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ナメてた相手が――「PIG ピッグ」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、我らがニコケイこと、ニコラス・ケイジ主演作『PIG ピッグ』ですよー!本作はニコラス・ケイジ長編映画100本目であり、自ら製作も務めていたのだそう。

というわけで、今回は2022年公開作でネタバレしたからつまらなくなるタイプの作品でもないと思うので、ネタバレありで感想を書いていきます。

なのでもし、これから本作を観るという方や、ネタバレは絶対許さんという方は、先に映画を観てからこの感想を読んで下さい。

良いですね?注意しましたよ?

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』などのニコラス・ケイジが主演を務めたドラマ。トリュフ採取に必要なブタを盗まれた男が、取り戻そうとする中で自身の過去と向き合う。メガホンを取るのはマイケル・サルノスキ。『ヘレディタリー/継承』などのアレックス・ウルフらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

きれいなニコラス・ケイジ

ニコケイ主演映画の時は毎回枕詞みたいに書いてますが、ニコケイと言えば大巨匠フランシス・コッポラの甥っ子でアカデミー俳優でありながら、アメコミキャラの名前を芸名につけるくらいのオタクで超のつく浪費家、度重なる離婚などで抱えた多額の負債を返済する為、作品を選ばずB級・C級・なんならZ級作品にも積極的に出演しています。

なので、レンタルビデオ屋で日本では劇場公開されない、いわゆるビデオスルーの棚には、ニコケイ主演の作品が大量に並んでいるんですね。
まぁ、これには諸説あって、ニコケイがB級・C級作品に出演するのは彼がその手の作品が好きだからという噂もあったりしますけども。

そんなこんなで玉石混合、やたら出演作の多いニコケイの、長編映画100本目に当たるのが本作「PIG ピッグ」なのです

で、本作はそのあらすじから、またぞろ下らないB級映画化と思いきや、映画評価サイト・ロッテントマトでは批評家支持率は97%、平均点は10点満点で8.2点という高得点をマーク。

それもそのはず。この作品、色物かと思いきや「愛と喪失を廻る美しい物語」で、主演のニコケイも本作で、アカデミー俳優の凄みを体現した、静かながらも深みのある鮮烈な演技を見せてくれているんですね。
いつものぶっ飛び面白おじさんではなく、アカデミー俳優の「きれいなニコケイ」でしたよ。

ナメてた相手が実は――系作品

そんな本作のあらすじをざっくり紹介すると、人里離れたオレゴン州の山中、相棒の豚とトリュフハンターで生計を立てていたロブ(ニコケイ)は、ある夜、家を襲撃され相棒の豚を誘拐されてしまう。

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愛する豚を取り戻すべく、ロブは若きバイヤーのアミールと共に、ポートランドの街に向かうのだが――と言うストーリー。

このあらすじだけ読むと、“リベンジ・スリラー”という煽り文句も手伝って、誰もが「ナメてた相手が実は殺人マシーンでした映画」(©ギンティー小林)だって思うじゃないですか。

怒りに燃えるニコケイが、豚を誘拐した組織に乗り込んで、血で血を洗う激闘の末に皆殺しにする血沸き肉躍る展開になるのだろうと。

ところがどっこい。

本作のニコケイ演ずるロブはポートランドでは伝説の料理人だった。つまり本作は「ナメてた相手が実は伝説の料理人でした映画」なんですねー。

なので本作には格闘シーンや銃撃シーンなどは殆どなく(ニコケイが一方的に殴られるシーンはある)、ロブはかつての知人たちを尋ねて情報を集め、昔の部下で今はレストランのシェフに「本当にやりたかったのはレストランじゃなくパブだったろ」と諭し、ラスボスに自らの料理を食べさせて倒すのです。

お前は何を言ってるんだと思われるでしょうが、でも、ホントにそういう映画なんだってばw

そんな本作のストーリーを詳しく説明すると、

ロブは10数年前までは、ポートランドでは有名な伝説のシェフでしたが、愛する奥さんを亡くしたショックから、人里離れた山中の山小屋に引きこもり、愛豚と共にトリュフハンターとして静かに暮らしているんですね。

