうんざりしている身としては、このポンポさんの意見には頷く部分も多いんですよねー。

いや、昔の映画が90分なのは、単純に映画館での上映回数=経済的な問題というのはもちろん承知ですが、しかしその制約=ルールがあるからこそ、昔の映画監督は90分で自メッセージを表現するためシーンやセリフを極限まで研ぎ澄まし、結果今も語り継がれるような名作が生まれているわけですしね。

2時間越えの作品が全て悪いとは思いませんが、大作が増えてきた昨今の映画界の中には、ぶよぶよと贅肉だらけの作品も確かにあるし、逆にどんなに興味のある作品も、上映時間3時間前後と聞くと映画館に運ぶ足が鈍ってしまうんですよね。

あと、ジーンに「なぜ自分をアシスタントに選んだか」を聞かれたポンポさんが、「スタッフの中でダントツ目に光がなかったから」と答えるシーン。

ポンポさんによれば「光り輝く青春を謳歌した満たされた人間は物の考え方が浅くなる」「現実から逃げた人間は自分の中に自分だけの世界を作る」「それこそがクリエイターの資質」であると。

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まぁ、これもかなりの極論ではあるし異論も多いとは思いますが、一方でこのポンポさんの意見は映画好きであれば多かれ少なかれ思い当たる節はあるハズ。

本作ではポンポさんのセリフを通して、そんな映画好きたちの虐げられし魂を救済してくれているんですよねw

それに、他人が他の事をしているその時間を一つの事に使ったからそれに秀でることが出来たという理屈はある意味だたしくて、それはスポーツに例えれば分かりやすいんじゃないでしょうか。

他の子が友達とゲームをしている時間を、スポーツに費やしたから金メダルが取れた。とかね。

もちろんそればかりではないし例外も沢山あるけれど、特に創作においては、物事に費やした時間と結果が比例するという面は確かにあると思うのです。

そういうアレコレも含め、本作は思った以上に深い作品で、いわゆる萌え絵的な絵柄のアニメだからとナメててサーセンって思いましたねー。

興味のある方は是非!!

 

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