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ジョージ・ミラーが描く”愛の物語“「アラビアンナイト 三千年の願い」(2023)

ぷらすです。

昨日、ジョージ・ミラー監督最新作、『アラビアンナイト 三千年の願い』を観てきました。

ジョージ・ミラーと言えば「マッドマックス」というジャンルを生み出し、2015年公開「~怒りのデスロード」では、世界中のファンを熱狂させた監督。

そんな彼の次回作は、てっきり「~怒りのデスロード」の前日譚となる「フュリオサ」だと思っていたところに、突如公開されたのがこの作品だったんですね。

というわけで今回は、前半ネタバレなし、後半ネタバレありで自分なりの考察などもしていきたいと思うので、本作を未見の人、ネタバレは嫌と言う人はお気を付けください。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

マッドマックス 怒りのデス・ロード』などのジョージ・ミラーがメガホンを取り、A・S・バイアットの短編集を原作に描くファンタジーイスラムの説話集「アラビアンナイト」をモチーフに、長い間幽閉されていた魔人と学者による時空を超えた旅路を描く。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でもミラー監督と組んだ製作のダグ・ミッチェル、撮影のジョン・シール、音楽のトム・ホルケンボルフらが再集結。『ビースト』などのイドリス・エルバ、『ヒューマン・ボイス』などのティルダ・スウィントンらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

ジョージ・ミラーと本作

僕的には何の前触れもなく突如公開された印象の本作ですが、実はASバイアットが1994年に発表した短編集「The Djinn in the Nightingale's Eye」の一篇の映画化であり、ミラー監督は90年代には本作の映画化権を手に入れ、「ロレンツォのオイル/命の詩」で脚本を担当したニック・エンライトと共に脚本の準備をしていたという事なので、かなり長い間準備していたようです。

しかし、2003年エンライトが癌で死去。

彼が生前「僕が死んだらオーガストに任せるといい」と言っていた事から、実の娘でもあるオーガスタ・ゴアとの共同脚本で本作は制作されたんですね。

そんな本作のストーリーをざっくり紹介すると、物語や神話を研究するナラトロジー(物語論)の専門家アリシアは講演で訪れたトルコのイスタンブールで美しい小瓶を見つけ購入。その小瓶を磨くと蓋が外れ、中から魔人(ジン/精霊)が。

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「瓶から出してくれた礼に願い事を3つかなえよう」というジンですが、職業柄「願い事叶える系」の物語はハッピーエンドにならない事を知っているアリシアは彼の誘いには乗らず、ジンは彼女の信用を得るため3人の女性との物語を語り始める――という物語。

アリシア役はアカデミー俳優でもある名優ティルダ・スウィントン。ジン役は2018年「最もセクシーな男性」に選ばれ次の007という噂もあるイドリス・エルバがそれぞれ演じています。

あと、本作のタイトルに「アラビアンナイト」とありますが、ジンが語る物語は主にオスマントルコが舞台であり、アラビアンナイトとは基本無関係らしいですよ。

物語の物語

そんな本作を一言で言うなら「物語の物語」でしょうか。

本作はトルコ行きの飛行機でのアリシアの語りからスタート。ラストも彼女の語りで幕を閉じます。そして彼女が語るのは魔人が語った4つの物語で、つまり本作はジンの語る物語をアリシアが語るという入れ子構造になっているんですね。

アリシアはジンに会うよりずっと前、少女時代から孤独を好み、学生時代はイマジナリーフレンドがいました。

トルコの空港や講演でも、明らかに人間ではない何者か(ジン?)と接触したりしていて、それが実際にいたのか、それとも彼女の想像の産物なのかはぼやかされています。

もしかしたら、そんな彼女だからこそジンと出会う事が出来たのかもしれません。

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そして、ジンに願い事を言うように言われるアリシアですが、彼女は「願い事を叶える物語では、必ず依頼と異なる結末を迎える」とジンの誘いに乗ろうとしません。

ですが、その実、彼女は叶えたい願い事が思いつかないんですよね。

というわけで、ここから先はネタバレしていくのでお気を付けください。

 

魔人が語る3人の女性の物語

そんな彼女の警戒心を解くため、ジンは4つ(実質3つ)の物語を語り始めます。

1つ目はシヴァの女王の物語。

人間とジン/精霊の間に生まれたシヴァの女王の元に、ソロモン王が求婚に訪れます。

ソロモン王は「全ての女性が望む事とは」という女王の質問に正解、見事女王のハートを射止めるんですね。女王に恋していたジンは大ショック。ベッドを共にする二人を覗き見ていたところを、ソロモン王の魔法によって真鍮の瓶に閉じ込められたうえ、深海に捨てられてしまうんですね。

2つ目はムスタファ王子に恋した奴隷の少女グルテンの物語。

ソロモン王の時代から2000年後、サビと海中の汚れで覆われ石と間違えられた真鍮の瓶はムスタファ王子の城の外壁に使われていました。
美しいムスタファ王子に一目ぼれし、外壁から彼を覗き見ていた奴隷の少女グルテンは足を踏み外し、その拍子に真鍮の瓶を発見。

周りにこびり付いた汚れを落とし、蓋を開けるとジンと出会います。

ジンの力でムスタファ王子に愛され、彼の子を身ごもったグルテンでしたが、スルタン・スレイマン王の寵愛を受ける妾のハーレムは、ムスタファが王座を狙い王への謀反を企てていると唆し、王はムスタファ王子を殺害。ジンはムスタファが殺された事を伝えグルテンが助かるよう願えと言いますが、それを信じないグルテンはお腹の子共々王の部下の殺されてしまい、真鍮の瓶を他の者に見つからないよう浴室に隠させたことで、ジンは城を彷徨う存在になってしまうのです。