そんな彼の採ったトリュフを扱うのが、街を牛耳る実業家の父・ダリウス(アダム・アーキン)に認められたくてトリュフのバイヤーになったアミール(アレックス・ウルフ)。しかし、それを面白く思わないダリウスはチンピラを金で雇って豚を誘拐させることでアミールにバイヤーの道を諦めさせようとしていたわけです。

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ロブは愛豚を盗んだ犯人を捜すため、まずはトリュフハンターの元締め的な人物に会いに行き実行犯を見つけますが、豚はすでに「都会の金持ち」に渡してしまったと。

そこでロブはアミールの車で、かつて愛する妻と暮らしたポートランドの街に乗り込むんですね。

街についたロブは昔の知り合いで裏社会のビジネスをしているエドガーに会いに行き、豚の行方を尋ねるも「今のお前に価値はない」と教えてはもらえません。

そこでロブはエドガーが経営する地下格闘技に参加。ここで戦うのかと思ったらそうではなく、殴られダウンするまでの時間を賭けるギャンブルっぽいんですが、ロブはこの殴られ屋?でエドガーに大勝ちさせることで「デレック」と言う名前の情報を得ます。

アミールの家で目を覚ましたロブ。朝食を食べながらアミールは、普段から夫婦仲が悪く喧嘩の絶えない両親を笑顔にしたレストランのシェフがロビン・フェルド(ロブのフルネーム)という名前だったと語ります。しかしロブが街から消え、母は自殺未遂の末植物状態になり父が変わってしまったのだと。

ロブはデレックが料理長を務めるレストランに、豚の居場所を知る手がかりがあると考え、アミールはロブのためにそのレストランを予約します。

実はそのレストランはダリウスの支配下であり、デレックは元はロブの部下だったんですね。あいさつに来たデレックにロブは「お前はイギリス式のパブをやりたいと言っていたろ」と言い「このレストランが偽物なのはお前が本気じゃない、偽物の料理を出しているからだ」と諭します。そして豚の行方を聞くと、「あの人に逆らったらこの町では生きていけない」と、暗に豚泥棒の黒幕がダリウスであることを仄めかすんですね。

怒りに燃えたロブはダリウス邸に突撃。ダリウスは豚を盗んだことを認め、アミールにトリュフビジネスから身を引かせるためだった事を告白。多額の金と引き換えに豚を諦める様言い、ロブを家から追い出します。

しかしロブは豚を諦める気は毛頭なく、“あの夜”ダリウス夫妻に提供した料理を作ってダリウスに食べさせるんですね。

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その料理を食べたダリウスは過去を思い出して泣き崩れ、しかし、豚はチンピラが死なせてしまった事を告白します。

その後落ち込んだロブはアミールの車で家に帰り、ずっと聴くことが出来なかった妻の歌声が入ったカセットテープを聞いて、物語は静かに幕を閉じるのです。

悲しみや辛さを受け入れて生きる

奥さんを失ったロブはその事実を受け入れられず、愛豚を心の支えに山奥に引きこもってしまう。しかしそれが原因でダリウスの奥さんは自殺未遂の末に植物状態に。つまりロブとダリウスは因果で結ばれた鏡合わせの存在であり、そんな二人を繋ぐのがダリウスの息子アミールというわけなのです。

アミールがトリュフバイヤーになったのも、恐らく夫婦仲の悪かった両親がロブの店で食事をした夜だけは笑顔だったことに起因していると思われ、しかしそれが逆に、ダリウスの傷口に塩を塗る結果になってしまったんですね。

そのせいでロブは心の支えだった豚を奪われてしまい、豚を取り返すため自身の過去と向き合うことになる。

最終的に豚を取り返す手段が料理だというのはビックリしましたが、料理を食べたダリウスは幸せだった過去の記憶を思い出すも、しかしだからと言ってもう取り返しはつかないし、結果、ロブの豚も戻ってはこないしで、本作は結論だけ見ればどこにも救いがないバットエンドとも言えます。

しかし、豚を取り戻すため自身の過去と向き合ったロブは、奥さんの死を受け入れることを出来たわけで、それが本作唯一の救いでもあるわけですね。

一度失ってしまったものを取り戻すことは出来ないけれど、それでも人は、悲しみや辛さを受け入れて生きていくしかないのだという、非常に大人のメッセージが本作には込められているのだと思ったし、一見トンデモ映画のようで、実に深く心に残る映画でした。

興味のある方は是非!!