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「クラッシュ」(2006) 感想

ぷらすです。
今回ご紹介するのは第78回アカデミー賞作品賞を受賞し、2006年に日本公開された米映画『クラッシュ』です。
タイトルだけ見るとアクション映画みたいですが、多民族国家のアメリカで暮らす人々の偏見や差別、そして繋がりを描いた名作ですよー!

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画像出典元:http://www.amazon.co.jp/

 

概要

クリスマスを間近に控えたロスアンゼルスで発生した交通事故を起点に、事故当日とその36時間前からの出来事を描いた群像劇。
多民族国家アメリカの偏見や差別、憎悪や繋がりを真正面から描き出す。
監督は『ミリオンダラー・ベイビー』の名匠ポール・ハギス

 

あらすじ

クリスマスを間近に控えたロスアンゼルスで起こった一件の交通事故から物語は始まる。
中国人の女が運転する車が、ロス市警の刑事の車に追突したのだ。
そこから、差別主義者の警官、ペルシャ人家族、地方検事の夫婦、自動車強盗の男など、接点のない7組の人物たちのエピソードがクロスしながら、物語が進んでいく。

 

感想

本作は、今もアメリカに根強く残る、人種間の差別や偏見を描いた作品です。
群像劇なので主人公はいなくて、人種も境遇も違う様々な人たちの2日間のエピソードが、淡々と描かれていくんですが、これがもう、観ていて胃がキリキリ痛むほど、人種間差別が延々と描き出されていくんですね。

前半、黒人と白人、アメリカンとアジアン、アジアンとヒスパニック。
それぞれが互いに差別しあい、軽蔑しあい、憎しみあって衝突する。
一見平等な国の住人たちの裏側に潜む『悪意』を、ポール・ハギス監督は冷徹なまでに淡々と暴き立てていきます。

ここで重要なのは、彼ら彼女らが全員「自分は被害者だ」と思っていることです。
差別を意識的に行う人も、無意識で行う人も、自分の中に(差別するだけの)正当性があるって信じてるんですね。

傍から見るとそれは、ごく個人的なすれ違いやボタンの掛け違いだったり、ただの八つ当たりだったりするんですが、そうしたちょっとしたタイミングの悪さが原因で、人を傷つけたり傷つけられたり、その傷の痛みを次の「誰か」に向けてしまったり。

これって世の中の『差別の構造』そのものなんですよね。

じゃぁ本作は、大上段に構えて差別を糾弾する作品なのかというと、決してそうではありません。

社会問題を扱う映画は、構造上どうしても思想が前面に出てしまったり、善悪や正否に二極化して語られがちですが、本作でポール・ハギス監督は、登場人物一人一人に寄り添うように物語を紡いでいきます。

そして後半、物語は大きく転換します。
彼らのちょっとした行動や言葉が、相手に影響を与えていく。
それまでの視点がぐるりと変わって、違った世界が見えたり、自身の行いを突きつけられる。
構造は同じなのに、前半空回りしていた歯車がガッチリ噛み合っていく気持ちいい展開の中にも、逆回転したり噛み合わないまま空回りし続ける歯車があることを、本作はごまかす事なくキチンと描いています。

俯瞰で眺める「大きな世界」の残酷さや理不尽さも、その中で営まれる「小さな世界」の尊い美しさも平等に描くことで、『人間とは何か』を監督はそっと観客に問いかけているんだろうなーと思いました。

だからこそ本作は、観客のより深い部分を震わせるんだと思います。

興味のある方は是非!!!