ぷらすです。
今回ご紹介するのは、ハリウッドのスター監督の一人ジョーダン・ピール制作で、昨年公開された『NOPE ノープ』ですよー!
公開時から、映画好きの間ではめっちゃ評価の高かった本作。
僕は都合が合わなくて劇場では観られなかったんですが、今回、Amazonレンタルで鑑賞して、評価の高い理由がよく分かりましたねー。
画像出展元URL:http://eiga.com
概要
『ゲット・アウト』『アス』などのジョーダン・ピールが監督、脚本、製作を務めたサスペンススリラー。田舎町の上空に現れた謎の飛行物体をカメラに収めようと挑む兄妹が、思わぬ事態に直面する。『ゲット・アウト』でもピール監督と組んだダニエル・カルーヤ、『ハスラーズ』などのキキ・パーマー、『ミナリ』などのスティーヴン・ユァンのほか、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレアらが出演する。(シネマトゥディより引用)
感想
劇場で観るべき作品だった
2017年公開の「ゲット・アウト」2019年公開の「アス」で世界的に名前を知られたジョーダン・ピール監督。
元はコメディアンとして、キーガン=マイケル・キーとのコンビ「キー&ピール」としてテレビ番組などで活躍。その後、脚本・監督を務めたホラー映画「ゲット・アウト」でアカデミー脚本賞を受賞。続く「アス」でも高い評価を受けて、今やハリウッドを代表するスター監督の一人になったんですね。
本作はそんなジョーダン・ピールの劇場長編第3作とあって、公開時から映画好きの間では高い評価を受けていたんですね。
僕も公開時気になっていたものの、都合が合わず劇場で本作を観ることが出来ず、今回Amazonレンタルに入っていたので早速視聴したんですが………やっぱ劇場の大画面で観るべきだったよねー(´Д`)。
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いや、もちろん家のテレビで見ても内容が面白い事には変わりはないんですけどね。
でも、クライマックスのあのシーンは劇場の大画面で、出来ればIMAXで観れば、家で観る3倍楽しめたと思いましたよ。
本作の内容についてはずっと、決定的なネタバレこそ避けてきたものの、ある程度の内容は知った状態で観たわけですが、ストーリー自体はめっちゃシンプル。けれども、そこは、前2作品でも差別や格差社会などの問題を(メタ的に)描いてきたピール監督。
本作も「見る・見られる」という関係性を軸に、様々なメタファーをワンシーンの中に何重もレイヤーを重ねた多層的な作品になっていましたよ。
そこを面白いと感じられるか否かが本作の評価の分かれ目で、前2作以上に扱うテーマが象徴化・多層化されていることで逆に見えづらくなっている部分もあって、それゆえにピール監督の言いたいことが伝わらなかった人も多かったのかもしれません。
というわけで、ここから先はネタバレしていくので、まだ本作を未見の人、ネタバレ嫌いという人はご注意を。
初期スピルバーグ&AKIRA&エヴァ!?
そんな本作の内容でよく言われているのが「未知との遭遇かと思ったらジョーズだった」で、確かに的を得てるなーとw
スピルバーグのファンであることを公言しているピール監督。
本作では、まさに初期スピルバーグのジャンル映画オマージュが、そこまかしこに散りばめられているんですね。
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他にも、大友克洋の名作「AKIRA」の露骨すぎるオマージュや、クライマックスでの「エヴァンゲリオン」を思わせる造形など、この辺はアニメオタクとしても有名なピール監督のボンクラっぷり(ほめ言葉)がよく出ているなーと思ったりしましたねー。
そんな本作のストーリーをざっくり紹介すると、
ある日、田舎町で広大な敷地の牧場を営むOJ(ダニエル・カルーヤ)と父親が仕事中、空中から落ちてきたコインが顔面に当たり父親が(突き刺さり)死亡。
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その後、家業を受け継いだOJと妹エメラルド(キキ・パーマー)でしたが、父が生きていた時から経営は苦しく、元TVドラマの人気子役だったリッキー・“ジュープ”・パーク(スティーヴン・ユァン)の経営するテーマパークに馬を売って何とか生活していたのです。
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そんなある夜、ヘイウッド家の電子機器が全て使用不能となり、彼らは未確認飛行物体(UFO)が馬を連れ去り、父の死の原因となった無機物のかけらを吐き出しているのを発見。
このUFOを撮影し、一攫千金を狙うOJ兄妹は空を映す監視カメラを設置するのだが、実はこのUFOは生きていて目が合った生物を捕食する飛行生物だった――という物語。
OJとエメラルドは、OJが「Gジャン」と名付けたこの飛行生物をビデオカメラに収めようと行動を始めますが、彼らの馬を買い取っていたリッキーは、もっと早くGジャンの存在に気づいていて、買い取った馬をエサにGジャンを飼いならし、テーマパークの目玉にしようと画策していた事が後に分かります。
結果、OJ兄妹、リッキー、パパラッチや各メディアの誰が最初にGジャンの存在を世に知らしめるかという展開になっていくわけですが、相手は生物と見れば何でも食べちゃう空飛ぶ怪物ですからね。