3つ目は、ムラド王とその弟イブラヒムの物語。

グルテンの死から100年間、城を彷徨っていたジンはある日自分の気配を感じられる少年に出会います。

その少年は後のムラド王で、ジンは彼を誘導し真鍮の瓶を見つけさせようとしますが、瓶の上にある重い石畳みは子供の力では動かすことが出来ず。

そのまま年月は過ぎ、ムラド王子は戦地に出陣。後継者を失わないよう女王は弟のイブラヒム王子を城の一室に閉じ込め、デブ専のイブラヒムはその一室にデブ専ハーレムを作って甘やかされる日々。そんなある日、戦地から戻ったムラド王子は血に飢えた暴君になっていました。そんな彼の死後、イブラヒムは意に反して王座に就き、イブラヒムの副官となったシュガー・ランプは偶然見つけた浴室で足を滑らせ尻もちをついたことで石畳が割れてジンの瓶を発見。ジンは喜びのあまり、すぐさま3つの願い事させようとするも、彼女の逆鱗に触れてしまい再び瓶に封印され海の底に。

4つ目は、19世紀ごろ。

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捨て子だった女性ゼフィールは年老いた商人に見初められ結婚。

しかし、学も無く礼儀や立ち居振る舞いを知らない彼女は他の妻たちや使用人からバカにされていたんですね。

しかし、実は彼女は天才的な頭脳の持ち主だったのです。

そんなある日、釣られた魚のお腹から出てきた真鍮の瓶を、老夫はゼフィールにプレゼント。彼女が蓋を開けるとジンが現れ、彼女はジンに文字と知識を願うんですね。

乾いた土が水を吸うようにあらゆる知識を身につけていくゼフィールに恋をしたジンは自分の知識や魔法を彼女に教え、好奇心旺盛なゼフィールは世界の真理に辿りつくのですが、しかし、そんな彼女の頭脳と自身を取り巻く状況のギャップに精神的限界を迎えた彼女は、「ジンと出会わなければよかった」と願ったことで彼の事を忘れ、ジンはガラス瓶の中に封印されてしまい——、そしてアリシアと出会うわけです。

この4つの物語を聞いたアリシアは、ジンに対し「私とあなたが愛し愛されるように」願います。

ここ、かなり急展開というか、それまでジンに対してかなり懐疑的だったアリシアが彼に恋する心境の変化が分かりずらいので、最初は「え、どういうこと!?」ってなったんですが、恐らく4つの物語を聞いて彼女はジンと自分が同じだと思ったんじゃないでしょうか。アリシアは物語の構造を研究する学者、つまり物語の外にいる存在。対するジンも3人の女性(と二人の王子)の物語を外から眺める存在なんですよね。

二人とも物語を語ることは出来ても、物語の登場人物にはなれない。それに気づいたアリシアは、ジンに対して深く共感し、彼を受け入れることで共に物語の登場人物になりたいと願ったのではないかと。

そして、一緒にアリシアが住むイギリスに戻るも、イギリスではジンの力が急速に弱まっていく事を知ったアリシアは、残り二つの願いをジンの為に使うことで、物語の主人公になったとも言えるのかなと思ったりしました。

アリシアと3人の女性

同時に、ジンが語った3人の女性は、アリシアの先祖、もしくは前世なのではないかとも考えたりしました。

シヴァの女王がソロモン王と出会った時、つばを飲み込むカットが印象的に差し込まれます。そして、3人の物語を聞いているアリシアも途中唾を飲み込むカットがあるんですね。また、冒頭飛行機の中で仕事をしているアリシアはずっと貧乏ゆすりをしてるんですが、3人目の女性ゼフィールも勉強中はずっと貧乏ゆすりをしているんですね。

また、シヴァの女王はジンと人間のハーフなので、その血を引いている、もしくは生まれ変わりであれば、アリシアがイマジナリーフレンドや、人外の何かを視てしまう事も不思議ではなく、そう考えればアリシアがジンに恋をしたのも、長い年月で繰り返し出会った2人が、4度目の出会いでついに結ばれた純愛の物語ともとれるかな?なんて思いましたねー。

舌っ足らず

まぁ、そうは言っても本作はやや舌っ足らずな印象をぬぐい切れないのもまた事実。

それが一番目立つのが、前述したようにアリシアがジンに恋するシーン。

恐らくアリシアは、ゼフィールとの物語に心打たれてジンに恋をしたんだと思いますが、そこはもう少しアリシアの心の動きを表現するシーンが欲しかったかなと。

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また、ジンが入った瓶を赤外線にかけようとした税関をアリシアが止めようとしたり、イギリスに来てジンが死にかけるという流れも、一応流れの中でジンは電磁波で構成されていて云々=電波や電磁波がジンに悪影響を与える的なロジックは語られるんですが、あそこももう少し丁寧に語られれば、もっと物語に入り込めたのかな?なんて思いましたねー。

映像やエフェクトなどはとても綺麗で、またカットやショットなども流石はジョージ・ミラーらしい広がりと奇想天外なイメージが見えて、ある意味で、小作品ながら安っぽさは一切ない素晴らしい映画だっただけに、正直ちょっと残念だったかも。

ただ、「物語は人間を救う」「人間は物語によって構成されている」というテーマを思いっきり描いてくれているのは、物語を愛する者としてはとても嬉しかったです。

興味のある方は是非!!