後半、Gジャンに襲われ、OJたちも大ピンチに陥るのだが――という展開になっていくのです。
で、本作では、そんなGジャンの生態が前半から中盤にかけ、じわじわと明らかになっていきます。
1・雲に擬態している。
2・OJの牧場やリッキーのテーマパークなどを縄張りにしている。
3・目を合わせると攻撃してくる(食べられる)
4・無機物は消化できない。布などは器官に詰まるので吐き出す。
5・感情がある。怒らせると嫌がらせしてくる。
それらのルールが示されたところで、クライマックスでのOJ兄妹とGジャンの対決になり、結論から言えば、OJ兄妹がある方法でGジャンをやっつけたところで、物語は終わるんですね。
様々なメタファーと引用
そんな感じで物語自体は非常にシンプルな本作ですが、前述した通り、本作のテーマは「見るものと見られるもの」であり、ワンシーン・ワンカットに、本筋以外の色々なテーマやメッセージがメタ的に含まれています。
旧約聖書のナホム書第3章6節「わたしはあなたに汚物をかけ、あなたをはずかしめ、あなたを見せものとする。」という引用から本作はスタートします。
OJの家業は映画撮影用に調教したタレント馬のレンタルで生計を立てていて、父亡きあと、映画撮影の現場に馬を連れてきたOJですが、言う事を無視した映画スタッフが馬に蹴られそうになったことをOJたちのせいにされクビにされるというシーン。
ここは、映画関係者に馬の調教師が軽んじられているというシーンですが、(恐らくは)意図的にOJが黒人だから軽んじられて見えるように撮られているし、馬が暴れるシーンは、その後のリッキーの子役時代のエピソードや、OJやリッキーがGジャンで一儲けしようという後半のエピソードにも呼応するように作られています。
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リッキーが子役として出演していた「ゴーディ 家に帰る」は、アメリカ人家族とチンパンジーのゴーディのふれあいを描くシットコム(ホームコメディ)です。
しかしある日の撮影中、フーセンの割れる音をキッカケに狂暴化したゴーディによって、出演者が次々襲われるという事件が起こり、ゴーディと直接目を合わせなかったリッキーだけは無事だったというエピソードが明かされます。
映画の冒頭や中盤にかけて、分割される形でこの事件の概要が明かされていくのですが、ゴーディの誕生日プレゼントに父親が腕時計を贈ると、母か娘が「ゴーディは時計の針を読めないでしょ」とツッコミを入れるというギャグが入っていて、その直後にゴーディが暴れ出すんですね。
彼らはゴーディに対して家族ぶっているけど、この白人の父・母・姉は、ゴーディが自分たちより下だという事を笑いのネタにしている。で、ゴーディが暴れると銃殺されるという展開は明らかに白人の黒人差別を暗喩していて、それを、リッキーの視点で見せているんですよね。
他の家族は攻撃したけど、テーブルの下にいたリッキーだけは攻撃されなかったし、一瞬、心が通じたように見えるシーンもある。
本当は、単に風船の音に驚いたゴーディが暴れ出し、テーブルの下に隠れてゴーディと直接目を合わせなかったリッキーだけが攻撃されなかっただけだと思いますが、白人キャストの中で一人アジア系だったリッキーも、(直接は描かれてないけど)撮影中に人種差別を感じ、同じく差別されていたゴーディに仲間意識を感じていた→ゆえに自分は攻撃されなかった。と変換されているわけです。
なので、リッキーはGジャンとも心が通じると思い、餌付けをしていたんだけれど――という後の展開に続くんですね。
で、この二つのエピソードは、冒頭のナホム書の「あなたを~見せものに」にも呼応しているんですよね。
OJがこの飛行生物に名付けた「Gジャン」という名前。
これはエメラルドが初めて調教するハズだった馬の名前で、しかし、父親は約束を反故にしてOJにGジャンの調教をさせるんですね。
エメラルドは「父は私を見ていなかった」と言いますが、これは家父長制や女性差別を表していて、父親はエメラルドを跡継ぎとしては見ていなかったけど、兄のOJはそんな妹の事をちゃんと見ていたというエピソードに繋がるのです。
事程左様に、本作では見るもの、見られるものの関係を色々な角度から描くことで、差別や格差など、現代社会の様々な問題を映し出しているんですね。
こんな風に書くと、何だか難しい作品のように感じるかもしれませんが、前述した通り、物語自体は主人公vs人食い生物という一本道の単純明快なストーリーだし、特にクライマックスの熱い展開は最高にぶち上るモンスターパニック映画なんですね。
特に、後半でGジャンをカメラに収めるための囮として、愛馬を駆るOJの姿はまさに西部劇で、めっちゃ上がりましたよ。
あえて言えば
そんな感じでめっちゃ楽しんだし、各エピソードを呼応するように配置したり、一つ一つのエピソードで、しっかり前フリしてオチをつけていく丁寧な作劇は「RRR」に近いものを感じました。
ただあえて言えば、後半部分は面白いんだけど、前半部分は後半へのフリのシーンが多く、多少かったるい印象を受けたかも。
あと、事前に想像していたよりは大人しいというか、思ったよりちゃんとしてるなーという印象。
もっとはっちゃけた映画を想像してたんだけど、その辺、ピール監督生来の真面目さが出ちゃったのかなーなんて思ったりもしました。
それでも、十分すぎるほど面白かったですけどね。
興味のある方は是非!!